恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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京都編になってから話が中々進みませんよ、本当。


百四十二話 京都は穏やかな街というが、ここに居る奴は穏やかとは思えねぇ

 これが世間で言う両手に花ってんなら周りの奴等からくる視線も悪くはねぇが、片方が野郎だってのはどうにも良いもんじゃねぇ。

できればこのまま突き放してバックレたいもんだが、駄目だ。お嬢様と一緒にオレをガッチリとガードしてやがる。この二人、さっきまであれほど張り合ってやがったのに、何でこうも仲良くなってるかねぇ。お嬢様が一緒だとやり辛れぇことこの上ねぇよ。

さて、そんなオレ達だが……何処に行くのかねぇ。

 

「まずは何処に行きます? 美味しいスィーツのあるお店とかどうですか」

「いいですわね、でもせっかくですからまずは観光したいですわ」

 

あぁ、呆れてるオレと違ってお嬢様方? は和気藹々と行き先を話し合ってるようだ。その様子は完璧に年頃の女って感じだ。片方が男ってのがアレだがね。

賑わってるお嬢様と違いこっちはテンションが上がるなんてことはねぇからなぁ。暇潰しがてらに懐を探る。既に吸い飽きた電子タバコを取り出すと、取りあえず吸うことにした。

相も変わらず味気ねぇもんだ。そう思っていながら今回の件について考え直す。

あぁ、勿論目の前でハシャいでるお嬢様と野郎のことじゃねぇよ。

今回の本来の作戦を覚えてるか? そう、この街で亡国機業っていう世の中舐めて掛かって痛い目に遭ってるあの組織の実働部隊を潰そうって話だ。

この京都で派手なカーニバルを起こそうとしたことには正気を疑ってオレにしては珍しく本気で止めたわけだが、その作戦にはもう一つの内容があるんだよ。

それが……

 

『裏切り者のあぶり出し』だ。

 

可笑しいと思わねぇか? 今まであれほど連中に好き勝手やられてたってことがよ。

確かにあの学園は大層なお宝抱えてるわりに警備がザルなわけで平和ボケもあって実に御間抜けなわけだが、それでもこうも簡単にやられるのは可笑しすぎるもんだろ。

連中はこっちのことをまるで『知ってる』かのように遊びに来るわけだ。そこまで分かればもう分かるだろ。そう、つまりこっちのことをチクってる奴がいる。

その少し賢い奴を探し出すのが今回の目的でもあったんだ。それだけだと学園の全生徒を調べなくちゃならねぇもんだが、ある程度は面が割れてるらしい。爺さん曰く、『国家代表候補生の誰かだとは思います』だとよ。理由は国家代表候補クラスでないと知らないような事が嚙んだ行事で見事に仕掛けたからだ。まぁ、あの爺さまのことだ、最初から既に目を付けてたんだろうさ。

それにしても国家代表候補生の中にねぇ……案外その御国も一枚嚙んでるんじゃねぇのかねぇ。そう思って聞けば、それは関係ねぇとさ。

嚙んでようと嚙んでまいと関係無しにとっ捕まえれば問題ねぇ。そのまま吐かせるのもよし、御国とやらを強請るカードにしても良しときたもんだ。それも『デット・ア・ライブ(生死問わず)』だ。実に簡単な御仕事でいいねぇ。

それにだ、今回オレ達は何もしねぇ。いや、何もしちゃいけねぇと言う方が正解だ。

何せここは世界の強国もビビる連中がいる場所だ。そんな連中のお膝元で派手にやらかすのは、ホワイトハウスへ爆弾巻いて遊びにいくくらいお脳が幸せな奴くらいなもんだろうさ。つまりそれだけありえねぇことだ。それが分かってねぇ連中はここで派手に暴れるだろうさ。そして目の前でお嬢様とハシャいでる奴とそのお仲間に叩き潰されるのは目に見えている。だから何もしないでただ待ってれば良い。

オレ等がするのは、その後の後始末だけだよ。

暇と言えば暇だが、まぁしょうがねぇ。オレはばっちり目ぇ付けられてるんでなぁ。今回は大人しくしてるよ。でもまぁ、『会長達が素直に聞く』とは思えねぇんでな。きっとアクション起こして連中も釣られるはずだ。

しかし連中も可哀想なもんさ。何せこんなヤバイ所で暴れようってんだからよぉ。オレなら速攻で逃げてるよ。

 そんな思惑もある下見だが、お嬢様方には関係ないようだ。普通に楽しんでるようで何より。

そんなわけで今もキャアキャア言ってる二人の会話に耳を傾けるとしますかねぇ。

 

「あの、青龍院さん」

 

お嬢様がそう奴さんに話しかけると、奴さんは少し頬を膨らませた。その面は普通に女にしか見えねぇ。知らなきゃ可愛いもんだが、知ってればそんなことは思えそうにねぇ。

 

「むぅ、あまり名字で呼ばないで下さい。家名だから誇らしくは思いますけど、普段はあまりそう呼ばれたくないんですよ」

 

少し拗ねてますって感じにそう言われ、お嬢様は申し訳なさそうな顔をする。

別にこんなカマ野郎に気を遣う必要なんてねぇと思うけどなぁ。

 

「で、では、その………顎さん…ですの?」

「むぅ~、それはもっと嫌なんです。だって………」

 

