恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

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久々にレオスの話に戻ります。


第七十一話 飲み比べの決着。

 お嬢様の歓迎会っつうことでこうして飲みに来たわけだが、クソオヤジが因縁付けてくるもんだからこうして飲み比べとやらに発展しちまった。

それで爺さんから出されたのがこの店特製のウッォカなわけだが、どう考えても人が飲むようなもんじゃねぇ。

オレは酒は好きだが、消毒用エタノールは好きじゃねぇなぁ。

本来ならそんなもん、航空機の燃料の中に一緒にぶちまけたい所だが、そんなことをすりゃあ目の前のクソ忌々しいオヤジに負けたことになっちまう。

そいつだけは死んでも勘弁だ。命あっての物種って良く言うしオレもその通りだとは思うが、死んでも我慢ならねぇことってのは人間いくらでもあるってもんさ。

人の神経を悉く逆撫でする奴、自分の信じるモンを人に強要する奴、人を弄くり回して弄ぶ奴、舐め腐ってる奴、イイ女を泣かせる奴。

嫌いなクソはごまんといるが、そん中でも一等嫌いなのはクソオヤジに負ける事なのさ。

大剣に入ってもう五年近く経つが、未だにあのクソを地べたに這わせたことがねぇ。

いつも引き分けか強制終了だ。

だからこそ、今日こそ引導ってもんを渡してやるぜ。

それにな………。

せっかく男ってもんを見せてるんだ。お嬢様にゃぁかっこ悪い姿は見せられネェだろ。

 そんなわけでオヤジと白熱した飲み比べを展開してるわけだが、流石は爺さんのお手製なだけはある。味もきつけりゃアルコールもきつい。

一口飲む度に身体中が燃え上がるんじゃねぇかって思う程に熱くなる。そいつを意地で胃袋に通せば、今度は胃袋が爆発したかと思えるくらいすげぇ。

飲み終えて隣を見れば、クソオヤジもまたオレと同じタイミングでジョッキをテーブルに叩き付けた。それでこっちを見てむかつく面をするんだからたまったもんじゃねぇよ。

その面をチワワみてぇな泣きっ面に変えてやるよ。

それでオレも負けじと不敵な面をしてオヤジを挑発。

再び二人で睨み合いながらお次を注がれたジョッキをカラにしていくわけだ。

それが何度続いたか…………20を超えた辺りから数えるのをやめた。

その最中、意識がぼやけて視界が目まぐるしく揺れる中、クロードが何ともまぁ恥ずかし話をしているのが聞こえてきた。

昔話をするような歳じゃねぇだろうによぉ。止めてくれよ、恥ずかしくて仕方ネェだろ。

揺らぐ意識の中、あん時のことを思い出しながらジョッキを仰ぐ。

クロードに話を止めさせるより、今はこのクソオヤジとの勝負の方が重要なのさ。

あの時、まぁ、所謂物心付いた時から戦場にいたって奴だな。

御蔭で親なんて知らねぇし、世の中の常識ってモンがまるっきり分かってなかった。

今にして思えば恥ずかしい限りってもんさ。

オレは気が付けば戦場で、玩具の代わりにライフル片手に走り回ってた。

遊んでたわけじゃねぇが、精一杯だったよ。生きるのに殺すのは当たり前だった。飯が食いたけりゃ戦え。そんな感じだ。

周りには似たような奴等が何人もいたが、一度戦場に出れば半分は居なくなってた。

それを何度経験しても、特に怖いと思った事はねぇ。死んだら終わりだって認識はしてたが、それだけだ。まったく、楽しさの欠片もなかったなぁ、あん時は。

数えるのも億劫になってきた頃、オレが勝手に所属させられていたレジスタンスが政府の部隊に襲撃された。

別に戦場じゃあ良くある話さ。御蔭で基地は陥落、部隊は全滅。

全員殺そうってんで残ったオレにも襲い掛かってくるんだから、本当に大人げねぇよなぁ。

別に死んでも問題は無かったんだが、そんな奴等に殺されるのが嫌だったんでなぁ。

オレは当然の如く抵抗し、聞いての通りそいつ等を全員お星様に返した。

御蔭で真っ赤になったわけだが、そんな所をオヤジとクロードに見つかり………絞め落とされて連れ去られた。

そこからは見ての通り、今度は会社勤めってことさ。

まったくもって懐かしいもんを思い出しちまった。今はオヤジと勝負してる時だってのによ。

まぁ、御蔭でオレは世間様ってもんを知って面白いもんを学べたわけだが。

そのことにゃあ感謝はしてる。だが、あの時絞め落とされたのは今でも忘れネェよ。

正直むかついた。こっちは全力だってのに、舐め腐った面でおちょくり、挙げ句は手加減して絞め落とされた。

そいつは昔から芽生えつつあった純真な少年のプライドってもんを砕くには充分だったわけだ。

それ以降、この今も目の前で堂々とジョッキを煽っている巨漢とは因縁があるわけだ。

オレは何杯目になるかわからねぇジョッキをカラにすると、ふらつく意識を奮い立たせながらオヤジに話しかける。

 

「いい加減くたばったらどうだ、オヤジ。ヤケ酒は身体に悪いんだから歳を考えて労れっての」

「テメェに心配されるなんて終わってるのと一緒だ! 俺はまだまだ余裕だ、クソ餓鬼! 寧ろテメェこそ、顔が赤くなってるんだからそれぐらいにしとけよ。お嬢ちゃんにかっこ悪い姿は見せられねぇんじゃねぇか」

「何言ってやがる! お嬢様には俺の格好いい姿を見せるんだよ。俺がクソオヤジの上で不敵に勝ち誇ってる姿をなぁ」

「けっ、一丁前に色気付きやがって! 童貞のくせによぉ!」

「身持ちが堅いっていうんだよ、こういうのはなぁ。すぐ捨てたがる淫乱と一緒にすんな」

 

