レースのスタートの合図と共に、皆が挙って我先にと飛び出して行きやがった。
実に闘志に満ちたその面は、皆活き活きとしてるねぇ。オレもそんな面をしてみたいもんだよ(笑)
熾烈なトップ争いを早速繰り広げる連中の勢いときたら、まるで目標に向かって突進する猛牛のそれだ。あん中に突っ込む奴がいるんだとしたら、そいつはきっとオツムの螺子が緩んだ自殺志願者か、勇猛果敢な闘牛士くらいなもんだろうさ。
そん中で飛んでるオレも牛かと言われりゃ、実はそうでもねぇ。
お嬢様にゃぁ悪いが、こんな賞金もでねぇレースを真面目にする気なんてないんでね。真面目にやらせたきゃちゃんと賞金をかけるこった。そうすりゃサハラ砂漠だろうが南極だろうが何処でも競ってやるよ。
そんなわけで、他の連中が競い合っている中、オレはその中間あたりでのんびりと様子を見させて貰ってる。
この距離なら前から来ようが後から来ようがどっちでもお相手出来るんでね。
何の事かは聞かないでくれよ。前から散々話してるんだからなぁ。
さぁて、ウチのお嬢様はどうしてるかねぇ。そう思いながら前の様子を見てみることにする。
「そこですわッ!!」
「ッ!? だが、まだ甘い!」
「そこ、空いてる!」
予想通りとでも言うべきか、お嬢様は子ウサギとファンの二人相手に思いっきりデッドヒートを繰り広げてやがった。
この三人が一番の優勝候補ってのは最初から分かりきってたが、いやはや、こうして見ると中々に良い感じじゃねぇか。
子ウサギは軍人ってこともあって、実に堅実な『良い子』の飛行を見せつけてる。その上でわざと隙を見せてはまったアホを転ばすのがうめぇなぁ。
ファンは最新式のパッケージなだけに加速力が良いらしい。猪みてぇに突っ込んでいく様はまさにアイツらしいぜ。だが、ストレートだけじゃレースは上手くいかねぇもんさ。しかもその突進のせいで度々子ウサギのトラップに引っかかっては後へと引き離されかけてやがる。
その点、お嬢様は中々に良い線いってる。パッケージもすげぇが、コース取りも中々なもんだよ。子ウサギのトラップにもかからねぇように気ぃ付けつつも、際どい部分を攻め立てて来る。その面は実にやる気に満ちていて、さっきの発破がかなり効いたらしい。単純というか何というか、まったくもって可愛らしいお嬢様だよ。
「トップ、いただきますわ!(レオスさんのご褒美……絶対にいただきますわ!)」
「何だ、セシリアの奴。いつもよりやけに気迫がかってるぞ」
「負けないわよぉ~~~~~~~!」
大層やる気が漲っていて何よりだ。
さてと、後の方はっと……。
「一夏、私は先に行くぞ!」
「なぁっ!? ま、負けねぇぞ、箒!」
「一夏、箒だけじゃなくてこっちも気にしないと……ね!」
「うわぁっ! ってシャル、いきなり撃ってくるなよ!」
「なぁっ、シャルロット、射撃なんて卑怯だぞ!」
「ただのレースじゃないんだから、こういうのもアリだよ!」
イチカの野郎とホウキ、それにデュノアがじゃれ合っているようだ。
性能は良いんだが経験不足とその頭でっかちなプライドのせいで上手くデュノアに乗せられてるホウキ。
この中で唯一第二形態に移行してるんで性能は抜群なんだが、そいつをまったく活かせてねぇイチカ。
そして器用に何でも熟すデュノアはそんなお子様二人を相手どって遊んでるみてぇだ。
「レオス、君もだよ!」
どうやら奴さん、オレの方にも気をかけてくれるらしい。嬉しさのあまりに涙が出てきそうになっちまうよ(笑)
デュノアはこっちに向かって近づいて来るなりご自慢のショットガンを向けてぶっ放してきやがった。
「おっと、悪くはねぇ腕だな」
そいつを身体を軽く捻りながら躱すと、オレは奴さんに話しかける。
「デュノアも随分とやる気じゃねぇか。何だ、イチカの野郎に内緒で何か賭けでもしてるのかい?」
「っ!? そ、そんなんじゃないよ!」
そう答えるが丸わかりだぜ、デュノアさんよぉ。大方いつものイチカに内緒で何かを身内で賭けでもしてんだろうよ。こいつ等はそう言うのが好きだからなぁ。
「どうせイチカの野郎に何かしてもらえる権利でも賭けてるって辺りだろ。お前さん等も好きだねぇ」
「っ~~~~~~!? もう、レオス!」
どうやらおちょくりが過ぎたらしい。デュノアの奴、顔をテールランプみてぇに真っ赤にしてカンカンなようだ。両手にショットガンを展開して乱れ撃ちしてきやがった。
「おいおい、この程度で怒るなって。お嬢様なら笑って許してくれるぜ」
