恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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武器無しの彼が出した手品とは……。


百四十八話 彼の手品

 まぁ何だ、こんな仕事をしてりゃぁ怨みの一つや二つは買うもんだ。

そのことに今更もクソもねぇわけだが、だからって見当違い八つ当たりを喰らうってのはどうにもいけ好かないもんさ。

向こうからすればお仲間の頭がおシャカにされたってことでお怒りらしいが、そもそもの前提ってもんが間違ってる。こんな御仕事をしているんだ、此方は何処にでも赴いて誠心誠意頑張る傭兵稼業、向こうは世界に喧嘩をふっかけるオレ等の飯の種でもあるテロリスト様だ。これだけ見れば両者とも実に良い関係だと思わねぇか? まさに持ちつ持たれつってやつだ。人間、助け合いの精神の貴さが表れているような感じだよなぁ。

だが、綺麗事だけじゃ世の中上手く進まねぇ。互いの行き違いやら状況次第でいくらでもその精神は変わるものさ。さっきも言ったがこの稼業は因果なもんだ。碌でなししかこんな仕事はしねぇ。つまりはだ、互いに助け合う間柄ってもんであり、同時に命を取り合う関係でもあるわけさ。だからいつ狙われようがいつ殺されようが、そいつはこの仕事をしている時点で自業自得であり、自己責任って奴なのさ。

だからそいつが仕事でとちってウチのクソオヤジにタコ殴りに遭おうが、そのお気に入りのチキータがこっちに絡んできて大怪我しようが、そいつをオレを怨むのは筋違いってもんさ。

だからこうして八つ当たりで殺されかけるってのは、災難以外の何者でもねぇ。

そんな災難に見舞われたオレはまさに不幸としか言い様がねぇんだよ、まったく。

そう思いながら、迫ってきた火球をオレは横に飛んで避ける。

 

「おいおい、無力で善良な一旅行者になんてもんをぶっ放すのやら」

「旅先で警戒もせず何も用意しない方が悪いのよ」

「そりゃごもっとも」

 

奴さんに冗談交じりにそう言うと、奴は危険な笑みを浮かべたまま攻撃を仕掛けて来やがった。

奴さんは何も持たない無力なオレにお情けをかける気はないらしい。避けた後の火球はオレの背後で何かに激突して轟音を立てると共に、オレの背後を煌々しく照らす。それらからの判断だが、どうやら後ろじゃ盛大なキャンプファイヤーが行われてるらしい。建物が燃えまくる音と爆発音が実に良い音楽を奏でるもんさ。

そんなオレに向かって別方向から声が掛かった。

 

「レオスさ~~~~~~~~ん、こっちは終わりました~~~~~~! だからそんな年増なんて早く倒して、一緒に湯豆腐食べに行きましょう!」

 

顎の野郎からの報告を聞いて向こうが終わった事を知る。

任せといて何だが、あの先輩方に可哀想な事をしたもんだ。あの化け物の相手なんざぁしたら、自信ってもんを粉々に砕かれるからなぁ。特にISなんてもんを自慢そうに振り回してる連中なら尚更にだ。オヤジに慣れてるからアレだが、普通ならISを倒せるのはISだけって話だから、実際にそうじゃないことを見させられた連中には悪夢以外の何者もねぇ。

きっとこの先あの先輩方がどうなるのか……もう二度とISには乗れないんじゃねぇのかなぁ。

まぁこれで残りは目の前で張り切ってる姉ちゃんだけだ。

とはいえ、こっちの不利は変わらずで、オレは奴さんからの攻撃を避けるのに精一杯。向こうを倒すなんざ夢の又夢な状況だ。

しかも長引けば長引くだけ此方が不利で、そのまま行けばオレの身体はあっという間にグリルチキンに早変わりだ。悪いがそいつはご免被りたいねぇ。

だから少しでも奴さんの隙を作るべく、こうして話しかけてるわけさ。

 

