しかし、束さんに嫌われているのを書くのは初めてなので難しいです。
部屋で早速パーティーに振る舞うディナーの確認を終えた後、オレは外の確認も兼ねて部屋から出る。それで廊下を歩いていたんだが、何故か突き当たりを曲がったところでお嬢様とイチカにあった。
「あ、レオスさん!」
「レオス、今から一緒に海にいかないか!」
二人で楽しそうにはしゃいで声をかけてくる辺り、相当楽しみなんだろうさ。
別に確認自体は歩きながらでも出来るし、海の方からしていけば問題もねぇだろうさ。
「ああ、別にいいぜ。海の方にも用事があるからな」
そう返事を返して二人と一緒に歩いてたんだが、渡り廊下でイチカが変なもんを見つけやがった。
「あれ? 何だ、これ?」
イチカの目の先にあんのは、玩具みてぇなウサミミだった。そいつが地面から生えてる光景ってのは中々にシュールなもんさ。
不思議に思ったのかイチカはそいつに近づくと、側に書いてある言葉を言った。
『引っこ抜いて下さい』
おいおい、あからさま過ぎだろ、こいつは。
普通こういう風になっていて引っこ抜く奴がいるか?
もし引っこ抜く奴がいるんなら、相当度胸のある奴か馬鹿な奴だろうさ。
だってのに……
「えい」
イチカの野郎は迷わずに引っこ抜きやがった。
躊躇わねぇところを見るに、こいつのことだから後者だな。考えてる奴ならもうちょっと考えるよ。
引っこ抜いたところで何かあったわけもねぇようで、ウサミミはすっぽ抜けた。
随分とあっさりとした肩透かしだと思ったんだが、まさか予想もつかねぇオチが来るとは思わなかったぜ。
上空から何かが空気を裂いてこっちに向かってくるんだからなぁ。こいつは砲弾やミサイルなんかが来てるときの音そっくりだ。
つまり相当やべぇ。
「お嬢様、少し下がるぜ」
「え? レオスさん!?」
お嬢様の手を引いて少し離れるとお嬢様を庇うように前に出る。
念の為に即座にISを展開できるように心がけねぇとなぁ。
「え? どうして離れたたんだ、二人とも……て、うわぁあああああああああああああ!!」
案の定、気づけなかったイチカは落着の衝撃で吹っ飛びやがった。
まぁ、こいつも偏に自業自得ってもんだなぁ。これからはもっと不審な物には注意しないとなぁ、ボーイ。
それで落っこちてきたもんに目を向けると、コミカルなキャロットが地面に突き刺さってた。あまりにも場違いなせいで、オレは自分がコミックの世界にでも迷い込んじまったかと思っちまったよ。
そのコミカルなキャロットは突如真っ二つに割れると、中から女が出てきやがった。
これまた変な恰好で、エプロンドレスだったか? まだウチのお嬢様くらいの年齢なら似合ってるかもしれねぇが、見たところチフユくらいの歳の奴だからなぁ。見てて痛々しいぜ。是非ともパレードへの参加を勧めるくらいにはなぁ。
その女は辺りをキョロキョロと見渡して何かを探すと、オレを見て笑った。
見た感じ美人なんで、その笑みを向けられるってのは普通なら嬉しいんだろうがねぇ……オレの知る限り、こんな『腐った笑み』を向ける奴は碌な奴がいねぇよ。
「あぁ~! いっくん以外のゴミ虫はっけ~ん!! 邪魔なんで……とっとと死んで~!」
そう言うなり言葉からは考えつかねぇ速さでオレの首を狙って来やがった。
こいつは相当な速さだ。チフユと同じかそれ以上ってところかねぇ。
その細腕からは考えられない速さで迫ってくる手に、オレはというと……
「いきなりダンスのお誘いってのは随分と情熱的だねぇ」
そのまま向かってきた手を掴んで引っ張り込むと、そのままその女の関節をキメて地面に叩き付けた。
「うそ!? 束さんが地面に倒されてる! くっそ~、は~な~せ~!」
押さえつけた女がジタバタと藻掻くが、何だぁ、この力は?
