少し前に巻き込まれた騒動にゃぁそれなりに楽しませて貰ったもんだ。
約束通り小遣いも貰って懐も温かくなったが、それでハッピーで終わりだったのならよかったんだがねぇ………。
その後に来た別件の請求の所為であっという間に寒々しくなっちまった。世の中ってのは常に無情なもんだよ。
以前にぶっ壊したモンの請求を放置したオレが悪いってか? 忘れてたんだから仕方ねぇだろ。寧ろ今頃になって送ってきた奴も相当なもんだろうよ。その真面目さには頭が上がっちまう。
泣く泣く貰った小遣いの殆どを支払ったわけだが、いつまでも気を滅入っているわけにもいかねぇ。いつまでもいじけてると運気ってもんが逃げちまうんでなぁ。
ここいらででっかい賭けでもして憂さを晴らしてぇもんだが、オレ等は学生だ。もっと健全なことに汗を流さなきゃなぁ。
そんなわけでIS学園は今、次の行事に向かって騒がしくなりつつある。
学園祭が終わった後は、ISによる超高速レース『キャノンボールファスト』をやるんだと。
ISは兵器としての利用を禁止されてるってんで競技として使用されるもんってことになってるが、改めてその競技を聞かされると間抜け加減が半端ねぇ。
言っちまえば戦車でレースするのと変わらねぇんだからなぁ。
実際にその光景を思い浮かべて見ろよ? あまりのシュールっぷりに笑いがこみ上げてきて仕方ねぇだろうよ。
そいつが偏に立派な形で表に出せるってのは、きっと女にしか動かせねぇからだろうさ。何だかんだと言っても、華がありゃ大体のモンは形になる。それがお嬢様みてぇな美人なら尚のことだ。
そんなレースに青春をかけるのも悪くはねぇだろうさ。学生足る者、青春しねぇとなぁ………………。
と、そんな事を言ってみちゃいるが、オレは変わらずに面倒で仕方ねぇ。
レースなんてモンはするもんじゃねぇ。ありゃ賭けるもんさ。
それに参加させられるってんだから面倒以外の何者でもねぇ。
これでまだテメェの所に賭け分の何割かが入って来るんだったらマシってもんだが、健全な学園は賭け事禁止ってのが慣わしなんだと。
まぁ、それも慣れてきたことだよ。学生は学生らしくなんだとさ。
そいつについては正直どうでもいい。分かりきってたことだからなぁ。
オレが面倒だと思ってんのは、どうせまたハッチャケる愉快な野郎が遊びに来るってことだ。
別に情報が来たわけじゃねぇが、この学園ってのは何かする度に愉快な奴等が遊びに来るんだよなぁ。
その度に駆り出される身としちゃぁ、またかと思うと面倒になってくるもんなのさ。
これもお仕事と言い切りゃぁそれまでなんだが、よくもまぁここまで飽きねぇもんだ。少しは落ち着きと休みをもってやって貰いたいぜ。
だからこの行事の発表の前に爺さんに呼び出されて、いつも通りのことを言われる。
本当に人使いが荒い爺さまだよ。
今回は会長さんの方で別件があるらしいんで、オレ一人で何とかしろとさ。
そう言われちまったんなら、やるしかねぇよなぁ。あまりやり過ぎるなって釘は刺されたけどよぉ。
そんなわけで、結局いつもと変わらねぇように行事を控えることになった。
『キャノンボールファスト』に向けてまわりの連中は盛り上がりを見せ、参加する奴らは練習に熱を上げる。
そいつは勿論代表候補生も一緒なわけで、ファンやデュノア、子ウサギなんかも結構練習してる姿を見る。まぁ、あっちも仕事だからなぁ。仕事に熱心なのは感心させられるってもんだ。
それは勿論ウチのお嬢様も一緒なわけなんだが、どうも最近様子がおかしい。
何というか、思い通りにいかねぇことがあるのか気難しい面をしてることが多いのさ。
それで何か気になることでもあるのか聞いてみるんだが、これがまた流されちまう。
オレはあまり人に干渉するタイプじぇねぇから深くはつっこまねぇんだが、それでもお嬢様の面が曇ってるのは見てて面白くねぇもんがある。
そんなわけで、お嬢様には改めて話を聞くことにした。
「お嬢様、景気はどうだい?」
「あ、レオスさん……」
アリーナで熱心に訓練してるお嬢様に声をかけると、お嬢様は上気した艶っぽい顔でオレの方を振り向いた。
汗も滴る様子はまさに懸命に頑張ってた証明ってやつだ。
お嬢様の女っぷりもますます磨きが掛かってクラクラしちまうよ。
そのままお嬢様の方に歩くと、さっそく本題について聞く。
今までそこまで深くは追求しなかったが、ここまで来た以上は聞かねぇとなぁ。
「その様子じゃまだ何か悩んでるって感じだろ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇかい?」
