恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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リアルが急がしくなってきてスランプとかもう駄目な気が………社会人はしんどいです。


百五十九話 お人形の壊し方

 どうやら奴さんは『普通』ってことが嫌いらしい。

そんなに嫌なことかねぇ、普通ってことが。オレは寧ろ良いと思うけどなぁ、普通。買い物に出掛けりゃオモチャをぶら下げたバカ丸出しの連中に追いかけ回されたり、御仕事だから出向いてるってのにおっかねぇって目で見られたり。別にとって喰おうってわけでもねぇのに扱いがこれだ。オレ等は手さえ出さなきゃ何もしねぇ従順な部類だってのに、周りはそうは思ってくれねぇんだよ。心外も良い所だと思わねぇか? その点、普通ってのは良いことだと思う。何せ買い物に行ってもお馬鹿な連中とかち合わない、出会う奴等は基本親しく対応してくれる。クソオヤジのせいでスィーツのバイキングや風俗店で出禁を喰らうわけでもねぇ。そりゃ確かに退屈になるのかもしれねぇ。つまんねぇってことは世の中で一番駄目なことだとは思うよ。だがなぁ、そいつがあるからこそ、より楽しめるってもんなんだよ。さっきから奴さんはこっちのことを化け物と連呼しまくっちゃぁいるが、化け物だって普通なんだ。そいつがあるからやる気が出るのさ。だからオレは普通って言葉が嫌いじゃねぇ。お嬢様といる時は『普通』だからなぁ。

さて、少し長引いちまって申し訳ねぇが、奴さんの琴線に触れたらしく奴さんはお怒りの様子でご自慢のオモチャを出して来た。

出て来たのは二体のIS。前に見たご自慢の無人機とやらに似ているが、そいつに比べるとこれはかなり変わってやがる。まずジャバウォックとか言った奴の方だが、最初の方にあった無人機の原型は殆ど残ってねぇ。獣のような俊敏そうな足に、熊やゴリラみてぇなテメェの身体と同じ位太い腕。その指は一本一本が巨大な刃で、顔も二つの真っ赤な目がオレを睨み付けて唸り声を上げてやがる。身体全体も毛が生えているように見えるが、よく見れば全部そいつも刃だ。まさに全身凶器って奴で、獣人ってのが、見た目的に近いだろうよ。

次にマッドハッターとやらだが、こっちはジャバウォックに比べれば貧弱そうな身体をしてる。全体的にほっそりとしていてシャープなんだが、手足は異様に長い。そん中でも特に目立つのが、両手だ。前からあった大出力のレーザーをぶっ放すって代物なのは分かるが、指に何か仕込んでそうな気配を感じさせる。

二機は展開されるや、オレに向かって早速仕掛け始めるわけだ。

ジャバウォックは獣のような躍動感溢れる動きで突進するなり、オレに向かってご自慢の腕を振ってきた。そいつを避けると、その腕は地面に激突。思いっきり地面を粉砕して土煙を上げた。その力はかなり凄く、あのクソオヤジに近い物があるのかもしれねぇ。それで終わりならいいんだが、忘れちゃいけねぇのがもう一機だ。

それまで動いてねぇと思ったら、奴さんはいつの間にかオレの反対側に回り込んできて、その如何にも怪しげな両手を此方に向けてきた。

そして発射されたのは、今までのオモチャの比にならねぇくらいヤバイ高出力の砲撃だった。実体がないが見えはするそれは、まるで巨大な柱だ。そのヤバさを本能で察したオレはその場から一気に横へと飛び込んだ。身体が受け身を取れるように転がり込む。

さて、少し焦ったわけだがそうしなけりゃ今頃オレはこうなってたのかってことをそれまで居た場所を見て実感したよ。ISの戦闘訓練用に作られたアリーナの地面が溶融してやがった。どろっとしてガラス化してる辺り、その威力はマジでヤバい。

 

「おいおい、流石にこいつは人に向けて良いもんじゃねぇだろ。確かアラスカ条約でISの軍事利用は禁止されてるって建前があっただろ?」

「そんなもの、勝手に凡人共が決めたものだもの。私は守る気なんてないし~。それにお前みたいな化け物相手にはこれでもまだ足りない位なんだから」

 

これでもまだまだとは恐れ入るもんだねぇ。ちょいと頑張り過ぎじゃねのか。

ご自慢のお人形が如何に厄介なもんなのかはこれで充分分かったわけだ。そいつ等の活躍を満足そうに見て奴さんはでかい胸を張る。

 

