さて、お嬢様のちょっとした旅行も後半を迎えてきた。
一週間も既に半分を過ぎて、今じゃお嬢様もすっかりウチに馴染んでいらっしゃる。
廊下を歩いていて誰かと会えば、お嬢様は華麗な挨拶をそいつに向かってするんだ。するとそいつは朝から良いもん見たって面で笑いながら挨拶を返していく。
そんなやり取りがもう当たり前になってるってんだから、馴染んでねぇわけがねぇ。
お嬢様はいつもと変わらねぇが、挨拶を返す奴等には是非とも突っ込みたくなるったもんさ。
お前さん、いつもはそんな格好つけた挨拶なんてしねぇだろってなぁ。
野蛮で粗野な野郎共はお嬢様を前にすると、どうにも上等に見せようと見栄を張るらしい。
まったく、普段からしなれねぇ挨拶をする奴ほど滑稽に見えるもんはねぇなぁ。
そいつに笑うとお嬢様に怒られちまうのも毎度の話になってるよ。
そんなお嬢様だが、今日は是非とも体験してもらいてぇことがあるんでオレと一緒に野外演習場に来ていた。
「レオスさん、一体何をやるんですの?」
連れてこられたお嬢様は不思議そうに首を傾げる。
その恰好はいつもの綺麗なお洋服じゃなくて、動きやすいダークグリーンのタンクトップに迷彩柄のボトムスに運動靴だ。
ここに連れてくるに当たってクロードが用意していたらしくそいつを渡したんだが、初めて着る服にお嬢様は戸惑ってたよ。
だがそこはお嬢様、どんな服でも相変わらず美人だねぇ。タンクトップから除く谷間やらが艶っぽいもんさ。見てて目にいい保養だよ。
そもそも、何でお嬢様をこんな所にそんな恰好させて連れてきたのか?
そいつを語るには、かなり前にお嬢様と約束した事について話さねぇとならねぇなぁ。
あれはまだ暑くなる前の頃の話だったか。そうそう、お嬢様に色々と教えてた時だったか。そん時に言われたんだよ。狙撃についてもっと教えてくれって。だけどその申し出をオレは断った。何でって聞かれりゃ答えは単純さ。オレは狙撃は出来はするが得意じゃねぇ。それに関して、ウチにはそれこそ神がかってるスペシャルな奴がいることを知ってるんだから、何か縁があればそいつを紹介するよってなぁ。
そん時は思わなかったが、まさか本当に縁が出来るとは思わなかったよ。
オレは約束は『守る』男なんでねぇ。冗談だとしても機会が訪れたんならちゃんと実行してやるもんさ。
不思議そうにしているお嬢様に向かってニヤリと笑いながら何故連れてきたのかを言う。
「今日こんな所にお嬢様を連れてきたのは、前にした約束を果たすためだよ」
「約束……ですの? 何かしましたっけ……」
「まぁ、忘れてるのも無理はねぇか。ほら、前にお嬢様がオレに狙撃について教えてくれって頼んできたことがあったろ。そん時にした約束だよ。ここには世界でも屈指のスナイパーがいるんだからなぁ」
「えっと………あっ!?」
どうやら思い出したらしい。お嬢様は顔を綻ばせて喜ぶ。
「覚えていて下さったんですのね。わたくしでさえ忘れかけていたというのに……」
「オレは約束は『守る』タイプなんだよ」
IS学園に来た当初に遊びに来た華人との約束も守るくらいには律儀なんだよ、オレはなぁ。
あん時、オレは確かに直接手は出してねぇからなぁ。
約束を守るのは人として当然のことだと思うよ、本当。(笑)
するとそんな俺達に向かって爽やかな声がかけられた。
「レオスから話は聞いていましたからね。今日はセシリアさんの狙撃について、色々と見させてもらいますね」
「あ、クロードさん!」
お嬢様はこっちに歩いて来たクロードを見て声を上げる。
いつもと変わらねぇ笑顔を浮かべているクロードは手に持ってる大型のライフルケースを持ち上げて見せる。
「狙撃って言やぁウチじゃお前さん以上に凄い奴なんていねぇだろ。それにオレに狙撃を教えたのはお前さんだしな。これ以上ねぇ先生だろうさ」
「そこまであなたに褒められるというのは何やらムズ痒くなってきますね。ですが、元からある程度の狙撃は私が教える前に身に付いていたでしょう。私は少し口添えしただけに過ぎませんよ」
「それでもさ。お嬢様の腕も中々のもんだぜ。口添えしてやるだけでも充分だよ」