「それは、その……」
お嬢様はオレの問いに対し、気まずそうな面をする。
その感じからしてもう少し押してみれば、何かしら出そうな感じだ。
「そんなに言い辛いことなのか? オレとお嬢様の仲じゃねぇか。何でも言ってみろよ。話を聞く自体は無料だし、お嬢様が本当に嫌だってんなら無理にでも聞こうとは思うわねぇ。ただ、お嬢様が楽しそうじゃねぇのは見てて偲びねぇのさ、オレは」
「っ!? そんな、わたくしとレオスさんの仲だなんて……(す、少し前にキスして貰いましたし、つまりは『そういうこと』ですわよね………キャー、キャー!)」
そう言うと、途端にお嬢様の顔が真っ赤に染まる。
何かぶつぶつ呟いてるみてぇだが、呟こうが大体聞こえてるよ。どうやら前回のご褒美が効き過ぎたらしい。思い出しては熱暴走しかけてたよ。
取りあえずこれで緊張は解れてきたってところか。
「だからこそ、お嬢様には話してもらいてぇんだ。駄目か?」
「い、いえ、そんなことは! そ、その……いいんですの?」
お嬢様は真っ赤になったまま上目使いでオレの方を見る。
甘えていいんだろうかって判断しかねてるってところだろうよ。お嬢様にそんな顔されりゃあ甘えさせねぇなんて奴はいねぇよ、きっとなぁ。
「寧ろこっちが聞きたがってるんだからよ。お嬢様は気にせずに話してくれる方がこっちとしては嬉しいもんだ。だから頼むよ」
「で、でしたら…………」
それからお嬢様が語ってくれたのは、どこにでもある成績不振の話だった。
「その……この学園に来たのは代表候補生としては勿論のことですが、わたくしの専用機『ブルーティアーズ』のデータを取るためでもありますわ。その中にはBT兵器運用におけるある能力も関わってきますの。『偏向射撃』、それがこのBT兵器の真骨頂であり、文字通りレーザーを曲げる技術ですわ」
「そんな曲芸ができんのか、アレ」
「はい。わたくしがブルーティアーズの操縦者に選ばれたのは操縦技術ももちろんですが、BT適正が一番高かったからでもありますの。その極致が偏向射撃。ですが、今だにわたくしはその片鱗さえ出せずにいます。それが悩みでして……」
つまり話を纏めると、お嬢様の候補生としての戦闘能力は寧ろ褒められてばかりで文句はねぇんだが、そのBT兵器の方の成績は成果が出ずに突っ込まれたと。
それで焦って訓練してはいるが、その成果がでねぇってことらしい。
何で相談しなかったのかってことについては、国の問題でもあるかららしい。
そんな曲芸に一々興味を持つ奴がいるのかはわからねぇが、一応は御国の本題だからなぁ。そう簡単に話せなかったのも分かりはする。
「それでお嬢様は話し辛そうだったのか」
「はい。流石にこんな情けないこと、あなたに相談するのはどうかと思いまして」
「別に気にしなくてもいいだろ。ここはIS学園なんだ。情報の交流も候補生の仕事の一つってな。それに悩みってもんは一人で考えたって解決するもんじゃねぇ。何かしらのとっかかりがあって初めて解決の目途が立つもんさ」
「レオスさん……ありがとうございますわ」
お嬢様は嬉しそうに微笑むと、その悩みについて具体的に教えてくれたよ。
まぁ、無理もねぇ話さ。撃った弾が曲がるなんて早々見れるもんじゃねぇからなぁ。そこはイメージが重要らしいんだが、ここでクロードの教えが引っかかりやがった。
アイツの射撃は凄腕だが、同時に堅実だ。ありえねぇことはまずしない。
それがイメージとして、お嬢様に『弾は曲がらない』ってのを植え付けちまったらしい。御蔭で射撃その物の腕は格段に上がったが、偏向射撃に関しては真逆になったんだとさ。
こいつは困ったもんだ。
別に弾を曲げられねぇわけじゃねぇんだが、する意味がねぇし威力が下がるんでするアホはいなかったんだが、まさかそれをお嬢様に教えることになりそうだとはねぇ。
だが、これで多少はお嬢様の気分も晴れるだろ。
だからこそ、オレはお嬢様に笑いながら声をかける。
「なぁに、そんなもんすぐに出来んだろ。要はイメージが重要なんだろ? だったら見せてやるよ。『曲がる弾』ってのをよ」
「は、はいですわ!」
こうしてお嬢様の曲芸の練習を手伝うことになったわけだが、こっちの方が余程気が晴れそうだ。
またアホな奴等の相手をする前にゃぁ丁度良いさ。
まぁ、まず最初にやることは銃と弾に細工することだがね。
隠し芸でやってた奴もいたんだから出来ねぇ事はねぇだろ。
そう思いながらオレはお嬢様と一緒にその訓練について話し合っていった。