恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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第六十二話 上司と部下

 セシリアは夏休みに入り次第、オルコット家の当主としてある依頼を海外のPMCに頼んだ。

それは自分の護衛任務。

イギリスの名門貴族にして、いくつもの会社を経営しているオルコット家。

その当主とあれば、狙われることも無きにしもあらず。特にそれが十代の少女と言えば尚更狙いやすい。

だからIS学園から実家のあるイギリスに着くまでの間、護衛を雇うのは可笑しなことではない。

と言うのが建前であり、本音は想い人と旅行をしたいという十代少女のちょっとした冒険である。

お膳立てをしたのはIS学園の用務員である轡木 十蔵。

彼は表で学園長を務めている妻を使いセシリアを学園長室に呼び出すと、そこで今回の依頼をセシリアに勧めた。

それにセシリアは即座に了承。恋は盲目とはよく言った物である。

この依頼には先方のPMC『巨人の大剣』の副団長、クロード・シルファーも一枚嚙んでおり、彼も進んでこの仕事を進めた。

理由は単純であり、レオスが世話になっている友人にお礼を言いたいからである。

レオスがひねくれていることもあり、友人を呼べと言ったところで素直に聞くわけがないことを分かっているクロードは依頼という形でセシリアを招待したのだ。

これならばレオスが文句を言えないことを知っていて。

それにより、晴れてセシリアはレオスと一緒に旅行を出来るようになったというわけだ。

初めての異性の家? に遊びに行くということにセシリアの胸はドキドキして仕方ない。しかも今回招待してくれたのは、レオス曰く兄貴分……つまり保護者である。

何か失礼があってはいけないとセシリアは気が気では無かったりするのだが、それでもやはり想い人との旅行ということで心躍ってしまうのは仕方ないことだろう。

 

 

 

 アメリカに着いてからは驚きの連続であった。

レオスの兄貴分にして上司と、舎弟を名乗る後輩との出会い。

レオスの口調やPMCのイメージから筋骨隆々の人がくると思っていたセシリアであったが、目の前に来たのは全く違う人達だった。

後輩は確かにセシリアのイメージに近い感じなのだが、上司はイメージから外れていた。

美しく輝きを放つ金髪に色白の肌、すらっとした長身にきっちりと着こなしているスーツ。かけているメガネが知的さを醸しだし、誰が見ても振り返るであろう美貌をその人物は持っていた。それはハリウッド俳優と遜色がまったくない。

そんな人物が現れてセシリアは緊張してしまった。

確かにセシリアは代表候補生としてモデルの仕事などもやっているが、それとは次元が違うのだ、その人物の格好良さは。

その彼から自己紹介を受けた時などまさに冷や汗物であり、レオスのことを内心怨んだくらいである。レオスが話していた人物像とまったく違っていたから。

これがレオスの保護者なのだと。

 そして車に乗りレオスの実家? に向かうことになった訳だが、いきなり大音量で音楽を流され顔を顰めるセシリア。

彼女はあまりロックなどは聴かないので、これには少し参った。

真逆その裏で追跡者の車がTWOにより二台吹っ飛んだことなど、セシリアは知るよしもない。

それから数時間後、やっと着いた巨人の大剣の本部にセシリアは凄く驚いた。

初めて見るPMCの本部。その広大な土地に所狭しと並んでいる戦車やヘリなどの数々。壮観の一言に尽きるこの光景に彼女は感動に近い感情を抱いた。

これがレオスの見ている風景だと思えば尚更新鮮に見えた。

 

 

 

 そして今現在、セシリアの目の前では信じられないことが起きていた。

レオスが用があると言って入っていった部屋の扉が突然吹き飛んだのだ。

それだけに留まらず、扉の後ろの壁も粉砕され砕けてしまった。粉砕された粉塵が舞い、視界を悪くする。

その中で蠢く影を見て、セシリアは悲鳴を上げた。

何故なら、その影は先程部屋に入って行ったレオスだったからである。

レオスは壁から身体を引き抜き起き上がると、口に溜まっていたであろう血を吐き捨てながら前を睨む。その先に居たのは、セシリアが見た中で一番『巨大』な人物だった。

背が高いと認識するよりも先に、巨大だと感じさせる巨躯。腕の太さがレオスの胴以上ある巨腕。一歩踏み出す度に建物が揺れるんじゃないかと思うような迫力。白い伸ばしっぱなしの髭に厳つい顔をした大男がそこにはいた。

 

「このクソ餓鬼! 今日こそ手前ぇをぶっ殺してやるっ!」

 

そう叫ぶやいなや、レオスに向かって拳を突き出す男。

セシリアはその姿に恐怖し、レオスに今すぐにでも逃げるよう叫ぼうとした。

 

「レオスさん、逃げっ!?」

 

だが、それは横から出た手によって止められる。

その手に驚きセシリアは即座に手の方を見ると、そこにはにこやかに笑うクロードがいた。

 

「お気になさらず。いつものことですから」

「え………?」

 

