お嬢様の旅行に付き合うってことになって空港に到着。それで出迎えにクロードとカイルの野郎が来やがった。
クロードはお嬢様相手に随分と上機嫌に話してきたよ。
何が保護者だ、お前さんに保護者ぶられる覚えはねぇよ……と言いたいところだが、そんな事を反論しようもんなら、一体どんな目に遭うか分かったもんじゃねぇんでな。
黙るのが吉ってもんだ。
それで早速お嬢様連れてアメリカの地をドライブとしゃれ込む予定だったんだが、カイルの野郎がヘマしやがった所為で、せっかくのドライブが鬼ごっこに早変わりしちまったよ。捕まえれば即蜂の巣っていう罰ゲーム付きだ。
まったく、せっかくのイイ女とのドライブが台無しだぜ。
お嬢様を怖がらせる訳にもいかねぇんでね。ばれないようにお嬢様の相手をカイルに任せて、オレとクロードでオニを撃退すべく後部座席へ。クロードが足止めを、そしてオレが止まったオニをTWOでグリルチキンにしてやった。
これで少しは近づいてこねぇだろ、他の連中も。誰だって車と一緒に月まで吹っ飛びたくはねぇだろうよ。
そんなわけで、今は最初の頃と同じく安全運転で荒野のハイウェイをひたすらに走り中だ。
「レオスさん、一体さっきのは何だったんですの?」
お嬢様は未だ小耳にこびりついたメタルの音楽に顔を顰めながら聞いてきた。
どうもスピリチュアルでパンクな音楽はお嬢様には合わねぇらしい。
「いやぁ、特になんでもねぇよ。文句だったらカイルの間抜けに言うんだな」
「そんなぁ~、兄貴~」
情けねぇ声出してるんじゃねぇよ。生憎野郎のそんな声を聞いたところで許されるわけもねぇってのは誰だって知ってんだろうが。
「そもそも手前ぇが気付けばそんな事にならなかっただろうが。それにクロード」
「はい、何でしょう?」
相変わらずの爽やかな笑顔をオレに向けるクロード。
「お前さん、さっきほ恍けていやがったが、知ってただろ?」
「……ばれていましたか」
「最初から丸わかりだろ。『千里眼』の二つ名は何も狙撃だけじゃネェのはこの業界の常識だろ」
「そんな事は無いですよ。ただ、カイルが気付くかどうかテストしていましたけどね」
やっぱりそうじゃねぇか。
我等が上司のチェックは厳しいねぇ。
「結果は?」
「聞くまでもないでしょう」
「そうだよなぁ」
結果なんてさっきの騒動を見りゃあわかる。
どう考えたって、
「カイルはこの後追加でトレーニングですね。気付けなかった罰です」
「副長、マジですか! 冗談じゃなく?」
「カイル、私は嘘や冗談は言わない人間ですよ」
「ノォオオオオオオオオオオオオ!」
運転席で項垂れるカイル。
自業自得なんだから大人しく受けておけってんだ。
そして更に車は進んでいくわけだが、流石に暇にもなってくるもんさ。特にオレとしては、口寂しさってもんを感じてくる。
だからこそ、そいつを解決出来るモンを持っているカイルから貰おうと思う。
「カイル、タバコ持ってねぇか?」
「あれ? レオスの兄貴、持ってないんですか?」
「ああ、ちょっとな」
いつも吸ってたオレが持ってねぇと聞いて驚いた面をするカイル。
別におかしかねぇんだが、手前の歳って奴を思い出せば複雑っちゃあ複雑な気になるな。まぁ、そんなことを意識するってことは、オレも学生ってのが板に付いた証拠かもしれねぇなぁ。辞める気は無いがね。
「へぇ~、兄貴が禁煙とは」
「馬鹿言え、学園で速攻取り上げられたんだよ。未成年の喫煙は禁止だってな」
「そいつは災難で」
「全くだ」
カイルはオレを少し笑いながら同情すると、懐から愛しのモクを取り出しオレに差し出した。
「すみません、アメリカンスピリッツしかないですけど」
「吸えるんだったら何だっていい。向こうじゃ電子タバコで我慢しとけって言われてたんでな、御蔭で綺麗な健康体だ」
「あっはっはっはっはっは」
オレのジョークにカイルが笑う。
そんなに笑うなよ。オレだって結構辛いんだぜ。
差し出されたタバコの感触を久々に感じながら口に運ぶ。
これから胸に満ちる煙を楽しみにして備え付けのライターをとろうと思ったんだが………。
「あ、レオスさん! タバコは駄目ですわ!」
お嬢様にタバコを取り上げられちまったよ。
