恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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新たに出てきたキャラは何と………。


百四十話 京都で一番会いたくない奴

 そこは静かな場所であった。

まるで時が穏やかに流れているかのように錯覚を覚えるほどに何も変わらない。外を見れば日本庭園が見え、その造形美には素人でさえ息を飲むほどに美しい。

そこは大きな屋敷であった。この近代日本に於いては滅多にない、木造の古風な日本屋敷。

その園側で、一人の人物が座っている。

その人物は綺麗な着物を身に纏い、差し込む日の光から見える顔はとても美しい。派手さはないが、奥ゆかしさを感じさせる日本人特有の美があった。

その人物は湯気を立つ湯飲みを片手に嬉しそうに笑う。奥ゆかしく静かに美しく、ささやかに。

 

「そうですか、彼がここにやってくるんですね………」

 

思い出しては頬が少し朱に染まり、まるで恋焦がれるように喜ぶ。

 

「あぁ、楽しみです………レオスさん……」

 

そう熱い思いの籠もった言葉を洩らし、その人物は手に持ったお茶を一口飲んでホッと息を吐いた。

 

 

 

 あぁ、もう………わかっちゃいたし仕方ねぇってことも分かってる。でも、それでもだ。目の前に広がる古風豊かな町並みを見るとオレはどうにも嫌な気分で一杯になっちまう。本音で言えば、直ぐにでもこの場からオサラバして大阪か奈良にでも行きたいところだ。あぁ、勿論観光じゃねぇよ。この歳で観光してハシャぐなんてことはねぇからなぁ。ここじゃなけりゃどこでも良いってことだよ。何ならアフガニスタンやイラクでも喜んで行くさ、オレは。それぐらいここは……好きじゃねぇ。

だが、それでもだ。学生らしくしてなきゃならねぇ身としては、大人しく従うしかねぇわけだ。それが本来会長が出した作戦を潰して普通の下見にした責務って奴だろうよ。だから皆には普通に最近の事への警戒と修学旅行の下見ってことになってる。それを聞いてハシャぐ連中の何と微笑ましいことか。おじさんは正直直ぐにでも帰りたい気分でいっぱいだよ(笑)

そんなことを考えているのがバレたのか、お嬢様が不思議そうな顔でこっちに向いてきた。

 

「レオスさん、どうかしましたの?」

 

その顔と来たらこの旅行を実に楽しそうにしてるって面だ。

世界的に有名な観光地に来たってこともあってお嬢様もハシャいでるようだ。見てて微笑ましいくらい可愛らしい笑顔でいらっしゃることだ。良い顔してるよ、本当に。

そんな楽しそうなお嬢様に水を差すのはよくねぇなぁ。そう思いながら返事を返す。

 

「いや、何でもねぇよ。それよりお嬢様は楽しそうだなぁ」

 

オレが来たがらない理由をそれなりに話したのに楽しそうにしてる所を見てるとわざとじゃねぇかと思っちまう。まぁ、単なる被害妄想でしかねぇが。

お嬢様はそんなオレの思いに気付いてなのか、少し苦笑しつつも頬を赤らめた。

 

「えぇ、とっても楽しいですわ。確かにレオスさんがここに来るのが嫌だったことは知っていますけど、でも……レオスさんと一緒にこの古都を回れるのが実はずっと楽しみだったんですの!」

「あぁ、そうかい。オレもここに来るのは嫌だったけど、お嬢様のそういう可愛い笑顔が見れて嬉しいよ」

「まぁ、もうレオスさんったら……」

 

そんなオレの返しに頬を染めつつ喜ぶお嬢様。

本当に嬉しそうに笑われたら、嫌味の一つも言えなくなっちまう。

それにだ……今回はあくまでも遊びに来たんであって御仕事じゃねぇんだ。だから『連中』……いや『アイツ』が出て来る理由はねぇはずだ。こっちも珍しく本当に丸腰だしな。ISは悪いが爺さんに預けてある。他の専用機持ちはそれも仕事だから持ってきてるが、使わないようチフユから口すっぱくして言って貰ったよ。特にイチカの周りにいる奴等は直ぐに使いたがるからなぁ。ここで下手に使ったら、それこそ本当に命の保証は出来ねぇよ。連中はこの街に害するものなら誰だろうと、それこそ某国の大統領だろうと容赦無く殺そうとするだろうからなぁ。

そんなわけで、完璧に今回の御仕事は当初の予定通り『修学旅行の下見』ってわけだ。オレ達は学園の皆よりも一足早くバカンスってわけだよ。

電車を降りて目の前に広がる光景にこうしてうんざりしてるわけだが、取りあえずは移動しねぇとなぁ。まずは泊まる旅館にチェックインして、そこで荷物を下ろしたら各自自由行動ってことになってる。

 

