恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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今回、セシリアは電話で少し出ます。


第三十七話 本来大勢でやることを一人でやるのはしんどい

 旅館の女将に挨拶も終えたってことで、さっそく旅館内に入る俺達。

マヤは大層はしゃいでるみてぇで、すっげぇ浮ついてた。

これでオレよりと年上ってんだから、驚きだよなぁ。とてもそうには見えねぇよ。

 

「ハーケン君、どうですか! これが日本の旅館ですよ!」

 

まるで自分の事みてぇに紹介するマヤ。

おいおい、オレは別にオノボリさんじゃねぇぞ。別に日本だって初めてじゃねぇしな。

勿論、仕事だけどなぁ。

 

「山田さん、楽しんでいるのは分かりますが、もう少し落ち着いたらどうですか。あまりはしゃがれては示しがつきませんよ」

「そ、それはそうですけど………って、何でまだそんな話し方なんですか?」

 

少しむくれた感じで聞いてくるマヤに、オレは作り笑顔を浮かべて答えてやる。

 

「いいですか。今、ここにいるのはレオス・ハーケンではなく、IS学園の用務員『轡木 十蔵』の親戚の轡木 啓介ですよ。まったくの別人なのですから、間違えないで下さい」

「た、確かにそういう事になってますけど、別にそこまで気にすることでもないと思うんですけど」

 

確かにマヤの言う通り、こんなカタッ苦しいしゃべり方はとっととやめてぇ。

だが、そうもいかねぇのがお仕事ってもんなんだよ。

ここで重要なのが、『この旅館に来たのが、山田 真耶と轡木 啓介』ってことだ。

もしレオス・ハーケンが来たなんて情報が漏れたら外からこっちにピクニックしようとしてる連中、ハイキングコースを変えかえねぇんでなぁ。

そいつはちっとばかし悪い。出来れば奴さん達にはちゃんとしたコースを廻って貰いてぇのさ。

だからこそ、朝から遠回りしてどこぞの駅のトイレで着替えてからマヤと合流。まったく見ず知らずの人間を装わなきゃならなかったってわけだ。

電車内じゃ流石IS学園ってんで、特別な個室つきの車両だったからいつも通りのしゃべり方をしてたんだよ。一応盗聴されてないかも調べたが、されてねぇことで何よりだ。

朝、マヤに会った時なんて、最初は誰かまったくわからねぇんで凄くオドオドしていたねぇ。見てて吹きそうになるのを堪えるのに苦労したぜ。

その後正体を明かした時のマヤの面と来たら、イチカの野郎並に笑えたよ。

マヤ自身、今日の下見にオレが動向するって話は爺さんから聞かされてただけに、全然見た目が違うから驚いたんだとさ。

何で動向するかの理由に関しては、爺さん曰く『これも下見です』だってよ。確かに下見ではあるな。仕込みも込みで。どうせマヤのことだから、言葉通りにしか受け取ってねぇんだろうなぁ。

 

「朝にも説明したので、この旅館から出るまではこの状態です。どこに目があるか分かりませんから」

「いつもそのくらい真面目だったらいいのに……」

「それは言いっこなしですよ、山田さん」

 

そんな風に二人で話し合いながら予約していた部屋へと向かった。

最初はマヤの部屋だ。

 

「うわぁ、広いですね~! あ、ここからの景色も綺麗ですよ。ハーケン君もどうですか」

 

部屋に入って早々テンションがMAXに上がるマヤ。

オレは呆れつつ返事を返す。

 

「山田さん、お仕事で来たんじゃないんですか?」

「うっ!? そ、それはそうですけど……た、たまには他の先生方の目から外れてはしゃぎたいなぁ~って……」

 

まぁ、その気持ちは分からなくはねぇな。あんなおっかねぇチフユとかと常に一緒にいるんだ。

たまにはハメも外したくなるもんだろうよ。オレだったらストレスで速攻禿げ散らかって胃に穴が開くだろうさ。それを耐えてるんだ、ある意味立派だろうよ。

 

「程々にして下さいね。僕は僕でそろそろ研究しないといけないので、これで失礼します」

「あ、はい、分かりました~」

 

気がつきゃマヤはもう座椅子に座って茶啜りながら和んでやがった。

いつも以上なマイペースっぷりに言葉を失うよ。これが鎖から解き放たれた人間の動きってことなんだろうかねぇ。

そんなマヤの部屋から出ると、今度はオレに宛がわれた部屋へと向かった。

部屋に入って最初に目に入るのは、綺麗な装飾でも風流な風景でもねぇ。

でかいトランクが十以上置いてある光景だ。

この中にあるもんがオレの『研究道具』ってわけさ。

部屋に入ってすぐには開けねぇで、まずは部屋の中を調べる。盗聴やら何やらをされてねぇのかを調べると、その後は外から見えねぇように窓や扉を閉め切る。

それでやっとこのトランクを開けることが出来るのさ。

 

「さて、開けるとしますかね」

 

そしてトランクを開けりゃ出てくるのは爆薬銃弾危険物の数々。

 

「えぇ~と……対人地雷に極細金属ワイヤー、それにC4に設置型全自動迫撃砲……」

 