「そうですか。それは楽しみですね」
クロードとの会話を聞いてお嬢様は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
どうやら褒められたのが嬉しいらしい。謙遜する必要はねぇだろうよ。お嬢様の腕前は『一般的』に凄腕だ。
「では、今日はよろしくお願いしますわ」
お嬢様がクロードに教えてもらえることになったんで、早速頭を下げて挨拶をする。
その様子はとても謙虚で、学園でもそうそうお目にかかれねぇ姿だ。
チフユ相手じゃおっかなくてそんなこと言えそうにねぇからなぁ。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
対してクロードはまるで保護者みてぇな面で頷いた。
見ていて少しばかり気に喰わねぇ面だが、それもいつもの話だから仕方ねぇか。
このハリウッド俳優顔負けの美男はガキを相手にするときはいつもこんな顔をするからなぁ。もうそんな歳じゃねぇってのに、ガキ扱いされるこっちの身にもなって欲しいもんさ。
そんなわけで早速クロードが持ってきたライフルケースを開ける。
「セシリアさんは軍用ライフルを撃ったことは?」
「はい、一応はありますわ。代表候補生はそういった訓練も行いますから」
クロードの質問にお嬢様はそう答える。
まぁ、よく考えりゃあ代表候補生なんてのは、軍の士官候補生とかわらねぇからなぁ。火器についても一通りは学んでんだろ。
「それは結構です。此方で持ってきたのはブレーザーR93タクティカルですので」
「確か……スイス製のストレート・プル・アクション・ライフルですよね」
「正解です」
お嬢様が言い当てると問題を解いた生徒を喜ぶかのような面をするクロード。
教える子供が有能だと本当に助かるねぇ。
クロードは言い当てたお嬢様に改めて持ってきたライフルについて説明を行うと、持ってきたライフル弾ケースを1ダース早速開けてライフルに装填する。
そして装填し終えると、ライフルを丁寧にお嬢様に渡した。
「んっ……ちょっと重いですわね」
お嬢様は受け取ったライフルの重さに顔を顰める。
女子に銃器は重いだろうからなぁ。
「わかってはいると思いますが、取り扱いには充分気を付けて下さい」
「はいですわ!」
その様子を微笑ましく見たクロードは早速手元にある端末を操作すると、かなり遠くの方に人の形をしたターゲットが数体現れた。
「では、まずはセシリアさんの腕前がどれくらいなのか見たいのでターゲットに撃って貰えますか?」
「はい、では早速」
お嬢様はオレ達が少し離れたのを見計らってライフルを構える。
その姿と来たらハリウッドのガンアクションも顔負けで見事に様になってたよ。
美人がキリッとした顔をするのは格好いいねぇ。
「中々良い構えですね」
構えを見てクロードがオレにそう言ってきた。
そいつをオレは当然と言わんばかりに笑いながら答える。
「当たり前だろ。何せこれでも国を背負う代表候補生様なんだからなぁ」
「それほどお気に入り……ということですね」
「否定はしねぇよ」
そんな会話をしていると、遂にお嬢様が引き金に指をかけた。
「行きます!」
気迫の籠もった声と共に弾丸が発射され、遠くにあるターゲットの一つの胸辺りに当たったようでターゲットが揺れた。
「次!」
お嬢様は更に構えたままライフルを動かすと、別のターゲットを狙い引き金を引いた。
それを2回行い出てきたターゲット全てを撃ち抜くと、オレ達に向かってどうなったかを聞きたそうな顔をした。
その顔は不安と期待に揺れ動いてるって感じだ。
その表情を見て、それまで双眼鏡でターゲットを見ていたクロードはセシリアに笑みを浮かべる。
それを見てオレはお嬢様に答えた。
「お見事、だってよ。全弾命中だ」
「やりましたわ!」
お嬢様はまるで花が咲いたかのように喜ぶ。
実に可愛らしいねぇ。
だけど残念だなぁ…………。
この後もっと地獄を味わうはめに遭うって言うんだからよぉ。
喜ぶお嬢様の傍ら、クロードのメガネが怪しく光ったのをオレは見過ごさなかった。