お嬢様のお悩みの相談に曲芸を披露した事で少しはマシになったらしい。
かなり嬉しそうな笑顔でお礼を言われたよ。こんな役に立つのかもわからねぇ曲芸で喜んだ貰えるんだったら安いもんさ。
お礼の代わりってわけじゃねぇんだが、今度はお嬢様が『キャノンボールファスト』について色々と教えてくれるらしい。
そいつはまた有り難いが、そこで少し問題がある。
オレのISは高速用のパッケージなんてねぇんだよ。元が特殊過ぎる代物だからなぁ。
臨海学校に行ったときに使ったモンはどうしたって? 冗談じゃねぇよ。ありゃ使い棄て前提の玩具だ。使えば飛びはするが、真っ直ぐにしか飛べねぇ上に方向転換不可で操作が殆ど出来ねぇ。しかも操縦者のことなんてまるっきり考えてねぇイカレた代物だからGで思いっきり身体を押し潰される。そんなもんで高速レース? やったら即座にオレはぶっ飛んでコーナーを曲がれずに激突。壁に盛大なケチャップをぶちまけることになる。芸術家ならともかく、オレは絵心ってもんが理解で気ねぇタイプなんでね。そんな芸術活動が御免被る。
そんなわけで前回使った強襲用使い捨て試作パッケージ『サクリファイス・ブースター』を使うなんてのはマジで勘弁願いたい。まだ死ぬ気はねぇんだなぁ。
だからお嬢様に教わろうにもどうしようもねぇ。パッケージがなくても増設ブースターでどうにかするって手もあるらしいが、そいつを使う際はプログラムから弄くらなきゃならねぇ。オレにそんな技能はねぇんで、それはそれで大層面倒臭そうだ。
だからお嬢様への返事を受け入れつつもどうしようかと考えていた訳なんだが………。
「おいおい、何だよ、こいつはよぉ」
お嬢様の申し出を受けてから二日後、オレ宛に荷物が届いたんだよ。
それもそれ専門のお得意先じゃなくて、あのあまり関わりたくねぇ出向先の会社から直に正規の手続きで送られてきた。
ここまで言えば大体の予想はつくだろ。絶対に碌な事がねぇってことは、その名を見た瞬間から理解出来る。彼のドイツ一の有名人、アドルフ・ヒトラーの名を聞けば誰だってロクでもねぇ奴だってことがわかるくらいにそいつは常識的だ。
中のモンを確認してみれば、何かのデータが入ってると思しき大型のユニットとカタログスペック。
そのカタログに目を通した時は、本当に呆れ返って何も言えなくなったもんだよ。
その呆れ具合に即座に電話で文句を吐きに行くくらい、そいつは酷いもんだったんだよ。
オレはそのカタログに目を通しつつ携帯で即座にかけたくもない奴に電話をかける。
そいつはコールして直ぐに出やがった。
『やぁ、早速かかってくると思ってたよ』
「そいつは結構だ。つまりお前さんは文句を言われるってことが分かっててこんな巫山戯た代物を送ってきたってわけだな、このボケナス」
実に愉快そうな声を出す野郎にオレは悪態をつく。オレがここまであからさまに悪態を付く相手なんて、一人ぐらいしかいねぇだろ。
『Pursue the fantasy those who(幻想を追い求める者達)』一のド変態、ウェイブ・ホルストその人さ。
もう一回説明するのも御免だが、簡単にいやぁオレのIS『スカイウォーカー』の産みの親。自分の作品を愛して愛して愛し過ぎちまってる異常者で、欲情してプレイまでする頭のイカレすぎた奴だよ。その点、やっぱりタバネの方が余程常識的だぜ、本当。
オレは送られてきたもんについての文句を言うためにかけたくもねぇ電話をかけたってわけだ。
それを分かった上でもまったく気にした様子もなくウェイブの馬鹿は楽しそうに話し始める。
『どうだい、私が娘のために作った新しいドレスは! 娘の魅力を寄り引き立てるべく、誠心誠意込めて作ったオーダーメイドだ! さぞ似合うことだろうよ』
「お前さんの自慢話を聞く気はねぇよ。まぁたこんなぶっ飛んだ代物作りやがって」
『何を言うかね。我が愛しい娘のために最高のドレスを送る、それは親として当然ではないか! あぁ、愛しき娘のドレス姿を思い出すと、私はもう……正直勃って仕方ないッ!!!!』
さっそく聞きたくもねぇことを言って来やがった。
誰が野郎の欲情した声を聞きたがる奴がいるよ。もしその場に野郎がいるんだったら即座にオルトロスをぶっ放したくなったね、オレは。
「誰がお前さんの興奮した声が聞きたいって言ったよ。オレが言いたいのは、何でこんなもんを作ったんだってことだよ」
そう、送られてきたもんがあまりにもぶっ飛んだ代物だったからこうして連絡を入れたわけであって、変態の興奮した声を聞きたいわけじゃねぇんだ。
こっちに送られてきた代物。そいつはスカイウォーカー用のパッケージだ。
ウェイブが言ってるドレスってのは、スカイウォーカーに追加で装着するオプションだよ。娘に着させるドレスなんだとさ。
別に普通に考えりゃぁパッケージが送られてきたってんでそれで終わりなんだろうさ、普通の企業ならなぁ。