まるでゴリラでも押さえ込んでる気分になるぜ。一体こんな細い身体のどこにそんな力があるのやら。
「痛ててて……一体何が……て、束さん!? 何でこんなところに!」
吹っ飛ばされたイチカが帰ってきたら、オレ等を見て驚いてやがった。
どうやらこの巫山戯たイカレ女はイチカの知り合いみてぇだな。
「おいおい、イチカ。このお嬢さんはお前の知り合いかぁ? いきなり殺しに掛かって来たんだけどよぉ。オレは仕掛けられる覚えはねぇんだが?」
「レ、レオス!? 何で束さんを押さえて……と、取りあえず放してくれないか。束さん、痛そうだし」
流石、我等がクラス一の色男はお優しいことだ。
「だそうだ。色男に感謝しな、お嬢さん」
それで放した途端、トンでもねぇ速さでイチカの後ろに回り込みやがったよ、この女。
「いっく~ん、久しぶり~! 大きくなったね~! それにしても……あのゴミムシ、一体何なんだよ~! この細胞単位でオーバースペックの束さんを軽々押さえつけるなんて、化け物じゃないの! いっくん、あんなお化けに近づいちゃだめだよ!」
「別にレオスは化け物なんかじゃないですよ」
イチカは苦笑して答えるが、タバネとか呼ばれてる女はオレをさっきの笑み同様に含んだ目で睨んで来やがった。
「いっくんはこう言ってるけど、お前本当になんなんだよ。束さんの相手を出来るのなんて、ちーちゃんくらいしかいないのに。本当に人間?」
イチカと知り合いならチフユとも知り合いらしい。
どうもこいつは思い違いってもんをしてるねぇ。
「お前さんが何を考えてるのかわからねぇけど、そいつはさっき言ってた『細胞単位でオーバースペック』とかいうのと関係してたりするのかい?」
「そうだよ! 私は細胞単位でオーバースペックだからねぇ~。生身の人で適うのはちーちゃんくらいしかいないの。なのに何でお前は平気なわけ? 訳がわからないよ!」
随分と不機嫌なことで。
別に可笑しなことなんざぁねぇのによぉ。
オレは電子タバコを取り出して一吸いすると、口から水蒸気を吐き出す。
「細胞云々なんてのはわからねぇが、お前さんが人類最強なんて言ったら爆笑もんだよ」
「何だって~!!」
「悪いがお前さんからは殺気があっても腐った血の臭いが全然してこねぇ。そんな『綺麗』な奴がいくら最強だなんだと喚いても笑いモンにしかならねぇよ。こっちの業界じゃお前さんの三倍は速えぇイカレ野郎もいるし、オレの知り合いにはとんでもねぇ馬鹿力な奴もいる。こういっちゃ何だが、『人としてオーバースペック』でも、ほぼ人外の化け物共にくらべりゃあ可愛い子猫みたいなもんさ。少なくても、オレは戦場で武器を一切持たねぇで駆け回り、素手で人から戦車までぶっ壊して投げ捨て、ISであろうと素手で殴り壊す本物の化け物ってもんを知ってるからなぁ。そいつにくらべりゃ可愛げがあるぜ、チフユはよぉ」
「………何、そのお化け?」
笑いながらそう言うと、タバネは理解出来ねぇって面をしてやがった。
まぁ、無理もネェ話ってやつだ。だけどこれも真実ってやつでなぁ。
実際にいるんだよ、そういう『化け物』が裏には結構。しかもさっき挙げたのは認めたくねぇけど『身内』だしな。
タバネは少し考えた後、イチカの方を向いてオレに向けたのとはまったく違う笑顔をした。どうやら考えるのが面倒臭くなったって反応だろうよ、ああいうのは。要は無視だな。
「いっくん、ところで箒ちゃんはどこかわかる?」
「箒ですか? いや、今どこか分からないかな」
「そっか。まぁ、私に掛かればすぐに見つけられるからいっか」
そう言うとイチカから離れて手をイチカに振る。
「それじゃいっくん! またね~」
それで少し歩いたと思ったら、今度はオレを睨んで来やがった。
「それとそこのゴミムシ! 覚えてろよ~~~~~~~!!」
そう言い捨てると今度は本当に去って行ったようだ。
真逆いきなり変な女に絡まれると思わなかったぜ。
「どうも最近は絡まれてばかりだねぇ」
「れ、レオスさん、大丈夫ですの?」
つい愚痴を吐いちまったところ、お嬢様に心配させちまった。
こいつはいけねぇなぁ。
「別に何でもねぇよ。それよりアホな事で時間取られちまった。急いだ方がいいんじゃねぇか」
「た、確かにそうですわね。もう15分も経ってますわ」
「そんなにかよ! 急がないと」
こうして三人で更衣室まで急ぐことになっちまった。
歩きながら聞いたんだが、あの因縁つけてきた女がISの産みの親『篠ノ之 束』なんだとさ。
よく天才は奇人が多いなんて言うが、あれも類に漏れず面倒臭せぇ感じだ。
はぁ、せっかくの仕事前に問題事とは、幸先が心配になるねぇ。
そう思いながら、オレは二人の後を歩いて行った。