さっそく授業を受けてみたが、こいつは中々にハードだな。事前に資料を読んでなきゃ目の前のイチカみたいに目ぇ回してたぜ。
「ここまでで分からない人、いますか~」
マヤがそうオドオドした感じにそう聞くと、さっそくイチカが手を上げていた。
「どこが分かりませんか、織斑君」
「まったく全部わかりません!」
「ぜ、全部ですかぁ~!」
さっそく全部分からないと言われマヤが泣きそうになっていた。まったく、呆れるくらいこいつは正直者だな、たく。見ててすっきりするくらいの開き直りっぷりだ、政治家も真っ青ってな。
「ほかの皆さんは大丈夫ですか~」
マヤは泣きそうになるのを堪えながら他の奴らに確認を取るが、序盤でわかんねぇなんて抜かすアホはいねぇみたいだな。
「え、マジで!?」
そうイチカは驚くが、その台詞はこっちが言いたいぜ。
「この馬鹿者が! 前に渡した入学案内の資料はどうした? 必読と書いてあっただろうが」
「え、あの電話帳みたいな奴・・・・・・あ、ごめん、雑誌と間違えて捨てちまった」
そして眉間にマラリア海峡並に深いしわを寄せたチフユにぶっ叩かれていた。
イチカの奴は痛みでうずくまってやがった。おいチフユ、みんなが小動物みてぇに怯えちまったよ。
「この馬鹿はともかく、ハーケン。貴様は大丈夫なのか?」
「ああ、俺は問題ねぇよ」
「え、マジかよ!? よくあんな電話帳みたいなの読めたな」
イチカの野郎が信じられないような目でこっちを見て来やがった。
「おいおい、あの程度ちゃんと読めないと世間に出て苦労するぜ。ROE(交戦規定)とか面倒くさいのとかもあるんだからよぉ、ミスれば手前の『命』が危なくなるんだからな。あの程度たたき込めねぇと戦場じゃすぐにくたばっちまうよ」
俺はそうイチカに言うと、この野郎はROEって何だ? と間抜け面かましてくれやがった。おいおい、最近のガキはROEすらしらねぇのかよ・・・・・・て俺が変なだけかそれは。いけねぇなぁ、つい人ってのは自分を基準に考えがちになっちまう。
俺は仕方ねぇと思いながらROEについて説明をする羽目にあった。
気がつけば授業を中断して俺のROEの講義に変わってやがった。
仕事しろよ教師共。
そして説明を終える。
「分かったか、お前等。滅茶苦茶に煩わしいことだが、こいつがあるから偏に『安全で安心な戦争』ってのが出来んだよ。まったくもってうぜぇったらありゃしねぇ。でも守らねぇとその場の全軍、それこそクライアントにすら後ろから討たれることになっちまう。まったく、ROE様々だぜ・・・・・・と言うわけだイチカ。これを全部覚えることに比べりゃあんな量なんざ一週間ありゃ覚えられる」
イチカの野郎はへぇ~っと関心していやがった。
こいつ、ちゃんと理解してんのかね~、昔仕方なく破った時はそりゃもう大変だった。
その紛争地域の全軍相手にゲリラ戦やら何やら、何でもやった。あんときはまだ若かったからなぁ、余裕ってもんが無かった。気がつきゃ辺り一面焼け野原、、地面は血で川が出来上がってた。そんときゃ鉄臭くて仕方なかったな。
あれ以降はできる限り守るようになったんだったな、いや、マジでおっかねぇよ、全軍と追いかけっこしたのはよぉ。何人死んだんだか、何人殺したんだか、まったく覚えてねぇや。まぁ、殺した数が五倍以上なのはわかんだけどな。
「まぁ、そういうわけだ。織斑、すぐに新しいのを発行してやるから一週間で覚えろ」
チフユは咳払いを一回して本筋に話を戻した。
イチカの野郎は不満を漏らしていたが、このおっかねぇ姉には頭があがらねぇらしい。渋々了承していた。
そして授業が終わり休み時間。
俺はイチカとだべっていた。というかこいつ以外に話し相手がいねぇんだよ。
さっきの授業で俺が皆に与えた印象ってのは『博学な人殺し』ってもんらしい。博学が付いたくらいで後はまったくかわらねぇ。まったく傷付いちまうぜ、俺の心は意外と繊細なんだぜ(笑)
「ち、ちょっとよろしくて」
だべっている俺達にやっと声を掛けてきた奴がいることに内心驚きつつも、どんな奴かと見てみたら、何っつうか・・・・・・お嬢様だった。
長い金髪に気の強そうな青色の瞳、気品がただよっくるいかにも良さそうな育ちをしたお嬢様。