そしてタバコを即ダストボックスに放り込んだお嬢様は、まるで駄目な親父を見るかのようなジト目でオレを睨んでくれたよ。
「いくら学園の外だからといっても、未成年がタバコを吸うなんて許されません!」
「そうきついこと言わないでくれよ、お嬢様。一本くらいいいだろ」
「駄目ったら駄目ですわ! タバコなんて身体に害しかないのですから」
全力で駄目だと言うお嬢様にオレは困っちまうよ。
優等生はハメを外すってことが許せねぇらしい。
そんなオレ達の様子を見てクロードが笑う。
「レオス、貴方の負けですよ。まさか貴方が女の子に言い負かされるなんて思いもしなかったですけど」
「そう言うなよ、クロード。女に優しくってのはお前さんがオレに教えたことだぜ」
「ふふふ、そうですね。それに彼女の言う通り、身体に悪いですし。彼女にも副流煙で害がでてしまいますから、ここでは我慢して下さい」
「はぁ、しょうがねぇなぁ」
タバコも禁止されたオレは悲しいながらに電子タバコを噴かすしかなかったのさ。
その様子をみて笑ったカイルにゃあ後で痛い目を見て貰うことにするかねぇ。
そして揺られること数時間。
メインの道路から脇道にそれて、やっとそいつが見えてきた。
広大な荒野から一転して、コンクリートとアスファルトで舗装された専用通路。
侵入しようものなら高圧電流でグリルにされるか、奥の銃座で蜂の巣にされるか、はたまた指向性地雷でミンチにされるか、そんな物騒な防御壁が全体を覆っており、真ん中辺りに巨大なビルがそびえ立つ。
「わぁっ! あれが」
お嬢様はそいつを見て驚きの声を上げる。
その顔にカイルは満足げに、クロードはにこやかに笑う。
どうもオレにそいつを言えって事らしい。クロードの演出の凝り性には困りモンだ。
オレはゲートが開くと共にお嬢様に向かって歓迎の言葉を言った。
「ようこそ、『巨人の大剣』へ」
その言葉を聞いてお嬢様は真新しいものを見る子供みてぇに目を輝かせて辺りを見渡す。
「凄いですわね、あんなに色々な物が一杯!」
お嬢様の目の先には、様々な乗り物が置いてあった。
手軽に二輪オフロードバイクから始まってジープや装甲車、果ては戦車なんかもあり、それに留まらずヘリや戦闘機なんかも揃えている。
そいつ等が敷地内にびっしりある光景ってのは、中々壮観なもんがあるぜ。
「お嬢様はイギリス軍とかの基地は覗かなかったのかい?」
「わたくしはIS操縦者としての訓練しか積んでいませんから、軍とは関わりはあまりありませんわ」
「そうかい、んじゃ珍しいかもなぁ。だが、こんな光景軍の基地を覗き込めばいくらでもあるもんだぜ」
「そうですの?」
「ああ、そんなもんさ」
そのまま興味津々なお嬢様を連れてビルの前に車は止まる。
そしてお嬢様と一緒に下車すると、改めてビルを眺めてみた。
「こうして見ると、久々なような気がするねぇ」
「そうは言ってもまだ半年も経ってないですよ」
カイルが突っ込みを入れてきたが無視させてもらう。
そもそも、このビルに居る方が珍しいんだからそう思ってもしかたねぇだろ。いつもは仕事で外ばっかにいるんだからよ。ここに居るときってのは専ら書類仕事の時だけじゃネェか。まぁ、泊まり込んでるから家つっても差し支えねぇがな。
そんな感慨に耽る……なんて歳でもねぇんでなぁ。とっととビルに入ると、さっそく周りの奴等から声をかけられた。
「よぉ、レオス! いつの間に帰ってきたんだよ!」
「兄貴、お帰りなさい!」
「てめぇ、この前のボッタ分今日こそ返して貰うぜぇ!」
「あれ、先輩帰ってたんですか。なら仕事して下さいよ」
「今日はレオスの奢りで飲みにいこうぜ!」
中々に痺れる歓迎の声にオレの眉間に皺が寄っちまうよ。
その歓声を聞いてお嬢様が楽しそうオレを見た。
「人気者なんですね、レオスさん」
「お嬢様、そう聞こえるってんならいい耳鼻科を紹介するよ。一回看てもらった方がいいんじゃねぇか?」
皮肉たっぷりの返しにお嬢様は気にせず笑う。
やれやれ、皮肉ってのは気付かれないと滑稽なもんだ。
そんなお嬢様に周りの奴等が気付いた途端、さっきまでオレに浴びせていた罵声もどきが止んだ。
そして……