「どうだい、この束さんの自信作の凄さは!」

「結構焦ったぜ、そいつ等にはよ。ジャバウォックにマッドハッターだったか………確か『不思議の国のアリス』に登場する『魔獣』に『帽子屋』のことだよなぁ」

 

奴さんの恰好といい、どうにも夢見がちな感じがするよ。歳ってもんをもう少し考えねぇとなぁ。ファンタジーはあくまでもファンタジー、夢は寝ながら見るモンさ。

奴さんはオレの言葉を聞いて少し驚いたようだ。

 

「まさか知ってるとは思わなかったよ。案外博識なんだね」

「一応はな。何、世の中色々回ってるとこういう役にたたねぇ知識も増えてくる。お前さんみたいな引きこもりにはねぇことだけどね」

 

そう答えてやれば、奴さんは不機嫌な面を隠さずに表に出す。

 

「別に束さんは引きこもりじゃないし! ただやりたいことをやりたいようにやってるだけだよ。それには………お前等みたいな化け物は邪魔なの! だから早く死んじゃえ! ジャバウォック、マッドハッター、やっちゃえ!!」

 

奴さんの命を受けて再び襲い掛かる二機。

 

「GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

ジャバウォックが雄叫びを上げながらオレに向かって突進してくる。それはまさに野性の獣そのもので、ヌゥに追っかけ回されたことが事があるオレからすれば少しばかり恐怖を覚えるよ。

 

「ジャバウォックは野性の動物の動きを複合し最適な動きを可能とした機体だよ!それはまさに野性そのもの! 束さんが珍しくワイルドに攻めてみました!」

 

説明する束の言葉を聞き流しつつ、オレはまず目の前のケダモノを相手にする。

 

「まさか此処に来て狩りをするとは思わなかったぜ!」

 

オルトロスを向けて早速ぶっ放す。

普通ならそれで当たるモンなんだが、この野郎……咄嗟に猫みたいな俊敏さで避けやがった。

 

「ちっ! でかい図体のくせにすばしっこいじゃねぇか」

 

軽く舌打ちを打ちつつ追撃をかけようとすると、今度はジャバウォックの後ろにいたマッドハッターが不気味な手をオレに向けてきた。

アイツはヤバいと思って咄嗟に飛び退けば、あっという間に目の前の地面が溶融する。

 

「マッドハッターは両腕に超高出力の荷電粒子砲を搭載してるんだよ! それも斜角はいくらでも取り放題で、連射に掃射と何でもありさ」

 

説明ご苦労なことで。

つまり接近戦はケダモノで、遠距離戦はあそこの案山子が担当してるってことか。二機による連携が中々に巧妙だ。基本はケダモノが突っ込んで来てオレを撹乱しつつ攻撃、そいつを避けると今度はオレを狙って案山子がぶっ放してくる。それだけなら良いんだが、連中もただのお人形じゃねぇ。オレの動きを読んで予測して先読みしてくることもあるし、案山子が連射で揺動してケダモノが仕掛けてくることもある。

実に厄介なお人形共だぜ。

御蔭で表情はいつも通りに笑ってるんだが、内心は結構焦ってる。掠ったりだ何だでこっちも血が出始めた。あのお嬢ちゃん、中々に愉快なものを作りやがるよ。

 

「ちっ、中々に面白いじゃねぇか」

「何せあの二機はお前等みたいな化け物を倒すために作ったんだから当然。でも………予想していた以上に粘ってるね。もっと早く殺せると思ってたのに」

「こっちだってそう簡単にやられるわけにはいかねぇんだよ。この程度で殺されてたら追っかけられるのに苦労なんざぁしねぇさ」

 

皮肉交じりにそう答えるが、やっぱり焦りは消えそうもない。

事態はあまり芳しくないもんだ。何せあっちは3でこっちは1。数は向こうが上で、まだお嬢ちゃんが三人なら楽なんだがあのお人形は純粋な性能ならお嬢ちゃん以上だ。そりゃ当たり前の話だ。パワーや防御力、火力は機械の方が上なのだから。

それが分かった所で何か変わるもんでもネェ。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅッ、結構重いじゃねぇか!」

 

色々と考える事もあるもんだが、その前にケダモノの豪腕がオレに当たりかけたもんだから、咄嗟にオルトロスをクロスさせて防いだんだが……中々に重い。あのお嬢ちゃんに比べればそれこそ蚤と獅子くらいの差があるくらいにはきつい。