結構好みなタイプだった。
「何か用か?」
「まぁ、何て気品が無いお返事なの!?」
イチカはそう言われ、俺はそれを聞いて爆笑した。
おいおい、こいつに気品なんて求めんのは間違いってもんだろ。そいつはキリストの神に信じれば救われるって言われたら、だったら金をよこせって言ってるもんだぜ。あぁ、おかしすぎて腹が痛てぇ。
「んで誰だっけ、お前さん」
「わ、私の名前を知らないんですの!?」
知らねぇから聞いたんだろ。
「俺は全員の紹介が終わってから来たからなぁ、全く知らねぇんだよ。つう訳でもう一回紹介してくんねぇかな、レディ?」
そうかしこまった真似をして笑顔(やはり獰猛なそれ)で聞くと、目の前のお嬢様はタジタジと少し俺に怯えつつ自己紹介を始めた。そんなに怯えられたらお兄さんは悲しいぜ(笑)
「わ、私はセシリア・オルコット、イギリス代表候補生にして入試主席ですわ。知らないんですの!?」
そう反応するお嬢様にイチカが間抜けたことを言いそうになりやがったから急いで口を塞いだ。
「その言い方じゃ自分が知られてて当たり前みてぇだな」
「な、何が言いたいんですの、あなた」
イチカには強気で出んのに俺には少し及び腰なんだよなぁ、こいつ。前から言ってるけどよぉ、差別ってのは良くないぜ。
「んじゃお前さんに聞くが、俺の事を知ってるか?」
「知るわけないじゃありませんか」
「そーだよ、そういうことだよガール。いいか、俺は自分で誇張する気はねぇが、その筋じゃそれなりに有名だ。御蔭でファン(刺客や賞金稼ぎ)がひっきりなしにきて困ってんのさ。でもお前さんは知らないだろ。俺もお前さんのことを知らない。ごく最近ISに関わり始めた俺等はそこまで詳しく知らねぇのさ。だから自分が知られてるって前提は俺等には伝わんねぇんだよ。わかったか、ガール」
俺がそう言うと、気負けしたのか少し怯えると標的をイチカに定め直して話始めた。
普通の奴なら面倒だっていうかもしんねぇけどよぉ、俺はこういうのも嫌いじゃねぇ。
「わたくしは優秀ですからあなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ。わからないことがあればまぁ、泣いて頼めば教えて差し上げてもよろしくてよ。なにせわたくしは入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから!!」
「ほお、そいつはすげぇな」
俺が感心して言うと、イチカの野郎はほけっと言いやがった。
「あれ、俺も倒したぞ教官」
「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
お嬢様はさっそく血相替えてイチカに食いついてきた。
イチカは動じずに平坦と答えた。
「倒したというか、いきなり突っ込んできたのをかわしたら壁にぶつかって動かなくなってな。ハーケンの方は?」
するとこっちにもそのおっかない顔を向けて来やがった。
「ああ、俺は引き分けだった。チフユの打鉄をぶっ壊したまでは良かったんだけどなぁ、まだ調整中の機体だったもんだから壊れて機能停止しやがったんだ、あのポンコツ。おかげで引き分けって採点になったわけだ」
そう言うと、お嬢様は信じられないようなものを見る目で俺に聞く。
「あ、あの織斑先生と戦ったんですの!?」
「俺の相手に、て委員会直々にな。まったく、こっちはIS素人だってのにいじめだぜ、こいつは」
俺がやれやれってな感じに話すと、お嬢様はかなり興奮しているみてぇだ。そんなに気に障るようなことを言った覚えはねぇんだけどな。
「おいおい、ちっとは落ち着け。可愛い顔が台無しだぜ、お嬢さん」
そう言うとお嬢さんは顔を真っ赤にしつつも俺に食ってかかってきた。
「これが落ち着いていられますか!?」
言い切ると同時にチャイムが鳴り始めた。
「んじゃこの話はここまでだな。中々に楽しかったぜ、お嬢様よ」
「ふ、ふん、話の続きはあらためて、よろしいですわね!!」
そう負けん気にお嬢様は言うと自分の席に戻っていった。
中々に楽しかったぜ、セシリア・オルコットよぉ。さっきまで退屈だったからな、また楽しませてくれよ。