顔を洗い終えると、セシリアが起きて来た。
まだ寝起きみてぇで、目元をごしごしとこすってやがった。まったく、お嬢様ってのはこういう仕草も様になるんだな。少し見とれちまったぜ。
「あ、レオスさん・・・おはようございます」
「おはようさん、セシリア。よくぐっすりと寝てたみてぇだな」
そう意味ありげに笑いながら言うと、セシリアは途端に真っ赤になった。
「なっ!?」
そのままおちょくるのも面白そうだが、生憎俺は今からちょいと急ぎで行かなきゃならねぇとこがあるんでな。相手をしているわけにはいかねぇのさ。
「んじゃ俺は先に出るぜ。ちょっと行かなきゃならねぇとこがあるんでな」
「あ・・・・・・」
そうセシリアに言うと、セシリアは少し残念そうな顔になった。
そういう顔をすんなよ。後でまた相手でもしてやっからよ。
そう思いながら部屋を出た。
「んで、何で俺が朝っぱらこんな所に来たのか。そいつはよく分かってんだろうなぁ・・・爺さん」
「まぁまぁ、落ち着いて」
朝に行く所があるって言ってたよなぁ。そいつがここ、理事長室ってわけさ。
入るといつもみてぇにニコニコと爺さんが笑っていやがった。俺が来ることもお見通しってわけだ。
「一々回りくどい真似すんなよ、爺さん。俺に直に言やいい話をを面倒にしやがって・・・・・・まぁ、別にそいつはいい。依頼について詳しく聞かせて貰おうか、依頼人(クライアント)」
「えぇ、そう思って待ってましたからね」
そう笑顔で爺さんは言うと、さっそく依頼内容について話し始めた。
癪に障るが、依頼は依頼だ。詳細は聞かねぇとなぁ。
「私が頼んだのは織斑 一夏君の護衛依頼です。ただし、常に守る必要は無いですよ。此方でも護衛は秘密裏につけていますから。君にお願いしたいのは、織斑 一夏君が襲われたりしたときの救出と敵の排除です」
まぁ、ここまでは予想通りだ。問題はここからだな。
「そいつについてなんだが・・・・・・ちょっと臭せぇなぁ」
「と、言いますと?」
「何で俺に依頼したか、だよ爺さん。はっきり言っちまえば俺の所に依頼する理由が無い。あいつが特殊な立場の人間だってことは分かるし、護衛が必要なのも充分な話だ。だが・・・そいつはあんたがつけた護衛だけでこと足りるんじゃないか?」
「なぜそう思うのですか?」
「仮に俺に依頼すんなら最初にしてるからだよ。今更俺にする理由ってのは・・・・・・さては爺さん、俺のISの実力を測りやがったな」
そう聞くと爺さんが、ほほほ、と笑って来やがった。図星みてぇだな。
そこで気付く。そのことを考えて爺さんが俺に依頼した理由、そいつは・・・・・・
「まさか爺さん・・・・・・イチカの野郎に仕掛けてくる奴はISを使ってくるってことか」
「ご明察の通りです。ISは今のご時世、最強の兵器ですからね。織斑君自身を狙うなり、織斑君の持つ篠ノ之博士作成のISを狙うなりと、どちらも狙ってくる者は多く、中には武力を持って事を運ぶ者もいるでしょう。そのことを考えると、やはりISを使える人が護衛に付いた方が安全ですから」
「俺も一応は、『世界でISを使える男』なんだがなぁ」
「君にちょっかいだそうなら、出した人の所が粉々に吹っ飛んじゃうじゃないですか。そんな危険を冒す人は早々いませんよ」
「ちっ、そうかい」
少し傷付いちまうぜぇ、そういう差別的な発言。
まぁ・・・・・・事実だがね。俺に手ぇだそうってんなら、それ相応の代価を払って貰わなきゃなぁ。
「でもやっぱ腑に落ちねぇ。ここは天下のIS学園だぜ。ISを使える奴なんて他にもゴロゴロいんだろ。爺さんの子飼いにもいるんじゃねぇのかい」
「子飼いだなんて心外な。ただの友人ですよ。まぁ、彼女を見て貰えばわかると思いますよ」
そう爺さんが言うと、理事長室の扉が開いた。