見慣れている光景だというクロードにセシリアは信じられないような目を向けた。

今まさに目の前で人が殺されかけている状況で笑顔でいるクロードの正気を疑ったくらいである。

実際にセシリアの前では日常では決して見られないような光景が繰り広げられていた。

 

「がぁああああああああああああぁああああああああああああああああ!!」

 

壁を突き破った腕の状態からラリアットを嚙まそうと壁を破壊しながらレオスに突っ込む男に対し、レオスはセシリアが見てきた中で一番の速さで大男の内側に飛び込むと、顔面目がけて拳を突き出した。

 

「らぁ!」

「ぐがっ!?」

 

何かが弾けるような音と共に大男の顔面が弾ける。

だが、男はすぐに顔をレオスに戻しそのまま腕を壁ごと振り抜きレオスへとぶつけた。

 

「クソみてぇなパンチかましてるんじゃネェえええええええええぇえぇえええええええ!!」

 

巨腕に吹っ飛ばされたレオスは近くに居たカイルを巻き込みながら壁に激突し、壁が粉砕された。

 

「な、何で俺まで……とばっちりです………」

 

その光景はまず有り得ない。ISを使ってもここまで破壊的なことができるかどうか分からないというくらい、激しい攻撃の数々であった。

その光景にセシリアは絶句する。

だが、そんな様子を面白そうにクロードは見ながら話し始めた。

 

「今暴れ回ってる大きな人が私達『巨人の大剣』のリーダー、アンドルフ・ブリュッケンです」

「え、あの人が!?」

 

流石にセシリアもここまでとは想像していなかった。

如何にもな荒くれ者な感じだと思っていたが、まさかこんな化け物じみているのがレオス達のリーダーだとは思わなかった。

今も尚、レオスを相手に暴れ回っており、レオスの攻撃を物ともせずに突っ込んでいた。

 

「おいクソ餓鬼! テメェ、学校にいって温くなったんじゃねぇか? 全然腰が入ってねぇヘボパンチばかり出しやがってよぉ!」

「そういうオヤジこそ全然効かねぇよ! いい加減歳なんだから黙って茶でも吸ってろよ、この老害がぁ!」

「まだ俺は五十代のイケイケだ、この餓鬼! とっとと沈め!」

「手前ぇこそ落ちろ、この筋肉ダルマ!」

 

二人によって巻き起こる破壊の嵐に建物が崩れないか心配になってくるセシリア。

そんなセシリアの心情を余所に、気が付けば被害が出ない此方に人だかりが出来上がっている。無論、ここの社員達である。

 

「いいぞ、いいぞ、もっとやれ!」

「レオスに100ドル賭ける! お前は?」

「俺はオヤジに200ドル!」

「やっぱこうじゃねぇとアイツが帰ってきたって感じがしネェよなぁ」

 

皆目の前の光景にテンションを上げてはしゃぐ。

明らかに可笑しな世界にセシリアはめまいがしそうな気がしてきた。

 

「団長とレオスはいつもこんな感じなんですよ。二人ともやけに張り合いますからね。きっとお互いにライバルとでも思っているのでしょう」

「そ、そんな話じゃないのでは……」

「そこまで気にしないで下さい。毎回こうなんで皆慣れているんですよ。それに団長もレオスも手加減はしていますから」

 

その言葉にセシリアはさらにクロードの正気を疑った。

目の前で行われている暴力は人が死んでも可笑しくないものだ。それで手加減をしていると言われても信じられる訳が無い。

 

「団長の本気なら、今頃レオスは跡形もない肉塊に変わっていますし、レオスだって本気だったらそもそもあんなに受けません」

 

少し自慢げに話すクロードに絶句するセシリア。

もはやそれは人ではないのでは、と言いたくなる。

そんなふうに思っている間にも二人の喧嘩は続き、骨肉がぶつかり合う音と破砕音が絶えず聞こえている。

そしてある程度決着が付かず続いているのを見計らってクロードが前に出た。

 

「お二人とも、そこまでです。レオス、団長、二人とも随分と壊してくれましたね」

 

ニッコリと笑うクロードだがその目は笑っておらず、その視線を当てられたレオスとアンドルフはビクッと肩を震わせ動きを止めた。

 

「やるなとは言いませんが、毎回毎回やり過ぎるなとは言っていましたよね?」

 

優しい声なのに、威圧的な迫力を纏った声。

それに二人は震るえ始めた。

 

「特にレオス。お客様の前でみっともない真似はしないで貰いたいです。そして団長、壊した壁は勿論直して貰いますよ。経費はあなたたち二人の今月分の給料から引きますので」

 

判決を下す裁判官の如く、クロードは笑顔で二人に処分を言い渡した。

壊した物を直すのに掛かる金額は、二人の給料の殆どを持って行く。

 

「「そ、それだけは勘弁!!」」

 

今まさにセシリアが見た中で一番信じられない光景を見た。

それは……レオスの土下座姿だった。

そして彼女も理解する。

 この組織で一番偉いのはクロードだということを。

 

 

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