お嬢様との楽しい楽しい時間ももう終わりの時を迎えるそうだ。
お嬢様が本部に来てから色々あったが、なんともまぁ華やかなもんになったもんだよ。まぁ、元から野郎しかいねぇんじゃ華やかになるのも無理もねぇ話か。
それがそろそろ一週間、つまり明日にはお嬢様はお帰りになられるそうで。
迫る別れの時をウチの連中は涙を流しながら悲しんでいるわけだが、ムサい野郎の泣き顔なんて醜くて見れたもんじゃねぇ。
「うぉぉおおおおおん、オルコットちゃんももう明日には帰っちまうのかぁぁああああああああ!」
「いっそレオスの馬鹿をクビにしてオルコットちゃんをここに入れた方が良いんじゃねぇか」
「あぁ、俺等の癒しが……」
「麗しい美少女とクソ生意気な餓鬼……どっちがいいかなんて丸わかりだっていうのに……」
お嬢様と一緒に通路を歩いてたら周りの連中が涙ながらにそう言って来やがる。
随分と言うじゃねぇか。そんな奴等にお嬢様は笑顔で挨拶するわけだが、された奴は気持ち悪く頬を染めて何か良い面してる。歳ってもんを考えろよなぁ、お前等。
この一週間で物の見事にお嬢様はウチのマドンナだ。
見た奴等から必ずと行って良いくらい声をかけられるし、その分なんともまぁ香ばしい羨望の眼差しってもんを向けられる。
そこは一応碌でなしの傭兵共、一般人が見られたら即座に失禁しそうなもんだが、寧ろこっちは自慢げにお嬢様の肩を抱いて見せつける。
どうだ、いいだろうってなぁ。
やられたお嬢様は急な事に顔を赤くしていたが、そんなことで一々赤くしてたらもたねぇぜ。まぁ、そういう初心な所が気に入ってる所の一つでもあるわけだがねぇ。
それにそれを見て更に悔しそうにする奴等の面ってもんが中々に面白ぇんでなぁ、度々やらして貰ってたよ。
だが、それももう明日には終わりだと思うと、少しばかり残念だ。
後はポーカーでかもる以外にそんな面は見られそうにねぇからなぁ。
そんな事を思いながらお嬢様と一緒に通路内を歩いていたんだが、唐突に携帯が鳴り始めやがった。
面倒だと思いながら通知を見れば、朝っぱらだってのに上司様のお名前が出てやがる。
何かしくった覚えはねぇんだが、出なけりゃ更に面倒な目に遭うことがわかりきってるだけに出るしかねぇ。
仕方なく出ると、携帯からお美しい美声が聞こえてきた。
『おはようございます、レオス』
「あぁ、まったく朝か真面目なこって」
『挨拶は社会の基本です。出来て当たり前のことですよ。まぁ、朝から貴方もお説教医は受けたくないでしょう。今から総合事務室に来て下さい。勿論、セシリアさんも一緒に』
どうやらオレとお嬢様に用があるらしい。
一々お嬢様を呼ぶ辺り、仕事関連ではねぇと思うが、どうにも厄介な気がするのは気のせいじゃねぇかな。
「どうせ渋ったって仕方ねぇんだろ。わかったよ、これから向かう」
『はい、その通りです。出来る限り早めにお願いしますね』
そして切れる携帯の通話にお嬢様は不思議そうな顔をしてきた。
「あの、何かあったのですか?」
「あぁ、何でもクロードが用があるらしい。少なくても何かミスったような覚えはねぇんだけどなぁ」
そう答えるとお嬢様は珍しく意地が悪そうな笑みを向けて来た。
「レオスさんがそう言うときは、大体何かありますわ。昨日も忘れてた始末書が急に一杯出てきたのですから」
「そう言ってオレを虐めないでくれよ、お嬢様。アレを片すのにどれだけ苦労したことか」
「わたくしも手伝ったじゃありませんの。でも、何で始末書の中に美術館の修理費請求が入っていたのかは謎ですけど」
お嬢様はくすくすと笑ってオレをからかってきた。
今まではからかいがいがある可愛いお嬢様だったのに、最近じゃあここの連中の悪影響でも受けたのか、オレをからかってくる始末。お兄さんは悲しくて泣いちまうよ。(笑)
あぁ、あの頃の純朴なお嬢様が懐かしいねぇ。
そんな風にお嬢様にからかわれながら一緒にクロードが呼び出した総合事務室に向かった。
まぁ、名前こそ大層なもんだが、要はお嬢様をここに連れてきた時に向かった部屋だ。
つまりあのクソ親父の部屋でもある。
向かうこと約10分、面倒臭そうにオレはお嬢様をエスコートしつつ総合事務室の扉を開けた。
「朝っぱらから随分とした重役出勤じゃねぇか、クソ餓鬼」
「今日はオフだよ、このクソ親父。部下のシフトも把握してねぇんじゃこの仕事止めた方が良いんじゃねぇか」
「ぬかせ」
早速親父から洗礼を受けたわけだが、流石にお嬢様の手前でそこまでヤり合う気はねぇ。
しかし、改めて見てもデスクと身体のサイズが合ってねぇ。
そいつを思いっきりからかいたいところだが……。
(駄目ですからね、レオスさん!)
