さて、今回の騒動を引き起こした奴がこの様子を見てせせら笑っているってことは容易に想像がつくってもんだ。なら、どんな奴が笑ってるのか、その御間抜けな面を見たいってのが人情ってもんだろう。
てなわけで、オレは賑わってるイチカの周りから離れていく。それと共にチフユがどこに居るのかを調べるべく、爺さんに連絡を入れることにした。
「爺さん、ちょっといいかい?」
携帯を掛けて3コール内に出た爺さんに早速本題を叩き着けるべく先に言う。これでも少しは急いでいるんでね。
『えぇ、いいですよ。織斑先生の居場所ですね』
「まったく、随分と察しがいいことで。大方オレの今の様子でも見てんだろ」
本当に食えない爺さまだ、聞かなくても既に分かるってのはさ。いったいその腹の中はどれだけ黒いんやら。きっと煙突の中にインクをぶちまけたってまだマシってくらい黒いだろうよ。
つまり爺さまはオレが連絡してくることも予想済みってこった。
『いえいえ、そんなことはないですよ。ただ、何となく……強いて言えばただの感、ですね』
「感で聞きたい事まで答えられるってのは、ある意味恐いとしか思えねぇよ。まぁいいか。それで……チフユは?」
『織斑先生はどうも相手の居場所が分かっているようですよ。現在、学園の外に向かって歩いています。この先にあるのは臨海公園ですね』
「あぁ、わかったよ。んじゃ行って来る」
そう言って通話を切る。爺さんがこの後言うことは、向こうがそうであるように此方も予想が付いてる。大方どんな面してるのか見て警告してこいって所だろうよ。火遊びも程々にしないと火傷するってなぁ。
そんなわけでオモチャを取りに自室に向かうわけだが、その前に手を引っ張られた。
オレの手をこんな風にいじらしく引っ張るのは一人しかいねぇ。その方向に目を向ければ、そこにはお嬢様がオレの手を掴んでた。
「あの、レオスさん……何処に行こうとしているんですの?」
その目は少し不安そうだった。
別にそんな心配しなくてもいいのによぉ。テメェの尻も拭えないようなガキじゃねぇんだから。だが、このまま誤魔化しても追求されそうな感じだ。お嬢様との付き合いも長いもんでね。大体この後どうするのか何て丸わかりだ。
だからこそ、オレはお嬢様に笑いかける。
「あぁ、この馬鹿騒動を引き起こした犯人の面を眺めにちょっとね。何ならお嬢様も一緒にこねぇか? その間抜け面を一緒に眺めて笑うのも悪くねぇと思うがね」
そのお誘いにお嬢様はオレの手をギュッと握ってきた。
「お供しますわ!」
「んじゃ、ちょいとデートに行くとしますか」
そんなわけでお嬢様とお出かけすることになった。
あぁ、勿論……オモチャも忘れずになぁ。部屋のお嬢様のベットの下からそいつが出てきた時はお嬢様、かなり驚いてその後に怒られたけどよ。
IS学園から少し離れた所にある臨海公園前のカフェに一人の少女が座っていた。
彼女の名はクロエ・クロニクル。篠ノ之 束に忠誠を誓う者であり、此度の学園へのハッキングの犯人である。
彼女の前にはカフェオレが置かれているが、一切それに口を付けていない。別に飲もうと思い頼んだのではない。ただ、無ければ不自然なので頼んだだけだ。
彼女がここに居るのは、寛ぐためなのではない。『目的』があり、それを果たすためにここにいるのだ。
そしてその目的を果たし終え、彼女は席を立とうとする。
彼女は詳しくは知らないが、自分の行動に気付いているであろうと予測する者がいるから。それに捕まれば、彼女とて逃げられる保証がないから。最悪、出会えば自分の全てを持ってして殺すしかない。例え束の『親友』であっても。故に急ぎこの場を離れる必要があった。
だが、彼女も思惑よりも早くそれは来た。もっとも怖れていたものが……。
「相席させてもらおうか」
「っ!? 織斑……千冬……」
彼女の前に座ったのは、もっとも彼女が怖れているであろう織斑 千冬だった。
そして千冬は彼女に話しかける。
今回のその真の目的を言い当て、そして伝言を伝える。
「束に言っておけ……余計な真似はするなとな」
そして千冬から放たれる殺気にクロエは身を震わせ、それまで閉じていた目を開いた。
