あぁ~、うん………きっと今のオレを職場の連中が見たんなら、間違いなく皆爆笑して腹を抱えて転げ回ってるだろうさ。いや、オレだって見る側だったなら間違いなくそうしてる。
それぐらい今のオレはまぁ……実にらしくねぇことになってるよ。
現在は昼休みで屋上に来てるわけなんだがなぁ………。いや、この時間にすることなんてたかが知れてるわけなんだが。『通常』のオレならとっくに飯食い終わって此処か爺さんの所で一服してるところだが、今日はそうじゃねぇんだよなぁ。
んじゃ何してるのかって聞かれりゃぁ、答えはこれだ。
「レオスさん、はい、あ~~~~~~ん♡」
目の前に差し出されてるのはサンドウィッチで、そいつを差し出してるのはとろけそうな笑顔をオレに向ける最愛のお嬢様。
そう、今オレはお嬢様と一緒に屋上でランチへとしゃれ込んでるってわけだ。
世間様におけるカップルってのは一緒にこうして飯を食うものらしい。別に飯を一緒に食うこと自体は今も昔もかわらねぇ気がするがね。
そこで張り切ったお嬢様が、朝早くから頑張って『お昼ご飯』を作って来たわけだが、ここまで言えば大体は分かるもんだろ。
茶を淹れるのはプロ顔負けなお嬢様だが、こと料理に関してはアレなもんでね。イチカの野郎が裸足で逃げ出すくらいの威力を誇っていらっしゃる。
そんなまさに、『野郎を仕留める必殺兵器』をお嬢様はオレに差し向けてきたわけさ。前から軽く言っては来たが、どうなったことやら。出来る事ならそいつを喰らいたくはないが、その選択肢はこの時点じゃ既に遅ぇ。
何より、お嬢様がこんなに可愛らしい顔をしてるんだ。それを壊しても避けるんだとしたら、そいつはきっと勇猛ではあるが男としては最低だ。オレはそうはなりたくないんでね。
だから差し出されたサンドウィッチを前に、オレはお嬢様に笑いかける。
「んじゃ、あれからどれだけマシになったのか……見せて貰うぜ、お嬢様」
そう言ってから一口囓りつく。
その途端に口いっぱいに広がるのは、まぁなんだ…………。
凄い味としか言い様がねぇシロモンだった。
辛いような甘いような、それでいてフレッシュなような熟成しているような……。
そういった普通じゃありえねぇ矛盾をしっかりと噛み締める。屋上に上がってきたイチカ達はそんなオレを見て、顔を真っ青にしながら不安そうにしてやがった。お嬢様と仲が良いからなぁ、イチカ大好きな連中は。
さて、期待と不安に揺れるお嬢様への感想を答えねぇとなぁ。
「あの……どうでしょうか………?」
「ん、あぁ…………まぁ、15点だな」
そう聞いた途端にがっくしと肩を下げるお嬢様。
え、普通こういうときは不味くても美味いって言うのが彼氏の勤めなんじゃねぇのかって? おいおい、そりゃただのごまかしって奴だろ。本当に相手の事を思っているんなら、そこは寧ろちゃんと教えてやらねぇと駄目だ。その方が後でちゃんと学び直すんだからよぉ。
落ち込むお嬢様にオレは今回の反省点を伝えることにする。
「お嬢様、ちゃんと味見はしろって前から言っただろ? この味からじゃそいつをしてねぇことははっきりと分かっちまうよ」
「うぅ~、そんなぁですわ~」
しくしくと涙を流すお嬢様。そんなお嬢様にゃぁ申し訳無いが、もう少し精進してもらわねぇと、人様に出せるようなもんにはならねぇからなぁ。
そう思いながらも、オレはそのままお嬢様が持っていたバスケットをサッと取り上げると中に入ってる残りのサンドウィッチにも手を付け始めた。
「あ、レオスさん!?」
美味くねぇって言われたもんを食べ始めるオレにお嬢様は驚いて止めさせようとするが、オレはそいつをやんわりと断りつつ持ってるサンドウィッチを噛み砕く。
いいか……笑うんじゃねぇよ。
「確かに美味くねぇ。酷いが人様に出せるもんじゃねぇ。だがなぁ……一口喰っただけで卒倒するようなもんを作って来たお嬢様からすれば、かなり進歩したことが良く分かる。『喰えるもん』になっただけで凄く成長したってことが分かるぜ。それがその………オレのタメだっていうんだったら、尚更だろ。そのまぁ……悪くはねぇ味だったよ、お嬢様。次も期待してる」
