恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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この物語も中々に難しくなってきましたよ………。


百四十五話 やっぱり駆り出されるオレ

 彼女はスコープ越しにそれを見て身体を震わせた。

何故なら、本来有り得ないことを目の当たりにしたから。それをやって見せた人物と目が合ってしまったから。

 

(一体何なんだよ、アレッ!?)

 

本来、この作戦の狙いはIS学園の戦力を減らす、もしくは全滅させることが狙いだった。学園の戦力である専用機持ち達が学園の外に出ているこの状況は、襲撃にうってつけだ。それが向こうも狙いであることは分かっているだろうが、いつ仕掛けてくるのか分からない以上、こちら側の方が有利である。攻める側と守る側でのアドバンテージの差と言っても良い。守る側は精神を擦り減らされなければならなく、攻める側は好きなときに仕掛けられる。その精神的優位はどちらが上かなど分かりきっているだろう。

学園側は秘密裏にこちら側の壊滅作戦を企てているという情報を握っていたが、どういうわけかその作戦が行われる気配がない。学園側もここに来たのは修学旅行の下見という建前で、本来戦力であるはずのISを持ち込むな、もしくは使用を禁ずるという馬鹿なことを言い出したのだ。それは彼女も含める専用機持ち全員に言われ、その場で学園に預けたり教員の許可なく使用出来ないように設定を設けたりなどの処置が執られた。勿論、彼女ともう一人は表ではそれに従い裏では元の設定に戻してISを持ち込んでいる。馬鹿正直に受けるわけもない。

だが、学園側の専用機持ちはそれに素直に従い、まるで普通の学生のようにこの下見を楽しんでいるわけだ。滑稽で愚かとしか言いようがなく、そんな愚か者は早々に退場してもらうべきだ。

故に少しでも戦力を減らすべく、こうして狙撃を敢行した。

学園のイレギュラーにして一年の専用機持ちの中心人物である織斑 一夏。彼を仕留めれば、学園側は戦力的にも精神的にも大ダメージを受ける。

そうなればその混乱に乗じて他の専用機持ちも始末できる。ブリュンヒルデと学園最強のことが気がかりではあるが、此方にはそれ以上に強い味方とバックアップがある。

だからこの程度、簡単だと思っていた。

そう、思っていたのに………現実は可笑しなことになった。

彼女の上司である人物が最も警戒し憎悪を燃やす人物『レオス・ハーケン』。彼が見知らぬ女性二人と一緒に織斑 一夏と合流したようだが、この距離ならバレない。それに調べた結果、その男のISも学園に預けてあるのだ。最大戦力を持ち込まないという愚かな選択をした傭兵など恐るるに足りない。

だから気にせずに引き金を引いた結果………。

 

織斑 一夏の頭は弾けなかった。

 

何が起こったのか戸惑う様子は見せたが、至って無事。

最初は外れたのかと思ったが、次弾を放った時にそうではないと気付かされた。

確かにそれは織斑 一夏の急所を狙って飛んでいった。しかし、それは彼の前で真っ二つにされて地面に落ちたのだ。

そう、レオス・ハーケンが連れていた和服の女性の手によって。

その手に持たれている刀に気付いた時に、その事実に気付いた。

それに彼女は驚愕した。この離れた距離からの狙撃を全て斬り払ったのだ。それは人間の域を超えている。ISなら出来そうなものだが、生身となるとまず不可能だ。

そんな不可能なことを笑顔でやって見せた。その事実から嫌でも分かること……。

 

その女性は普通じゃない。

 

そう、それだけならここまで恐怖などしない。

本当に驚かされたのはその後。彼女はスコープ越しにその女性と目が合い、その女性の唇は確かにこう動いていたのだ。

 

『み~つけた』

 

その笑顔に彼女は怖気だった。心の底から恐怖を感じた。

人間じゃなければ何なのか? それはもう、化け物としか言い様がない。その化け物に目を付けられたのだ。それだけで彼女は全身から冷や汗が出てきて動悸が激しくなる。

 