開いた先には、こりゃまた随分な美人がいやがった。ここからでも充分わかるスタイルの良さ。きっと町中なら男共が全員振り返る、そういうタイプってやつだな。顔も良く整っていて、まさに美少女ってか。その表情は笑顔を浮かべているが・・・・・・成る程、こいつぁ・・・腹に一物ありそうだな。そんな面をしてやがる。リボンの色から二年生みてぇだ。
「彼女は私の友人でこの学園の生徒会長の更識 楯無君だよ。彼女とはよくお茶をしていてねぇ」
「ご紹介にあった通り、私がこの学園の生徒会長の更識 楯無よ、レオス・ハーケン君」
「あれ、俺のことを知ってんのかい」
「あなたのことを知らない人は『この業界』じゃいないんじゃないかしら、『災厄の嵐』さん」
そうにっこりと会長さんは笑う。
成る程、その非常に不服極まりない通り名を知ってるってこたぁ、裏のことを知っている人間なのか。『災厄の嵐』、そいつが俺に与えられた不名誉極まりない二つ名って奴だ。
俺が戦った跡が、まるで嵐が通った跡みてぇなのと、戦う様子が嵐みてぇだからっていう理由で周りの奴等が勝手に付けやがった。恥ずかしいったらありゃしないぜ。そんな戦い方のせいで、俺は山ほどの始末書を書かされてるってんだからなぁ。だったらそんな戦い方をするなって? 好きでやってるわけじゃねぇよ。思いっきり戦ったらこうなるってだけだ。まったく、本意じゃねぇ。
「彼女はISのロシア代表で、またこの国の暗部用暗部である更識家の当主でもあるんだよ」
爺さんは捕捉説明を入れてきた。
暗部用暗部、ねぇ・・・・・・この国はこの国でそういう組織もあるみてぇだな。KGBやGBUみてぇなもんか? まぁ、別にいいがな。
「それで、会長さんが爺さんの『お友達』だとして、何で俺に頼んだんだ。会長さんに頼べばいいだろ」
そう言うと、会長さんがちょっと申し訳なさそうに答えてきた。そしてもの凄く不服そうな目でこっちを睨んできやがった。
「それが・・・一学期はちょっと忙しくて無理なのよ。だから仕方なく貴方に頼むしかなかったってわけ、もの凄く不服だけどね。だってやけに轡木さんが貴方のことを押すんだもの。ねぇ、轡木さん、何で私じゃなくて彼の方が適任なの?」
会長さんは俺の方から爺さんの方に視線を向けて不服そうにぶぅ垂れると、爺さんはまるで孫でも見てるかのような面で答えた。
「さぁ、何ででしょうねぇ。レオス君、君にはわかるんじゃありませんか」
ニコニコ笑顔でこっちに振って来やがった。
自分で言いたくねぇってことか。まったく、面倒を押しつけやがって。
会長を見た瞬間にゃぁ、何で爺さんが俺に依頼してきたのか分かったよ。
「爺さん、そいつを俺に言わせんのかよ」
「ええ、君の口から是非」
「はぁ・・・・・・仕方ねぇなぁ。会長さん、あんた・・・・・・『処女』だろ」
「なっ!? 何言ってるのよ、このエッチ!!」
途端に顔を真っ赤にして叫ぶ会長さん。
そういう意味じゃねぇんだけどなぁ。
「悪い悪い、そういう意味じゃねぇよ。あんた・・・・・・人を殺したことがねぇだろ」
「っ!?」
俺にそう言われ、会長さんは息を呑んだ。
そう、この会長さんからは人を殺したことのある奴特有の感じがまったくしねぇ。つまり殺人未経験ってやつだ。暗部用暗部だとか聞いて俺が疑ってしまったのはこいつが原因だ。
爺さんが俺の方が適任と言った理由ってのはこういうことだろう。
つまり・・・・・・この護衛は人を殺す可能性がでかい。
そういうわけなんだろうよ。
「爺さん、あんまり人をからかうような真似は関心しねぇなぁ。まぁ、爺さんが俺に依頼した理由もこれでわかったよ。んじゃ、俺はそろそろ教室にいかせてもらうぜ。あんまし遅いとチフユにまた睨まれちまうからなぁ」
「はい、それでは」
そう爺さんと会長さんに別れの挨拶を言って俺は理事長室を出ていった。
その後教室についた所で、扉からツインテールのお子様が飛び出していきやがった。
一体なんなんだかねぇ。
まぁ、急いで入んないとチフユに怒られちまうからなぁ。
結局、怒られちまったがね。