さて、物の見事にオレのトラップにはまった奴さんは見事にグリルチキンに早変わりしてるはずだ。
「オレは稀代のトリックスター。その気になれば海をモーゼみてぇに割ることだって出来るんだぜ」
爆炎を見上げながらそうからかってみるが、突っ込みがねぇのは少しばかり寂しいねぇ。
そう思ってるとお嬢様が血相を変えて急いでこっちに来た。
「レオスさん、大丈夫ですの! 何かお怪我は!」
「いんや、オレは何もねぇよ。ただ、奴さんは見ての通りだがね」
オレは焦った様子のお嬢様に未だに燃え上がっている爆炎を指すと、お嬢様は顔を引きつかせながら聞いて来た。
「あの、あの爆炎は一体………」
別に驚くことでもねぇだろうによぉ。
軽くそう言ったら、お嬢様は少しでかい声で批難してきたよ。何でも、ISの火器でこれほど酷い爆発を起こすもんはそうそうねぇらしい。確かにあの連射の被害で奴さんの付近の建物が5軒ほど吹っ飛んだがね。そんなもん、戦車砲を叩き込まれりゃ同じような被害が出るよ。
そう思いながらお嬢様に隠して設置しておいたレーバテインを見せてやる。
「コイツはこのISを作ったド変態が作った代物だよ。名前は恰好付けて『レーバテイン』ってんだ。実際の内容はグレネード弾をマシンガンの要領で連続発射する、謂わばグレネードマシンガンってところだよ。御蔭で連鎖爆発を起こしてかなりの被害が出るっていう制作者のオツムの度合いが心配になるもんだ」
「そ、そんな危険な物を開発するなんて………」
お嬢様は開いた口が塞がらねぇって感じだ。
何せこの無駄にデケェ代物は周りの被害ってモンをまったく考えない、謂わば対個ではなく、対地制圧兵器だ。辺りを蹂躙して相手に逃げる隙を与えないっていう実にドSで悪趣味な代物だろ? そいつを奴さん一人に向かって使ったんだから、出血大サービスだろうよ。オレは気前がいいんでね。
さて、そんなネタばらしも終えた所で炎も収まってきたようだ。奴さんがどんな焼け具合になってるのか、お嬢様と確認することにするか。
「さぁ、お嬢様、後は捕り物といこうじゃねぇか」
「え、えぇ……」
未だに戸惑ってるお嬢様を連れながら晴れてきた爆炎の更に奥を覗き込む。だが、そうした瞬間にお嬢様の顔に緊張が走った。
「そんなっ、おりませんわ!」
そう、爆炎が晴れた先に奴さんはいなかった。
その場に残っていたのは、何かしらの青い残骸。そいつを見たお嬢様は何かに気付いたようだ。
「これは……エネルギーアンブレラ……」
「知ってんのかい?」
「えぇ、これはサイレント・ゼフィルスにのみ搭載されている特殊なBT兵器で、エネルギーシールドを張って防御するためのものですが、同時に中に入っている高性能爆薬で自爆させられる物でもあります。きっとコレを囮にして直撃を避けたのかと思われますわ」
どうやら奴さんも手品がお得意だったらしい。
そのビットとやらを身代わりにすることで直撃を避け、同時に上がった爆炎を使って目くらましにして逃げたと。
「追いかけるかい?」
「そうしたいのは山々ですが、ここまで被害が出ると追跡も不可能かも知れませんわ。学園側も流石にこれは許容出来るとは……」
お嬢様は目の前に広がるキャンプファイヤーの後を見てそう言ってきた。
別にそこまでやり過ぎだとは思わねぇが、お嬢様にはそうは思えなかったらしい。
それに奴さんもプロだ。逃げると決めたら、それこそ全力で逃げるだろうさ。
なら、もう追いかけても追いつかねぇかもしれねぇなぁ。
ISを使わなくても移動する手段なんざいくらでもあるし、コアの反応もステルスを使えばバレねぇ。もともとコアの反応なんざぁ引っかからねぇんだから、それで人混みにでも紛れれば完璧に見つけられねぇだろうよ。