「「「「「レオスが女連れ込んでるぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」」」」」
戦車砲の発射音並の音量の声が鼓膜に襲いかかって来た。
「ひっ!? え、な…」
その声にお嬢様は驚いててワタワタし始め、カイルは笑いを堪えていやがった。
クロードはいつもとかわらねぇ面だが、ありゃあ笑ってやがるな。
そんな反応をした野郎共に向かってクロードは前に出ると静かな声で諫める。
「皆、クライアントにしてお客様が驚いていますよ。お静かに」
その言葉でまた一気に静まる連中。
オレが黙れと言おうモンなら、即座にぎゃあぎゃあ文句を雨あられのように降らせていただろうに。我等が副長ならその説得力の差は激しいねぇ。
「この方はレオスのご学友で、この度レオスが受けた護衛任務のクライアントです。皆、失礼がないようお願いします。もし、失礼があるようなら……」
そこで一端言葉を切り、ニッコリを微笑むクロード。
だが、ここに居る全員には分かってる。
その目はまったく笑ってねぇ。
「懲罰房に一週間入れた後に、凄く減俸です。『わかってますよね』」
その減俸が凄すぎるから、皆黙っているしかねぇ。
このPMCの財政管理をしているクロードがここでは一番偉いと誰もが分かってる。
だからこそ、皆素直に言うことを聞くんだぜ。
我等が副長を怒らしそうものなら、その日から一ヶ月間は極貧生活に早変わりだ。
誰だってタバコ一本も買えねぇ生活は送りたくねぇよなぁ。
「ウチの者達が失礼しました」
「い、いえ……」
クロードの迫力に飲まれかけていたお嬢様は慌てて返事を返す。
そういうお前さんが一番怖がらせてんじゃねぇよ。
「お嬢様、行くぜ」
「あ……」
仕方ねぇんでお嬢様の手を引っ張って先を急ぐことにした。
ここに来たんなら、絶対に会わなきゃならねぇ奴がいるんでなぁ。
そしてオレとお嬢様、クロードとカイルの4人でエレベータに乗ると、三階まで上がってとある部屋まで来た。
「お、大きいですわね………」
その部屋の扉を見て驚くお嬢様。
扉は他の部屋に比べて横にも縦にも大きい特別製だ。
何で特別製かって? そいつはさ………。
この後嫌でも分かるさ。
オレはその部屋の前でお嬢様の方を振り向く。
「んじゃお嬢様、中にちっと用があるからオレは行くけど、あまり扉の前にはいるなよ」
「え、それは……」
いきなり言われたことに戸惑うお嬢様にオレは笑うと、クロードに話しかける。
「んじゃ行ってくる。お嬢様を頼んだぜ」
「ええ、あまり派手にやらかさないで下さいよ。あまり酷いようでしたら貴方の給料から引きますからね」
「そいつは『アレ』に言ってくれ」
苦笑するクロードに手を振ってオレはその部屋に入った。
その途端………
「どの面下げて帰ってきた、こっっっっの、クソ餓鬼がぁああああぁぁああぁぁあああああああぁぁあああああああああああああああああああ!!」
そんな怒号と共にオレの顔面は何かに激突して体事吹っ飛び、
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
後ろの扉をぶっ壊して壁を砕きながらめり込んだ。
お嬢様の悲鳴が聞こえた辺り、巻き込まれてはいねぇようだ。
そのまま立ち上がると、口の中に溜まった血を吐き捨てる。
「挨拶もせずにいきなりとは、随分だな………このクソオヤジ!!」
その言葉の先にいる奴は、まるで服に付いた埃を払うかのように壊れかけの壁をさらにぶち壊しながら通路に出てきた。
「ひっ!? お、大きいですわ……」
お嬢様が信じられねぇような声を上げる。
そう、目の前にいるのは、身長257cmの巨人だ。それも高いだけじゃねぇ。腕の太さがオレの胴より太く全身筋肉の鎧で覆われた、まさに化け物だ。一歩踏み出す度にドシンッと揺れたように錯覚するくらい、巨大に感じる。
「うるせぇ、このクソ餓鬼! 今日こそ手前ぇをぶっ殺してやるっ!」
そう、この特殊コンクリートで固められた壁を紙の如くぶっ壊す化け物こそ、このPMCの由来の『巨人』。
アンドルフ・ブリュッケン………巨人の大剣の団長だ。