その瞳は普通ではない。真っ黒い眼球に金色の瞳。その美しくも不気味さを際立てる目を持って千冬を睨み付けた。
「生体同期型のISか……あいつがそこまでやっていたとはな……」
そして千冬の目の前は全てが白に覆われる何もかもが白い世界。それ以外が一切無い世界。それがクロエのISの能力だと即座に看破した彼女は、彼女が来るであろう方角に構える。
そして千冬の予想通り、クロエは懐からナイフを取り出して千冬の首筋を狙う。
千冬はそれを察して弾き飛ばそうとするが、その前にナイフは弾かれた。
「「なっ!?」」
その事実に仕掛けたクロエは勿論、弾こうとしていた千冬ですら驚きの声を漏らした。
何せ両者共、まさか第三者が介入してくるとは思っていなかったのだから。
そして驚いている千冬の携帯が鳴り始め、千冬は慌ててそれに出る。
誰かを問う前に、その答えは返ってきた。
『よぉ、チフユ。随分と面白そうなことしてるじゃねぇか。だが、あんましお遊びが過ぎるのはよろしくねぇなぁ』
「なっ、貴様……ハーケン!?」
その言葉と共に、電話越しに彼は笑った。
どうやら予想通り、チフユは犯人に会いに行ったようだ。
そしてスコープ越しに犯人がどんな奴なのか見てみれば、少しばかり拍子抜けしちまったよ。
「あの少女が犯人ですの……」
隣で双眼鏡片手に眺めてるお嬢様からそんな感想が漏れる。
「どうやらそうらしい。まだガキじゃねぇか。それもお嬢様よりももっと物を知らなさそうなお嬢ちゃんだ」
お嬢様の感想にそう答えながらオレは『オモチャ』を構える。
あぁ、そうそう。現在オレ等がいる所は、臨海公園の近くにあるアパートの屋上だ。勿論、爺さんのお墨付きで付近に人影はねぇところだよ。
オレのISの一次展開でお嬢様を抱えて移動すれば、普通に移動するより早く着くんでなぁ。こういうときは便利なもんだ。ISの反応もでねぇから、隠密行動にゃぁ向いてるよ。
それで人目を避けながら移動して屋上まで来れば、後は二人でバードウォッチングへとしゃれ込んだってわけだ。
そのままお嬢様は双眼鏡で、オレはオモチャのスコープで見て居たわけだが、どうにも穏やかな感じじゃねぇなぁ。
「どうもあの少女、篠ノ之博士とつながりがあるようですわね」
「この距離から教えた覚えもねぇのに平然と読唇術を使うお嬢様をオレは恐いと思うがね」
「そう言うレオスさんこそ普通に使っていますわね。先生に教えていただいたのですの?」
「先生って……あの野郎を先生だなんて呼ぶんだったら、そいつは相当に鬼畜教師に違いねぇ」
どこで教わったのか、お嬢様が平然と読唇術でチフユ達の会話を聞いてやがった。いやはや、随分と逞しく成長しているようで。お兄さんはタジタジだ。
それで会話を聞いてりゃ、あのお嬢ちゃんはあのタバネの知り合いのようだ。それにしても……ガキだねぇ。殺る気がダダ漏れだよ。あれじゃ小鳥一匹にだって近づけやしねぇ。
そして予想通り、何かチフユに仕掛けたようだ。チフユは目の前に居るはずのガキを見失っているようだが、落ち着いてる。その様子から何かしら予想は立ててたんだろうさ。
そしてそんなチフユに仕掛けるお嬢ちゃん。だが……。
「悪いなぁ、嬢ちゃん。チフユがそんなんで死ぬなんて天地がひっくり返ったってありえねぇとは思うが、それでも重要人物なんでね。取りあえず止めさせて貰うぜ」
そしてオレはオモチャ……あまり慣れねぇスナイパーライフルの引き金を引いたって訳だ。
結果、お嬢ちゃんの持ってたナイフは弾き飛ばされ、チフユは鳩が豆鉄砲喰らったような面してるってわけだ。
そんなチフユに挨拶代わりに電話をして、今に至る。
そのままチフユに携帯をスピーカーモードに切り替えて貰ってテーブルに置いて貰うと、オレはお嬢ちゃんに話しかけた。
『初めましてってところだなぁ。オレはそのおっかねぇ担任の受け持ち生徒の一人だ。まぁ、いくらおっかないって言っても、あまり刃物を人に向けるのは感心しねぇなぁ、お・じょ・う・ちゃ・ん』
「この声、男……織斑 一夏でないのなら……レオス・ハーケン……最悪の傭兵……」
オレの声に構えるお嬢ちゃん。
