恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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第五十三話 霧雨は防げない。

 夜明けが間近に迫っている空、本来はまだ暗いはずの空だが、今はその姿を僅かばかり変えていた。

爆炎と高出力のエネルギーが辺りを光りで照らし、常に轟音が絶えない。

その原因は一機のIS。

 

『シルバリオ・ゴスペル』、通称『福音』。

 

アメリカ・イスラエルが共同で開発していた第三世代軍用IS。

それがいかなる理由かまでは分からないが、暴走して基地から離脱。そのまま高速飛行で何処に行くかは分からないが移動を始めた。

それの事態の収拾に軍ではなく、何故かIS学園の専用機持ちが選ばれた。

理由はただ、福音の移動先に一番近かったからという理由で。

そのことに誰もが不審に思うだろうが、IS委員会から正式に出された命令に逆らうことは出来ず、IS学園は渋々従うしかなかった。

そこで立てられた作戦が、つい先程専用機を渡された篠ノ之 箒と一撃必殺を可能とするIS『白式』の操縦者である織斑 一夏による電撃奇襲作戦。

そのことに不満は多くあったが、篠ノ之 箒のIS第四世代型『紅椿』の展開装甲による高速移動の調整に掛かる時間と他の生徒による高速移動パッケージのインストールに掛かる時間を鑑みて、前者を採用した。

此度の作戦において、すぐにでも出る必要があったからである。

不安要素がかなり多くとも、二人は出撃。

そして作戦は失敗した。

織斑 一夏は撃沈され重体。篠ノ之 箒は戦意喪失による不能。

撃沈の経緯には、封鎖していたのにもかかわらず入って来た国籍不明の密漁船を庇ったからだ。

依然として福音は健在であり、動きを一時的とはいえ止めていた。

作戦は失敗であり、次の作戦を立てなければならないという事態に陥ったIS学園。

だが、作戦を立てる前に他専用機持ち四人、そして篠ノ之 箒が勝手に出撃し再び福音と再戦。

奮闘の甲斐もあって一時は撃沈したと思われたが、海に落下した後に福音は二次形態に移行。再び戦闘を再開し、更に上昇した性能を持って五人に襲い掛かった。

結果、圧倒的に不利になり、一人、また一人と落とされていく。

中でも福音に接近戦で喰い付いていた篠ノ之 箒は懸命に攻撃を仕掛けていたが、それでも勝てず捕まってしまう。そして最後の一撃を入れようとしたところで、勝手に旅館を抜け出し出撃した織斑 一夏によって助けられる。

その際、どういう経緯かまでは分からないが、織斑 一夏のISも二次形態に移行しており、性能を底上げされていた。

新たに出来た左腕の複合兵装腕『雪羅』。それにより、より攻撃的になった白式だが、一番の弱点であるエネルギー問題は寧ろ悪化していた。

織斑 一夏の参戦により再び互角に戦況は持ち直したが、矢張りと言うべきか段々と押され始めていった。

そこにあるのは軍用と一般競技用のエネルギーの差。

いくら白式が強くなっても、その部分によってじり貧になっていく。

 

「くそ、これでぇええええええええええええええええええ!!」

 

腹の底から叫びながら手にした雪片二型で福音に斬り掛かる一夏。

だが、福音はそれをひらりと躱すと反撃にエネルギー弾の嵐を一夏に見舞う。

それを一夏は左手の雪羅によるエネルギーを完全消滅させる零落白夜の盾を展開して防ぐ。

この能力はエネルギー兵器しか持たない福音には有効だが………

 

「シールドエネルギーがまずい! でもっ!」

 

その能力には自身のエネルギーを使うだけに、此方のエネルギーはより減っていく。

同じ事を何度かすれば白式と福音の差は明確になり、押され始めていく。

不利なこちら側。六機で責めているのにもかかわらず、まったく衰えることのない猛威を振るう福音。その牙は六人を蹂躙していく。

そして遂に、セシリアが捕まった。

 

