さて、若頭に巻き込まれた形で無理矢理に参加させられたこのダンスパーティーもそろそろ終わりだ。
せっかくのお嬢様とのディナーがあっという間に火遊びに早変わり。食後の運動にゃぁ悪くねぇが、少しばかり散らかしちまったのはいただけねぇなぁ。
事が終わった後にこのとっ散らかった血風呂を清掃する業者様には頭が下がるもんだ。オレだったら面倒臭さのあまりにC4で全部吹っ飛ばして綺麗さっぱりにしてるところだね。いっそ全部消し飛ばせば清々しくなるもんだろ。
そんなことを考えながら階を歩いて行くわけだ。
「しっかし、連中も随分と懲りねぇなぁ。お仲間はもう何人もお空に飛ばされてるってのにまだ退かねぇのか」
オレはオルトロスの残弾を確認しつつ若頭にそう聞くと、若頭は呆れたような面で返して来た。
「そう言われても私からは何も言えん。連中にも意地があるのだろう。ここで退けば臆病者と謗られるだろうからな。面子が大切な仕事故、嘗められるような事はできん。それは此方も同じだがな」
どこの仕事でもそこん所は変わらねぇもんだ。自分の所の看板に泥を塗るわけにはいかねぇ。しようもんなら信用ガタ落ちな上に嘗められて下に見られるからなぁ。
だが、それでも退くときには退くのも勇気ってもんだろうよ。
女を口説く時にしつこくすると嫌われるってのは常識だぜ。仕事も似たようなもんだよ。
「連中は愚かな小猫にすぎません。李家という獅子に勝てる道理は無いというのに牙を剝く。勝てないのなら勝てないなりに身の振り方もあるというのに」
あまりの馬鹿さ加減に楊の奴は呆れ返った様子だ。
結構きついことで。お前さんにも面子の話は分かるだろうによぉ。
皆なら誰もが分かる話だが、お嬢様にはイマイチ理解できねぇらしい。
まぁ、所謂ギャップって奴だろうよ。お嬢様にゃぁまだ早いもんだ。出来ればお嬢様には綺麗なままで育って欲しい(笑)
そんな会話をしつつ階段を降りて行くわけだが、さっきから連中、全然仕掛けてこなくなった。
これで自分達がやってる馬鹿を自覚して帰って行ったんならお利口さんってことで花丸をくれてやるもんだが、下から臭ってくる特有の殺気からしてそれはねぇだろ。
ってことはだ。この後来るであろう連中の御間抜けな面を拝むであろう時ってのは……。
「連中、どうやら待ち伏せする気満々みたいだぜ」
「だろうな。出口が下にしかない以上、裏口ともに押さえれば我々は此処を出る為に行かざる得ないのだからな。しかし、面白みのない」
「大哥、あまりそういったことに面白みを求めないで下さい。戯れが過ぎるのはよろしくないと李大人がよく仰っているではないですか」
連中の腹づもりを察してうんざりするオレ。
少し面白くないって面で若頭がそう言うと、楊が困ったって面で若頭を諫める。
ガッツがある奴は嫌いじゃねぇが、しつこい奴は好きじゃねぇ。
そろそろこのお遊戯にも飽きてきたし、お嬢様の情操教育に悪いんでね。さっさとお暇したくなってきた。
そうと決まれば直ぐに突っ込むだけだが、さっきから妙に気になってることもあったんで暴れる前に聞くことにした。
「そう言えばさっきからずっと遊んでるわけだが、ここの警察はどうしたんだよ? まるっきり来る気配がねぇんだが。巻き込まれた善良なオレとお嬢様を保護してもらいたいもんだ」
その問いに対し、若頭はオレを可哀想なガキを見る目で見て来やがった。
「誰が善良だ。この通路で血風呂を作った要因の半分は貴様がやったのだぞ? それで善良などと口にするなど笑い種にしかならんよ。貴様が善良だというのなら、世の中我等のような人間はいない」
「オレはこれでも学園一安全な男で通ってるんだがね」
