最初の低評価が信じられないくらいに。
手錠で繋がれたままお嬢様と一緒にIS学園を出て、車で揺られながら空港まで。
『荷物』の大体はもう先に向こうに送らせて貰ったから問題はねぇ。勿論、正規の配達じゃねぇけどなぁ。世の中ばれちゃまずいモンを運ぶ専用の業者ってのがあるんだよ。中にはゲスい考えをもつ馬鹿もいるんだが、オレが頼んだのはいつもの利用してる信用のあるところだ。その御蔭でこうしてあまり荷物を持つこともなくお嬢様に連れて行かれているわけだが。
IS学園を出てからお嬢様はずっとご機嫌だ。
そりゃあもう、辺り一面がお花畑だって言っていいくらいにご機嫌だったよ。
さて、そんなご機嫌なお嬢様に今後の予定を聞いたんだが、あまりのアホらしさに驚いちまったよ。
「それで、お嬢様。これからお嬢様の護衛をするにあたって、どこに行くか教えてくれねぇか?」
これが昨日の夜に上機嫌に帰り支度をするお嬢様に話しかけた台詞だ。
それに対しお嬢様はとんでもねぇことを言い出しやがった。
「はい! 行き先は………アメリカですわ!」
「アメリカ? イギリスじゃねぇのか?」
普通、里帰りするもんだろ。だったらイギリスじゃなきゃ可笑しい。
それにお嬢様は仕事もやっちゃあいるが、アメリカで何かしてる話はなかったはずだ。一体何なんだ?
「アメリカに用事でもあるのかい? 特にお嬢様とアメリカなんて何の関係性もなさそうだけどよぉ」
「うふふふふ。実はですね………アメリカのコロラド、『巨人の大剣』の本部にご招待されたのですわ!」
「…………………こいつは驚いた……」
オレはその時、心底驚いたね。
いや、何がっていやぁあのクロードがこんな三文芝居にノリよく応じたことがだ。
あの冷徹て冷酷で身内に厳しい我等が上司様がこんなおふざけに賛同したってことが一番の驚きだ。
そんなわけで依頼人と何を考えたのか似合ってもいない悪ふざけをした上司によって、お嬢様との旅行は決まった。
行き先はコロラド州プエプロ付近にあるPMC『巨人の大剣』の本部。
つまりは………オレの職場だ。
どういうわけか我等が上司は『ご学友』であるお嬢様に興味を持ったようで、お嬢様が依頼をしてきたのを切っ掛けにご招待したらしい。
流石は上司様だ。お嬢様のことなんて一切報告していないのに、どこで知ったのやら。あまりプライベートに干渉するのはよろしくねぇと思うんだけどねぇ。
こうしてオレとお嬢様の旅行が始まった。
ただでさえこんな悪ふざけに付き合わなきゃならねぇてのは癪だが、まぁお嬢様も嬉しそうだし仕方ねぇか。
え、考え方が甘いって? おいおい、そう言うなよ。『イイ女』の笑顔ってのは見れるだけでも価値があるもんなんだよ。
ただ不満ってもんがあるんなら、空港の飛行機に乗るまでずっと手錠をつけさせられ日本政府から監視されてたってことくらいかね。
「わぁ~~~! ここがアメリカですの!」
飛行機に揺られること約五時間弱。
オレがやっと外された手錠に辟易している所、お嬢様は下りた空港で感慨深く声を上げていた。
別に空港なんて何処も何か変わっているわけでもねぇのに、ここまで顔を上気させて興奮しているってのは、実に純粋な感じでいいねぇ。
そして空港のエントランスまでお嬢様と一緒荷物を引き摺って行く。
「これがレオスさんのいた国……ですの……」
お嬢様は周りの景色を見たり目を閉じて何かを感じ取ろうとしているみたいだった。
別に何もねぇ普通な所だと思うけどねぇ。
そんな感動に浸っているお嬢様を眺めて数分、日本車のハイトワゴンが目の前に止まった。
いきなり止まった車に戸惑いを見せるお嬢様だが、オレがそのまま近づくと扉が開き中から男が出てきた。
色白い肌に濁り無き綺麗な金髪、端正な顔立ちにメガネをかけた知性溢れる大人。
そいつが車から出た途端に周りにいた女共の視線が集まっていく。
まさにハリウッドに出てきそうな美丈夫がオレの所へと歩いて行く。
ぱっと見の年齢は二十代前半。オレと一緒にいても友人にしか思われねぇだろう。
そいつはオレを見てニッコリと微笑む。
