そこまで変なんだろうか………?
あれだけあった『研究道具』の数々の設置も終わって、気がつきゃぁもう辺りは真っ暗だ。
いやぁ、久々の重労働なだけに身体に来たねぇ。
さて、これで終わりなんで旅館に帰って温泉に……なんて流れならオレも残りのバカンスを楽しめるもんなんだが、そうもいかねぇのが現実ってもんだ。
設置が終わればその後は見直しと確認をしなくちゃならねぇんだよ。
そんなわけで再び設置場所を廻って確認し、作戦を思い出す。
今回、オレが設置したトラップは旅館全体を覆ってるわけじゃねぇ。
基本的には旅館への侵入を一切許さねぇような意地糞悪りぃトラップ群が敷き詰められてるんだが、それを全部同じように行うのは一人じゃ出来ねぇ。それにそれだけならオレがいる理由がねぇからなぁ。だからその頑丈な城壁の一部に脆く薄い部分を作ったんだよ。
こいつが今回の肝って奴だ。
相手の弱点を突くのが常識なように、施設に攻め入る時にセキュリティーが弱い部分を攻めるのは当然なのさ。そいつが罠って場合もあるから敢えて遠回りする時もあるが、そいつは今回は含まれねぇ。ただの旅館にトラップが仕掛けられてるってのもアレな上に、他の勢力の特殊部隊やゴロツキ共が雁首そろえて一緒に遊びに来るんだ。乱戦は必死になって全員それどころじゃねぇだろうさ。
そうなると必然的に被害が少ないであろう薄い部分を攻め入るようになっちまう。
そこで控えてるのが、このパーティーの主催であるオレってわけだ。
オレはそこで主催者としてお客様(ゲスト)をおもてなしするのが、このトラップの本当の狙いさ。
普通に考えりゃあトラップで任せてオレはゆっくり旅館で酒を飲んでいりゃあいいもんだが、『巨人の大剣』としての仕事である以上、そんな生温い真似は出来ねぇ。
オレ等は傭兵で雇われりゃあ大体の事はする。
だけど一つだけ絶対的な不文律みてぇなもんがある。
それは……
『喩え護衛、防衛戦であろうとも、敵対するものは全て殲滅する』
ってもんだ。
それこそが、『巨人の大剣』を悪名高いものにしてる一端。
牙剝く奴等は全員皆殺しってことさ。
大剣って武器は、斬るための武器じゃねぇ。あれは剣の形をした鈍器だ。その重さと長さを使って対象を『粉砕』する。
『巨人の大剣』が正式に仕事を受けるってことは、その大剣を持って向かってくる全てのものを粉砕するってことなんだよ。
だからこそ、オレはこのパーティーで来てくれたお客様に最高のおもてなしをして恐怖一杯に満足してもらわなきゃいけねぇ。
出来ればみんな天国に行って貰えると、もてなした側は嬉しいねぇ。
爺さんと旅館の女将から聞いた話だと、この辺一帯の地域は臨海学校の時までずっと閉鎖してるらしいから荒らされることはねぇらしい。まぁ、お馬鹿な冒険野郎が遊びに来なければいいけどなあぁ。
そんなわけで他の所も全部確認してオレはやっと旅館に戻った。
やっぱり疲れたねぇ~。それに昼は蛇しか食ってねぇから腹が減ったよ。
丁度夕食の時間らしく、大広間では食事の準備が整ってるって聞いたんでさっそく食いに来たんだが、先客がいたようだ。つうか、今のこの旅館にいるの客は二人しかいねぇんだから、言わなくてもわかるよなぁ。
「あ、ハーケン君。どこに行ってたんですか~?」
夕飯の鍋物を満面の笑顔で突っつきつつ酒を飲んで上機嫌になってるマヤがそこにはいた。
こっちは必死扱いてお仕事に勤しんでるってのに、この副担任様はちゃんと働いてるのかねぇ。
「ご機嫌のようですね、山田さん。お仕事の方は終わったんですか?」
「はい、ちゃんと終わらせましたよ! これで後はもう一回温泉にはいって寝るだけです」
随分と楽しそうにはしゃぐマヤ。
「見て下さい、ハーケン君! ほら、このお鍋なんてお出汁が絶品なんですよ」
そう言いながら鍋を食べるマヤは、本当に満喫してるようだねぇ。
まぁ、せっかくチフユもいねぇんだし精一杯羽を伸ばせばいいさ。
そう思いながら俺も座って出された料理に箸を付ける。
なかなかの旨さにについつい酒が進んじまいそうだ。
