お嬢様を連れて歓迎会とやらの時間間近まで本部内をデートした。
つっても特に見るモンなんてねぇんだけどなぁ。射撃訓練場に兵器の収納庫。それに整備室やら最低限の娯楽室、そんなもんかねぇ。
娯楽ったって置いてあるのはジンミラー(トランプ)とテレビくらいなもんさ。
大体やってるのはカードを使った賭けかテレビを使っての賭けボクシングや野球なんかだ。とても健全なもんじゃねぇなぁ。
オレにとっては馴染み深い光景ってやつだが、お嬢様は初めて見るってんで目を輝かせてたよ。
女が兵器見て目ぇ輝かせるのはどうかと思うけどねぇ。
まぁ、娯楽室で誰かが読んでいたポルノ雑誌を見て顔を真っ赤にしたお嬢様は中々に面白かったけどよ。
そして一通り見終わった所で館内放送が入り、お嬢様共々お呼び出しだ。
呼ばれた場所であるロビーに付くと、そこは結構賑わってやがった。
こいつ等は全員酒が飲める理由さえあれば騒ぐ連中だ。今回の歓迎会とやらも騒げると思って来たんだろうさ。
そいつ等を沈めるかの用に前に出るオヤジ。無駄にでけぇ図体は何も言葉を発さなくても威圧感が半端じゃねぇ。
「お前等っっっっっっっっっ! 飲みたいかぁああぁああぁあああああああ!!」
「「「「「「おぉおおおぉぉおっぉぉおおおおぉおぉおぉぉおおおおおおおお!!!!」」」」」
オヤジの煽りに周りの奴等がノリノリで雄叫びを上げる。
その音量でロビー全体が震えるかと思うくらいうるせぇ。
「キャッ! び、びっくりしましたわ」
お嬢様はあまりの馬鹿騒ぎに肩をビクっとさせて驚いたようだ。
誰だってこんなもん見れば普通は驚くモンさ。
そんなことにも気付かねぇ馬鹿共は更にオヤジに煽られていく。
「聞けよ! 何と……何とだ! あの万年女に興味を持たなかったクソ餓鬼なレオスがだ! 女を連れてきやがった!」
「「「「「「「おぉおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
周りはノリもあってか信じられねぇと声を上げる。
随分とした反応じゃねぇか。今ホモだとか言った奴は後でオレと近接戦闘の訓練だ。メッタメタにした上に男娼の館に放り込んでやる。
「その物好きな御方の名は『セシリア・オルコット』。イギリスの名門貴族の御当主様だ。今回はあのクソ餓鬼に護衛の依頼を頼んでここに来てる。だからお前等」
オヤジはそこで言葉を一端切る。
その後来るであろうもんが何か分かってるオレ等は皆同じような行動をとった。
周りの奴等が全員両手で耳を塞ぐ。もうここまで言えば分かるだろ。
何もわからねぇお嬢様にはオレが直々に両手で耳を塞いでやった。
「や、レオスさん、何を! んぁっ」
どうやらお嬢様は耳が弱いらしい。そいつは良い情報だよ。この後起こることを防げネェオレにはそれぐらいの役得があってもいいだろ。
そして待ちにまってねぇ時が来た。
「もし何かあったら容赦なくそいつをぶっ殺すっ!!!! 客人に手を出すようなクソはウチにいる価値はネェからなぁ。分かったかぁああぁあああぁああっぁあぁあああああぁああああああああああぁぁぁぁああああああああぁああぁあぁ!!!!」
オヤジから発せられた怒号。
そいつはさっきまで騒いでいて煽られていた奴等の声以上に轟き、この建物を確実に揺らした。この建物は一応籠城戦や拠点に使えるモンで、戦車砲の直撃にだって耐えられるかなり頑丈なモンなんだけどなぁ。
流石は化け物としか言いようがねぇ。
その化けモンの雄叫びを直に聞いちまったんだ。御蔭でオレは頭の中に手榴弾をぶち込まれた気分だ。死なねぇのが本当に不思議でしかたねぇ。
その後お嬢様の両耳から手を離すと、お嬢様は顔を赤くしたままオレの顔を見てきた。
「さっきは本当に驚きましたわ! まさかあんなに大きなお声が出るなんて思いませんでしたから。で、でも、助けていただいてありがとうございます」
「ん? あぁ、流石にお嬢様があんなもん聞いたら鼓膜が破れちまうからな」
そう答えるとお嬢様は嬉しそうに頬を赤らめてた。
そいつは結構だが、御蔭でオレの耳はしばらく使いモンになりそうにねぇなぁ。
オヤジが言い終えると今度はクロードが前に出る。
寧ろこっちの方が重要だ。オヤジのはただの前座だからなぁ。
「それではこれから外に止めているジープに各自乗り込んで下さい。支払いは後日皆から徴収しますので。今日の当直の人は大人しく我慢して留守をお願いします」
「「「「「Sir Yes Sir!!!!」」」」」
オヤジと違ってクロードになるとコレなんだから、どっちが上なのわからねぇもんだ。
それでか陰険メガネは怖ぇってことだな。
クロードの話も終わり、外に止めてあるジープにオレ達は乗り込んでいく。
お嬢様は初めて乗る車に少し興奮してる様子だ。確かにお上品なお嬢様にゃぁかなり似合わねぇ組み合わせだな。
そして発進し始める8台のジープ。
向かう先はコロラド州プエプロの郊外にあるバーだ。
たまには運転したいんでオレが運転にまわり、助手席にクロード。後ろにお嬢様とカイルを乗せて荒野を走ってる。運転しねぇと腕が鈍っちまいそうなんでなぁ。
お嬢様に合わせてシックなバラードの曲を流しつつジープを走らせていると、お嬢様から質問が来た。
「あの、今向かってるお店はどのようなお店ですの?」
バックミラー越しにお嬢様の顔を見ると、何やら不安だけど興味津々って感じな面だ。
ここに来てからお嬢様の興味ってのは尽きネェなぁ。好奇心ってのは猫を殺すっていうが、若いウチは寧ろそいつが成長の肥やしになる。良いことだとオレは思うよ。
「ああ、『黄金の夜明け(ゴールデンドーン)』か。なぁに、偏屈な爺さまがやってるボロイ店だよ」
オレがそう答えると、クロードが苦笑しながら詳しくお嬢様に話す。
「『黄金の夜明け』は私達、巨人の大剣と昔から付き合いのあるバーですよ。そこのマスターも元は傭兵で、私達とは結構一緒に仕事を行っていた仲なんです。二十年くらい前に歳で引退して夢だったバーを開いているんです」
「そうなんですの? 少し……素敵ですわね」
お嬢様のその反応にオレは聞き返しちまう。
あの爺さまの何処が素敵に聞こえるんだ?