その微笑みにまわりの奴等が『撃墜』される音が聞こえたよ。
「元気そうですね、レオス」
「あんたもなぁ。まぁ、こんな挨拶なんざぁ交わすほど久々でもねぇけどな……クロード」
そう、このショボそうなハイトワゴンから降りてきたのがオレの上司、『クロード・シルファー』だ。
「それで聞きたい事があるんだが、いいかい?」
「どうぞ」
「何でこんな悪ふざけにあんたが興じたかってことさ。真面目一辺倒なあんたにしては明らかに可笑しいだろ」
若干責めるようにクロードに言うと、クロードは暖かい微笑みって如何にも気持ち悪ぃ面でオレを見てきた。
「まぁ、貴方ならそうとりますよね。私としても少しどうかとは思うんですが、いつもレオスが世話になっている子だと聞いていましたからね。是非とも挨拶したくて乗ってしまいました」
「聞いて? 調べての間違いじゃねぇのか。まぁ、いいさ。それとな、オレは世話してる方だぜ、どっちかと言えばな」
「貴方の保護者代わりとしては、気になるんですよ。ただでさえ、同年代の子供と一緒にいる事なんてないんですから」
「けっ!」
何とまぁ、気まずく恥ずかしい限りだ。
保護者だなんて思った覚えはねぇが、実際に頭が上がらねぇから下手にこれ以上反論しようものなら絶対にお小言に発展しちまう。そいつは勘弁だ。
口を噤むと、クロードが未だに戸惑っているお嬢様に向かって微笑み話しかけた。
「すみませんね、つい久々に会ったものですから。貴方がセシリア・オルコットさんですね」
「は、はい! あの、あなたは……」
お嬢様は話しかけられてビクッと肩を震わせて慌てて対応するが、これじゃあ上手くはなせねぇだろうよ。
仕方ないんでオレから説明するかねぇ。
「お嬢様、紹介するぜ。こいつがオレの上司、『巨人の大剣』の副隊長、クロード・シルファーだ。巨人の大剣で実権を握ってるお偉い人って奴だよ」
「別に私はそこまで偉くないですし、ただ事務管理を纏めているだけです。どうも、クロードと申します。学園ではウチのレオスがお世話になりました」
オレの紹介にクロードがお嬢様にニッコリと笑いかける。
するとお嬢様も慌てて挨拶を返す。
「ど、どうもですわ。わたくし、セシリア・オルコットと申します。寧ろわたくしのほうがレオスさんにはお世話になってばかりで……」
謙虚に返すお嬢様を気に入ったのかクロードがオレをネタに2~3こと話しかけると、お嬢様は緊張しつつもそいつに答えていた。
どうも気に喰わねぇなぁ。
「おいおい、立ち話をするのは紳士としてどうなんだい、クロード」
「おや、それもそうですね。すみません、オルコットさん。どうも若い人との会話は新鮮で」
「いえ、そんな…」
「レオスの言う通り、お客様に立ち話をさせるというのは失礼ですね。どうぞ、狭いですが乗って下さい」
クロードに爽やかに笑いながらハイトワゴンに向かい扉を開ける。
ハリウッド男優顔負けの男がショボいハイトワゴンってのは、かなりシュールな光景だ。寧ろスーパーカーとかの方が断然似合ってるだろうよ。
その光景にどう対応していいのか戸惑うお嬢様にオレは笑いながら声をかける。
「行こうぜ、お嬢様。ここで立ち話してても仕方ねぇしなぁ」
「そ、そうですわね」
お嬢様はオレにそう返事を返すと、たどたどしく歩き出した。
どうもクロードに緊張しまくってるって感じだな。
なら、ここは緊張の解れるようなことを言ってやるのがイイ男ってやつだ。
「お嬢様に一つ、いいことを教えてやるよ」
「な、なんですの、レオスさん?」
「クロードの奴はなぁ………ああ見えて実年齢は三十過ぎだぜ」
「なっ!?」
オレの言った事実にお嬢様に衝撃が走ったようだ。
まぁ、誰だって驚くだろうよ。クロードの奴、ぱっと見は二十代に入ったばかりにしか見えねぇからなぁ。
それからお嬢様は信じられないとぶつぶつ呟きながらオレと一緒にハイトワゴンに乗り込んだんだが、また更に驚く。
「へぇ~、この子が………」
「っ!?」
運転席からいきなり話しかけられて驚くお嬢様。