「そのペテンを信じている者などいないだろうに。それに貴様は寧ろ取り押さえられる側だ」
オレの返答に楊が言って来たが、そんなことねぇだろ。学園内じゃぁ大人しく過ごしてるんだからよぉ。
そんなことを考えてることが筒抜けだったらしい。お嬢様にジト目で睨まれちまった。
「確かに嘘はよろしくありませんわよ、レオスさん。学園内では野蛮だ何だと皆から避けられているではありませんの。勿論、そんなことはないとわたくしは分かっていますけど」
少し顔を赤くしつつもそう言うお嬢様には涙が出てきそうだ。
信じてくれる奴がいるのは有り難いねぇ。
まぁ、野蛮だと思われてたってのは心外だが。
そんなお遊びをしながら若頭に顔を向けると、若頭は丁寧に説明してくれたよ。
「普通ならここまで騒げば公安が即座に嗅ぎ付けるところだが、ここは常に騒ぎが起こる歌舞伎町。それも我等が李大人がバックにいる所だ。そう簡単に公安如きが手を出せるようなものではない。裏における治外法権の一種とも言える」
「さようで。要は若頭の所の上司がおっかねぇもんだから見て見ぬふりをしてるってわけか」
まぁ、ウチも似たようなもんだから分からなくもねぇことって奴だな。
違いがあるとすれば、若頭の所と違ってオレ等の所はヤンチャな馬鹿が毎回の如く絡んでくるってことか。
そっちの方が退屈しねぇからいいんだけどな。
「なら安心して残りも叩けるってもんだ。お嬢様も一緒だってのに外に出た瞬間から追いかけっこしなくちゃならねぇってことになったら流石に面倒だったからよ」
「貴様なら特に問題無く逃げ仰せるだろうが。それにオルコット様ならどう見たって被害者にしか見られない。手厚く保護されるだろう。貴様のような奴とはモノが違うのだからな」
「そりゃそうに違いねぇが、差別はよくねぇなぁ、楊。そいつは敵を作る要因だぜ。健やかに生活を送る一番の秘訣は敵を作らねぇことだ」
「私は差別したのではない。区別しただけだ。そんなことも分からないから貴様は……」
「そう言うなよ。日本語ってのは難しいんだ」
「5カ国語以上を平然と喋る貴様がどの口でそれを言う」
「こいつは一つ取られたな、若頭」
ちょっとした面倒事も解消したことで、軽口を叩き合うオレ達。
ただ、その話に上手く乗れねぇようでお嬢様は少しばかり不満みてぇだ。
あまり長引かせると拗ねるかもしれねぇからなぁ、そろそろ止めとこうか。
「んじゃ場も盛り上がったところで、ラストゲームにしゃれ込もうか」
「そうだな。後30分以内に終わらせないと次の仕事に影響が出る」
「そいつは急がねぇとなぁ。オレとお嬢様もあまり遅くなると学園一おっかねぇ担任様から大目玉を食らっちまう。アレに怒られるのは面倒なんでね。20分で済ましてやるよ」
「15分で済ませるぞ。これ以上手間取っては私の面子に関わる」
「あいよ。んじゃ……さっさとやるとするか」
「あぁ」
そう決め込むとお嬢様の手を引きながら歩き始める。
「そういうわけだ、お嬢様。後15分ほど待っててくれよ。なぁに、少しばかり天井の染みでも数えてる内に終わるからよ」
「わかりましたわ。でも、お気御付けて下さいね」
お嬢様のエールも受けた事だし、張り切るとするかぁ。
そして階段を降りて行くこと数分。
出口辺りのエントランスで思いっきり張ってる間抜け共を見つけた。
人数はざっと10人。これなら5分あれば充分釣りが来そうだ
オレはお嬢様に物陰に隠れてるよう言った後、若頭と共に連中の前に出た。
「随分と賑やかじゃねぇか。そんなにビックスターのお出ましが待ち遠しかったのか?」
「まったく、客人も来ているのだから静かにして貰いたいものだ」
連中に向かってそう言うと、主犯格らしい野郎が前に出てきた。