「まったく、アンタも随分と無茶するもんだ。この観光名所を火の海でも変えるつもりかい? だったら止めた方がいい。ここを火の海にして燃やし尽くしたことを世界の奴等に知られたら、きっと全員アンタを怨むぜ。ここは海外の連中が大好きな日本の和の本拠地だからなぁ」

「確かに私も京都の町は好きよ、だから出来る限りは壊したくないの。でも、貴方が死んでくれないからそんなことになっているのよ。大人しく死んでくれれば壊さなくて済むのに」

 

そう奴さんは言うと、まったく目が笑っていない笑みをオレに向けて来た。美人からの笑みってのは魅力的なもんだが、殺気まみれだとどうにも物騒なモンにしかならねぇ。

まったくもって嬉しくないねぇ。

 

「それにこんなに燃やされたらオレがグリルチキンかフライドチキンになっちまう。京都の町でそいつは情緒ってもんがねぇと思うんだがねぇ。そこでどうだ、もう少し風情があるもんにしてみちゃぁ」

「私、生憎生魚とか苦手でお刺身とか駄目なのよ。だから私が出来るのは『ハンバーグ』か『ウェルダン以上に火が通ったステーキ』だけよ。どっちも美味しく出来ると思うわよ」

 

そう言われてげっそりするオレ。

『ハンバーグ』ってのは、どう考えたってオレをミートパテに変える気で、『ウェルダン以上に火が通ったステーキ』ってのはオレを真っ黒な炭に変えようって腹らしい。

 

「料理が出来る女ってのは魅力的だが、肉料理しか出来ねぇメタボ一直線なメニューは御免だね。それにオレは料理は得意じゃなくても美味い茶を入れてくれる女の方が好みなんでな、アンタのランチに誘われてもお断りだ」

「あら残念。でも、私は貴方のこと、大好きよ。好きで好きで殺したいくらい。愛憎は裏表らしいしね。憎いから愛おしいわぁ」

 

美人に好かれるのは嫌いじゃねぇが、そんなサイコな奴に好かれるのは御免だよ。ただでさえ変態に好かれやすいんだからよぉ。

奴さんはオレの事が大好きだと言いながら火球をオレに殺到させる。避け続けるのも辛いもんで、少しでも休むべく建物を楯にしようとするんだが、残念なことにこの付近にあるのは昔ながらの木造建築ばかりだ。

つまりあっという間にオーブンに早変わり。辺り一面火の海に早変わりする。

 

「随分とアタックが激しいが、しつこい奴は嫌われるぜ」

「情熱的な女なのよ、私」

「そうかい、生憎オレは淑女の方が好みなんだよ、お引き取り願いたいな」

 

いくら情熱的なアタックでも殺されるのは御免だよ。

そんな情熱はそのまま他に向ければまだマシなことになりそうなもんだよ。そいつを向けられたばかりにオレはこうしてクソ暑い中をヒィコラ言いながら逃げ回ってるわけだ。

ここで普通なら建物の中に入って何か使えるものを拝借するもんだが、如何せん相手がISだと有効的な代物はねぇなぁ。なまじ丈夫な分なだけに、包丁で突き刺そうがフライパンでぶっ叩こうが、薬品を弄くって爆破しようが、そこまでのダメージにはまずならねぇ。だから今回は何にも手を付けない。

それにだ、さっきからクソ暑いと思ったわけだが、どうにも可笑しいと思ったら、どうやら朱雀院のショタコンがやらかしたらしい。走ってるアスファルトが焼けて熱い上に焦げ臭い匂いが立ち籠めてやがる。

 

「あの姉ちゃん、面倒臭いことしやがって」

 