足元が思いっきりへこみ、その重さに動き辛さを感じているとこのケダモノは空いてる腕で追撃をかけようとしてきやがった。この至近距離じゃ躱せねぇし、喰らえばそれこそオレの腹の中身がぶちまけられる。

そいつは流石に勘弁だ。

だからオレはそこから身体に掛かる力を流す。塞がった両腕を逸らしてケダモノの腕を真下に受け流すと、身体事そこから脱出。見事に地面に手を激突させたケダモノのがら空きになった脇腹にオルトロスを叩き着けて引き金を引いた。

 

「確かにパワーは悪くねぇが、オツムはそこまでよくねぇらしいな、ドアホ」

 

当てられたのは三発程度。この程度でISを殺せるわけはないが、シールドは確かに削れただろうさ。

それにだ……………それ以上の収穫もあった。

それは何か? そいつはさ、お嬢ちゃんが作った物への愛情溢れる代物だよ。

大事にされてるねぇ、本当。だからさ…………オレはそいつを利用することにした。

オレに攻撃されたことが気に喰わなかったらしく、ジャバウォックは更にキレた様子でがむしゃらにご自慢の腕を振り回してくる。

オレはそいつを出来うる限りギリギリで躱すことにした。さっきから何か気が付かないか? その答えをオレは皆に教えようと思う。なぁに、簡単な話だよ。どんな世界だろうが当たり前のことだからなぁ。

懐からその答えを出すべく仕掛けを取り出すと、オレはそいつをばれないように振りましていく。そう、オレとご自慢の人形とのダンスを見て愉快そうに笑ってるあのお嬢ちゃんに悟られないようになぁ。

さぁ、そこでオレが追い詰められてることを実に楽しそうに見てるウサギの嬢ちゃんの面を驚愕に染め上げるとしようか。

オルトロスで牽制射撃をしつつオレはその場から離れる。そう、それまでつかず離れずの距離で躱し続けていたのに、そろそろ我慢仕切れなくなったって感じに離れた。

普通ならそこで疑問に感じるだろうさ。頭を使えば少しは気になるもんだからよ。

だが、このお人形共はそれを気にしない。

オレが離れれば、当然『もう一体』が動き出す。

そう、マッドハッターの案山子がオレ目がけて大出力の荷電粒子砲をぶっ放すのさ。

そいつを今までは避けてきた。だが今回は………ただ避けるだけじゃない。

久々に、それこそオヤジとド突き合うくらいの本気で力を込めて仕掛けていたもんを引っ張った。

 

「お嬢ちゃんには悪いが、こいつで一体退場だ。アァアアァアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアア!!」

 

思いっきり引かれ、ケダモノがこっちに引きづられる。

そしてオレは横に飛び込んで逃げれば、その後を即座に荷電粒子砲が通り過ぎた。

さぁ、その答えが…………。

 

「G、GGG、aaaaa、aa………………」

 

荷電粒子に飲み込まれてこんがりと焼け上がったケダモノの丸焼きの出来上がりだ。

ボディの殆どが焼け解けて原型を留めていない。すでに両腕も消し飛んで、残ったのは何も出来ないガラクタだけさ。

 

「なっ!?」

 

驚くお嬢ちゃんにオレは笑いながら答える。

 

「確かにお前さんのお人形は凄いもんさ。だがなぁ、殺し合いに関しちゃ三流以下だよ。二機のコンビネーションは確かに厄介だったさ。だけどなぁ………少しばかり綺麗すぎたんだよ。揺らぐことなく同じような動きを取るんだ。オレが離れればあの案山子は絶対にぶっ放してくるのは予想出来た。だからあんた達にばれないようにワイヤーを振り回してケダモノに絡ませるとたのさ。そんで後は離れると共に思いっきりこっちに引っ張り込んで案山子の自慢の荷電粒子砲でこんがりとソテーしたわけだよ。御蔭でこっちは簡単にこのケダモノを潰すことが出来たってわけだ。ありがとよ、マッドハッター。オズに出て来るような脳無しの馬鹿で助かったよ」

 

その言葉と共にジャバウォックの目から光は消え、崩れ落ちた。

凍り付いたようなタバネの面を笑いながら、オレはあともう一機の方をどうしようかと考える。

 

「何驚いてるんだよ? まだこれからだろ……お伽話のその先はなぁ」

 

さぁ、次はお前さんの番だ……マッドハッター。

 

 

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