「一夏、わ、私と一緒にこの店に行ってみないか!」

「い~ちか、私と一緒にこの神社に行きましょうよ!」

「ねぇ一夏、このお店に僕と一緒に行ってくれない?」

「嫁よ、私と一緒に和菓子を食べに行くぞ!」

「い、一夏……私と一緒に……太秦村に……」

「一夏君、おねえさん、まずは清水寺にいきたいなぁ」

 

奴さんの方を見れば、周りの奴等がハシャぎまくってる。いつもの4人は分かるが、そこに会長とその妹も加わって実に姦しいってやつだ。そろそろ静まらないと我等が担任からのきっつい制裁を下されるぜ。

そんな奴等を見つつ、オレはお嬢様に軽く話しかける。

 

「因みにお嬢様は何処か行きたいところはあるのかい?」

 

その問いにお嬢様はふふふっと微笑んだ。まったくもって驚かされるよ。そんな微笑みだけでドキッとさせられるとは思わなかった。

 

「私、京都の色々な所に行ってみたいですわ。清水寺、金閣寺、銀閣寺、伏見稲荷大社に南禅寺。あ、それにせっかくきたのですから美味しいものもいただきたいですわ。京都は美味しいものも一杯って聞いてますし。その、カロリーとかはちゃんと気にしないといけませんけど……」

 

顔を赤くしつつ目をキラキラと輝かせるお嬢様。実に年頃らしい可愛らしい姿は見ていて退屈しねぇ。

そんなお嬢様は更に頬を赤らめながらオレを見つめてきた。何だかやけに今日のお嬢様はアグレッシブだ。少しばかり押され気味でオレはタジタジだよ。

 

「それに、前の話であれだけ嫌がっていたということは、逆にレオスさんは京都に詳しいのではなくて? なら、何処が良いのか教えて貰えれば嬉しいですわ」

「別に詳しいってわけじゃねぇが……それなりってところだよ。美味いもんは良く知らねぇけどなぁ」

 

そんな返答でもお嬢様は嬉しそうに微笑む。本当に上機嫌で見てて心が洗われるよ。

 

 

 

 荷物も旅館に置いてさぁ、お嬢様と観光といきますか。

そう思って一緒に歩き出そうとしたわけだが、旅館の前門の前に立っている奴を見てオレは固まっちまった。

何でお前がここに、なんて言うつもりはねぇよ。どうせ既に此処に来ていたことはバレていただろうからなぁ。

固まった理由は一つだけだ。

 

オレは奴さんが苦手なんだよ。

 

そんなオレの心情も知らず、お嬢様は感嘆の声を上げた。

 

「綺麗ですわね、あの方。あれが日本の着物ですの………美しい藍色が黒髪と映えてまさに芸術ですわぁ! アレが良く言う大和撫子というものですのね」

 

そんなお嬢様の感想にオレは何とも言えない気分になる。

そいつは確かに正解で、同時に不正解だからだ。

そのまま知らぬ顔で横を素通りしたいのが本音だが、そうもいかないってのは奴さんの姿を見た瞬間から分かりきってた。

向こうはオレに気付くと、少し瞳を潤ませてオレ達の方に歩み寄ると、自然な流れでオレの胸に入り込んできた。

 

「なっ!?」

 

最近色々と成長しているお嬢様でもコレには驚いたらしい。

そんなお嬢様など露知らず、そいつはオレにしっとりとした色気を持った笑みで嬉しそうに話しかけてきた。

 

「お久しぶりです、レオスさん。ずっと会いたかったですよ」

 

ぱっと見所謂恋するなんちゃらの面をしてるそいつにオレは実にうんざりした面で返す。

 

「オレは出来れば二度とその面を見たくなかったよ」

 

実に酷いって言われるかもしれねぇ台詞だが、そいつはまったく気にせずにオレの胸に納まるようにくっついてきた。

オレは別の意味で心臓がドキドキしちまうよ。コイツの前で胸を晒すなんてのは心臓を鷲掴みにされてるのとかわらねぇからなぁ。

そんなオレ達にそれまでショックで放心状態だったお嬢様が復活して食い付いてきた。

 

「れ、レオスさん、その方は一体誰ですの!!」

 

それに答えようとしたら、先に答えたのはそいつだった。

奴さんは頬を赤らめ軽くしなをつくってもじもじしつつも一生懸命って感じに返事を返す。その様子は言わずとながらだな。

 

「その……レオスさんのことを、お慕いしてまして………ポッ…」

 

それに更に熱を上げそうにあるお嬢様だが、その前にオレは先んじて言うことにする。どちらにしてもコイツにそんな感情を持たれてるのは最悪だからなぁ。

 

「安心しろよ、お嬢様。コイツは………『男』だからよ」

 

「え……………?」

 

その答えを聞いて、お嬢様は固まっちまった。

はぁ……やっぱり見つかった上に面倒な事になっちまったよ。

だから京都に来るのは嫌なんだよなぁ………。

 

この目の前にいる女装野郎『青龍院 顎』に会うことになるから。

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