「俺等だって静かにしたいところだったさ。だが俺等の目の前に目障りな李家の野郎が出張ってきたんだ。そいつをぼんやりと眺めていられるほど俺等は暢気にはなれねぇ」
「ふん、所詮力なき弱者の分際で良く吠える。この場から追い出されたのは力が無かったからに他ならない。日本ではこういうのを『負け犬の遠吠え』と言うんだったか、んぅ、この負け犬?」
「テメェッ!? ぶっ殺してその首にクソを擦り付けてやる!」
どんな奴が若頭に喧嘩ふっかけてきたのかと思ったら……とんだ小者じゃねぇか。
おいおい、せっかくのお嬢様とのディナーを邪魔した奴だからどんなのが来たのかって内心楽しみにしてたのにこんなんだとは……残念だねぇ。
野郎は若頭に鼻で笑われたことで堪忍袋の緒って奴が切れたらしい。
そんな切れやすい緒なんて意味がねぇもん使ってんなよ。新しいモンに交換することをお勧めするぜ。
そのまま切れた野郎は後に引っ込むと周りの部下に指示を出す。
その指示を聞いて周りの9人は得物を取り出して構えてきた。
そのままオレ等も踊ろうと思ったんだが、取り出したモンみて流石に驚いちまったよ。
何で高々日本でショボイ商売やってた中国マフィアの連中がブローニングM2重機関銃やU.S.A. M60なんて代物持ち出してるんだよ。
他の奴等もスコーピオンやらUZIやらと、実に弾幕が張れそうなモンばかり。
御蔭でオレと若頭は初っ端から全力で物陰へとダッシュだ。
隠れると同時に銃撃の爆音が鳴り響き、色々なモン砕きまくる音がしまくってる。
「おいおい、マジかよ。なんでマフィアがあんな重装備持ってきてるんだよ。若頭、なんかヤバイことにでも首突っ込んだのか?」
「いや、そんなことはない。見た限り自分のいる組織に内緒で持ち出してきたのだろう。大方組織内で私にやられたことで地位が危険に追いやられたので報復に来た、そんな所だろうよ」
軽く冗談交じりに話し合うが、少しばかり悪い状況だ。
このまま物陰に隠れてるわけにもいかねぇし、だからといって前に出ればあっという間に蜂の巣どころかミートパテに早変わりだ。
どうにかしねぇとなぁ。
「若頭、あれ、どうにかできるかい?」
「流石に私も重機関銃の弾丸は防げん。やったらあっという間に血煙になるだろう」
だとさ。
他力本願ってのはいけねぇなぁ。なら、自分でどうにかするしかねぇなぁ。
オレは周りを見渡してあるものを見つけた。こいつは使えるかもしれねぇなぁ。
「若頭、天井に吊ってあるシャンデリア、墜とすぜ。その間にあの馬鹿達の内のどっちかのぶっといもんを黙らせてくれ」
「仕方ないか……その案で行くぞ」
作戦も決まった事でさっそく行動開始だ。
オレは物陰からこっそりとオルトロスを出して天井に吊ってある豪華なシャンデリアの留め具辺りを狙ってぶっ放す。
銃の威力が高いだけに、掠りさえすれば目論見通りだ。
連中の真上から見事にシャンデリアが落下してきた。
そいつに巻き込まれて全身血まみれになった間抜けに笑いつつ、混乱した馬鹿共に突っ込む。
「んじゃよろしく、若頭」
「あぁ」
突っ込むオレに続いて若頭も走る。
オレは片方のブローニングM2重機関銃を持て余してる馬鹿の方へ。
若頭はU.S.A. M60方へと流星錘を投げる。
向かって来た事に気付いた間抜けは慌ててハンドガンを引き抜こうとするが、そこは腹心の楊の援護射撃で見事に銃を弾かれた。
「もう少し頭を使うべきだったな、間抜けめ」
それが奴さんが聞いた最後の台詞だ。
そこから先は何も聞こえねぇだろうさ……何せ首が無いんだからなぁ。
あっちが黙ったことで今度はこっちだ。オレが突っ込んで来たことに気付いたアホが慌ててこっちにそのデケェ銃口を向けてくるが、もう遅ぇ。
