セシリア・オルコットは昨日から困惑していた。
IS学園に来た二人目の男、レオス・ハーケン。
彼女が今まで見たことがないタイプの人間だった。
同じ年齢とは思えないほどに落ち着き払っていて、何とも言えない圧倒的な何かを感じさせる。
それはもう一人の男、織斑 一夏を見れば嫌でも分かるくらいはっきりとしている。
異常なのだ。
生活環境が違うということがここまで差が出ると理解させられた。
織斑 一夏が年相応とするのなら、レオス・ハーケンは歳不相応。
織斑 一夏の瞳は子供っぽさを残したものだが、レオス・ハーケンの瞳は達観していて実年齢を二回りも大きく感じさせられる。
口調こそ粗雑だが、言っていることは至極真っ当。
そんな異常な人間が身近にいれば気になるのは当然のことかもしれない。
そして昨日寮で襲撃にあったときは身を挺して守ってくれた。
その時は頭が真っ白になって何も考えられなかったが、今になってみると顔から火が噴き出すくらい恥ずかしい醜態を晒してしまった。
お礼を言ったら『素で邪魔だから退かした』と言われた時は少しカチンッときてしまい包帯を締め付けてしまった。とても怪我人にしてよいことではないと今になって反省する。
彼はその後教員とどこかに行ってしまったが、セシリアはベットに付きながらも考えてしまう。
邪魔だからと突き飛ばした人間にわざわざあんなことをするだろうか?
しかし彼は話した感じ、真っ当なことしか言わない。
そんな彼が言ったことと、あの行為に生じる齟齬にセシリアは妙に気になって仕方なかった。
それを考えているうちにその日は眠ってしまった。
しかし翌日になってもその答えは見えず、未だに気になったままであった。
あぁ、朝から胸くそ悪りぃ。
俺はさっきからそう思って仕方ない。
何で朝っぱらからあんな爺さんと腹の探り合いをしなきゃならねぇのか。
そういうのは俺の専門じゃねぇんだよ。
時間のせいで朝飯も食いっぱぐれちまったし、今すぐにでももらった電子たばこを吹かしたくなる。
しっかしそんなことをすりゃあチフユに睨まれちまう。
そんなわけで俺は胸くそ悪りぃのを感じながら授業を受けていた。
「ではこの時間はクラス代表を決めることにする」
教壇でチフユがハキハキと言う。
マヤの授業と違ってチフユがやるとクラスの奴らはビシッと受けていた。
すっかり上下関係ってやつが出来上がってんなぁ、これは。
「クラス代表は学級委員みたいなものだ。学校行事のまとめ役をしたり、クラスを代表して戦ったりと・・・・・・まぁ、クラスの顔だな。自薦、他薦は問わない。誰かいないのか」
要はまとめ役ってやつだ。
実に面倒臭いことだ、こいつを受けさせられる奴は可哀想なこった。
俺には関係ねぇけどな。
何でだって? よく考えて見ろよ。
俺はこのクラスで厄介者扱いだぜ。そんな奴を代表に推薦しようなんて奴はいねぇよ。寧ろ俺がご免被る。何だったら5ポンド賭けたっていい。
「私は織斑君を推薦します」
「あ、なら私も」
さっすがイチカの野郎だ。
人気者ってのは辛いねぇ~。
「えっ!? なんで俺」
イチカの野郎はまさか自分が当てられるとは思ってなかったみてぇだ。
おいおい、このクラスの連中のことを良く考えて見ろよ。
昨日の朝のノリから考えりゃあお祭り好きな奴らだらけじゃねぇか。そんな奴らの目の前に恰好の餌がぶらついてるんだぜ。食いつかない道理はねぇだろうよ。
「だ、だったら俺はハーケンを推薦します」
よりにもよってイチカはこっちに矛先を向けてきやがった。
「おいおい、俺がやるわけねぇだろ、そんな面倒臭せぇこと。何よりチフユがやらせるわけねぇだろ」
俺にやらせるとは思えねぇな。俺にやらせるくらいだったらイチカにやらせるほうがいいに決まってんだろ。クラスの総意だぜ、きっと。
「それでは織斑とハーケン、他に誰かいないか」
ところがチフユは俺を入れやがった。しかしノリ気じゃねぇって面だなありゃ。
何を考えてんのかねぇ。予想だとたぶんだが、あの爺さんに何か言われたな。
つくづくやっかいな爺さんだぜ。
「ちょっと待って下さい、納得がいきませんわっ!! 何故イギリス代表候補生である私ではなく、素人である彼らが推薦されるのですか!」
プライドが高いお嬢様はこの推薦が気にくわないらしい。
「「「「だって面白そうじゃない」」」」
さすがお祭り好きなやつらだぜ、自分に素直なようで何よりだ。
「そのような選出は認められませんわ! 男がクラス代表なんて、このIS学園での良い恥じさらしですわ。私はにそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
何ともまぁ結構な物言いだぁ、こりゃぁ。別にそこまでの事でもねぇだろうに。
随分と真面目なことだねぇ~。
「実力からすればこのわたくしがなるのが必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!大体! 文化として後進的な国で暮らさなければ行けないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
「ちょっと待てよ、そこまで言われる覚えなんて無いぞ! イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
「おいしい料理はたくさんありますわ!! あなたわたくしの祖国を侮辱しますの」
そうしてお嬢様とイチカがにらみ合う。