「素敵? どこがだ?」
「夢を叶えて今も続けていることですわ。一つの夢に向かって邁進するというのは格好良いものですから」
「そうかい」
確かにそいつはご立派だねぇ。
生憎オレは夢なんてモン、持ったこともねぇけどよ。
毎日が大変だったんでなぁ。
「でも、あの人怖いですよね~。俺、毎回言ってはお説教受けてばかりですし」
「そいつはテメェがミスばっかりしてっからだろ。口うるせぇのはご愛敬だ」
「そんな~」
文句を洩らすカイルにそう答えるが、だったら何でこいつは付いてきたんだか。
そんな感じに会話をしながらジープを走らせる。
闇夜の空気を纏った荒野の風邪が心地良いねぇ。こいつもまた、帰ってきたって感じがするよ。
ジープを走らせること約一時間半、ちょっと寂れた感じの郊外に着いた。
入り口付近にある駐車上にジープを止めると、そこからは歩きだ。
木製の建物が多く見られるこの街は、とてもアメリカとは思ねぇくらい風景が違う。
その上治安も悪いと来たモンだ。御蔭でゴミクズの吹きだまりと化しているよ。
お嬢様を守るようにしながら店に向かってると、露出の激しい服を着た金髪の女が近づいて来やがった。
「はぁ~い、レオス。相変わらずイイ男ね」
「よう、イリーナ。そいつはどうも」
すり寄るように来たこの金髪でスタイル抜群のねえちゃんはイリーナっていう『娼婦』だ。
この街じゃそういった連中も多く居て、ホテルやら店やらで客を取ってる。
お嬢様はイリーナを見て警戒心を出しつつも恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「な、何て破廉恥な恰好をしているんですの……」
「あら、このお子様は何? それにそんなに派手だったかしら? これでも大人し目の奴なんだけどね」
お嬢様に気付いたイリーナは不思議そうにお嬢様を見つめると、自分のご自慢の身体をひけらかすようにした。
でかい胸がぶるんと揺れて、周りの奴等から歓声が上がる。
「まぁいいわ。レオス、今日こそ私と一緒にイイことしない? 貴方だったら金額もサービスするし、金額以上のサービスをしてあげるわよ。何だったら生でもいいし」
上目使いで誘惑するイリーナ。
その台詞を聞いたお嬢様は顔を真っ赤にしたまま頭から煙りを噴き出してた。
何やら『なま』とぶつぶつ呟いているみてぇだが、気にしてあげないのが大人ってもんさ。
「お生憎様、今日はウチのお嬢様の歓迎会なんでな。お誘いは嬉しいが断るよ。それじゃあなぁ」
そう答えてそのまま歩き始めると、後ろから批難めいた声が聞こえてきた。
「もう、レオスのいけず~! でも私は貴方の童貞(チェリー)、諦めないからね~!」
そいつを聞き流しながら歩いていると、周りからもったいねぇと声をかけられた。
もったいないねぇ? あまり深く考えたことはねぇけどよぉ。
え、童貞で恥ずかしくねぇのかだって?
そいつを気にしてる方がガキだろ。こっちは真面目にお仕事一辺倒なんだよ『そんなこと』に関わってる暇はねぇ。卒業したところで給料が変わる訳でもねぇしよ。
お嬢様は更に顔を真っ赤にして『レオスさんは初めて』なんてぶつぶつ連呼してるしよぉ。ちっとばかしついてねぇなぁ。
まぁ、お嬢様の真っ赤な面白い面を見れただけで良しとするか。
そして歩いて10分、木製のボロい店に着いた。
こいつこそが目的地である『黄金の夜明け』だよ。
そいつのの門を潜れば……。
「また来たのか、クソ餓鬼共!!」
ショットガンを構えた爺さんの暖かな歓迎があるのさ。
そしてこの後、お嬢様の悲鳴が上がったのは言うまでもねぇよなぁ。
こうして、お嬢様の歓迎会の火蓋は切って降ろされたってわけだ。
楽しんでくれると嬉しいねぇ。