せっかく何でオレもマヤにあやかって日本酒を頼むとするかねぇ。
「すみませ~ん、僕にもお酒をお願いします、日本酒で」
「あ、は~い!」
オレのこれに仲居の一人が酒を持ってきてくれた。
日本酒ってのは他の国じゃ味わえネェ味だから結構好きなんだよ。
何もオレは酔えれば何だっていいって人種じゃねぇんでな。やっぱり美味い酒ってのは飲みてぇのさ。
「あぁ~!」
渡された酒でヨロシクやってると、マヤが文句言いたげな面をしてきたんでオレは笑顔を向けて黙らせるように答える。
「そう言わないで下さいよ。学生とは言え、もう二十歳を過ぎた成人なんですから」
「そ、それはそうですけど~」
オレの今の設定を使って言ったことにマヤは難しい顔をしてきたがそれ以上は何も言えない。
仕方ネェからもう少しサービスしてやるかぁ。
「そう言わずに。さ、もう一献」
「あ、すみません」
一献ついでやりゃあ、マヤも流されて普通に対応しちまう。
こういうのを何て言ったかねぇ……そうだ、チョロいっていうんだったなぁ。
そんなんでいいのかよ、マヤ。チフユだったらシバかれそうだぜ。
それで俺達二人は鍋を突きつつ、酒を飲んで夕食を済ませた。
せっかく来たんだから温泉には浸かりたいと思って場所を聞いたらマヤも入るから一緒に行くことになった。
それで男女の別れるところまで来たら、何を考えたのか赤い顔で、
「覗いたりしちゃ駄目ですよ!」
だとさ。
どうやら奴さん、相当羽を伸ばしまくって酔ってるみてぇだ。
そいつを鼻で笑ってオレは一人温泉に浸かり、今日の疲れを流すことにした。
え、せっかくの二人でのお泊まりに色っぽいイベントはねぇのかだって?
そいつはイチカにでも期待するんだな。オレは真面目にお仕事してるんでね。そんな『遊んでる』余裕はねぇよ。
さて、風呂に入って後は寝るだけってのが通例なんだが、オレの部屋には新しく大量のトランクが置いてあった。
そいつを見て溜息を吐きつつも開けると、やっぱり予想通り武器弾薬の類いだったよ。
これが臨海学校のパーティーにかかせねぇメインディッシュなんだ。
オレの手持ちじゃたらねぇんでこっちに寄越してきたらしい。
有り難いが、寝る前もお仕事ってのは中々に堪えるねぇ。
こいつは旅館で預かってもらうが、当然開けられねぇように細工はしとかなきゃならねぇ。旅館の連中は知っているみてぇだが、だからってそのままってわけにもいかねぇんでな。所謂こいつもエチケットってやつさ。
それで中身を確認して押し入れにしまってる際中、何やら携帯が鳴り出した。
また、マヤかぁ? 今度は何やらかしたんんだ、あの能天気な副担任様は。
と思ったら、ウチのお嬢様だった。
『もしもし、レオスさん』
「どうかしたのかい?」
『いえ、あの、まだ帰ってきていないので……』
どうやらオレがまだ寮の部屋に帰ってないことに心配になったらしい。
なんとまぁ、光栄なことだねぇ。
「悪いね、お嬢様。今日はこっちで泊まり込みなんだ。だから帰ってくるのは明日の午後になっちまう」
『そ、そうですの……』
悲しそうに答えるお嬢様。
少し元気付けてやるかねぇ。
「どうしたんだよ。寂しいのかい」
『そ、そんなことありませんわ!!』
電話越しだってのに真っ赤になって否定してる姿が思い浮かぶ。
そいつは中々見てて面白そうだな。
だから、もうちょっと弄くろうかねぇ。
「それで、本音は? 誰も聞いてねぇんだ、正直に言ってみな」
『…………………さ、寂しいです………』
あれま。
どうやら予想以上に正直者だったみてぇだ。
きっと今のお嬢様は可愛い面をしてるんだろうさ。
「それじゃ、明日は土産でも持って帰るから期待してな」
『わ、わかりました。お帰りを待っていますね』
それでお嬢様との電話を切った。
どうやらかなりお嬢様に懐かれてるようだ。悪い気はしねぇなぁ。
それじゃお嬢様のためにも、速く寝て明日は土産買って帰るとしますか。
そう思いながら、その日は眠りについた。
こうして、オレはパーティーの下準備を済ませてIS学園へと帰った。
お嬢様の土産には、駅弁でも買っていくかねぇ。