「だ、大丈夫っすか、先輩!」

「あ、あぁ、何とか……な……」

 

心配するもう一人の『裏切り者』にそう答えると、少しは落ち着きも出てきた。

そして彼女の通信機に通信が入る。

 

『貴方達、ISを装着しなさい。直接向かうわよ』

 

それは彼女の上司からの通信。その声は深い怒りと憎しみに染まっている。

それを聞いて彼女……ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの二人は頷きISを展開した。

 

 

 

 狙撃が見事に失敗したんで連中が次にどう出るのか? まぁ、隠れて駄目なら直接来るのが常識だな。

まぁ、その間に一服くらい出来んだろ。そう思って電子タバコを吹かし始めたわけなんだが、直に狙われたイチカの野郎はそれどころじゃなかった。

 

「こんな街中で狙うなんて!」

「一夏君、こっちに隠れて。狙撃が来た所から少しでも外れないと」

 

困惑してるイチカの野郎を会長が急いで狙撃から逃れようと建物の影に隠れる。その際に会長のデケェ胸に顔を突っ込まされるイチカ。会長も案外あざといねぇ。しっかりとポイントを稼いでいらっしゃる。

そしてチフユ達に連絡を入れ始めた。後五分もしない内に駆けつけるだろうさ。何せ可愛い可愛い弟のピンチだからなぁ。神様だって裸足で逃げ出す奴さんの唯一のウィークポイントだ。そりゃ必死になるもんさ。

さて、んでお嬢様は驚きこそすれど、そこまで慌てた感じじゃねぇ。

寧ろオレの手を繋ぎつつ後ろにくっついてきた。

 

「随分と甘えん坊だなぁ、お嬢様。恐くなったのかい?」

 

そう言うとお嬢様は顔を赤くしつつも微笑んできた。

 

「いいえ、もう慣れてしまいましたもの。レオスさんの周りは常識外れの人達ばかり。先生もそうですし、隊長さんや王さんなんかも凄いですから。それに……王子様が守って下さるのでしょう?」

 

見事なまでの信頼にどうにも顔が熱くなっちまうね。

ここまで期待されてるんじゃ答えないって訳にはいかねぇなぁ。

 

「あぁ、勿論だ。あんな化け物連中と一緒にされるのは癪だが、お嬢様を守る騎士役としては充分働くつもりだよ。ドラゴンだろうがヒュドラだろうがぶっ飛ばしてやる」

 

実際にそんなもんを相手にしたことはないがね。まぁ、来るんだったらその時は伝説の剣なんぞ使わずに鉛玉と火薬で燃えるダンスを踊らせてやる。そんでもって月までぶっ飛んでもらうさ。

そう答えると満足そうに頷くお嬢様。もうすっかりこういうのに慣れたもんだよ、本当。それに慣れる辺り、その肝もきっと鋼で出来上がってるに違いねぇ。

 

「つってもだ、今回は出番がないと思うぜ。何せ今回は顎の野郎と焔の姉ちゃんがいるからなぁ。あの二人に任せとけば俺達は暇だろうさ。連中に任せればどんな奴でも三枚下ろしだ。あ、お嬢様、あんな所に何か料理店があるぜ。えっと……トーフ? ホット トーフ? 何の店なのかはわからねぇが、小腹も空いてきたし行こうぜ」

「レオスさん、あれは『湯豆腐』っていうお料理のお店ですわ。京都の名物の一つで行ってみたいと思っていましたし、丁度良いから行きましょうか」

「あ、セシリアちゃん、ずる~い! 僕もレオスさんと湯豆腐食べに行きたいのに~!」

「顎様、誠に残念ですが、お役目を果たしましょう。終わったら私と一緒に行きましょう、絶対に(お豆腐をふーふーして食べさせたら、きっと可愛いのでしょう……はぁ、はぁ……)」

 