そんなお嬢ちゃんにオレは優しく話しかける。
『チフユにナイフ一本で立ち向かうのはすげぇ勇気がいると思うが、それはただの無謀だろ。オレならちびりながら逃げ出しちまうね』
「っ………」
馬鹿にされたのが悔しいようで、顔を顰めるお嬢ちゃん。
本当にまだまだ『若い』なぁ。
『それで……タバネのお遊びの手伝いご苦労様ってところかい。ご褒美にアメ玉でもやろうか?』
「いりません……」
尚呷るとあの独特の目で怒った顔をする。
だが、オレがどこから撃ってきたのかまではわからねぇようだ。オレが撃ったであろう方角を睨み付けるだけだ。
そうそう、ちゃんと気付かれない様に迷彩布と電磁ジャマーはかけてる。
ある程度遊んだら、今度はチフユに言わねぇとなぁ。
『それでチフユ。まさか犯人捕まえて逃がすだなんて言わねぇよなぁ』
「そ、そんなことは……」
『いくらお友達の知り合いだからって見逃すってのは甘いだろ。お嬢ちゃんが素直に捕まってくれるならオレはお嬢ちゃんを痛い目に遭わせなくてすむ。だから説得してくれよ』
チフユにそう言うが、チフユは何とも言えない顔をする。
オレが言っていることが分からなくねぇだろうに……どうにも駄目だねぇ。甘いところは甘い。だからオレはお嬢様に携帯を離しながら話しかけた。
「お嬢様、ちょっと見るのを中断してくれ。ここから先は少し刺激が強すぎるからよ」
「で、でも……」
「頼むよ。あまりお嬢様にこういう所を見られたくねぇんだからよ。勿論、殺したりはしない。そいつは約束する」
「本当ですわね? なら……わかりましたわ」
お嬢様はオレが何をするのか分かってるようで、決意を決めた顔で頷いてくれた。この決意がチフユにもあれば話はもう少し楽なんだがね。
そう思いながら再びスナイパーライフルを構えると、オレはお嬢ちゃんに話しかける。
『それで、ご返答は?』
「お断りします」
その声と共にチフユに仕掛けたらしい何かをし始めた。
チフユ曰く、大気の成分を調整して幻覚を見せるんだとか。確かにこの場から見ても視界が揺らいでいるのが分かる。どうにも熱で空気が歪んでいるのに似ている様子だ。
だが……そんなもんで外すほど……オレは甘くねぇ。
『ならお仕置きだ』
そして引き金を引くと、お嬢ちゃんの足下に弾丸が弾けた。
それを見ながら今度は優しさの欠片もない冷酷な声でお嬢ちゃんに話しかける。
『跪け』
その言葉にお嬢ちゃんは当然従わない。だからこそ、オレはもう一回引き金を引いた。今度は威嚇ではなく、本番だ。
「っ!? あぁぁああぁああああああアァアッァアアァアアアアアア!!」
突然膝の上辺りに感じた激痛に叫び声を上げるお嬢ちゃん。その手で押さえた所からは血が溢れ出す。
『オレは跪けと言ったんだ。もう一回言うぞ……跪け』
だが、それでも反抗の意思は消えないようだ。実に良い瞳だよ。
だからこそ、『もう一回』引き金を引いた。
そして空いているもう一本の足に穴が空くお嬢ちゃん。
その途端に声にならない声を上げて倒れ込む。もう立つことは出来ないだろうさ。
「ハーケン、止めろ! 止めるんだ!!」
目の前にで起こった事に意識が飛びかけてたチフユがやっと気を取り直してお嬢ちゃんを庇う。
それを見てオレはチフユに笑いかける。
『大丈夫だ、もうしねぇから。それよりも早くそのお嬢ちゃんを連れて行った方がいい。公園の出口に爺さんがお出迎えでも用意してるはずだからなぁ』
そして通話を切る。
チフユはお嬢ちゃんに応急処置をして急いで公園の出口に向かって行るようだ。
これで少しはあのタバネもオイタが過ぎるって学ぶだろうさ。奴さんはまだまだ『裏』ってもんを知らなさすぎるからなぁ。あまり手を出して良いもんじゃねぇってことを学ばねぇと、それこそ本当に取り返しがつかないことになるからよ。
こうしてこの『クロエ・クロニクル』とやらの身柄を押さえることに成功したわけだが、オレはお嬢様から小さい女の子に酷いことをしたとして『鬼畜』よばわりされたのは少しばかり痛かったよ。
まぁ、犯人も捕まえたことで、やっとこの馬鹿騒ぎも収まったわけだ。
きっとアメリカのとある人は発狂してるだろうけどね。