となればこれ以上ここに居るのも無意味って奴だ。なら、オレは爺さんに報告がてらの通信を入れることにした。
「もしもし爺さん、悪いが逃げられちまったみたいだ。被害は住宅が5~6件くらい吹っ飛んだって程度だ。直ぐに直してもらわねぇと幾人かのご家族が路頭に迷っちまうってなぁ」
『やりすぎるなとお願いしましたが、そう来ましたか……まぁ、言った手前、仕方ないですね。本当なら寧ろ弁償して貰いたいところですけど』
「おいおい、今は有事だぜ。責任は大人がとってなんぼだろうよ」
『こういうときだけ子供ぶるのはどうかと思いますよ』
「使い分けは重要なのさ、世の中ってのはな」
爺さんは仕方ねぇって感じに答えてきたよ。
まぁ、当初の目的である奴さんの目的物は見事に病院に食材として送られたし問題はねぇだろ。被害も『敵ISとの戦闘によりやむなく破壊されてしまいました』って感じに誤魔化せばこっちには被害はこねぇ。やったのはやっこさんだってなぁ。何、せこいって? おいおい、情報操作ってのは大事なことだぜ。綺麗で正義なIS学園のイメージを守るためにもよぉ。
そんなわけで奴さんに押しつけてオレ等はどうすれば良いのか聞けば、普通に戻ってこいとさ。
今更レースって訳にもいかねぇだろうによぉ。本当、学生ってのは面倒ばかりだ。
「お嬢様、取りあえず戻ってこいってよ。レースはこんなになっちまったんだ。残念ながらオジャンだよ」
お嬢様にそう笑いかけるが、どうにも納得がいかねぇって面だ。
まぁ、お嬢様からすれば再びやってきたリベンジマッチの機会を相手の逃げ切りで終わらせられちまったんだからなぁ。
「そうむくれるなよ、お嬢様。確かに逃がした魚は大きいけどよ、どうせ奴さんのことだ。近いうちにまた遊びに来るだろうさ」
「そ、それはそうですけど、やっぱり悔しいんです。レオスさんがいなければ私は勝てたのかわかりませんでした。それどころか手を貸していただいたのにこうして逃げられてしまうなんて、不甲斐なくて仕方ありませんわ!」
「そう自分を責めても仕方ねぇだろ。何、そんなもん奴さんが一枚上手だったってだけだよ。だが、オレから見た感じお嬢様と奴さんの差はそこまでねぇよ」
「レオスさん………」
お嬢様は嬉しい様な複雑そうな、そんな微妙な顔をオレに向けて来た。
どうにも真面目なお嬢様は自分を責めちまうきらいがあるなぁ。まぁ、そこが可愛いところでもあるんだけどなぁ。
そんなお嬢様にオレはプライベートチャネルをかけると、笑いながら話しかけた。
「それによ、レースは終わっちまったがお嬢様が頑張ってたのはよく分かってる。あの手品も見事に物にして使い熟してる姿は格好良くて痺れたよ。だから……ちゃんと帰ったら『ご褒美』やるよ。それもとびっきりの奴をよ」
「え、それって…………っ~~~~~~~~~~!?」
「約束だったからな」
そう言い終わればお嬢様はもう暗い顔はしてねぇ。真っ赤になった顔であうあういいながらも嬉しそうにわらってりゃぁ、もう大丈夫だろ。
こうしてこのクソ面倒なレースは終わった。
市街での戦闘に関しては爺さんの威光を使って潰してもらったが、やっぱりクロードにばれてオレは始末書を書かされまくったよ。まったくもってついてねぇなぁ。
あぁ、そうそう。お嬢様へのご褒美なんだが、少しばかり『大人なキス』をしてやったよ。
お嬢様ったら凄く喜んでなぁ。終わったと同時に気失ってたよ。いやはや、そういう初心なところが溜まらなく愛おしいってやつだよ、お嬢様は。
だからこそ、一番のお気に入りなんだけどな。
だがしかし、一つだけ下せねぇことがあるんだよ。
クロードの野郎に説教喰らってるときに言われた台詞がどうにもねぇ。
『もうそろそろ観念して付き合ったらどうですか』
だとさ。
本当、保護者は口うるさいって奴だ。