物静かな室内にカキンッって金属の冷たい音が響き渡る。
それまであれだけヒートアップしていたイチカの野郎も一体目の前で起こったことに頭が追いつかないらしい。鳩が豆鉄砲食らった面ってのを如実に表してやがった。
そして等の本人であるデュノアも信じられねぇて面のまま固まってる。
そんな二人の間抜け面を見て、オレは堪え切れなくなり爆笑しちまった。
「っくっくっく………あっはっはっはは!! おいおい、何だよその間抜けな面は。あまりにコメディ過ぎて腹が痛ぇ、ひっひひ!」
「な、な、な…」
「え、いや、何で!?」
オレの笑い声に反応してイチカとデュノアの二人はやっと現実に戻ってきたらしい。
そこで今まで真面目だったイチカの野郎が喰ってかかってきた。
「おい、いきなり何するんだよ! そんなものを突き付けて!」
「あぁ? 確かにこいつは安もんだが本物だぜ。弾は抜いてあるがね」
「そういう問題じゃない!」
どうやら奴さんはオレがやったことが気に食わなかったらしい。
マジでガチにカンカンになりながらオレを睨みつけてきた。つっても、お子様のお怒り顔なんてもんが怖いわけもないがね。
「俺が言いたいのは、そいつを突き付ける前の言葉だよ! いきなり何言ってるんだ、お前は! なんで助けるはずのシャルルに向かって死ねなんて言うんだ!」
どうも情操教育に悪いってんで怒ってるらしい。流石は日本、教育が結構なことで。
そう思ってたら奴さんは更に気に食わなかったのか、顔をテールランプみたいに真っ赤にして怒りだす。見てて面白れぇが、あまりそうしてると奴さんが爆発しちまうんで勘弁しておこうかね。
あぁ、それと皆に予め言っておくが、これはIFってこともあってこの部屋にお嬢様はいないんだ。ここはオレの一人部屋っていう本家よりも優遇された扱いってわけだ。ちょっといいよなぁ一人部屋。まぁ、監視カメラに盗聴器のオンパレードなわけだがね。
そんな皆に分かる説明をしたところで本題に戻ろうか。あまりイチカ達を放置しておくのは可哀想だからなぁ。
キャンキャン吠えているイチカに向かってオレはとある質問を問いかける。こいつは結構重要な事だ。
「ところでイチカ。お前さん、『どこまで』デュノアを助けるつもりなんだ?」
「はぁ? それってどういう意味だよ?」
オレの質問の意図に気付けないイチカはお怒りのご様子のまま問い返してきた。
おいおい、結構重要な問題なんだから落ち着けっての。
「少しクールになろうかボーイ。この質問は結構重要なもんなんだぜ。こいつの答えってのは今後の施策の根本になるもんなんだからよぉ」
「ッ!? わ、分かった……」
奴さんも流石に自分がガキ丸出しだったことに気付いたようで、とりあえずは落ち着かせようとしているようだ。
そこで改めて答えを聞いてみると、奴さん何当たり前のことを言ってるんだって面で答えてきたよ。
「どこまでって……全部だ、シャルルの取り巻く環境全部から救いたい! いくら実の親だからって子供をそんなふうにして言い訳ないだろ!!」
実に正しい好青年らしい答えにオレはほとほと呆れ返っちまう。
いや、年頃の青春に燃えて夢見る男の子って奴だったらこの答えは望ましいんだろうさ。まさに漫画やアニメの主人公ってのはそんな感じだ。奴さんはまさにヒーローってやつなわけだよ。
だがなぁ……世の中ってのはそんなお花畑みてぇに甘く綺麗なもんじゃねぇ。
そんな甘いお言葉で世の中が回せるんだったら、本当に世の中皆ハッピーで幸せにあふれかえってるんだろうよ。そんときゃオレ等は廃業だがね。
だからオレは大人としてこいつらに世間様の答えってのを教えてやらないといけねぇなぁ。
「お前さんの夢は分かったが……世の中そんな甘い夢が通ることは残念ながらねぇ。だからはっきりと言っちまえば、お前さんの望みは叶わない。それをまず最初に言っておくぜ」
「なッ!? そんなのやってみなきゃ分かんないだろ!」
「分かり切ってるよ。お前さんはデュノアに時間稼ぎの方法を教えたんだろ? だったらデュノアの今の『状況』も分かってるはずだ。それとも……分からずに助けるなんて抜かしたつもりかい?」
オレの言葉にイチカは何のことだって問い詰めてきた。
どうやら奴さんはマジで分かっていないらしい。主人公ってやつは格好良いことを抜かす割に考えなしな奴が多いのかねぇ。
そんな主人公様に理解しやすいように講義を始めようか。
「まず分かっていないようだからイチカにも分かりやすいように説明しようか。あぁ、勿論デュノアも聞けよ」
「う、うん………」
「あぁ、ムカつくけど頼む」
「よし、そうこなくちゃなぁ。さて、まず現在のデュノアの立ち位置だが、これがまた微妙に厄介だ。IS学園の1年生シャルル・デュノア。フランス代表候補生にしてデュノア社専属の操縦者。そして……その実態はイチカの情報を盗みに来たスパイだ」
その言葉に暗い顔をするデュノア。別に責めてるわけじゃねぇんだからそんな顔するなよ。
