タバネを二人だけのステージにご案内したわけだ。周りは人一人いねぇ何やら寂れた少し狭いアリーナ。何でも極秘裏に実験を行うために使うアリーナらしい。その割りに観客席があったりだなんだとオープンな感じで、コイツを作った奴のオツムを疑うような感じだ。真面目に仕事をする気がないってことがはっきりと窺えるもんさ。
まぁ、要は人があまり使わねぇから人目も気にせずに暴れられる……そういうことだとよ。
そこにタバネを連れていくと、奴さんは少しオレから離れるとニヤリと笑い始めた。
「さぁ、早くやろうか。束さんはお前を早く磨り潰したくて仕方ないよ」
奴さんは殺る気満々なようで、早速ISの応用なんだろうが、手元に変な棒っきれを量子展開してきた。まるでどこぞのガキが好きそうなファンシーなデザインで、棒の先にはデフォルメされた翼が付いた変なウサギのマスコットが付けられてる。オレはよくしらねぇんだが、確か秋葉原なんかで人気なオモチャの部類ってやつじゃなかったか?
そんなもんを出された所で恐くともなんともねぇ。寧ろ……。
「なぁ、タバネ。人の趣味にどうこう言うつもりってのはねぇんだが、流石にそのオモチャはその年でどうなんだよ? いくらそっちの方面好きでも流石に痛いと思うんだがなぁ」
手前が言えた義理はねぇんだが、流石に歳相応に振る舞いや服装ってのも時には必要な時があるもんさ。そういう趣味は人が居ない前でする分にはいいんだが、人に見せた所で痛いだけだね。
そう言ってやったら、タバネは怒ったぞ~って感じで、ぷんぷんって効果音が付きそうに怒りだした。目はまったく笑ってねぇが。
「うるさいよ、そういうのは気にしないもんね~。そ・れ・に・これはそんなただの有象無象なんかと一緒にされちゃ困るよ。何せ束さんが直に作ったスペシャルなステッキなんだから、ただのステッキなわけないじゃないか」
そう言ってぶんぶんとご自慢のステッキとやらを振り回す奴さん。
まぁ、ISなんてオモチャを作る奴だ。ただの棒を作るわけがないってのは当たり前だよなぁ。
さて、奴さんを少しからかったし後は殺すだけかぁ……と思うだろ。
まぁ、そうカリカリしなさんな。時間は有限だが、使い方次第で充実するもんでも在るんだからよぉ。
オレはタバネの殺る気満々な様子を見つつ、懐からとある物を取り出す。
それを見た奴さんは少し警戒したようだが、その正体を見て今度はオレをからかおうとしてきやがった。
「あぁ、いっけないんだ~! まだ二十歳じゃないのにタバコは吸っちゃいけないって教わらなかったの~」
世界を騒がせた奇人にそんな一般常識とやらを振られたってなぁ。誰も信用できねぇとしか言い様ねぇ。寧ろお前さんが説法をされるべきだってなぁ。
だからオレはタバネのからかいを聞き流しつつ、懐から取り出した『本物』を一本取り出し咥え、そいつに持ってたライターで火を付ける。
ここ最近あったことで、爺さんからちゃんと貰ったんだよ。オレの気に入ってる柄とライターをなぁ。何せちゃんとした『お仕事モード』だ。本人のやる気を出すためには丁度良いだろうってさ。本当に有り難いもんだよ。何せこっちの方が手前らしいんでなぁ。
「一応コレでも社会人なんでなぁ、そうケチ臭いこと言いなさんなウサギさん。寧ろ逆に聞くが、お前さんはモクや酒はしねぇのかい?」
「束さんがそんなもの吸うわけないじゃない。お酒はまだ好きだから飲むけどね~、タバコなんて害しかないし。束さんのスペックならそんなもの害にすらならないけどねぇ。吸う意味なんてないし」
そう答えるタバネは自分には特に興味ないって感じだ。
それに対し、オレは少しもったいねぇって感じに答えてやる。
「もったいねぇなぁ。酒とタバコは大人のたしなみだぜ。二つとも生きる上で大切な潤滑剤にしてストレスの緩和剤さ。こいつ等があるから面倒できつい仕事でも何とかやっていける。それをしらねぇってことは、ストレスも感じてねぇ甘ちゃんってことだよ、お嬢ちゃん。手前の趣味に一生懸命なのも悪くはネェが、もう少しは労働の素晴らしさってのを学んでおくべきだ。そうすりゃ酒とタバコの素晴らしさが身に染みるよ」
「っ!? へ、へぇ~、そうなんだ。でも、タバネさんは十全だからね。その辺の凡愚みたいに働かなくてもお金には困らないし」
人生の友についてそんな冷たいことを言うお嬢ちゃんにオレは違う、わかってないねぇって感じに首を横に振る。奴さんが煽られて青筋を浮かべ始めてるのは見てて結構愉快だ。その余裕そうで実は結構気にしてるって感じなのが丸わかりなのが、実にガキっぽい。図体こそ大人だが、その中身はただのガキだ。
モクを軽く噴きつつ、オレはタバネにニヤリと笑う。これで奴さんは完璧にお怒りになるだろうさ。この煽りを受ければ食らい付くだろうよ。
「だから恐くないんだよ、お前さんは。世間じゃ天災だなんだって崇められちゃぁいるが、そんなもんは戦場じゃぁ何の役にも立たない。ご自慢のお脳でもあの『理不尽』の中じゃ輝きはしねぇ。何せそのお脳はお前さんが大好きな機械があって初めて役立つんだからよ。悪いが現代だろうと戦場にそんな高性能なもんはあまり持って行けネェよ。銃は火薬による古くからの代物だし、戦車や戦闘機だってそこまで高度な代物は詰んでねぇ。どれもこれも、結局はそいつの腕次第でいくらでも変わる。何より……………お前さんは人を見下しているくせに、一回も『殺した』ことがねぇ。身体から血と臓物の腐った匂いがしねぇのさ。するのは甘いミルクみたいな香りだけだ。そんな『世の中舐め腐ったお子様』が恐いわけ無いだろ」
