恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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今回はクロスです。
作者が知る限り一番怖い女の人ですね。


if もしもシャルロットを助けるなら その3

 やっと話の内容を掴んだらしいデュノアが実に気まずそうな面で何とかイチカに今回の内容を分かりやすく丁寧に教えてやると、イチカはそれでも納得いかねぇって面で怒ったままだ。

まぁ、奴さんは良い奴なんだが、如何せん世の中のことを知らないお坊ちゃんだ。これを気に世の中のことを勉強して少しでも身につけてくれればチフユも少しは肩の荷が下りるだろうよ。

まぁ、そんなお子様を一々宥めてたら切りがないんでね。ここから先はもっと『こっち』側としてお話をさせて貰うとしようかねぇ。

 

「デュノアが死ねば、確実に会社や親父さんとのつながりは切れるだろうよ。何せ死人には何もしようがねぇんだからなぁ。とはいえ、死ぬってのは生半可な事じゃねぇ。特に偽装するのはな。ただ死ぬだけだったら頭に弾を一発ぶち込むだけで終わるもんだが、別にデュノアは自殺をお望みじゃねぇだろ。あくまでも助かりたいんだから殺すのは論外。つまり死んだっていう事実があればいい」

 

その言葉に分かり切っているが複雑な面をする二人。

まったく、別にそんな特別な事じゃないんだがね、こういうのは。

だから少し安心させようか。

 

「デュノア、安心しな。世の中お前さんみたいな感じの奴は結構多い。だからその手御用達の連中もいるんだよ。『逃がし屋』や『偽装屋』なんて連中がな。連中は文字通り今までの経歴やら何やらを偽装し別人としてまったく手のかからない所へと対象を逃がす。だから今回の件はそいつらに頼もうと思う。まぁ、金は掛かるがね」

 

そう言ってやると………あれ、可笑しいねぇ。

何やら余計に不安そうにしてるよ、デュノアの奴。どうやら手前らしくない親切は身を結ばないらしい。

 

「お前が何とかするんじゃないのかよ」

 

デュノアの様子を見て代わりにイチカが代弁してきた。

 

「おいおい、それは無理ってもんだろ。オレは傭兵だぜ。殺す殺されるで飯食ってる人種だ。それ以外の専門職をやれってのは無茶振りだよ。お前さん、そいつは中華料理人にパテシエの真似をしろっていってるのと一緒だ。似てるようでまったく違う。いくら『こっち側』でも職業区分はしっかりしてるっての。だから専門家に頼むのが正解なんだよ」

 

そう答えてやると、ぐぬぬって面をするイチカ。

手前で助けられないことが心苦しいって感じだな。何事も自分で出来たら苦労はしねぇが、そうもいかねぇから色々な職があるんだよ。

 

「まぁ落ちつけって。ちゃんと信用できる所を仲介してやるし、当然その話にオレも立ち会ってやるよ。でないと何も知らない可愛い仔羊はあっという間に体中の毛を毟りと取られて挙句は精肉されて骨一つ残りそうにないからな」

 

その言葉に何故かデュノアは顔を真っ青にする。

さっきの言葉になにか怖がらせるようなもんがあったか?

そしてそれまでデュノアの代弁をしていたイチカが突っ込んできた。

 

「ちょっと待て。そんな危ない連中にシャルルを任せるってのか。っていうか、何処にそんな連中が信用できるのか俺にはわからないんだけど」

 

怒りの籠ったジト目で睨んできたよ、こいつ。

そうは言ってもなぁ、事実だしねぇ。

 

「腕は確かなんだよ。金もちゃんと払えば確実に仕事をしてくれる。ただ、その後のアフターケアがないってのと、お上りさんは絶好のカモなんで毟り取ろうって考えるだけだ」

「おい、マジで駄目だろ、そこ!」

 

ナイス突っ込みと言わんばかりに突っ込むイチカ。

 

「お前さんが言うことももっともだが、向こうってのは親切って言葉は埃の一欠片もねぇんだよ。騙される奴が悪いってのが常識だ、騙すのは自由だしな。ただし、そこでオイタが過ぎると目をつけられて翌日には魚のえさになっちまうから連中は用心深い。騙して良い奴とそうじゃない奴の違いを明確にかぎわけるからなぁ。だからオレが立ち会うんだよ」

 

それを聞いて納得するデュノア。

 

「だからなんだね。まぁ、確かに君は有名だものね。僕に与えられた仕事も一夏のデータを奪えってだけだったし。君のデータはって聞いたら会社の人が顔を真っ青にしていたもの」

 

どうやらフランスにもそれなりに名前は浸透しているようで。

あまりあっちには手を出してはいないんだがね。名が知れ渡ってるってことは宣伝はばっちりってこった。重畳重畳ってな。

 

