『黄金の夜明け』に到着次第、さっそく爺さんから暖かな歓迎を受けたよ。
懐かしねぇ、このショットガン片手の出迎えって奴はなぁ。
その歓迎に皆笑うが、お嬢様はびっくりしたようで俺の後ろに隠れた。
どうやらこの歓迎はお上品なお嬢様にはあわねぇらしい。
「爺さん、あまり客を驚かせんなよ」
「うるさいわい!」
そう言いつつも爺さんは俺達を席へと案内し始める。
まぁ、いつものやり取りってやつだな。
そこで爺さんはやっとお嬢様に気付いたらしい。
「おい、レオ坊。このお上品な嬢ちゃんは何だ? お前さん所はいつから女も雇うようになったんだ?」
「おいおい、耄碌したのかよ? ウチは基本女は雇わねぇ方針だろうが。お嬢様はウチのクライアントでお客様だよ。所謂本物のお姫様ってやつだ。だから安酒とかは出すんじゃネェよ」
「くだらねぇこというんじゃねぇ! ウチは安酒なんて扱ってねぇわい!」
お嬢様はそんな爺さんに少し怖がりつつ話しかける。
「あ、あの、初めまして。セシリア・オルコットと申します」
「おぉ、こいつはご丁寧に。ローガン・バルグだ。このクソ餓鬼どもの世話を昔から見ている者だよ」
さっきまで怖がらせていたせいか、好々爺って感じにお嬢様に話しかける爺さん。
おいおい、随分とオレ等とは対応が違うじゃネェか。
そんなことを考えてたのがばれたらしい。爺さんはオレをジト目で睨んで来やがった。
「おい、レオ坊! お前さん、考えてることが丸わかりなんだよ。何が対応が違うだ! お前等みたいなちゃんと金を払わねぇクソ共とまともなお客を一緒にするんじゃねぇよ」
「そいつは差別じゃねのか? 客は客だぜ」
「金払わねぇのは客とはいわねぇんだよ、この馬鹿が」
何て言われようだ。
もうちっとは人情ってもんがねぇのかねぇ、この老人はよ。
そう思ってたら今度はお嬢様がオレをいじめて来やがった。
「レオスさん、ちゃんとお金は払わないと駄目ですわよ! それにお酒も」
プリプリ怒るって感じに怒るお嬢様。それじゃ全然怖くはねぇなぁ。
「そう硬いこというなよ、お嬢様。それにちゃんと払ってはいるんだからよ」
「本当ですの?」
「ああ、まぁね」
「後払いっていうせこい方法でなぁ、たく…」
爺さんもそうケチなこと言うなよ。
人間、寛容なのが素晴らしいんだぜ。
そんな爺さんは文句を言いつつも酒を出してくれるってんだから、嬉しい限りだねぇ。
全員が席に付いたところで爺さんが全員にジョッキでビールを持ってきてくれた。
勿論、酒の飲めねぇお嬢様にはオレンジジュースだ。まだお嬢様に酒は早いってな。
そして全員に行き渡った後、クロードが皆を代表して幹事を行う。
「では改めて。レオスの帰還と、その友人歓迎して……乾杯」
「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
店内を揺さぶるかの声を上げた後、互いのジョッキをぶつけ合って乾杯する。
「れ、レオスさん、わたくしにも……」
「あいよ」
お嬢様がオレンジジュースの入ったグラスを前に出してきたんで割れねぇように気をつけながら乾杯してやると、お嬢様は嬉しそうに笑った。
その笑顔を肴にまず一杯煽る。
「くあぁ~~~、不味い!」
久々のビールにそんな感想を洩らすと、さっそく爺さんからどやされちまった。
「不味いって言うんだったら、そもそも飲むんじゃねぇ!」
ごもっともな意見だが、そもそも出された酒を飲まねぇのは礼儀に反するってなぁ。
そのままジョッキをぐいっと煽り飲み干すと爺さんに追加注文を頼む。
「爺さん、バカルディ出してくれよ」
「お前さんはもうちょっと味わって飲めんのか?」
「ビールなんざぁ小便と一緒だ、そんなんじゃ酔えねぇよ」
文句を言いつつも爺さんはバカルディを持ってきてくれた。
そいつをグラスに入れて一気に煽ると、芳醇な香りが胸の中に広がっていく。
やっぱり酒はいいもんだ。
そのまま食い物を摘まみながら酒を呷っていると、何やらお嬢様が飲みたそうに俺のグラスに目を向けていた。
「あ、あの……レオスさん。そのお酒をさっきから美味しそうに飲んでいますけど、美味しいんですの?」
「ん? あぁ、こいつは中々に良い酒だよ。気持ち良く酔えるしな。ほら、お嬢様も一口どうだい?」
