まったく、何だってあのクソオヤジは毎回こうもつっかかってくるかねぇ。
いい年した大人ってもんなんだから、もうちっとはそれらしい対応ってモンをして貰いてぇもんだぜ。
「ったく、口の中がズタズタだ。これじゃしばらくインド料理は食えそうにねぇなぁ」
そう独り言を洩らすくらいには効いたぜ、こいつはよぉ。
認めたくはねぇが、流石はクソオヤジってところかねぇ。
そんなことをクロードのお説教を受けながら考えてた。
それにしても、流石は我等が副隊長様だ。一番強い奴ってのは、全員の金を握ってる奴ってのがよくわかるよ、本当。
「………以上です。これ以上は言っても堂々巡りにしかなりませんからね」
「まったくだ」
「ああ、うんざりするぜ、この時間は何度受けてもよぉ」
お説教が終わったところでそんな感想を洩らすオレとオヤジ。
そんな俺達にクロードが笑顔を向ける。このどんな女でも墜とす魔性の笑みって奴も、オレ等からすりゃあただの死刑宣告にしか見えねぇってんだから世の中不思議だよ。
「そう思ってるんでしたら、毎回毎回暴れないで下さい。修理費だって無料じゃないんですよ」
その言葉に俺は呆れながらクソオヤジに親指をクイッと差す。
「そいつはこの脳筋老害オヤジに言ってくれよ」
「それはこの生意気な単細胞なクソ餓鬼に言えっての」
へぇ~、どうやらこのクソオヤジとは両思いってやつらしい。
いいねぇ、この一体感……今すぐにでもぶちのめしたくなっちまうよ。
オヤジも俺と同じポーズで俺に親指を差していたよ。
「以心伝心っていうらしいぜ、こういうの。おんなじ気持ちで嬉しいぜぇ……クソオヤジ!」
「そいつはなによりだ。これで心置きなくぶっ殺せるってもんだからなぁ……クソ餓鬼!」
同時に立ち上がり、思いっきり睨み会う。
毎回こうだから大人げねぇんだよなぁ、このクソな団長様はよぉ。
「お二人とも……減俸な上にさらに二時間お説教されたいですか?」
「「ぐぅっ!」」
おっといけねぇなぁ。
危うくまたクロードから叱られちまうところだった。
奴さんはとてもイイ笑顔をオレ等に向けながら手に持った書類をヒラヒラと揺らしながら見えるように前にだした。
そこに書いてあるのは、以前隣のクソオヤジとやりあった際にぶっ壊したビル内の損害費が書かれてる。
そいつを見せられりゃあ黙るしかねぇ。
「それで結構です。団長はこの後、片付けをして下さい。ご自分で散らかしたのですから」
「わかってるよ、ったく…」
クロードに言われてオヤジがとぼとぼと動き始めた。
その背中は普段の図太い性格からは考えられねぇくらい哀愁ってもんが漂っていたよ。
そんなモン漂わせるくらいだったら、最初からつっかかってくるんじゃねぇっての。
「それでレオスは」
「はいはい、分かってるよ。オヤジと一緒に片付けろって言いてぇんだろ」
わかりきっちゃあいるが、あのクソオヤジと一緒に後片付けってだけで嫌気が差すってもんだ。
するとクロードは妙に暖かい微笑みってモンを向けて来た。
「いいえ、貴方はすぐに治療して貰って下さい」
「はぁ? 何言ってるんだよクロード? こんなもん、傷にも入らねぇだろうが。そいつはお前さんが一番良く知ってんだろ」
こんなおふざけ、いつものことなんだから手当てするまでもネェ。
それはいつも説教垂れてるクロードだったら分かってるだろうによぉ。何で今日に限ってそんなことをいうんだ?
するとクロードは微笑ましいモンを見るような目で俺を見てきた。
そんな目で見られると気持ち悪くなるってのによぉ。
「私は別に大丈夫だと知っていますが、彼女がそうは思っていないですからね。大人しく受けてあげて下さい」
「彼女?」
笑うクロードが顔で差した先には、今にも泣きそうな面で俺を見るお嬢様がいた。
それで納得がいった。確かに、そうだよなぁ。
俺はクロードに向かって仕方ねぇと笑う。
「んじゃ、上司様のご命令に従って受けてくるよ」
「ええ、行ってきて下さい。此方は他の人に手伝ってもらいますので」
クロードはそう言うと、周りに集まっていた野次馬達に少し大きな声で命令を出し始めた。
「そこで見ている人達はこれの手伝いをして下さい! 暇そうですからね」
それ聞いて凄ぇ嫌そうな面をする奴等。
「何で俺達がぁ~~~!」
「賭け不成立な上に後片付けとか、損しかねぇ~!」
「とんだとばっちりじゃねぇか~!」
阿鼻叫喚って感じな文句の数々がオレ等に降りかかる、そいつを黙らせるのは我等が副隊長様だ。
「本来ならデスクワーク中のはずですよね? なのにここに居るということは、それが終わったということですね。なら……暇じゃないですか。それとも……仕事をサボってるとでも言うんじゃないでしょうね」
「いや、それは……」
「よ、喜んで手伝わせていただきます!」
「い、Yes Sir!」
クロードの笑顔を見て全員顔を青ざめさせてすぐに片付けに移った。
流石は泣く子もだまる副長様だな。
片付けている奴等の恨めしい視線を浴びながらオレはお嬢様の元まで歩いて行く。
「まったく……恰好悪いところ見せちまったな。恥ずかしい限りだ」
冗談交じりに笑いながらそう言ってやる。
これで少しはお嬢様も笑うだろ。そう思ったんだが……。
「っ!?」
「うぉっ! いきなり大胆だな」
お嬢様は結構な速さでオレの胸に飛び込んで抱きついてきた。
そのままギュっと抱きしめてくるお嬢様。年の割に発育がいい胸の感触に頬が緩みそうになっちまうねぇ。
そんなことを思いつつお嬢様を見ると、お嬢様ったらマジ泣きだった。
「もう、何でこんなに……。わたくし、心配したのですよ!」
「ああ、悪かったって」
このままじゃ泣き止みそうにねぇお嬢様の頭に手を置くとできる限り優しく撫でてやる。
それでもお嬢様から嗚咽が止むことは無い。
「死んじゃうんじゃないかって……そう思ったんですのよ!」
「あんな程度で死ぬほど、柔じゃねぇよ」
「普通の人ならとっくに死んじゃってます! もうちょっと、身体に気を付けて下さいまし!」
ああ、もう胸元で思いっきり泣くお嬢様。御蔭で胸元が濡れて来ちまった。
しかしまぁ、美女の涙ってもんは、こう、来るモンがあるよなぁ。
だが、あまり泣かしてるとクロードに何言われるかわからねぇ。
だからオレはお嬢様を泣き止ませるべく、お嬢様の頭を抱きしめる。
「あ………」
そんな声がお嬢様から漏れた。
そう言えばこんな感じにしたのは、寮の部屋に初めて入った時だったか。
「こんなこといつものことなんだから、そんなに泣くなよ。オレはそんな簡単にゃあ死なねぇんだからよ」
「……それでも、ですわ……」
お嬢様に聞こえるよう囁くが、お嬢様は変わらず泣き続けていた。
この後お嬢様が泣き止むまで抱きしめていたわけだが、その間周りの奴等から冷やかされ続けたよ。
お前等、後で覚えておけよ。