話しかけてきたのは、ブラウン色の短髪をした二十代後半くらいの男だ。
オレはウチのお嬢様をジロジロと見るそいつにジト目で話しかけた。
「おいおい、挨拶も無しとは随分と偉くなったな、カイル。そんなに偉くなったんなら、給料もさぞもらってんだろ。前に貸した2000ドル、返してもらおうか、んん」
「や、いや、そんなことないですよ、レオスの兄貴! 俺は変わらずの極貧ですから、もうちょっと待って下さいって! 挨拶が遅れたのは謝りますから!」
慌てて俺に謝るそいつに俺はニヤリと笑う。
それを見てまったく理解出来ないのかお嬢様はどうしていいのか分からないって面になってた。
そんなお嬢様に俺は親指をクイッと差して紹介する。
「こいつ、ウチの社員のカイル・バーレン。ウチの中で一番の下っ端だ」
「下っ端なんて酷いじゃないですか、兄貴~! 他にも下はいますって~! あ、どうも、挨拶が遅れてすみません。レオスの兄貴の舎弟のカイルです、よろしく」
カイルはお嬢様にニッカリと格好つけて笑うと、お嬢様も少しは緊張が解れたのかカイルにお上品に挨拶を返した。
「すみません、急に驚いたりして。わたくし、セシリア・オルコットと申します。それで、その……何で歳下のレオスさんが『兄貴』なんですの?」
不思議そうに首を傾げるお嬢様の魅力にやられたのか、カイルの野郎は鼻の下を伸ばしてその質問に答える。
「それはさ、レオスの兄貴が俺の恩人だからだよ。男として惚れたからには、そう呼ばないとさ。勿論、ホモって意味じゃないからね」
カイルのその説明にまぁ、と言ってお嬢様はクスクスと笑う。
このボンクラは話術だけはまだマシだからなぁ。
だが、つけ上がらせると碌なことをしねぇから少しは絞めねぇとなぁ。
「生憎舎弟なんて持った覚えはねぇんだけどなぁ。一体誰の許しを得て言ってんだ、カイル?」
「そんなこと言わないで下さいよ、兄貴~!」
若干しょんぼりするカイルを笑いながらお嬢様を席に案内する。
そしてカイルの運転の元、オレ達は巨人の大剣の本部へと向かって移動を始めた。
のだが、どうもと言うべきかやはりと言うべきか……オレ達の旅行は初っ端から面倒事に巻き込まれたらしい。
町を出て荒野に入る少し前の話だ。
カイルに運転を、クロードは助手席に、俺とお嬢様は後ろの席に座っていた。
最初こそお嬢様は興奮気味に外の景色を見ていたが、今は落ち着いて景色を見ながらオレ達と楽しそうに会話を弾ませている。
楽しそうなんで結構だったんだが、俺とクロードはすぐに気付いて眉をしかめたよ。
どうも外からキナ臭いのが尾いて来てるんだよなぁ。それも二台。
「どう思う、クロード?」
「どうもこうもないでしょう。貴方の予想通りだと思いますよ」
「そいつは残念でしかたねぇなぁ。それで、何でばれた?」
「有名ですからねぇ、貴方は。この前の一件でもそうですけど」
「それを言うなら『千里眼のクロード』の方が有名だと思うけどなぁ、オレは」
「言わないで下さい、恥ずかしい」
お互いにこんな軽口を叩くが、それに気付かねぇボンクラはアホみてぇな顔で聞いて来やがった。
「どうしたんですか、副長、兄貴?」
「………カイル……帰ったらもう少しトレーニングですね」
「おいおい、気付け、この鈍感野郎」
「酷っ! お二人とも酷いですよ! 俺が何をしたって言うんですか~!」
「あの、どうかなさいましたの、レオスさん?」
事態を理解出来ていないお嬢様は少し心配そうに聞いてきた。
せっかくの旅行でいきなりこれは少しばかり刺激が強すぎるなぁ、お嬢様には。
だからお嬢様には内緒で話をする。
「カイルのED野郎は気付かねぇようだが、さっきからずっと尾けられてるんだよ、この車はなぁ」
「え、マジですか!?」
「本当のことです。少し浮かれていた私も責任の一端ですが、それでもこれほど露骨なのに分からないというのは……」
カイルに呆れるクロード。
そんなカイルは減俸だけは勘弁と泣きすがる。
そう思うんなら最初から気付けってんだ、このタコ。
「それで、このまま振り切れると思うか?」