そのまま飲んでいたグラスを渡すと、お嬢様は顔を真っ赤にして狼狽え始めた。
「あ、あの、その、良いんですの? それにコレって間接キス……」
「何か言ったか? 大丈夫だよ、不味くはねぇから」
狼狽えるお嬢様を笑いながら飲むよう促すと、お嬢様は顔を真っ赤にしたまま頷いておずおずと一口グラスに口を付けた。
そしてすぐに口を離す。
「っ~~~~~~~~~~~~~~~!?」
どうやらお気に召さなかったらしい。
その姿を笑ったら、ジト目で睨まれちまった。
「うぅ~、ひどいですわ、レオスさん。美味しくありませんでした」
「こいつの美味さをわからねぇってことは、まだまだお子様だってことだよ、お嬢様」
「むぅ~、子供扱いして~」
まったく、可愛いなぁ、お嬢様は。見てて面白いもんだ。
そんな風にお嬢様をからかったら、今度は少しばかりへそを曲げ始めやがった。ちぃばかし弄りすぎたかねぇ。
このままだと後々面倒臭そうなことになるんで、ちょっといつもと変わったモンを頼もうか。
「爺さん、ストロベリーサンデー、頼むよ」
そいつを聞いた爺さんは危うく吸っていたタバコを落としかけた。
「おい、レオ坊。さっき何て言った? 儂の耳がおかしくなったのか? 明らかにお前が頼まないようなもんを注文したと思うんだが。もし聞き間違いじゃないってんなら、儂は今すぐ耳鼻科にいかんといけない」
「何お決まりかましてんだよ、爺さん。俺にじゃねぇ、お嬢様にだ。俺がそんなもん頼む訳ねぇだろ。『どこぞのクソオヤジ』じゃねぇんだからよぉ」
「そうか。なら納得がいった。お前さんが甘いモン頼むような可愛げがある奴じゃねぇのは来た頃からずっと知ってるからな」
「そういうこった。つーわけでヨロシクな」
爺さんは納得して頼んだモンを作り始める。
それが終わりお嬢様の所まで持ってきた。
「はいよ、お待ち。黄金の夜明け特製『日の出サンデー』だ。口に合えばいいんだがね」
「うわぁ、美味しそうですわ! いただきます」
お嬢様は出されたサンデーを美味しそうに食い始めた。
何でそんな甘いモンが美味いのか俺にはイマイチわからねぇが、女ってのは好きだよなぁ、こういうの。
そしてその美味さとやらを堪能した後、お嬢様は不思議そうな顔で聞いてきた。
「なんでアイスクリームサンデーが置いてありますの?」
普通、こんな酒を出す店に子供染みたモンを出すわけがねぇ。
なのに何でそんなもんがあるのか。誰だって知れば気にはなるよなぁ。
「そう来ると思った。そいつはなぁ、どこぞのクソオヤジがとんだ『ド甘党』だから特別に置いてんのさ。そう、熊みてぇにでけぇ図体したくせにお子様舌したオヤジがよぉ」
「誰がお子様舌の変態オヤジだってぇえぇええぇえええええぇええええ!」
どうやら本人に聞こえてたらしい。
あのクソオヤジはさっきお嬢様に出した『日の出サンデー』と同じもんを片手にこっちに馬鹿でかい音を立てながら来やがった。
「別に変態とは言ってねぇだろうが。大人のくせにド甘党ってのはどうなのか、ってお嬢様と話していただけだ。ソフトクリームくらいが丁度良いってな」
「糖分は身体に良いんだよ。それを否定してるからおつむに栄養が廻らず毎回始末書の山ばっか築くんだよ、この馬鹿餓鬼!!」
何とまぁむかつくことを言いやがる。
やっぱりこのクソオヤジとはケリつけねぇといけねぇよな。
向こうも同じだろうよ。そのまま睨み合う。
お嬢様はあわあわと慌て、カイルはもう周りに賭けをしないかと話を振り、クロードが呆れ返ってる。だが、関係ねぇ。
するとオレとオヤジの間に爺さんが割って入った。
「このクソ餓鬼共、勝手に暴れて店のもん壊すんじゃない! そんなにケリを付けたいんだったら、こいつでつけな!」
爺さんがそう叫んで指差した先にあるのは、大きな樽だ。
中に入ってるのは、自家製のウォッカ。
それを見た全員は爆笑して盛り上がった。
「この勝負は、『黄金の夜明け特製自家製ウォッカ、アルコール数90パーセント』の飲み比べで決めな! 負けた方が今日の払い全額支払え!」
そして沸き立つ周り。
オレとクソオヤジは席に付いて大ジョッキに溢れんばかりの自家製ウッォカを注がれる。
夏の暑い夜、お嬢様が慌てふためく中、オレとオヤジの喧嘩は再び始まった。