ほら、もう駄目だろ。奴さんの面を見てみなよ。すげぇ面してるぜ。
何とか自分は平気ですってしようとしてるが、額に浮かんだ青筋に怒りで震えまくるステッキがもう丸わかりだ。
オレはそいつを言い終えると吸っていたタバコの吸い殻を捨てる。悪いが今は灰皿を持ち合わせてないんでね。まぁ、元から持っていないが。
「さて、んじゃモクも吸ったし……殺るか」
そう言って腰から相棒を引き抜く。少しでかい拳銃に銃剣が装着された頭のイカれたオレの相棒『オルトロス』を。
それを見た奴さんはそれこそ巫山戯るなって感じに怒りながら笑ってきた。
「あれれ? そんなオモチャでどうするつもりなんだい? 確かISを持っていたよね。使わないの?束さんを相手にオモチャとか、巫山戯てない?」
現代において、ISってのは世界最強の兵器って認識だからご自慢のオモチャを持ってるのに使わねぇことが気に喰わねぇらしい。
だが、その問いかけにオレは逆に呆れちまったよ。
「おいおい、お前さんは天災って言われてるくせに手前が得意な事以外はポンコツか? いいか、賭け事をするときに相手が何かしら関わったモンを使うのは間抜けだけだ。何せそれには相手がイカサマをする仕掛けが何かしらされてるんだからなぁ。つまりこの場でお前さんご自慢のISを使うってことは、既にイカサマ済みのトランプを使うことと変わりがねぇんだよ」
そう、何で相手が垢つけたもんをそのまま使えると思うかねぇ。向こうはISの産みの親だ。その気になればいくらでもISを停止させられるし、更に言えば暴走も自爆も思いのままだ。自分の首輪のリードを既に相手に握らせているようなもんだ、そいつは。オレはそんなドMな真似は御免だね。
それに何よりも……。
「これからやるのは『殺し合い』だ。あんなオモチャじゃ直ぐに壊れちまって楽しめネェだろ。やっぱり殺しには、生身が一番だよ。そういうことを知らないからお前さんは天災(笑)なんだよ」
「その巫山戯た笑い顔、今すぐ潰してあげる!」
ここまで妙に長いと思うが、そう焦るもんでもねぇさ。これからは本番で、それまでのはただの前哨戦以下のお遊びだ。
だからこそ、互いに獲物を抜いたんならもう待ったは無し。後は思う存分殺りあうだけさ。
オレは奴さんが何をしてくるのかを少し楽しみにしつつ、まず牽制に打ち込もうとしたんだが、その前に奴さんが仕掛けてきやがった。
「きらきら☆ぽーん♪」
持ってたステッキをくるくると回した後にオレに向けると、その途端にオレの身体が急激に重くなった。まるで何かに押し潰されてるようなそんな感じだ。
「こいつは………」
少し驚いてるオレに、奴さんは自慢げに語り始めた。
「束さんお手製の空間圧作用兵器試作八号こと、『王座の謁見』さ。どうだい、ISですら動けなくなるような重力は? これでも生きてるだけでも驚きだけど、あともうちょっと出力を上げたらどうなっちゃうかなぁ」
実に愉悦に浸ったニヤリ顔だ。
どうやら奴さんのステッキは重力を操るらしい。だからこんなに重いのか。
だがなぁ……………甘すぎて胸焼けを起こしちまうよ。
オレは次に移す行動で、そのニヤケ面を凍り付かせた。
「え…………?」
凍り付いた奴さんの面は実に愉快だ。その頬から血を滴らせてるところが尚更になぁ。
何をしたかって? そいつは簡単だよ。
ただ、普通にだ。普通にいつも通りに、オレは身体を動かしてオルトロスの引き金を引いただけだ。それだけ。
だけど、そいつが奴さんには信じられなかったらしい。
何せ奴さん曰く、ISですら動けないらしいからなぁ。
んじゃその感想を伝えるとするか。
「おいおい、あまりにも手ぬるい真似はするもんじゃねぇよ。確かに重力が重いってのは驚いたが、こんなもんよくよく考えたら戦車の下敷きにされたときよりも楽じゃねぇか。アン時はマジで動けなかったからなぁ。この程度なら、寧ろ健康に丁度良いんじゃねぇか? オレの健康に気を使って貰って悪ぃが、お前さんが驚いている以上にこの程度は『向こう』じゃ普通だぜ。ウチのクソオヤジならこの中でブレイクダンスが踊れそうだし、鬼畜上司ならタンゴからワルツまで熟しそうだ。この程度じゃつまらなすぎて欠伸が出ちまうよ。だからその頬のは反省しろって意味混みでの罰だよ。もう少し面白い芸を覚えてから出直しな」
その返事を返しつつ、奴さんご自慢の重力の中を普通に歩く。
裏じゃもっと身体が動かなくなることだってあるからなぁ。まぁ、アレはただのそいつの威圧感だったり殺気だったりなんだがね。それに比べれば、コイツはマッサージ気分で程良い感じだよ。
それを見た奴さんは苦虫を噛み潰した面で咆えた。
「やっぱりお前は化け物だよ! 死んじゃえ、お前みたいなのは束さんの世界にはいらないんだから!」
そう言いながら後ろに展開されるミサイルランチャー。
そいつが撃ちだされる前にオレはオルトロスの引き金を引いた。