「きゃぁあああああああああああああああ!!」

 

ばらまかれたエネルギー弾に被弾し、海へ向かって弾き飛ばされるセシリア。

それを認識した福音はセシリアに向かってスラスターに搭載されている砲門『シルバーベル』一斉に向けての集中砲火を浴びせようと構えた。

セシリアは体勢を立て直しつつも、疲労した身体でふらつきながら呟いた。

 

「………レオスさん………」

 

それは想い人への最後の言葉。

無自覚ながらも、そう呟いたセシリアは目を瞑る。

そして身構えた。

ISの絶対防御があろうとも、無事では済まない。自分がどうなるか分からない。下手をすれば死んでしまうかもしれない。だからせめて、死ぬ寸前まで大好きな人のことを考えていようと。

そして福音が砲門からエネルギーを放出しようとした瞬間………

 

福音は『ナニカ』が激突して吹っ飛ばされた。

 

その轟音にセシリアは驚きながら目を見開く。そして目の前に立っている物を見て、また別の意味で驚いていた。

セシリアの前に立っていたのは、灰色をしたシャープなシルエットの人型。

細身ながらもマッシブであり、力強さを見る者に与えるその姿。

それはセシリアが良く知っている人物が使うISである。

その人型はセシリアの方を向くと、いつもと同じからかうような声で話しかけてきた。

 

「よう、お嬢様。おひさだな」

 

その声を聞いた途端、セシリアには『彼』の笑みが思い浮かんだ。

そしてそれを思い浮かべた瞬間、セシリアは泣き出してしまった。

 

「れ、レオスさん!」

「あいよ」

 

そう彼、レオス・ハーケンは返事を返した。

 

 

 

 あぁ~、まさに最悪の気分だぜ。

さて、パーティーで盛り上がっている所にやっとオレも着いたんだが、来るまでが大変だったよ。

普通に行ってたんじゃ間にあわねぇのは明白。それで丁度良いのか悪いのか、この状況にぴったりな装備が送られてきてたんだよなぁ。

そいつの名は『サクリファイス・ブースター』。

EOS(エクステンデッド・オペレーション・シーカー)に搭載させるよう開発していた緊急展開用のブースターを改造したものだ。

言っておくが、こいつは高機動パッケージなんてお上品なモンじゃねぇ。

使い捨ての生け贄にすることで、無理矢理対象をその場所に送り飛ばす。

だからサクリファイス(生け贄)なんだよ。

どうもこいつの制作会社の方はこいつを利用してオレのIS用の高機動パッケージを作りたいらしい。そのデータを取ってこいってんで送ってきたらしいが………こいつを作った奴はとんだイカレ野郎らしい。

方向転換不能な上に、確かに速ぇが全くもって保護がなってねぇ。

戦闘機に乗った以上のGに正直胃の中のモンぶちまけそうになっちまった。

こういうとき、何も食ってないってのは有り難いもんだ。

ありゃあ飛んでるってよりも、砲弾やミサイルみてぇに飛ばされてるって感じだ。

御蔭でクラクラしちまうよ。

それで向かってたら丁度主催者が見えたもんだから、挨拶がわりにブースターを強制解除してぶつけてやったわけさ。

思いっきり吹っ飛ばされた奴さんを目で追いつつも振り返ると、お嬢様が泣いてるってんだから何とも気まずい感じだ。

だからからかうと、お嬢様は安心したらしい。

 

「随分とはしゃいでたようじゃねぇか、お嬢様。聞いたぜ、勝手に出てきたんだってなぁ。チフユがカンカンだったよ」

「そ、それは、あの、その!」

 

お嬢様は泣きながら顔を赤くしたり青くしたりとお忙しいようだ。

このままお嬢様とのお喋りに花を咲かせたいところだが、そうも言ってられねぇようだ。

奴さん、思いっきりぶつけられたことを怒っているようでこっちを向いてきた。

 