「セシリアと一緒にしないでよ!」
あまり年頃の娘さんはからかうのはよくねぇってなぁ。お嬢様はすっかり慣れたのか、ここまで敏感にゃぁ反応しねぇからなぁ。そう思うと本当にタフになったもんだよ、お嬢様は。
「さてと、あまりここに長く居るとカンカンになったデュノアにケツを蹴り飛ばされるまで追っかけられそうだ。そうなりたくないんでね、オレは先に行かせて貰うぜ、お三方!」
三人にそう言うと、オレはスカイウォーカーのスラスターの出力を一気に上げる。
その途端、背中に着いてる大型スラスターが噴出口を展開され、オレの身体を砲弾みてぇに一気に加速させた。
「くぅ~~~~、相変わらずあの変態の作るモンは碌なもんじゃねぇなぁ!」
急加速で掛かるGに内臓を押し潰されかけながらオレは一気に加速して飛行する。
その速度と来たら、イチカ達三人を一気に引き剥がしてトップに躍り出たくらいだ。
御蔭でオレの中身はクソまずいシェイクになってるだろうさ。気持ち悪さに思わず悪態を付きたくなる。普通なら保護機能がある御蔭でそんなもん感じねぇはずなんだが、この玩具を作った変態は操縦者への優しさってもんが丸っきりねぇんでなぁ。御陰様、気分と来たら最悪の一言に尽きるぜ。人間、優しさは大切だよ。
お嬢様はオレの姿を見て笑みを深め、ファンや子ウサギは驚きを隠せねぇらしい。
「来ましたわね、レオスさん!」
「やはり貴様か、私の前に立ちはだかるのは!」
「ちょっと、何て加速してんのよ、アンタ!」
「いや、何。ちょっとばかしからかったらデュノアの奴がカンカンなんでな。逃げてきたんだよ」
笑いながらそう言うと、お嬢様は少し呆れたような顔でオレを見てきた。そんなに見つめられると恥ずかしいじゃねぇか。
「レオスさん、あまりシャルロットさんをからかわないで下さい。可哀想ですわ」
「そう言うなよ、お嬢様。凄く実感したばかりなんだからよ」
そう良いながら先を飛行しながら進む。
すっかりトップに躍り出たオレに子ウサギやファンは警戒心を思いっきり出しながら距離を詰めんと加速してきたよ。
「キィーーーー! 負けるかぁあぁあああぁあああああ!」
「嫁との週末デートは私が貰う! 邪魔はさせんぞ!」
「そいつが景品ね。成る程、やっぱりイチカの野郎は景品に仕立て上げられてたか」
後を猛追してくる二人の声を聞いて、大体の答えが見えたぜ。
どうやら連中、イチカの野郎に無断でデートの権利を争ってるらしい。
それでやる気が漲ってるってわけだ。こりゃ誰が勝ってもイチカに災難が来るのは変わりそうもねぇなぁ。そいつはそいつで見てる分には実に面白そうだけどよ。
「私だって負けません! 勝てばレオスさんと、その……あんな事とか、そんな事とか……と、ともかく、レオスさんが相手でも負けませんわ!!」
お嬢様は顔を途中で真っ赤にしてごにょごにょと言い辛そうにしていたが、その後は闘志を燃え上がらせて凜々しい面になって追いかけてきた。
「皆まさに青春してるって感じだねぇ。オレには真似出来そうもねぇよ」
そう言いながら更に三人を煽るべく、加速する。
背中の全スラスターが火を噴き、内臓を押し潰されて吐きそうになるのを堪えながらオレの身体は更に速度を増していく。
何でやる気がねぇのにこうしたかって? そいつは勿論、煽られたお嬢様達の反応が面白ぇからだよ。
あっという間に三人を突き放し、オレは一人独走状態。このままゴールすりゃあそれはそれで気持ち良いんだろうが……………そうはいかねぇのが現実ってもんだ。
「やっと来たか。待ちわびたぜ」
市街地の近くを通りかかった所で、こっちに向かってレーザーが殺到して来やがった。
そいつを感知するや、オレは『デルフィング』を展開して向かって来たレーザーを斬り捨てながら更に突き進む。
その先にいたのは、まるで蝶みてぇなISを纏った奴だよ。
そいつが手に持ったライフルをこっちに向けて口元でニヤリと笑ってきた。
「お仲間の救出の囮ご苦労様ってか。良く来たなぁ、お客様。爺さんに言われてるんでね。こっちもそれ相応にもてなさせて貰うぜ」
オレは奴さんにそう言いながら『デルフィング』のサブマシンガンの銃口を向ける。
「ただし、オレのもてなしは刺激的過ぎて皆昇天しちまうんだ。アンタも気を付けろよ。でねぇと……早く終わっちまうからよぉ」
その言葉に奴さんは笑みを浮かべるとこっちに向かって突っ込んで来た。
さぁ、退屈なレースはお終いだよ。
ここからは『御仕事』の時間だ。