そこで一旦言葉を止めると、奴さんはお嬢様に笑顔を向けた。

 

「可愛くないじゃないですか。だから僕のことは『アーちゃん』と呼んで下さい。そっちの方が可愛いでしょう」

 

野郎が可愛らしくそう言っても気持ち悪いだけだ。例えばオレの場合は『レーちゃん』ってか………うぇぇえぇえええぇ、吐き気が酷く込み上げて来やがった。最悪だな、たく。

お嬢様はそう言われ、少し顔を赤らめながらも奴さんの名を呼んだ。

 

「で、では……アーちゃん……」

「はい、アーちゃんですよ。僕もセシリアちゃんって呼んでいいですか」

「え、えぇ、いいですわ」

「よろしくね、セシリアちゃん」

 

ぱっと見は女同士の麗しき友情だが、片方が野郎というのは見ててどうにも怖気立っちまうよ。

すると奴さんはオレの方に可愛らしい笑顔を向けてきた。

 

「なのでレオスさんもアーちゃんって呼んで下さいね」

「死んでも御免だね。オレは野郎にそんなメルヘンチックなもんを言うつもりはねぇよ」

 

そう皮肉たっぷりと返してやると、お嬢様に泣きつきやがった。

 

「セシリアちゃん、レオスさんがイケズで虐める」

「レオスさん、それぐらいいいではありませんの」

 

あっという間に悪役にされるオレ。お嬢様達は仲良くなりすぎだろ。

そんな感じにオレはお嬢様に怒られつつも奴さんと合わせて三人で歩いて行く。

すると奴さんは何か思いついたようにお嬢様とオレに言ってきた。

 

「そうだ、せっかくですからセシリアちゃん、着物着てみませんか」

「着物ですの? 確かにこの街なら似合いそうですけど、そういうのは予約しなければならないのでは…」

 

そう言うお嬢様の手を引っ張りながら奴さんはオレに向かって言う。

 

「レオスさんもセシリアちゃんの着物姿を見たいですよね。僕、丁度良いお店を知ってるんですよ」

 

そして引っ張られるようにして連れて行かれ、止まったのはかなり大きな老舗だ。中には色とりどりの着物が飾られてる。

その店の名は『朱雀呉服店』

和風なのにこの名前ってのがどうにもねぇ。しかも良く見りゃ更に『朱雀ブランド直営店 尚、本社ビルは駅前にあります』とまで書かれてやがる。

そう言われるとワビサビもクソもねぇ感じだ。

それにオレは嫌な感じがして仕方ねぇんだよなぁ。

そしてそんなときに限ってそういうのは当たるもんだ。

 

「お邪魔しま~す! 焔ちゃんいますか」

 

店内にお気楽に入って奴さんがそう言うと、店の中の奴等はばたばたとし始めた。

そして店の奥からレディーススーツを着こなした二十代前半の女が飛び出して来た。ぱっと見は赤髪をポニーテールに縛った美人だ。

 

「あ、焔ちゃん、来ちゃった」

 

そう言う奴さんにそいつは凄い勢いで駆け寄ると、奴さんの両手を握って実に興奮した様子で答えた。

 

「あぁ、顎様! まさかこのようなところに来ていただけるなんて、感激の極み! 相も変わらず美しく可憐で、まるで都会という喧噪の中、ひっそりと咲き誇る水仙のよう。見ていて心が癒されます! はぁはぁ、本当に可愛くて………じゅるり……食べたいし食べられたい………」

 

あぁ、もう言うな。分かってる、この女が実に『アレ』なのはさ。

 

「もう、焔ちゃんは相変わらず言い過ぎなんだから。でも、可愛いっていってくれたのは嬉しい」

「はうっ!? 何という笑顔! 下着が一気に濡れてしまいました……」

 

目の前で繰り広げられるやり取りに付き合えねぇと思い、オレはお嬢様の耳を塞ぐ。

お嬢様は耳まで真っ赤になりつつ戸惑った感じにオレに話しかける。

 

「あの、レオスさん、これでは聞こえないのですが……」

「お嬢様、確かに最近少しは大人の階段を上がりつつあるが、お嬢様にはまだ早い。オレはお嬢様に痴女になってもらいたくねぇんでな」

 

そうお嬢様に言いつつ連中の話を聞くことに。

どうやらこの店の着物をレンタル出来ないかということらしいが、それを聞いたあの女はそれはもう興奮気味に……実際に鼻血を出しつつも何でも借りて良いと力説してきたよ。

それと共にオレの姿は今まで眼中になかったらしいが、やっと見てきた。

そして実に険しい、それこそチフユ並みにおっかねぇ面で睨んできた。

 

「何故貴様がここに居る、レオス・ハーケン! 災厄の嵐め!」

 

その問いに対し、オレはお嬢様の耳から手を放しつつ答える。

 

「こっちは単なる旅行の下見だよ。それよりもそう睨むなよ……『朱雀院 焔』」

 

「朱雀院?」

 

お嬢様の不思議そうな声と共に、オレは目の前で睨んで来る女、奴さんと同じおっかない家の一つ『朱雀院家の御当主』を見て溜息を吐いた。

どうもこの街に来てから溜息が止まらないねぇ。気をつけねぇと幸せが逃げ出しちまいそうだよ。

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