「れ、レオスさん………………はいですわ!」
オレの返答を聞いて瞳を潤ませて顔を真っ赤にするお嬢様。その様子はいつも以上に可愛らしくてついついイタズラしたくなりそうになっちまう。
おい、だから言っただろ、笑うなって。オレらしくねぇキザったらしい台詞なのは分かってるんだからよぉ。そういう台詞はイチカの野郎かクロードあたりが言うもんであってオレが使うもんじゃねぇってことは百も承知だっての。
でもまぁ、たまには歳相応に粋がってみたくなるもんだろ、こういうときはよぉ。
そんなオレを見て、ホウキ達は顔を真っ赤にしながら何か羨ましそうな面をしてた。
「あ、アレが恋人が出来た者の力だというのか……」
「あのサンドウィッチを普通に食べるなんて……コレが愛なの……」
「セシリアが羨ましいよ~」
「クソ、あの男に嫁が劣っているなどと、そんなことは………しかし、嫁はあのような事は出来ない」
「何て言うか、彼ってダークヒーローって感じ」
「セシリアちゃんには思いっきり甘いんだから」
皆が何を言っているのやらって奴だ。後会長はこの後弄くり回してやろう。
そう思ってると今度はイチカが感心したような声を上げた。
「凄いな、レオス。あのサンドウィッチを食べて何にも無いなんて」
以前喰わしたことがあるからこその感想だが、本人を前にそういうのはマナー違反だぜ、イチカ。だから少しばかりお仕置きといこうか。
オレは残っているサンドウィッチの一つを掴むと一口サイズに千切り。イチカに話し掛けると共に手早く投げた。
「そういうなよ、イチカ。お嬢様だってちゃんと成長してるんだからよ。コイツが証拠だよ。『ゆっくりと味わいな』」
「え? むぐッ!?」
急に口の中に入ったもんに驚くイチカ。そしてそれが食いモンだと認識した途端に咀嚼するわけだが、その途端に顔色を可笑しく変化させていく。蒼だったり紫だったり緑だったり黄色だったり。それだけでエンターテイメントに出来そうなくらい、そいつは愉快な変化だった。
そして何とか飲み込んだイチカは、改めて感想をオレに言う
「おいレオス! いくら何でもあんまりだろ! なんだよ、あの味。甘かったり辛かったり苦かったり、どう見たって普通にサンドウィッチじゃないだろ。何が成長してるんだよ!」
若干キレ気味のイチカにオレはカラカラと笑いながら答えてやる。
「おいおい、味わって飲み込んでおいてそいつはねぇだろ。イチカ、お前さんはそいつを味わって飲み込んだんだ。そう、食い物として喰ったんだ。つまりそういうことだよ。お嬢様は食い物を作れるようには成長したって証だよ」
「それって成長って言えるのか?」
首を傾げるイチカにオレはそうだよって答えるのさ。
程度はどうあれ、喰える物が作れるようになったってのはちゃんとした成長だよ。
だからこそ、オレはお嬢様に笑いかけるのさ。
「つーわけだ。こいつは俺にとっては大層な御馳走なんだよ。喰えるだけでも御の字で、しかもお嬢様が一生懸命作ったんだ。そいつが御馳走じゃねぇんなら何が御馳走なんんだってくらいは言えるさ。向こうじゃ喰えねぇようなもんを喰うことだってあるんだ。それらのクソ不味さに比べれば、まさに『美味い』よ」
「はうッ!? レオスさん、格好いいですわ………」
何やらお嬢様が目をハートマークに変えてうっとりとしてた。一応言っておくが、コイツはわざとでも何でもねぇからな。事実を述べたまでだ。知ってるかい? サソリってのはすっごく生臭いんだぜ、生で喰うとよ。アレに比べればお嬢様のは珍味レベルだよ。人間、あの程度ならそれで済むもんさ。
そう思いつつ残りも平らげるべく食べるわけだが、オレはふと思っていることを呟いた。
「もうそろそろだと思うんだけどなぁ……まだこねぇのかねぇ、あの兎さんは」
そして放課後、この学園は『予想通り』騒動に見舞われる。
「たのも~~~~~~~~!! くぅちゃんを取り戻しに、&何処ぞのお化けを退治に束さんがやってきたよ~!」
「こんどこそ、織斑 一夏を殺し姉さんを超える」
アリーナに突入してきた連中を見て、オレは口元がニヤリとつり上がった。
あぁ、やっと来たか……オレの『錆落とし』………。