やっぱりと言うべきなのかねぇ………。
いや、本当にもう……若頭と連むと退屈しなくて済むよ。
お嬢様と一緒に豪華な中華ディナーがあっという間に……まぁ、見ての通りだ。
『貴様を殺せばオレ達にだって幹部への道がッ!』
『死ね死ね死ね死ねッ!!』
『殺ァアアアアアァアアァアアアアアアアアアアアア!』
『うぉぉおぉぉおおっ、ガァッ…………』
『へぶっ………』
若頭のお客さんから熱烈なお祝いを受けてる。
お祝いにプレゼントされてるのは鉛玉で、その大量なプレゼントを受け取ってる最中の若頭はそのお礼をしてるってわけだ。
それでオレは何してるかだって? そんなもんは決まってるだろ。
オレは若頭と一緒にお礼をするお手伝いをやらされるハメにあってるってわけだよ。
この悪い大人はオレ達をディナーに誘う振りして実際はこの客の相手をさせようとしていたんだよ。
まったく、悪い大人ってのはこれだから嫌だねぇ。汚ねぇ汚ねぇ。
そんなわけで絶賛お祝いとお礼の応酬をしてるわけだ。
さっきそのお礼を二人が受け取って喜びのあまりに頭から血やら脳漿やらをぶちまけたよ。
感激してくれているようで、周りの連中はさらにテンションを上げまくってる。
そこまで喜んでくれると返す側としても嬉しい限りだ。
「はぁ、やっぱりこうなっちまったか……まぁ」
「退屈しなくて済む、だろう?」
したり顔で笑ってくる若頭にオレは呆れつつも答える。
「オレはイイ友人を持ったもんだよ、本当に」
「貴様が大哥のご友人などと認めたくはないがな」
皮肉の籠もった返事に楊が相づちを打ってきやがった。
そう言いつつも認めている辺り、やっぱり楊もイイ奴だよ。所謂ツンデレってやつか?
そうしてる間にも更に一人が興奮のあまりに血を噴き出して倒れた。
残り二人になったことで多少は戸惑ってきたらしい。動揺が顔に出てるぜぇ。
そして我等がお姫様はというと、オレの胸の中ですっぽりと収まってる。
その面は何だか妙に幸せそうだ。胸を思いっきり押しつけてるってのに気付いてねぇらしい。まぁ、役得だから言わねぇがね。
とりあえず無事ならそれでいい。
オレはそう思いながら若頭に声をかけつつ引き金を引く。
「そろそろ終わりそうだが、勿論こんなんで終わりじゃねぇよなぁ?」
ぶっ放した弾が一人の頭を吹っ飛ばしたところで若頭から返事が返ってきた。
「当たり前だ。こいつ等は所詮先遣隊の陽動。本命はこのビルの下から非常口を使って乗り込んで来ている。人数はざっと30人くらいだろう」
その返事と共に最後の一人の首から先が無くなった。
そいつを聞いた途端にオレはげんなりしちまうよ。別に30人程度相手すんのに苦労なんざぁしねぇが、それとは別で突っ込みたいことがある。
「そいつを聞く限り、どう考えたって本隊じゃねぇのか? てことは………またアレかよ、『釣り』」
呆れ返った面でそう聞くと、若頭はニヤリと笑みを浮かべながら答えた。
「これが一番手っ取り早い。餌をちらつかせ、それに釣られて来た愚者を叩く。餌が美味ければ美味い程に、集まる量も多い。今回のはそこまで多くは無いといったところで歯ごたえはないが……見せしめには丁度良い」
実に悪い笑みを浮かべる若頭。
そんな若頭に流石の楊も困った面をしてるよ。
「大哥は全てが優れた御方だが、如何せんお巫山戯が過ぎる」
そんな二人にオレは腹を抱えて笑いたくなったが、お嬢様がいる手前そいつは我慢した。
中国屈指の巨大犯罪シンジゲート『李家』。
名前が地味な割に歴史は古く、その組織の規模は一国の軍隊に匹敵するとも言われてる。そこの若頭……つまり大幹部ともなれば、さぞかし極上の餌になるだろうよ。
大人ぶってるようだが、そういうヤンチャなところはオレと大差ねぇと思うんだけどねぇ。
詰まるところ、こいつは若頭を囮に使った誘導ってことだ。
それに付き合わされる身としちゃぁ、最悪だがね。確かにあぶり出すのには丁度良い手だよ。
それに駆り出される身にもなって貰いたいもんだ。
そしてここに来た客は皆お礼を受け取って喜びのあまり床を真っ赤に染め上げたわけで一休みだ。
楊はそのまま銃片手に警戒しつつ周りを探り、若頭は楽しそうに笑いながらご自慢の代物に付いた血を振り飛ばし始める。
そしてオレはと言えば、胸に納まってるお嬢様に声をかけた。
「おい、お嬢様。大丈夫かい?」
「はぇ?………っ!? だ、大丈夫ですわ!(わ、わたくしったら、レオスさんに抱きしめられたせいで……)」
お嬢様は夢見心地だった面から真っ赤にしたまま大慌てでオレから離れる。
もうちょっとあの胸の感触を楽しみたいところだったが、こんなムードの欠片もねぇ所じゃ楽しめるモンも楽しめねぇ。
そいつはこの先に取っておくことにするよ。
取りあえずお嬢様に何があったのか教えねぇとなぁ。
「お嬢様、何があったのかと言やぁ………若頭のアホがワザと客を呼びやがった。そいつに見事にオレ等は乗せられたってわけだよ」
「それは一体どういうことですの?」
お嬢様は周りの様子を見ようとするが、それを見る前にオレはお嬢様を抱きかかえる。
「キャッ、レオスさん!? そんな、いきなり!!」