さぁ、今回は何も持ってきてない暇人はここで外れようか。暇をこいつ等に付き合うくらいなら、お嬢様とのデートに使った方が何倍もマシさ。

そんな会話をしてたら何故かイチカが怒ってきた。

 

「何巫山戯た事言ってるんだよ。あの人達を助けないと!」

「そうよ、いくら何でも亡国機業の相手は危険過ぎるわ!」

 

そう荒立てる二人だが、少し思い出して貰おうか。

 

「二人とも、落ち着けっての。慌てたって何も得はしねぇよ。アイツ等をその辺にいる平和ボケした連中と一緒にするなよ。一緒にしたらそいつ等があまりにも可哀想だ。お前さん達だって一回見てんだろ……ISだろうが平然とボコボコにするキチガイをよぉ。あそこに居るのはそんな化け物の御同類だ。近くにいたら火傷どころか全身ソテーにされちまうよ。そいつが嫌だったら、一緒にお嬢様が楽しみにしてる『湯豆腐』とやらを食いに行こうぜ」

 

それを言われてイチカと会長の二人の顔が真っ青になった。

ありゃ学園祭で暴れ回ったスィーツ好きな筋肉ダルマのことを思い出してるに違いねぇ。そいつがISを装着した奴をどうしたのかもなぁ。

そして愉快そうに笑うオレを見て、イチカは信じられねぇって感じに話しかけてきた。

 

「ま、待て、あの人がそれは無いだろ。だってあんな小さくて細くて可憐なんだぜ。それがあの『巨漢』と同じってのはあんまりじゃ……」

「イチカ、忘れかけてるだろうけどありゃ男だぜ。後ろの穴を貫かれたいんなら止めはしねぇが、そうなったらオレには二度と近づかないでくれ。オレにその気はねぇんでな、後ろの貞操は誰にもくれてやる気はねぇ。んで、お前さんが思い出してるのとアレが同じだとは思いたくねぇんだろうけどよぉ……残念ながら一緒だよ。何せ狙撃を撃たれた後に見て斬り墜としたんだぜ。そんな芸当を出来る奴が化け物じゃないわけねぇだろ」

 

そう言われ納得せざる得ないイチカ。まぁ、あのクソオヤジが暴れる所を見れば納得もいくもんさ。ありゃ下手なB級ホラーよりもショッキングなもんだからなぁ。

さて、イチカと会長も納得してくれたようだし、暇人は挙って京都の町の味覚を舌鼓だ。

そう思ったんだがねぇ………。

 

「レオス・ハーケンね」

 

行こうとした先で金髪の女が待ち構えてやがった。

この町に場違いなまでに派手な露出の激しい真っ赤なスーツにお嬢様にゃぁ悪いが大人らしい豊満な肉体。そいつはきっと男なら誰もが欲情するだろう美女って奴だ。

だけどなぁ……オレは御免だね。何せこの女は『臭い』からよぉ。

人だけじゃなくて、何やら機械臭い匂いがすんのさ。それと共にしてくるのは、人殺し特有の匂い。まぁ、クソオヤジやクロードに比べれば芳香剤並みに芳しいもんだけどなぁ。

それと共に、後ろで顎達のほうでもやってきた。ウチの学園の蝙蝠達がなぁ。

 

「なっ!? ダリル先輩にフォルテ先輩、なんで二人が!」

「貴方達が裏切り者だったのね!」

 

今更な台詞を吐いている会長達はほっといて、オレは目の前の女に話しかける。

 

「あんたみたいな美女に名前を覚えて貰えるのは光栄だね。でも、今はお嬢様とデート中なんだ。用件は早めに済ませて貰えると助かる」

 

それを聞いてお嬢様の顔が赤くなった。こんな時でも変わらないお嬢様は本当に成長したと常々思うよ。

そして女はオレを実に心地良い殺気の籠もった目で睨んできた。

 

「用件は一つだけよ………死んでほしいの」

 

あぁ、どうやら……オレだけまだ湯豆腐とやらを食えないらしい。

 

 

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