その数に内心ほとほと呆れ返っちまう。

どんだけの量だよ、こいつぁ。これだけで軍の戦闘に介入出来るほどの火力があるぜ。

こいつを一人で仕込まねぇとなるとなぁ………はぁ……溜息の一つでも出ちまうよ。

まぁ、これもお仕事だからやるしかねぇんだよなぁ。

そう思いながら俺は一端その部屋から出ると、旅館の散策を始めた。

何ですぐ設置しにいかねぇのかって? そいつも大事なんだが、まずは旅館の内外部の構造を調べなくちゃならねぇんだ。何処に隠れやすいだとか、どこが脆そうだとかなぁ。資料を見るよりも実際に目で見ねぇとわからねぇことってのは多いんだよ。

それでしばらくぶらぶらと歩きつつも、手元の電子端末に情報を書き込んでいく。

ハァ……こういうのはクロードがお得意なんだけどねぇ。オレや親父はただ突っ込んで行くだけですむから、本当にこういう作業は苦手だ。御蔭でもう何歳も歳をくったように思えちまう。老眼はまだ速えぇってのに。

それでそんな実にクソ面倒臭ぇことを終えたら、今度こそ外に出てあの『研究道具』の設置作業だ。

部屋に戻ってトランクを二つ持って出て歩いてると、向こうから歩いてくるマヤを見つけた。

 

「あ、ハーケン君! その荷物はどうしたんですか?」

 

滅茶苦茶緩んだ笑みでオレに話しかけるマヤ。

服装は既に浴衣ってやつを来てて、これから温泉に入る気満々のようだ。

こいつはつくづく『下見』を楽しんでいるようだ。

 

「ええ、これから外の動植物の研究をしに向かう所なんですよ」

「そうなんですか」

「山田さんはこれから温泉ですか?」

「はい! ここの温泉、美肌効果と肩こり腰痛に効くそうなので! 私、肩が凝ってしかたないんですよね」

 

かなり楽しみみてぇだな。

確かに、その胸のでかいモンぶら下げてれば肩も凝るだろうよ。

おっと、こいつはセクハラになっちまうな。

言わねぇのが花って奴だ。それでいじくるのも悪くはねぇが、マヤの後ろにいるブリュンヒルデ様を怒らすと怖いんでね。

だからオレはニッコリと笑って答えた。

 

「そうですか。でしたら、楽しんで来て下さいね」

「はい!」

 

そう言ってマヤを別れたが、その後ろ姿を見たら弾むように歩いていたよ。このまま後少ししたらスキップでもしそうな勢いだな、ありゃ。

そしてオレも仕事のために外に出る。

そこからが実に面倒臭ぇのさ。

まずは地形の把握。どこから侵入しやすいのか、何処が狙撃しやすいのか、とかな。

海側は教員で固めるって言ってるんで、警戒されてるだろうから心配するまでもねぇ。

オレが外に出てしなきゃならねぇのは、そう言った仕掛けやすいポイントにトラップをわんさか設置することだよ。

 面倒極まりねぇが、そうして臭いポイントに出向いてはトランクにあるモンを使ってトラップを設置していく。それを何往復もしている内に太陽が真上を通過しちまったよ。

まだ半分しか終わってねぇのに、もうこんな時間か。

流石に少し疲れたんで少し酒とタバコで一服してると、携帯が鳴り始めた。

画面を見たらマヤだったよ。一体何なんだ?

 

「もしもし」

『あ、ハーケン君。今どこですか? もうお昼ご飯の時間ですよ。なんとですね、お昼はお昼で豪勢なお刺身定食なんですよ!』

 

どうやら奴さんはその豪勢な昼飯に興奮らしい。

本当に仕事してんのかねぇ~。

 

「すみません、まだ研究の区切りがつかなさそうなので、お昼はいらないです」

『そうですか。もったいないですね』

 

昼飯を断って電話を切ると、腹が減って来ちまった。

しかし飯なんて持ってきてねぇからなぁ……どうするかねぇ。

そんな風に思ってたら、視界の端ににょろにょろと動くモンを見つけた。

そいつを見てニヤリと笑う。

オレはナイフ片手にそいつを捕まえることにした。

そして少しして、いつも持ってるカレー粉片手に皮を剥いだそいつに齧り付く。

生ぐせぇが慣れ親しんだ味ってやつだ。

そのままそいつを囓ってると、また携帯が鳴り出した。

今度は誰だと思ったら、何とお嬢様からだった。

今度はなんなんだかねぇ。

 

「もしもし」

『あ、レオスさん。公欠で出かけていると聞いてましたので、今どちらにいるんですの?』

 

丁度学園は昼休みらしい。

それでお嬢様が電話してきたって訳だ。

 

「ああ、今ちっと野暮用でな。森にいるんだよ」

『森……ですの? それよりお昼は食べたんですか?』

「ああ、いま食べてるよ」

『あ、あの、お昼は何を食べておりますか? その…レオスさんって外でどのようなもの召し上がっているのか少し気になって…』

 

そう答えたら、お嬢様は何を考えたのか、オレの飯について聞いてきたよ。

オレは手元にある囓り付いている途中の白っぽいそれを見て、お嬢様に告げた。

 

「そうだな……チキン…かな?」

『チキン……ですの?』

「ああ、中々悪くねぇよ。たまに食べると美味いもんだな」

 

それを聞いてお嬢様はフライドチキンだと思ったらしい。

電話越しだってのに、凄く食べたがってたよ。曰く、高カロリーで太るから食べられないそうだ。

そうして少し話した後、電話を切った。

お嬢様との会話で心も安まったことだし、頑張って残りも設置しますかねぇ。

そう思いながら俺は残りも設置しようと動き出した。

 

 さっきまで座ってた所には、蛇の頭が転がっていた。

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