だが、この変態はやっぱりと言うべきか、やらかしやがった。
このパッケージはなぁ………。
『何でも何も、そろそろ君の通ってる学園ではキャノンボールファストが行われるだろう。丁度良いと思ったから送ったんだよ、私の愛おしい娘の新しいドレス。宇宙、大気圏内における高速機動用パッケージ(ウラノス・ドレス)をね』
そう、送られてきたのは高機動用パッケージだよ。
スカイウォーカー用に開発したらしいパッケージで、能力の説明をするんだったら単純に特殊だった部分を元のISに戻す代物だ。本来の力場の発生を止めてスラスターで空を飛ぶわけだ。近々学園でキャノンボールファストが行われることを考えりゃぁ有り難いもんだ。
これだけ見れば真っ当だろ。だけどよぉ……この変態が愛おしい娘に送る代物がそんな普通な物なわけがねぇんだよ。
「そいつは見て分かるしデータを取るんだったら丁度良いってのも分かりはするさ。だがなぁ……何なんだよ、この仕様とスペックは。どう見たって廃人コースまっしぐらの絶叫マシーンじゃねぇか。オレはそんなドMになった覚えはねぇよ」
流石と言うべきか、やっぱりこの野郎が作るもんにまともなもんはねぇ。
このパッケージ『ウラノス・ドレス』はスカイウォーカーの各所に装着するように展開される。具体的な箇所は、足にスラスター各二基。脹ら脛に各二基、腰部に二基、両肩に姿勢制御及び急転換用スラスターが二基、そして背中に大型高出力バーニアが四基と通常スラスターが四基設置されていやがる。足だけでも結構な速度が出るってのに、背中の代物はそれだけで足の三倍は速度が出る代物だ。しかもこいつは高速戦闘を視点に置いてるもんだから、背中の大型高出力バーニアは可動範囲が広くて360度に近い角度まで動くらしい。
最大出力時における速度ときたら、弾道ミサイルに迫るかもしれねぇくらい速ぇ。そんなに速くして何がしたいんやら。
そして当たり前だが、操縦者への気遣いなんてもんはまるっきりねぇんだよ。全開で動かせばあっという間に三半規管が狂って平衡感覚がぶっ壊れるなり、Gで文字通りミンチになるってことだ。
この馬鹿は自分の娘に格好いいところだけ見せてぇもんだから、それを使う人間のことなんて本当に考えてねぇんだよ。
こんなもんを平然と使えってんだから正気を疑いたくなるもんだよ。まぁ、元からイカレてるから正気もクソもねぇんだがね。
「前からも言ってるが、もう少し加減ってもんを考えろよ。どうせ今回のこいつは『戦闘における最速』なんてコンセプトなんだろうよ。ISの高機動を極限まで突き詰めたってところだろ。御蔭で武器は一種類しか展開出来ないってどうなんだ?」
『流石は君だ、理解が早くて助かるよ。その通り、このドレスはスカイウォーカーを本来のISとしての姿に戻すと共に、対IS戦闘を主観に置いた超高機動を実現してるのさ。勿論、相手のISが追いつけないほどに俊敏で高速な起動を行うようにね。そのためには人間の限界を超えるほどのGが掛かるが、短い時間なら耐えられるでしょ』
「お前さんはもう少し人様に優しさを持った方が良いと思うがね」
『そんなものに振るくらいなら愛しい娘達に振りまくさ。この間も思いっきりぶっかけて……』
これ以上は聞いてても心が病みそうなんで聞き流すことにする。誰だってそんな特殊な性癖を聞かされて喜ぶ奴はいねぇだろ。オレはノーマルなんでね。
しかも文句を言いに来たのに、物の見事に聞く耳をもたねぇ。それどころかこっちも文句は奴さんにとって娘の褒め言葉に聞こえるらしい。一回お脳の病院にでも行った方がいいんじゃねぇか。良い医者なら紹介するぜ、もぐりだけどよ。
これ以上電話しても無駄だろ思うんで、オレは最後にウェイブに言葉をかける。
「まったく、お前さんは反省って言葉がまるでねぇ奴だよ、本当になぁ。まぁ、渡されたからには使うのがお仕事だ。使わせてもらうさ。だがなぁ、もう少しはこっちのことも慮ってくれよ。でねぇとオレの身体はストレスであっというまにポンコツのスクラップになっちまう」
『君なら大丈夫だろ。何せ娘に限界を超えさせてヒィヒィよがらせているんだからね。そこいらのお粗末な男とは段違いなんだから、多少大胆なことをされても君なら負け時にアプローチして喘がせそう………』
これ以上変態に付き合う気はねぇ。
オレは面倒なあまりに電話を切るとそのまま携帯を投げ出す。
そして目の前にある代物を面倒ながらもスカイウォーカーにインストールし始めた。
物は最悪だが、とりあえずはこれでお嬢様と訓練できんだろ。
まぁ、こんなイカレた代物が使えたら、だがね。
イメージとしては、足がユニコーンのNTD展開時におけるバーニア、腰も一緒ですね。そして背中はトールギスとGP01FBフルバーニアンと言った感じです。
空をバーニアやスラスターによって高速で多才に飛び回ります。多角的に動くので中に人間は常にGで揺さぶられ、ISの昨日でも追いつけないので酷い事に……。