どうもお嬢様がさせてくれねぇらしい。
もう、本当にたくましくなっちまって。
そんな意思を込めたお嬢様の眼差しに免じて、仕方なくそいつはしねぇことにする。
「お二人とも、お喋りはその程度にして下さい」
そんな声をかけてきたのは、親父の横に控えるクロードだ。
「それもそうだ。この親父と話していて得するような事は何もねぇ」
「まったくだ、このクソ餓鬼のお遊びに付き合うほど暇でもねぇ」
同時にそう言った親父を睨み付けると、親父もオレを睨み付けて来やがった。
相変わらずむかつく奴だ。
するとお嬢様がオレの袖を引っ張って来た。
「レオスさん、喧嘩している場合ではありませんよ! ちゃんと呼ばれた理由を伺いませんと」
「まさかお嬢様から言われるとは思わなかったよ。確かにその通りなだけに何も言い返せそうにねぇ」
しっかり者になったお嬢様には感心しちまうねぇ。
これも成長って奴なんだろうか。さらに女に磨きが掛かったようで。
「何だ、すっかり尻に敷かれてるじゃねぇか。えぇ」
そんなオレ達のやり取りを見て親父が茶々を入れてくる。
だが、ここは敢えて乗ってやろうじゃねぇか。目の前のでかいだけで精神が餓鬼なクソに大人な対応ってもんを見せてやるぜ。
「いいだろう。女の尻に敷かれるんだったら本望ってもんさ。それもお嬢様ほどの美人になら尚更なぁ」
「へ、言うじゃねぇか」
鼻で笑う親父は少し癪に障るが、それを無視してクロードに話しかける。
「それでクロード、お嬢様まで呼び出しといて何用だい? オレが今日オフなのはお前さんなら分かってるはずだよな。まさか、またお嬢様と一緒に訓練か?」
するとクロードは軽く笑い、そうではないと首を振ってきた。
「いえ、そうではありません。セシリアさんは前回の訓練でかなりの成長をしたと思われますから。そうではなく……」
そこで一端切ると、妙に爽やかな笑みを浮かべて来やがった。
こういうときは大体碌なことを言わねぇ。
「せっかく最後の日になるのですから、二人で出掛けてきてはいかがでしょう。ここは少し田舎ですが、街に出れば普通に楽しむくらいは出来ますよ」
何とまぁ平和な事を言って来やがったよ。
それに続いて親父が必要もねぇことを言ってきた。
「要はデートに行ってこいってこった。せっかく来たんだから、アメリカらしいところを少しでも味わわねぇと損だからなぁ。テメェのエスコートじゃ心配だが、それぐらいのことは出来んだろ」
「言われなくても分かってるっての。餓鬼じゃねぇんだ、それぐらい」
このクソ親父に言われるのは癪だが、確かに言う通りだ。
お嬢様はアメリカに来てからずっとここに詰めてたしなぁ。アメリカ観光とかは一切してねぇ。それは旅行に来たってのにあんまりだろうよ。
まぁ、一日で移動出来る距離なんて限られてるからそこまで見れるようなもんなんてねぇんだけどなぁ。
オレも実はそう誘おうとは思ってたんだが、どうにもなぁ。
これが思春期丸出しの餓鬼だってんなら気恥ずかしいだなんだで誘えなかったって答えられるんだろうが、お生憎様、そんな甘酸っぱい理由じゃねぇ。
毎度毎度忘れたころにやってない書類関係が山のように出てきたんだよ、こいつがなぁ。
御蔭で誘う所か手伝ってもらう始末だ。それでさえお嬢様はご機嫌だったようだがね。
この申し出はオレに取っても都合が良い。
ただ、この事が他の奴にも知れ渡るのが癪に障るが、そんなもんはここにいる時点で漏洩不可だろうよ。
だからこそ、諦めてお嬢様の方に顔を向ける。
「ってことらしい。お嬢様、こんな哀れなオレと一緒にデートに行かないか」
そんな誘い文句を聞いて、お嬢様の顔は見る見る赤くなっていく。
結構ここに染まって図太くなったと思ったが、こういう初心なところは変わってねぇらしい。微笑ましいねぇ。
「で、でしたら……お願いしますわ。案内とか………(キャーーーー! レオスさんにデートに誘われてしまいましたわ! キャー、キャー!)」
お嬢様は恥ずかしそうにしつつもどこか嬉しそうに頷いた。
どうやらお気に召したらしい。
オレはクロード達の方をむき直すと、ニヤリと笑って告げる。
「ってことで上司様のご厚意にのってデートでもしてくるよ。クロード、バイク使わせてもらうぜ」
「えぇ、いいですよ。良きデートを」
「ハメ外し過ぎてハメんなよ!」
「下ネタにばかり走ると歳が透けて見えるぜ、親父。じゃあな」
そう言って総合事務室から出るが、あぁ~あ、お嬢様ったら親父のアホなことを真に受けちまったようで真っ赤になってポストみてぇになっちまったまぁ。
そんな所も悪くはねぇがな。
そんなわけで、オレはこの日にお嬢様と『デート』に行くことになった。