イチカが怖い顔で睨んでくるしよぉ。
「んで、そんな御大層なデュノアは更に複雑な問題を抱えてるわけだ。社長の愛人の子だとか母親がもう死んで墓の下とかなぁ。そんな可愛そうな悲劇のヒロインであるお姫様を助けたいと我らが騎士様であるイチカはこう言うわけだ。『そんな可愛そうなお姫様を助けたい』ってな」
「それのどこが悪いんだよ」
「悪いとはいわねぇが、考え方が激甘だ。そもそもの前提が間違ってる。騎士様はまず知らなきゃならねぇのはお姫様が無罪じゃねぇってことだ」
「無罪じゃないってどういうことだよ!」
どうもそこから話す必要がねぇらしい。本当にイチカのお脳はハッピーらしい。
「いいか騎士様、こいつが何だったのか思い出してみな。『男子生徒としてこの学園に転入』してきたんだぜ。しかも真実は女って以上、そいつは嘘ってことになる。ってことは、当然世界に向けて発信すべき情報そのものが虚偽のものになるわけだ。んで、そんな嘘を言ってまでやろうとしたのがお前さんの情報の入手。平たく言えば盗んでこいってこったな。最悪ハニートラップもしてこいって言われてもおかしかない。まぁ、そこの初な寝んねのお譲ちゃんはその様子からみてそこまでは言われてないらしいがな」
オレの言葉に顔を真っ赤にし『ハニートラップ』について考えてるらしいデュノア。こんな反応するようじゃぁマジでその線はないらしい。本当にこいつの会社はマジで何を考えてるのやら。
「それで判明した罪は二つ。身分偽装と盗難未遂の二つって所だ。流石に二つもあって罪がねぇとはいえねぇだろ」
「そんなの、悪いのはやらせている親じゃないか! シャルルは無理やりやらされてるってだけなんだぞ!」
「イチカ、お前さんの気持ちも分からなくもないが、世の中はそんな同情的じゃねんだよ。本人の意思に関わらず、それに関与しているって事実は覆しようがない。それも当人であり中心人物となれば尚更にな。だから実際はどうあれ、デュノアは今回デュノア社が起こしたお間抜けな茶番の中心にいることは事実だ。そこからデュノアだけを救い出すってのはそれこそ奇跡でも起こらなきゃ無理だ、神様はそこまで暇じゃないがね。さて、そこでイチカ……このままじゃどうにものっぴきならねぇデュノアを助けるってことがどういうことなのか、お前さんにわかるかい?」
オレの言葉に納得がいかねぇって怒るイチカだが、考えても答えが出ないらしい。そこで今度はデュノアの方に話を向ける。
「お前さんはこの事実を再確認しどうすればいいと思う?」
「わ、分からないよ。確かに君の言うとおり、僕は主犯として考えられている。そこで無実を主張しようとも証拠がない以上どうしようもないし、イチカの言葉は嬉しいけど僕自身助かるってビジョンが浮かばない」
デュノアは少しは理解しているらしい。
いや、寧ろ考えたくないってだけで、自分の現在の状況ってのが分かってはいるんだろうよ。
そんなデュノアとイチカに向かってオレは答えを発表する。
「んじゃ答えの発表だ。詰まる所、今回のバカ騒動の渦中にいるデュノアだけを助け出すのは不可能に近い。仮に今回の件で正体を明かして虚偽の罪やスパイ容疑がなくなっても、奴さんはこれからもずっと『デュノア』社に振り回される。それこそ一生な。お前さんが大っ嫌いな親父とは切っても切れない関係だ。つまりイチカの言う『すべて』ってのは、デュノアに関わるすべてってことだ。自分のそれまでの経歴も血のつながりも何もかも、それらをすべてをだ。そんなこと、出来ると思うのか?」
「そ、それは…………」
その答えに難しそうに唸るイチカ。
この問題は結構複雑に見えるが、蓋をあければ単純だ。
ただ、そのことがこいつ等の頭にないだけ。
だからそいつをオレは示す。
「だからこそのさっきの銃の答えだ。現在の状況にすべて喰い込んでしまっているデュノアがそのまま無傷で助かるのは不可能。何かしらの痛みを伴なわねぇ限りがまず出来ない。そのままやれば待っているのは親父のお人形だ。だったら助かる方法は二つしかねぇ…………」
そこで一端言葉を切る。
きっとこいつ等の頭の中にゃぁそいつは考えられないことだ。
だが、もっとも単純で簡単な答えだよ、こいつは。
「デュノアを助けるには、『会社の人間すべてを殺し尽くす』か、『デュノア自身が死んだことにすればいい』。死人を縛る鎖なんてねぇんだ、死ねば自由になるんだよ、人間ってのはな。その立場も身分もすべて失う代わりに、何者にも束縛されない自由が手に入る。だからさっき、オレはデュノアを殺したんだよ。『死ねばもういない』んだから、会社に縛られるいわれもねぇだろ」
その答えにやっとデュノアは分かったらしく、イチカに分かるように声を上げた。
「つまり君は………僕の死を偽装しようって言いたいの!」
「正解♪」
やっと答えに行きついた頭の悪い生徒に先生は花丸をくれてやるよ。