「こっちもタッチダウンだ。ゆっくりおねんねしな」
野郎が引き金を引くより先に、オレのオルトロスが野郎の眉間に風穴を開けた。
野郎はそのままゆっくりとお眠だ。一生目覚めねぇけどなぁ。
これでおっかねぇもんの始末は出来た。
後は未だに慌ててる奴等に向かってそれまでオレ等を困らせたモンを向けてぶっ放すだけだ。
「こいつはさっきの礼だ。よくも肝を冷やさせてくれたなぁ。今度はお前さん等が冷やすもんだぜ……その身体をなぁ」
持ち上げたブローニングM2重機関銃から吐き出された銃弾が目の前の連中をあっという間にミートパテに早変わりさせていく。
この光景は中々に刺激的だ。しばらく挽肉は食いたくねぇなぁ(笑)。
そう思いながら引き金から指を放せば、もうこの場に残ってるのは数人だけだ。
オレの考えてることを見越して咄嗟に隠れた若頭、それを援護していた楊、オレとお嬢様は勿論として、最後の主犯である馬鹿だけ。
オレは目の前で起こった事に放心状態のアホに若頭と一緒に笑みを浮かべながら近づき、互いの得物を突き付ける。
「「ゲームセットだ」」
その台詞と共に力なく項垂れる間抜けを見て、やっとこの騒動が終わった。
その後、楊に間抜けの処理を任せてお嬢様と帰ることになった。
若頭は後始末が残ってるんでそれが終わってから帰るってよ。
そいつは仕方ねぇが、ちゃんと小遣いは振り込んでもらいたいねぇ。
そう思ってたんだが、どうにもやっぱり、今日のオレは調子が悪いらしい。
楊の引き渡した野郎に何もしなかったってのに、後から後悔させられたよ。
「くそ、テメェだけでもぉおぉおおおおおおおおっ!!」
「ちっ、貴様っ!」
楊の野郎が押さえていたんだが、少し隙が出来たのを見て暴れ出して楊から脱出。そのまま逆恨み前回でオレの方に懐のモンを抜きながら突っ走って来やがった。
それに反応するが、今この場で抜けばお嬢様に野郎の頭が吹っ飛ぶ所を見せちまう。
そいつは流石にねぇ……よろしくない。
だからか少しばかり判断が遅れちまった。
その所為でオルトロスが抜くのに躊躇っちまった。このまま行けば逆にオレのどこかに風穴が開くだろうよ。せめてお嬢様だけでも守らねぇと。
そう思ってたんだけどなぁ…………………。
「レオスさん、危ないですわッ!!」
何とビックリ、お嬢様が先に動いてポシェットの中にしまってたモンを引っこ抜いた。
そいつは護身用に持たせた玩具だよ。
そいつを躊躇うこと無くお嬢様は構えてぶっ放した。
お嬢様がぶっ放したゴム弾は見事に野郎の額に命中、野郎はその衝撃で脳震盪を起こしてぶっ倒れた。
それを見て、お嬢様は少しばかり自慢げにこっちに顔を向ける。
「わたくしだって、ただ守られているだけの女ではありませんわよ」
「……そうだな。まさか助けられるとは思わなかったよ、お嬢様」
オレは驚きつつもお嬢様に感心する。
本当、逞しくなったよ、お嬢様はさ。女の成長ってのは早いもんだ。
こうして、本当にオレとお嬢様のディナーは終わりを迎えた。
ちなみにあの野郎はどうしたって? アレはお嬢様のお手柄もあったんで、もっと愉快な目に遭って貰ったよ。若頭と一緒になってトランクに素敵な物と一緒に詰め込んで送ってやったよ。翌日にゃぁ東京のどこかで大爆発だと。都会は恐いもんだ。
尚、お嬢様には助けて貰った礼も込めて部屋に戻った後にキスしてやったよ……唇にな。
まだ若いから深い方は無しだが、それでも結構頑張った方だ。
御陰様、お嬢様は顔を真っ赤にしたまま幸せそうに気絶した。
そのまま寝てる姿を見て思うよ。
本当、女ってのはある意味男より強いねぇ。
きっとその内、お嬢様がオレと肩を並べる時が来るのかも、しれねぇなぁ。