そう洩らしつつも仕方ねぇと思いながら尚逃げる。

さっきからずっと余裕ぶってきたが、実際はどう考えたって窮地だ。何度も言ってるが、向こうは新品のオモチャでハシャいでて、こっちは何もない丸腰だ。

不利な状況を変える方法はほぼねぇ。

そう『ほぼ』だ。つまり少しだけだが『奥の手』がある。

本来はあのクソオヤジをぶちのめすために覚えたもんだが、この際仕方ねぇか。良いとこしばらくそいつが使い物にならなくなるってだけだ。

あ~あぁ、せっかくお嬢様とのんびりとしてたのに、結局こうなるのか。

しかも本来取り締まる役目の顎の野郎はこっちを実に期待の籠もった目で見て来やがる。アイツ、サボる気が満々だ。

こうなった以上焔の姉様もまず動かねぇだろ。つまりオレが助かるにはオレ自身でどうにかするしかねぇ。

そう決め込むと、建物の間を駈けて奴さんの攻撃を躱しつつオレは懐から電子タバコを取り出す。

そして軽くそいつを吸うと、ふてぶてしい面で奴さんの前に出た。

 

「あら、もう鬼ごっこは充分なの?」

 

奴さんがふふふって感じに笑いかけるのに対し、オレはそれまでの疲労を見せないようにニヤリと愉快そうに笑う。

 

「美人に追いかけ回されるのは嫌いじゃねぇが、生憎こっちも予定ってモンが詰まってる。だからそろそろ終わらせねぇとウチのお嬢様のご機嫌が悪くなっちまうんでね」

「あら、そうなの。だったら早く……死なないとね」

 

向こうは最初こそオレの行動を疑ってたんだろうが、今までの行動から本当に何もねぇと判断したんだろうさ。その面は余裕と嘲笑が入り交じってやがる。

だから今のオレを見て、奴さんはこう考えてる。

 

『何か思いついたんだろうが、その手では此方を倒せない。つまり脅威ではない』

 

大方オレ自身ではなく、他の方法で何とかしようって思われたってわけだ。普通ならそうだろうさ。この状況でオレ自身ではどうしようもない以上、他の者にどうにかして貰おうって考える。

良い例なら、奴さんの意識を此方に向けつつ逃げ回ってる間にチフユとかに連絡、それでチフユが来るまでに時間稼ぎをするとかなぁ。

だが……そんなつまらねぇ手を打つほどオレは暇人でもねぇ。

だからこそ、手品を見せてやるとしようか。

 

「生憎死ぬ気はサラサラねぇなぁ。その答えをお前さんをぶっ倒して証明してやるよ」

「そう、この状況でそんな冗談を言うのね。なら…………死になさい!」

 

そして奴さんはご自慢の火球を連射してきた。目の前に広がるのはそんな火球で作られた壁だ。

そいつに向かってオレは駆け出し、くぐれそうな隙間に身体を無理矢理ねじ込んでそいつを躱す。そして勢いを殺さずにさらに駈けて距離を詰めると、奴さんの目と鼻の先まで飛び出した。

生身であの攻撃を避けた事に少し驚いたようだが、奴さんはそれでも余裕を崩さない。

 

「確かに少し驚いたけど、この後どうする気なのかしら? 貴方の手には何もないようだけれど」

「そいつは受けてみてのお楽しみだな。あまりの驚きに『胸が破裂』しても知らねぇよ」

 

そしてオレは『渾身の力』で右腕を振るい、奴さんの豊満な胸の深い谷間目がけて拳を叩き付けた。

傍から見たら普通に殴っただけ。その程度でISのシールドにダメージを与えられるなら誰だって苦労しねぇ。

だがだ、コイツは少しばかり違う。

 

ゴキャ、メキャ、ミシ、グチャ。

 

そんな骨が折れて肉がちぎれ潰れ、血管が弾ける音がした。

勿論、その音は奴さんからは鳴ってない。その答えは……。

 

オレの腕からだよ。

 

あっという間に右腕は血を噴き出して真っ青に変わり、各所から骨が飛び出していた。

その痛さと来たら、正直泣きたいもんだね。痛ぇ痛ぇの何のって、溜まったモンじゃねぇよ。

この結果からすればこの後どうなるかなんて丸わかりだろ。奴さんも目の前で起こった事に勝ち誇った面で笑ってきた。

そして如何にもなことを言いたそうだ。大方、

 

『女性の胸に手を突き入れるなんて随分と乱暴なのね。それに私の胸はこんなに柔らかいのに、そんな大怪我をするなんて、まるで私の胸が硬いみたいで心外だわ。でも、いい気味ね。女性の胸を無断で触ろうとするからそうなるのよ』