「そう、こっれでもそれなりに顔は知れ渡ってる。だからオレが立ち会えば連中でも馬鹿な真似はしねぇはずだ。してもらっても結構だが、その後そいつはこんがりとしたフライドチキンに早変わりしてもらうつもりだからどっちがお利口なのかは、考えなくても分かるよな?」

「あ、あはははは………」

 

苦笑するデュノアを見て、まぁこれでとりあえず落ち着きはしただろうと判断する。

イチカの野郎もとりあえずこれで納得しただろうよ。

後はそのまま電話で話をするだけだが、それだけじゃぁ………つまらないだろ。

 

「さて、これでデュノアをこの現状から脱出する術は分かったわけだ。これをやればもう二度と元の場所には戻れねぇ。故郷も捨てて、それまでのすべてを捨てて、何もかもをゼロにした状態で改めて再スタートってわけだ。精々残せるのはお前さんの本当の名前くらいなもんさ。んでだ、それでこの問題は終わりになるわけだが………これでいいと思うのかい、デュノア?」

「それってどういうことなの?」

 

オレの言葉にデュノアは不思議そうに首を傾げ始める。

もう問題は解決したって感じなのに何故? って感じだ。

どうやら奴さんは随分と謙虚らしい。駄目だぜ、こう言う時はもっと欲ばらないと。

 

「お前さんを良いようにコキつかいふるしてくれた会社をお前さんは許せるのかって話だよ。いいか、確かにお前さんは当事者だが被害者だ。被害者としては、今までやってくれたお礼をする権利くらいはあるもんだ。世間様でもそいつは黙認されてる。だからお前さんは『デュノア社』に対して何か思う所はないのか? 社長との周りの奴等は死ねでも、会社全体が酷い目に遭って倒産しろでもいい。何かそういう文句はあるかい?」

 

その問いかけにイチカも乗ってきたようで、何かないのかデュノアに促すと奴さんは少しだけ申し訳なさそうな、そんな顔をしながら答えてくれた。

 

「確かにそう思うことはあるけど………でも、考えたって仕方ないし、僕が何かしたって何かが変わるわけがないから」

 

ん~、おしいねぇ。どうやら奴さんは最強のジョーカーを掴んでるってことに気付いてないらしい。

だったら…………。

 

「そんなことはねぇよ。お前さんは今、まさに最強のジョーカーを握ってるんだ。そいつは使い所さえ間違えなきゃまさに会社一つ潰すことも簡単にできる凶悪な代物だぜ。お前さんが使わないって言うんだったら丁度いい。オレがお前さんの代わりに役立ててやるよ。丁度偽装やら何やらには金がかかるし、『アレ』にくっついて少しだけ分け前を分けて貰ったって罰は当たらねぇだろ」

 

そう答えると、オレは早速携帯を取り出しあるナンバーにかけ始める。

その最後のキーを押す前に、デュノアがこれから起こることに不安そうな面で声をかけてきた。

 

「あの…………どこにかけるの? っていうか、一体何をする気なの?」

 

その問いかけにオレはニヤリと笑いながらこう答えるのさ。

 

「オレが知る限り、世界でおっかない女ナンバー3の中に入るお人の所だよ。3人揃えばグラウンドゼロって気分になるくらいで正直ちびりそうになるくらい怖い人の所さ」

 

そしてコールを押すなり、すぐに繋がった。

 

『此方ブーゲンビリア貿易です』

「あぁ、オレは巨人の大剣のレオスって者だ。悪いが『ボリス』に繋いでくれないか。大剣のレオスって言えばすぐにつながるだろうからさ」

『は、はぁ…………少々お待ち下さい』

 

そのやり取りで少し待つと、すぐに繋がった。

 

『一体何の用だ、嵐の小僧』

 

おぉ、相も変わらずおっかねぇ声。チフユがまだ可愛く思えるくらいその声はオレの身体を震わせるよ。

そんな声にオレはニヤリと笑みを浮かべつつ返す。

 

「まさかアンタにすぐ繋がるとは思わなかったよ………バラライカさん。何、ただ暇だから話をしに来たってわけじゃない。たださ……上手くいけば大もうけできる話があるから仲介にきたんだ。上手くいけばフランスの連中の真っ青な顔が見られるくらいのとびきりのネタだぜ。あぁ、勿論悪だくみってわけじゃない。こいつは可愛そうな女の子の正当な復讐ってやつで、そのお手伝いだよ。どうよ、この話……聞いてみるかい?」

『………話を聞かせて貰おうかしら』

「ありがとよ」

 

こうしてオレは世界でも有数のおっかない女との会話を始めた。

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