お嬢様は再び抱きしめられたことで大慌てだ。
その顔と来たらテールライトよりも真っ赤なもんで、中々に面白れぇ。
だけどよ。何もお嬢様が艶っぽいから欲情してこうしたってわけじゃねぇんだぜ。
テーブルの先には、お嬢様にはちっと刺激が強すぎる光景が広がってるんでね。
教育上よろしくないんで、お嬢様にゃあまだ早い。
だからこそ、胸のウチに収まって真っ赤になりながらあうあう言ってるお嬢様に少しばかりのイタズラを仕掛けることにした。
オレはお嬢様の顔を直ぐ近くで見つめながらクロードみてぇな感じに声をかけた。
「お嬢様、今は少しばかり厄介事に巻き込まれてる。申し訳ねぇけど、怨むんだったらさっきから出入りを楽しんでる若頭を怨んでくれ。それで現在はさらにお後が待ってるわけだが、この先は絶対に血を見ることになる。そんなもんをお嬢様に見せるわけにはいかねぇし、お嬢様を危ない目に遭わせる訳にもいかねぇ。だから悪いが、ここで少しばかり待っててくれよ。終わったら迎えに来るからよ」
オレの言葉を聞いてお嬢様は少し静かになる。
まぁ、いくら代表候補生だろうと実際に血が流れる場所に出る事なんてそうはねぇだろうからなぁ。今の世の中ってのは、結構キレイな戦争が主流なんでね。裏じゃかなり汚ねぇが。
ここで大人しくして待ってて貰えるんだったら、お嬢様に危険は及ばねぇ。
だからこそのお願いなんだが、それを聞いたお嬢様は何やら様子がおかしい。
真面目なような、怒っているような、拗ねているような、そんな面だ。
そして真っ赤な顔のままオレの目を真っ直ぐに見つめ返しながら返事を返してきた。
「………嫌ですわ……」
そいつを聞いてオレは自分の耳を疑ったよ。
さっきの説明はどう聞いたってお嬢様が危ねぇ目に遭うかもしれねぇってことを教えてるってのに、お嬢様はNOと言ってきた。お嬢様は聡いんだから、この言葉がどういう意味を持つのかくらい分かってるはずだ。
その上でNOと言ってきたんだからよ。
すると今度はお嬢様が少し涙目になりつつもオレの目を見つめてきた。そんな熱い視線を向けられると照れちまうよ。
「レオスさんはここに来る前に言いましたわよね。『わたくしに何か危険が及ぶ前に守ってやる』って。でしたら、わたくしが着いて言っても見事に守って見せて下さいな。殿方が約束したことを違えるなんてこと、ありませんわよね?」
こりゃぁ……かなりお怒りのようだ。
いつもの顔を真っ赤にしてキーキー言ってるのとは訳が違うよ。真面目に怒ってやがる。
ある意味恐ぇよ、マジで。
そしてお嬢様はその面から一転して涙を流し始める。
「確かにレオスさんの仰ることは分かります。それが絶対に安全だということも。ですが……それでも、わたくしは嫌なんです! レオスさんと離ればなれになることも、それにレオスさんが危ない目に遭うことも! わたくしは足手まといになるかもしれません。それでも、わたくしはあなたと一緒に居たいんです!」
なんとまぁ情熱的な告白だことで。
ここまで言われて引き下がらないわけにはいかねぇよなぁ。普通に考えればそれでもお嬢様には残って貰うべきだ。その方が安全……とも言い切れねぇが、多少はマシだろうよ。だが、ここまで言われて引き下がらなきゃ、今度はオレの男が廃るってもんだろ。仮にも傭兵なんて仕事やってるんだ。女の一人や二人守れねぇで何が男だ。
オレは一回溜息を吐いて力を抜く。
そして呆れ返りながらお嬢様に答えた。
「はぁ……そこまで情熱的な告白をされたんじゃ置いてくわけにはいかねぇじゃねぇか」
「そ、それじゃあ……」
「あぁ、仕方ねぇからついてきな、お嬢様。ただし、オレの後から絶対に離れるなよ。それに俺以外は一切目に入れるな。オレの後ろ姿以外は絶対に見るんじゃねぇ。これが一緒に行くに当たっての約束事だ」
「は、はいですわ!」
お嬢様はオレの返答を聞いた途端に顔を綻ばせる。
まったく、そんなに喜ばれるんじゃ皮肉や文句も言えねぇじゃねぇか。
お嬢様の喜ぶ姿を見ながらそう思っていると、軽く咳払いが聞こえてきた。
はぁ………どうやら見られてたらしい。実に気まずいねぇ。
「そろそろいいだろうか? レオスが如何に学生らしく青春しているのかが良く分かった。いやはや、とても年相応じゃないか、レオス」
咳払いの聞こえた場所に居るのは勿論若頭だ。
そう言われお嬢様は先程の情熱的な告白を思いだして顔から蒸気を噴き出し始めた。
オレはと言えば、呆れ返った面を若頭に向ける。
「そう言うなよ。これもある意味学生の特権って奴だろ。過ぎ去った青春を羨むのは分かるが僻まれても困っちまうよ。それにこれから先に必要なのは、青臭い青春じゃねぇ。そうだろ」
その言葉に若頭はその通りだと頷く。
そしてオレと若頭は同時に笑う。
そう、確かにお嬢様を連れるなんて事になっちまったが、それでもやることは変わらねぇんだ。
「「ここから先は大人の社交場だ。鉛玉と銃声でダンスを踊れる奴だけが生き残れる。へたくそなタンゴをした奴は真っ先に会場を赤く染め上げる」」
同時に言っては更に笑う。
そう、お嬢様の安全を考えながらもオレ達は踊るだけだ。