罵詈雑言の応酬をしつつ、酒をカッ喰らう。

何だかんだと言って、この感じが嫌いじゃねぇ。帰ってきたって感じを更に感じるからよぉ。

既に足場があやふやで意識も朦朧としてきてるが、それでもジョッキは離さねぇ。

まわりの野次馬がテンションを上げまくって騒ぎまくってるようだが、耳に入らない。

お嬢様が心配そうな目で見つめてきたが、心配すんな。

絶対に負けネェからよ。

そうして何度もオヤジに毒を吐きながらジョッキを空けていき…………。

 

意識が吹っ飛んだ。

 

身体が一切動かなくなり、視界はぐるぐる回って殆ど見えない。

意識は殆ど切れていて、あと五秒としないうちにお眠りだろうよ。

オヤジの姿が確認出来ないから勝ったのか負けたのかわからねぇ。出来れば俺がくたばる前に倒れていることを祈りたい。

何を言ってるのかわからねぇが、騒いでる連中をかき分けてお嬢様が俺に駆け寄ってきた。

その面は今にも泣き出しそうだ。

たく、せっかくの美人が泣いたらもったいねぇだろ。そこは寧ろ満面の笑みってもんで祝福してくれよ。俺の………勝利をよぉ。

心配そうに俺の顔を覗き込むお嬢様の綺麗な顔を見ながら、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 セシリアはレオスの昔話を聞きつつも、ずっとレオスのことを心配していた。

レオスは確かに大人びているけど、それでもセシリアと同じ歳の人間なのだ。

いくら飲み慣れているからといって、そんなアルコール漬けになって身体が持つわけがない。

周りの人達が何杯目なのかで騒ぎ、賭の倍率が上がっていき盛り上がる中、いつレオスが倒れるのか心配でハラハラしてしまっていた。

そしてそれはセシリアの予想を遙かに超えて、100杯目。つまりウォッカを入れていた樽が空になった所で起きた。

バタン、と人が倒れ物が倒される音が店内に響いた。

そして周りから悲痛な声が上がり騒がしくなる。

 

「おいおい、マジかよ!」

「またかよ、畜生!」

 

そう口々に言う野次馬にセシリアは駆け出し、人混みをかき分けてレオスに駆け寄った。

レオスは顔を真っ赤にし、虚ろな目で天井を仰いでいた。

その姿に泣きそうになりながらレオスに声をかけるセシリア。

 

「レオスさん! レオスさん、大丈夫ですの!!」

 

瞳に涙を溜め込みながらセシリアは声をかけるが、レオスから反応は返らない。

急性アルコール中毒かと思い急いで救急車を呼ぼうとしたセシリアだったが、クロードが来て安心させるようにニッコリと笑った。

 

「大丈夫ですよ。何せこの中でアルコールには強すぎる二人ですから。こういうのも『いつものこと』ですから」

 

そうクロードはセシリアに言うと、周りの野次馬に向かって聞こえるように声をかける。

 

「どうせその様子だと引き分けでしょう。団長も気持ちよさそうにイビキをかき始めたところですしね。と、言う訳で代金は最初の通り全員にあとから徴収しますのであしからず」

 

その言葉に皆が項垂れる。

 

「あぁ、せっかく無料酒が飲めると思ったのに~」

「俺、今月厳しいのに………」

「団長もボケ~」

「レオス先輩のアホ~」

 

ショックに打ち震える野次馬をほっといて、店主の方にすまなさそうな顔をした。

 

「すみません、毎回騒がしくしてしまって」

「そう思うんだったら静かに出来るよう頭を使え。そいつがお前さんの仕事じゃろ」

「あははは、手痛いですね」

 

そして撤収作業を始める全員。

クロードは支払いを終えると未だに床に倒れているレオス達に向かい、撤収作業中の中からとある人間の名を呼んだ。

 

「ダニガン、すみませんが手伝って下さい。団長は貴方ほど力が無いと運べないので」

「アイアイサー」

 

人混みの中から現れたのは、アンドルフに負けず劣らずの黒い巨人。

その顔は陽気に満ち、楽しそうに笑っている。

彼はそのままクロードの所まで来ると、セシリアに向かって笑いかけた。

 

「ダニガンダヨ、ヨロシクナ」

「あ、はい。よろしくおねがいしますわ」

 

急に話しかけられ驚くセシリア。

それを苦笑しながらクロードが補足を入れる。

 

「彼はダニガン・グローリー。ウチの砲撃手を勤めていて、陽気で音楽が好きな人ですよ。ウチでは1、2を争う怪力の持ち主でもあります。彼に団長を運んで貰いますので」

「は、はぁ……」

 

セシリアはどう反応して良いか分からず、曖昧な返事しか返せない。

そのままダニガンはアンドルフを持ち上げると、肩に担ぎ上げて引き摺り始めた。

そしてクロードは笑いかけると、少しばかり巫山戯たことを言い出した。

 

「あ、レオスは運びますが、誰か見ていた方が良いのでセシリアさん、お願い出来ますか?」

「そ、それは勿論! こんなレオスさん、放っておけませんもの」

「結構です。そこで少し困ったことがあるんですよ」

 

そう言うと、クロードは意味ありげな笑みをセシリアに浮かべた。

 

「実はお客様用の部屋を用意するのを忘れてしまいまして。恥ずかしながら……レオスの部屋に泊まってもらえませんか」

 

その言葉の意味を察するのに少し掛かったセシリアは、

 

「え? えぇええぇえええぇええぇええええええええええええええええええええ!!」

 

 このアメリカの地に着いて、一番大きな声を上げた。

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