 

とでも言うんだろうさ。

だから奴さんがそう言う前にオレは奴さんに笑いかける。

 

「悪いな、オレの……勝ちだ」

 

その言葉と共に、

 

「っ……………!?」

 

奴さんの顔から余裕はなくなった。

それどころか顔を真っ青にして苦しみ始め、そして口から盛大に血を吐き始める。

ISの絶対防御が作動したような要素はねぇのに、何でって面でオレを睨みつつ奴さんはISを纏いつつも力なく崩れ落ちた。

 

「な、何で、ゲホッ……」

 

そんな奴さんを見下しつつ。オレはここで電子タバコを咥えつつ種明かしをする。

 

「何、何でもねぇ手品だよ、コイツは。結果だけ言えば、お前さんの心臓をぶっ壊させてもらったんだ」

 

そう聞いても奴さんは納得できねぇって面で血を吐きながらオレの目を見る。

そりゃそうだ。やられた側からすればただ殴られたようにしかみえねぇんだからさ。

そこで答え合わせだ。

 

「オレがやったのは所謂古流武術って奴だよ。日本は勿論、世界各国でもその手のもんは数多い。その中でやったさっきのは、『鎧通し』って言われてる分類の代物で相手の硬い鎧の中身に衝撃を通すもんだ。決して東洋の神秘とかオカルトじゃねぇ。確かに絶対防御は凄いが、衝撃全部カット出来るもんでもない。そして体内の臓器は自分で思っている以上に脆いんだよ。まるで水の詰まった風船みてぇなもんさ。衝撃が入ればそれだけで弾ける。如何にISって鎧が硬かろうが、中身までは守れねぇからなぁ」

 

そうコレがこの手品の正体だ。

鎧通しによるISの防御への衝撃の貫通。それによる相手への体内の臓器の破壊。

いくら何でも体内までは防御外だからなぁ。

え、何でそんなもんを使えるのかだって? そりゃぁ勿論、あのクソオヤジを叩き潰す為のもんだよ。こう見えて勤勉なのさ、オレは。あのクソオヤジに間抜け面を晒させる為なら、そういう努力は惜しまないモンなのさ。

まぁ、あのオヤジに限ったら精々心臓の動きが少しだけ乱れるだけで、まったくダメージになりそうにネェけどなぁ。

鍛えられてねぇ奴相手ならまさに一撃必殺だろ。御蔭でオレの腕はおシャカだがね。しばらくはロクに使えそうにねぇよ、たく。

そう思いつつ電子タバコを吹かしながらオレは奴さんに告げる。

 

「獲物を相手に少しお遊びが過ぎんだよ、アンタ。これを機にもう少しお勉強したらどうだい? まぁ、生き残れたらだけどな」

 

そう告げながら、オレは奴さんの意識がなくなるまで見続けていた。

 

 

 

 その後、チフユに連絡を入れてこの三人はお縄になった訳だが、三人とも緊急搬送で病院に速効送りになり、オレだけチフユから雷を落とされた。

一応オレも大怪我してるんだがねぇ。

まぁ、これでやっとお嬢様と飯を食いに行けるわけだ。

え、治療は良いのかだって? 折れた部分は無理矢理折り直して後は現代医療の力で放置すりゃ治るとさ。まったくもって便利だねぇ。

これで今回の馬鹿騒ぎもお開きだ。

怪我だけして報酬も無し。まったくもって損しかねぇが………。

 

あのタバネが癇癪起こしてるってのは実に愉快そうだ。

 

そう思いながらオレはお嬢様達に声をかける。

 

「んじゃお嬢様、今度こそその湯豆腐とやらを食いに行こうぜ」

 

お嬢様はそう言われ、オレに満面の笑みを浮かべながら返事を返した。

 

「はいですわ! その手ではとても食べられないでしょうから、わ、私が食べさせてあげますわ」

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

真っ赤になりつつもオレを見つめつつそう言うお嬢様を可愛く思いつつ、オレはそう答えた。

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