「無理でしょうね。この車はそこまでの速度は出ませんし、何よりこの距離の取り方は寧ろ向こうから来ると思います」
「えぇ~、マジかよ~…」
「となれば、こっちから出向くのはどうだ? カイル、何詰んでるんだこいつは?」
「え、え~と、そうですね……TWOが2本だけしか詰んでません。後は俺のM92と予備のグロック19くらいだけです」
元々戦闘用の車じゃねぇから特には詰んでねぇんだよなぁ、こいつ。
きっとそのTWOも前の作戦の時の余りだろうよ。
「ちっと足りねぇかもしれねぇが、いけなくもねぇってところか」
「悪くはないですが、此方はお客様を乗せているんですよ。怖がらせるわけにはいきませんよ」
何というか、間が悪いというか何というか。
いや、お嬢様が悪いというわけじゃねぇんだけどなぁ。
現在のオレ達の状態にお嬢様も少し可笑しいと思い始めてきたって可笑しかねぇ。
なら、決めるべきは即決だな。
「良し、決めた」
「どうしますか、レオス」
クロードは少し楽しみな感じにオレを見てきた。
昔はこうやって良く戦場での判断を磨いたもんだ。
「カイルは持ってるモンをオレに寄越せ。それでお前さんは『安全運転』だ。お嬢様を怖がらせねぇように『大音量』で音楽を流せ。クラシックでもメタルでも何でもいい」
「わかりました、兄貴」
「それでクロードは連中の足を止めてくれ。どうせ持ってきてるんだろ……ライフル」
「まずまずと言ったところですが、今回は及第点としておきましょう。確かに持ってきていますよ、この相方を」
車に積んであった長いケースを見せるように持ち上げるクロード。
これで下準備は充分だな。
「んでオレが足が止まったクソをTWOでグリルチキンにしてやる。これでOKだろ」
作戦が決まったところでさっそくお嬢様にオレは聞く。
「お嬢様、さっきから窓の景色に夢中だったろ。ここいらで真っ正面からの景色はどうだ? クロードが席を替わるってよ」
「まぁ、いいんですの!?」
この好奇心旺盛なお嬢様は真っ正面の景色を見れると聞いて嬉しそうだ。
そしてお嬢様とクロードが狭いながらに席を交換する。
「あ、え~と、オルコットさんでいいかな」
「は、はい。大丈夫ですわ」
「音楽は聴いていいかな。俺は結構曲聞くの好きなんだ」
「ええ、構いません。わたくしは寧ろ乗せてもらっている身なのですから」
「ああ、ありがとう」
カイルはお嬢様に許可を貰うと、早速頭に響くくらいの大音量で音楽を流し始めた。
その音に耳を塞いで顔を顰めるお嬢様。悪いな、本当によ。
その間に俺とクロードは後ろの方に移動し、搬入口の扉に手をかける。
一応お嬢様には見えないよう、カーテンをしたが。
そして……荒野に入った途端に向こうは仕掛けて来やがった。
大音量でお嬢様は気付かねぇが、この車のサイドミラーが弾けた。
向こうを見れば運転席の奴も含めて一台四人。それがもう一台の計八人がこっちに向けて銃を向けてぶっ放してきた。
音楽の御蔭であまり気付かねぇだろうけど、車の装甲に何発も当たってカンカンとうるせぇ。
「んじゃいくぜ!」
「ええ」
声と共に搬入口の扉を上へと跳ね上げる。
その瞬間にクロードのライフルから2発の銃弾が発射された。
音が聞こえなくなる前に後ろを走っていた車が2台ともスリップし始めた。
「流石は千里眼。どんなところでも百発百中だ」
「この程度、別に誇れるようなことじゃないですよ。貴方だって出来るでしょう」
連中が操作不能になっている間に、今度は先程のお礼をしなくちゃなぁ。
「オレはもうちょっと、大雑把なんでな」
そう言いながら2本のTWOを両肩で担いで、スピンしてる連中に向かって、
「これぐらいが丁度良いのさ!」
引き金を引いた。
そして発射された弾は煙を上げながら吸い込まれるように2台に命中し、木っ端微塵に吹っ飛ばした。
「まったく、せっかくのお嬢様の旅行だってのに、無粋な真似するからそうなるんだぜ」
未だに炎上し黒煙を吐き散らす残骸に向かってそう言うが、聞いてる奴はいねぇ。
こうして、お嬢様の旅行は最初の歓迎を受けた。