恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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まだ戦いませんよ、まだ。


百四十六話 怨みってのは知らない内に買ってるもんだってのは良くあることさ

 やっと仕掛けてきた連中の相手をこの街一番のイカれた奴に任せて、オレとお嬢様は一緒に湯豆腐とやらを堪能するはずだったんだが、どうも向こうから用があるってんで声をかけられちまった。

 

「あんた程の美人からのお願いなら大抵は聞いてやりたくなるのが男ってもんだが、流石にそいつはお断りしたいねぇ。因みにその理由は聞かせてもらえねぇか?」

 

軽く笑いながらそう問うと、金髪の女は可笑しかったのかクスクスと笑う。

だが、どう見たってその目はまったく笑ってねぇ。ありゃかなりイッちまってる目だ。ああいう奴は大抵爆発する一歩手前だ。怒りに怒りまくって、それを辺りに撒き散らす。それで大概周りの連中はそれに巻き込まれて痛い目に遭うんだ。

 

「理由? それを貴方が知らないなんてはずないわよねぇ……私の大切な恋人を殺した貴方がッ!!」

 

さっきまでの笑顔から一転して、凄ぇ面でこっちを睨み付けてきた女。美人のキレた時の面ほどおっかねぇもんそうはねぇよ。なまじ顔が端正なんで、怒った顔もそのお怒りぐらいがよく現れる。

だがなぁ………。

 

「そう言われても覚えがねぇんでね。悪いが説明を頼むよ。殺した奴の事なんて余程じゃない限りは忘れちまってる。それこそ下らないドラマと傑作映画の差くらいにそいつは大きい。つまんねぇ奴は印象に残らねぇんでなぁ」

 

一々殺した奴のことを覚えていられるほど数が少なくねぇんでなぁ。それにオレは愉快犯じゃねぇんだ。殺した相手のことなんて覚えていられる程暇じゃねぇのさ。

 

それを聞いた女は身体をぷるぷると震えさせながら、実に愉快そうに笑い始めやがった。その様子はアレだな、壊れたバイブレーション機能付きのぬいぐるみだ。あれみてぇな感じで、見てて少し気持ち悪いねぇ。

 

「忘れたですって……巫山戯ないで!! 私の愛おしいオータムを忘れたですって! この一ヶ月前に殺しといて良くもそんなことが言えたわね!」

 

笑ったり怒ったりとお忙しい奴だねぇ。その切り替わり具合は見事なモンさ。そいつを活かして女優にでもなれば売れそうだな、ありゃ。本人にやる気はねぇだろうが。

しかし、オータムねぇ…………………………………。

 

あぁ、思い出した。

 

確かそんな名前の奴がここ最近仕掛けてきたって爺さんから聞いたなぁ。

そうそう、確か学園祭に来たのがオータムとやらだったか。

この女、レズビアンだったのかい。美人なのにもったいねぇなぁ。まぁ、世の中その程度で済む奴ならまだ救いはあるか。それ以上を知っている身としては可愛いもんさ。だから今更女なのに女と付き合ってんのかなんて茶々は入れねぇ。

オレはそう思いながら現在進行形でカンカンになってる女に答える。

 

「おいおい、そいつは誤解だろ。オレは別にそいつを殺してなんかいないよ」

「嘘を言わないで!」

 

ヒステリックに叫ぶ女を前にオレは呆れつつも説明してやることにした。

確かにオレは『殺し』ちゃいないんだからなぁ。

 

「まず最初に言っておくけどよぉ、アンタ等それで本当に『こっち側』の人間かよ。さっきからキレまくてるが、お仲間が殺されるなんてのはこの業界じゃよくあることだ。そんなことで一々カッカしてたんじゃぁ、あっという間に高血圧で倒れちまうぜ」

 

まずはリラックスが必要なときはこうして軽いジョークを言ってやるのがお話のポイントさ。あの女はそれを聞いて更におっかない目で睨んできた。どうやらオレのジョークは受けなかったらしい。悲しいねぇ(笑)

 

「まぁ、いいか。んで、お前さんがかなり気にしてるオータムとやらだが、ありゃ災難だったとしか言い様がねぇ。寧ろこっちがお悔やみ申し上げますって日本じゃ言うんだったか? あの姉ちゃんは悪いことにウチのクソオヤジのクレープを台無しにしちまったんだ。それでとばっちりを受けてボロ雑巾に早変わり。その後は爺さんに手厚く看護されてたんだが、どうにもクソオヤジがやり過ぎたらしく幼児プレイヤーになっちまって今は精神病院で営業してるよ。後で紹介状でも渡してやる」

 

それを聞いて奴さんは少しだけ目を緩めた。どうやらその大事な恋人が死んでないって事で少し安心したようだ。まったくもって……甘いねぇ。

何せもう戻るか分からないくらいあの姉ちゃんの精神はぶっ壊れちまってるってんだからよぉ。

相手にしたのが悪かったとしか言い様がねぇよ。あのクソオヤジを相手にするには経験不足だったな。あれの相手が務まるのは、この業界でも片手で数えるくらいしかいねぇ。

それがばれたらしく、再び睨まれるオレ。

 

「それは逆に言えば、命は無事でも後は駄目ってことかしら?」

 