まさに一触即発って感じだなぁ、いいねぇ~この感じ。若々しいってのはこのことを言うんだろうねぇ~。お兄さんには眩しくて直視できねぇなぁ(笑)
さすがにこのままじゃじれってぇから言ってやるか。
あと少ししたらお嬢様が『決闘』とか言い出しそうだったからなぁ。プライドが高い奴は何かにつけてこういうことに勝負を持ち込むからなぁ。
「そこまで言うんならいっそやり合っちまえよ、お前等」
「「えっ!?」」
二人は俺が言い出したことに驚いたみてぇだ。特にお嬢様は言おうとしたことを先に言われたこともあって驚き倍増しって感じだな。
「どうせ口でものを言ったってどうしようもねぇ。お嬢様の物言いも決して否定できる訳でもねぇし、イチカが反発したい気持ちも分からなくもねぇ。ならいっそやり合って雌雄を決したほうがお互いにすっきりすんだろ。どうよ、お二人さん」
俺がまさかそんなことを言い出すとは思ってなかったらしい、クラスの奴らやチフユが静かになっちまった。そこまで驚くことかねぇ~。
「おお、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
「わ、わかりましたわ」
二人とも意気揚々にうなずき合う。
これが若さかぁ、って思っちまうなこりゃ。一応言っとくけどよぉ、俺はこいつ等と同い年だってことを忘れそうになるぜ。
「それで、ハンデはどれくらいつける?」
「さっそくお願いかしら?」
「いや俺がどんくらいハンデつけたらいいのかなって?」
そうイチカが言うとクラス中から爆笑がわき起こった。
おいおい、イチカ。そいつは中々に受ける冗談だぜ。
「あっはっっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!! イチカ、そいつは嘗めすぎだろ」
本当にこいつは人を飽きさせねぇなぁ。
マジで笑っちまったよ。
「織斑君、それ本気で言ってるの? 男が強かったのって昔の話だよ。今男が女と戦争したら三日も持たないって言われてるよ」
クラスの奴らにそう言われ、イチカの野郎は、しまった!? て顔になってやがった。
それは今の『表』じゃ当たり前のことになってることだ。
そいつを忘れるってのはさすがに考えられなかったぜ。
まぁ、ここはちゃんとしたことを教えてやらねぇとなぁ。間違った認識をしたまま社会に出ると恥を掻いちまうからなぁ。
「ああ、そのことだがよぉ、そいつは嘘だぜ」
「「「「「えっ!?」」」」」
俺がそう言うと全員俺の方に注目を集めていく。
「よく考えてみな。男より女が強いのはISがあるからってわけだが、ISの数は467機まで。全部使ったって467機しかねぇ。たしかにISの性能は高性能だが、戦争ってのは高性能ってだけで勝敗が決まるわけじゃねぇんだ。戦争ってのはある程度の性能と、それ以上の物量がものを言うんだよ。そして何よりも補給が重要になってくんのさ。いくらISが凄いからってずっと戦い続けられるわけじゃねぇ。弾切れやエネルギー切れも起こすし、操縦者だって体力がもたねぇ。物量で押されたらいくらISだってもたねぇのさ。物量には物量で対抗するしかねぇ。それで467機しかねぇってのは少なすぎんのさ。まぁ、そもそも467機もそろわねぇしな」
「え、何でだ?」
イチカが本当に分からないって感じに聞いて来やがった。
こいつはつくづくアホだな、こりゃあよぉ。
「コアは国や企業なんかにいってるわけだが、それを治めてんのは大抵が男だ。つまり首根っこを捕まれてる時点で467機もそろわねぇ、良くて半数かそれ以下ってところだろうよ。そこを考えりゃぁあとはわかんだろ。少なくても女と戦争して三日で決着はつくことは難しいし、そもそもどっちが勝つかもわからねぇ。そういうわけでその認識は改めたほうがいいぜ、お前さん方。間違った認識してると将来いらねぇ恥かくからよぉ」
俺がそう皆に言うと、皆は感心したらしいみてぇだな。
「つっても、イチカがハンデなんてのはあり得ねぇけどな。もうちょっと考えてから発言したほうがいいぜ。お前さんはプロに喧嘩売ってるんだ、そいつにハンデってのはお前さん嘗めすぎだろ。むしろお前さんが付けてもらう側だぜ、普通はよぉ」
イチカは自分の言ったことをようやく理解したみてぇだ。こんなんじゃ将来苦労するぜ、絶対になぁ。
「お前たちで勝手に決めるな。しかし自薦も推薦も、もうないようだしな。しかしそうなるとハーケン、貴様も試合することになるぞ。それでもいいのか」
チフユがわかりづれぇが嫌そうな顔で聞いてきた。
そう嫌そうに言うなよ。
「まぁ、言い出しっぺがやらねぇとは言えねぇなぁ。だが、まぁ別に言いさ、やろうじゃねぇか」
「貴様は嫌がると思っていたのだがな」
「確かに面倒臭せぇよ。でもな・・・・・・面白そうじゃねぇか。お嬢様がどの程度強ぇのかとか、イチカがどんだけ食いつけるとかよぉ。面白いってことは一番大切だぜ」
俺がそう言うとチフユは片手で頭を押さえてうなだれいた。
そこまで頭が痛くなることでもねぇだろうに、神経質だねぇ。
「よし、では来週の月曜日に第三アリーナで決闘を行う。異論はないな」
「「はい」」
二人は威勢よく返事を返した。
まぁ、こんなのも悪くはねぇしなぁ。
せっかくだ、この余興を楽しませてもらうか。賭けでもすりゃ儲かるかもしれねぇしな。
まぁ、俺は戦う気なんざ起きんがね。
俺が気になんのはイチカとお嬢様の試合ってだけで、やる気はねぇからよぉ、高見の見物でもさせてもらうとするかねぇ。
そう考えながら俺は次の授業の準備を始めた。(教科書を見ているだけでノートなどは一切とらない)