この後は番外編で書こうと思っていてかけなかった話をちらほら書こうと思います。
日本にも亡国機業壊滅の報せは届き、当然IS学園にもそれは届いた。
それを聞いた一夏達専用機持ちは皆複雑そうな顔をする。何せ彼等は今まで幾度となくその組織と戦ってきたから。その結末が他の組織による殲滅というのは、勝手ながらに収まりがつかないようだった。
それに対し教師陣は心からホッとしていた。
いくら国に属し軍事訓練を積んだ者達とは言えまだ学生に『血なまぐさい』光景を見せないですんだのだから。
教師陣はその情報を見ている。『どこのどの組織がどのように暴れまわったのか』を。
それは決して表に出せないと思いたくなるほど骨董無形な演劇。一方的なまでの虐殺劇であった。
『彼等』の活躍は確かに世界をひっくり返すに値するもの。これまであった常識を完膚なきまでに叩き潰す。
その情報に世界は再び激震が走ったであろう、ISという最強を覆す『化け物』の存在を。
しかし、世界はそれを知って尚、変わることはなかった。
単に彼女達は知らないだけなのだ。
世の中には、人智では計り知れない程の『化け物』がいて、それが数多く知られていないだけで徘徊しているのだと。
それまであった人の努力と叡智を嘲笑い、その計り知れない力をもってして悪戯のごとく面白可笑しく壊していくのだ。
彼女たちが知ったのはその一端。それを担う化け物が、その日帰ってくることに彼女達は内心恐怖を隠せない。
知ってしまったからには後戻りできない。今までのようにはいられない。
だから彼と彼女等は、この後帰ってくるであろう男に、どのように接していけばよいのか困ってしまっていた。
ただ、一人を除いては。
「はぁ~~~~~…………まだ、ですの?」
月が浮かび上がる晩、彼女は憂いを持った瞳で月を眺めながらそうこぼした。
月明かりに照らされるその姿は美しい金髪と合わさって、まさに月の女神と名乗り上げても良いくらい美しい。
着ている服が少し露出の激しいネグリジェというのが卑猥な感じをさせるはずなのに、何故か神秘的な雰囲気を醸し出しより美しさに磨きをかける。
まさにアフロディーテと言っても良い。
それ程彼女は美しかった。
しかし、そんな彼女の瞳は悲しみと憂いに満ちている。
何せ未だに彼女の最愛の男が帰ってこないからだ。
彼女は知っている。それこそ周りの人間達よりも今回の事について知っている。
その男が一週間以上学園を公休している理由も、その男がどこに行って何をしていたのかも、すべて知っている。
それは決して人に言えるものではない。公に人間が禁忌とすることをやってきましたなどと言えるはずがない。それを知っても尚、彼女の意思は、その想いは変わらない。
もう昔の自分とは違う。彼女はその男と出会って、色々と教えて貰って経験して、そして惹かれあって…………恋仲になった。
だから彼女が待つのは、世界有数の化け物でもなく、世界の常識を粉砕した超人でもなく、ただの最愛の恋人である。
男が今回の件でどうなったのかは知らないし分からない。でもその心に絶望の二文字は存在せず、あるのは絶対に生きているという確信。
だから彼女は待ち望む。恋人の帰還を。
そんな彼女はもう一週間も待っているが、その報せは一向にこない。だからこそ、ずっと待ち焦がれていた。
しかし、そろそろ就寝しないと明日の学業に支障を来しかねない。そう考えてベットに就こうとする。
しかし、そんなお嬢様の足をある音が止めた。
コツン…………コツン………。
まるで小さい何かが何かにぶつかる音。それは確かに窓の方から聞こえてきた。
そちらの方に急いで顔を向けると、何やら小さい小石のような物が窓にぶつかっていた。
彼女はそれに気付くや否や、少し駆け足気味で急いで窓へと近づき窓を開けた。
窓を開けた先に待っていたのは、見慣れた男の顔である。
「よぉ、お嬢様。月が綺麗だな」
彼女にとって大胆不敵にして絶対に安心できる声。その絶対に信頼できる優しい声に彼女は目が潤み始めてしまう。
でもここで泣いてしまってはみっともない。だから彼女……セシリアは彼に向かって強がって見せた。
「えぇ、とっても綺麗ですわね、レオスさん。それよりそのお言葉は所謂に日本文学の」
意味が分かり顔が熱くなるセシリア。レオスからの告白というのは数えられる程に少ないので、こうして気持ちを伝えられることが嬉しくてたまらなかった。
そんな彼女の心情を知ってなのか、彼………レオスはニヤりと笑う。
「その通りの意味でもあるよ。お嬢様は博識だねぇ、こんなことさえ知ってるんだからよぉ」
レオスはそう答えながら窓へとより近づいて行った。
そんなレオスにセシリアはからかうように笑う。
「だってそんなに素敵な台詞、そうはありませんから。知っていますの? 女子が憧れる台詞のなかでもそれは上位に入る名台詞ですのよ」
「そこまでは知らなかったなぁ。知ってるのは日本の夢見がちな偉人がご自分の御国風に意味を隠したってことだけだ。日本人ってのはシャイなもんだよなぁ。こんな台詞、普通に言われたんじゃ絶対にわからねぇってのに」
少し皮肉の籠った物言い。だけどそれは嘲笑っているのに何処か温かい。
そんなやり取りが出来るのはセシリアにとって一人だけ。
そして彼女はついに我慢できなくなったのか、
「えいですわッ!」
窓の外に居るレオスに向かって飛び込んだ。
流石のレオスもこれには驚いた。いつもはもう少しお淑やかなセシリアがこうも活動的に動くとは思わなかったからだ。
咄嗟に胸に抱きしめると、レオスは胸の中にいるセシリアに笑いかけた。
「まったく、いつからお転婆姫に転向したんだ、お嬢様? まぁ、そんな所も可愛いがね」
「私、待ち遠しかったんですからね……レオスさんが帰ってくるの。だからこれぐらいは大目に見て下さいな。うふふふふふ」
レオスに抱きしめられ、セシリアは顔をとろけさせながら彼の胸にうずめる。
「久しぶりのレオスさんの温もり……香り………」
まるでアルコールに酔ったかのようにうっとりとした顔でレオスの抱擁を感じるセシリア。そのセシリアに向かってレオスは仕方ないなぁといった感じに彼女の頭を優しく撫でる。
「お嬢様はいつから甘えん坊になったんだ? 可愛すぎて癒されちまうよ」
「だったら好きなだけ癒されて下さいな。今までずっとお疲れだったんですから」
その後はしばらく抱きしめ合ったまま二人は佇む。
そして月光に照らされた二人の顔は自然に近づき……………。
「ん……」
唇が合わさった。
そのまま二人はしばらく唇はくっついたままであり、セシリアは胸のときめきに頬を赤らめながら幸せを噛み締める。
そして唇が離れると共に、彼女はきっと今までの人生で一番幸せだということを感じながら最高の笑顔でレオスに言った。
「おかえりなさい、レオスさん。私だけの騎士様」
その言葉にレオスは少し苦笑しつつ答える。セシリアにとってそう見えるのだろうが、レオスにはその称号はあまりにも『可愛らしい』。彼の称号なら『騎士』と言うよりも『狂戦士』の方が相応しいだろう。それは自分が一番分かってる。
それが分かるからこそ可笑しくて、自分のことをそう想うセシリアがより愛おしく感じる。
だから彼女の気持ちに沿って、レオスは答えた。
「あぁ、ただいま、セシリア。俺だけの大事な大事なお姫様」
そして再び二人は重なり合い、二人だけの世界は幸せに満ちていた。