殺気が大いに籠もった艶やかな声でそう言われると身震いしちまいそうになる。

そのまま答えても良いが、それじゃ面白くはねぇ。

だからオレは軽く別の話題を振ることにした。

 

「そう言やぁ、あのチキータ(お嬢ちゃん)はどうした? 確かMとか言った奴」

 

それを聞いたら女は更に怒りに顔を染めて睨んできた。

中々に悪く無い殺気だな。

 

「貴方の御蔭で未だに治療中よ。何とか逃げ出せたのは幸いだけど、かなりの無茶をしたせいでしばらくは治療に専念しないといけないの。それもこれも、貴方の所為なのだけどね」

「そいつはご愁傷様。だからってオレを睨まないでくれよ。こっちは御仕事、お前さん達もそうだったんだろ。だったら条件は同じだ。互いの仕事がかち合った結果、そうなったんならそれは仕方ねぇことさ。怨むのは筋違いって奴だろ。嫌ならこの業界から足を洗ってファースドフード店のアルバイトでもした方が良い。その方が『安心で健全だ』」

 

そう答えてやる。これがその前の答えでもあるってのはもう気付いただろ。

 

「オータムって奴はウチのクソオヤジがあまりにも恐くて精神的に病んじまったんだよ。だから今は精神病院で20後半の幼児プレイが楽しめるって寸法だ。会いに行けば、間違いなく『綺麗なお姉ちゃん』って言ってもらえるぜ。そういうのが好きなら

紹介状に格安チケットを付けてプレゼントしてやるよ」

「そう………つまり貴方の所為でオータムは…………」

 

何やら勝手に妄想して納得する女。こういう奴は何を言っても聞く耳を持たねぇ。

テメェで自己完結してオリジナルストーリーをプロの脚本家並みに書き上げてそいつを自分自身で演じるから性質が悪い。そいつが他の奴からしたらC級以下のクソ映画でも、本人にはS級のハリウッド映画に見えるんだからよ。

 

「うふ……うふふふふ……」

 

どうやら奴さんにはエンディングまでのシナリオが見えたらしい。奴さんは壊れたオモチャみてぇな感じに笑うと、ISを展開した。

それは今までに見たことのねぇデザインだ。黄金色に輝く装甲に顔全体を覆うマスク、何よりも目立つのは身体よりも大きな尾と、背中に出ている光の輪だ。

その姿を見て、オレは驚いたって感じに話しかける。

 

「何だい、その派手な恰好? これから仮装パーティーにでも出向くのか?」

 

当然ジョークだよ。確かにこんな恰好ならパーティーでも目立つだろうが、そんな殺気だった面を向けられたら途端に化け物扱い間違いねぇ。

 

「これは貴方を殺すために改造して貰ったのよ……篠ノ之博士に協力してもらってね」

「なんだ、タバネの奴も関わってるのか。アイツに何か怨みを買うような真似は下覚えはねぇんだけどなぁ」

「そうなの? 向こうは貴方のこと、凄く起こってたわよ。大切な娘が傷モノにされたって」

 

そう言われて思い出した。あぁ、あれか。クロエ・なんちゃらとかいうお嬢ちゃんのことをさ。確かアレはタバネの身内だったか。どうやら奴さんはお嬢ちゃんの両膝をぶち抜いたオレにお怒りらしい。

 

「だとしても言いがかりは止めて貰いたいもんだ。アレもオレには御仕事だったんだからよ。大切なら箱入り娘にすりゃあいい。その代わり世間知らずの甘ちゃんが出来上がるがね」

 

軽く冗談を言うわけだが、女は笑うのみだ。

そして自分に陶酔してる奴さんはオレの方に火器を詰んでると思われる腕を向けて来た。

 

「この新しくなった『シャイニング・ゴールデン・ドーン(輝かしき黄金の夜明け)』で貴方を嬲り殺してあげる。オータムが味わった以上の恐怖を与えて悲鳴が出尽くしても燃やしてあげるわぁ」

 

新しいオモチャを自慢げに語る女。そいつは結構だが、オレは今、もっとも世界で『安全』な男なんだぜ。正直窮地としか言いようが無い。

 

「ご自慢は結構なんだが、生憎オレは今ISを持ってない。そんな無力なオレにISを向けるなんて大人げねぇと思わねぇのか?」

 

ISは勿論、銃もナイフも持ってきてねぇわけで、在るのはこの身体だけ。

あのクソオヤジみたいな化け物じゃねぇんだから、明らかにピンチだ。テメェの尻にダイナマイトを差し込まれる一歩手前の気分だぜ。

だからせめてそれらしく命乞いをしてみると………。

 

「貴方ほどの有名人が何一つ持たずにいるなんて丁度良いじゃない。このチャンスを見逃すお馬鹿さんはいない。そうでしょ?」

「そりゃそうだ」

 

まったくもっての正論にぐうの音も出ねぇ。

そして奴さんは歪んだ笑みを浮かべ、

 

「さぁ、燃え散りなさい!」

 

オレに向かって火球をぶっ放してきた。

 

 

 はぁ、せっかくの旅行だってのに、災難としか言い様がねぇなぁ、こりゃ。

だがまぁ、せっかくだ。

 

あのクソオヤジ対策に詰んできた『とっておき』を見せてやることにするかねぇ。

 

そう思いながらオレは取りあえず飛んで来た火球を避ける事にした。

 

 

 

 

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