「レオスさん、危ないですわ!!」

 

お嬢様が警告すると共に、奴さんからすげぇ量のエネルギー弾が放たれた。

そいつを俺は咄嗟に避ける。

 

「へぇ~、話には聞いてたが、中々の弾幕じゃねぇか」

 

一応来たモンインストールしてる際中に一通り奴さんの情報は見させて貰ってる。

確かにすげぇ性能だが……

 

「でも、それだけだ」

 

そう、それだけの話だ。

悪いけどよ。そんな『でくのぼう』に負けるほど、オレは甘くネェ。

悪いがねぇ……『本物の戦場』を知らねぇチキンに負けるほど柔じゃねぇんでなぁ。

 

「レオス、助かった! アイツを倒すのに協力してくれ!」

 

オレを見つけて通信を入れるイチカ。

それに呼応して他の奴等もやる気を漲らせてるんだが……

 

「悪いな、イチカ。こいつの墜とす依頼を追加されちまったから、お前さん達は邪魔だ。オレの後ろで茶でも飲んでいてくれ」

「なっ!? お前、何を言ってっ!」

 

我等が主役は王道な努力、友情、勝利の三原則が大好きらしい。

だが悪いね。ここから先は…

 

「ここから先は『大人の社交場』だ。子供はとっとベットでねんねしな。でないと……痛い目見るぜ」

 

そう言いながらオレは新しく来た玩具を展開する。そいつを見たお嬢様達は息を呑んだ。

 

「な、何だ、そのガトリング砲は!」

「お、大きいですわ……」

「片手に二門、計四門だと!」

「何よ、それ!」

「お、可笑しいよ、それは!」

 

さて、オレが出したのは、ガトリング砲だ。

かなりでかくてオレの身長と同じくらいある大型の代物で、八つの銃身が束ねられてるのが二つ。そいつともう一丁あって、計四門の巨大なガトリング砲さ。

ISの保護無しにはぶっ放せねぇ、作った奴の精神を疑う代物で、何でオレのところにくるのはこんな正気を疑うモンばっかりなのか不思議で仕方ねぇよ。

そいつを構えると、奴さんも構えてぶっ放してきた。

どうも全開らしく、竜巻みてぇなエネルギーの大渦がこっちに向かってくる。

 

「お前さんも中々だが……こいつほどじゃねぇなぁ!!」

 

そして引き金を引いた途端………

 

耳がイカレるんじゃねぇかって程の轟音が鳴り響いた。

四門からなる連続で発射される銃弾はそのまま『弾け』、更に量を倍以上に増やして飛んで行く。

そのまま両者はぶつかり爆発を引き起こすが、此方の吐き出された弾丸が奴さんの砲撃を飲み込んで霧散させ、そして奴さん自身を蹂躙した。

あっという間に絶対防御が作動して装甲をズタズタにしていく。

そして砲撃が止んだと共に、ほぼ大破状態の奴さんは今度こそ海へと落ちていった。

こいつの名は……『霧雨(ミストレイン)』。

散弾をガトリングで連射し続ける弾幕を張り続ける代物だ。

何処ぞのお馬鹿が考えた、『最強の弾幕とは』とかいう巫山戯た題目も答えさ。

名前の由来は、霧雨っては傘じゃ絶対に防げネェからだと。

奴さんももう動けネェようだし、後はイチカに任せるとするか。

 

「イチカ、後任せた。オレ、昨日から何も食ってねぇから腹減ってんだよ」

「へ? お、おい、レオス!」

 

目の前の光景に呆然としたイチカを無視して、お嬢様の方に行く。

 

「つーわけだ、お嬢様。とっとと帰ろうぜ」

「は、はい!」

 

後の事を全部任せて俺達は先に帰らさせてもらった。

どうも駄目だねぇ、昂ぶって仕方ねぇや。

だから、少しでもそいつを別の何かで発散させようと、オレは早足で歩き始めた。

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