恋する乙女と最凶の大剣   作:nasigorenn

86 / 180
今回でデート回は終わりです。


第八十六話 せっかくだから観光に その5

 さて、せっかくのデートを邪魔してくれたんだ。連中にはきつい仕置きしてやらなきゃぁならねぇ。

だが、思いっきりやるとお嬢様に嫌われちまうんでなぁ。そこそこにして置いてやるよ。ウチのお優しいお嬢様に感謝するこったなぁ。

そのためにはまず、お嬢様と一緒にこの街を出なきゃならねぇ。

 

「レ、レオスさん!?」

 

未だに顔を赤くして驚くお嬢様。

お嬢様はこういった事態に少しは慣れたらしい。最初の洗礼を受けてから随分とタフになったもんだ。

普通ならここで混乱して泣き叫ぶもんだが、お嬢様も腹が据わる程度に成長したようで、お兄さんは嬉しいねぇ。(笑)

 

「お嬢様、このままジッとしてろよ。このまま建物の屋根伝いに跳んで行ってバイクまで向かう。それまでは楽しい楽しい鬼ごっこだ。捕まればオレはその場でミートパテにされる。お嬢様はたぶん………だろうからなぁ。美人ってのはこういうときは損だよなぁ」

「その空白は何なんですの! わたくし、何されてしまいますの!」

 

おぉ、こんな今にも直ぐ近くで銃弾が飛び交ってるってのに見事な突っ込みだ。

随分とお嬢様の精神も図太くなったもんだよ、本当に。

そんな会話をしてる間にも、建物の下でオレ等を追っかけていた奴らは更に数を増やしていた。

最初は二人組だったのに、気が付きゃ数が増えて十二人くらいに増えてたよ。

そんな集団に追っかけられるってのは、何やら俳優の追っかけに遭ってるみてぇで悪くねぇ気分になる。

 

「あっち行ったぞぉおおおぉおおおおおおぉおおおお!」

「ぶっ殺せぇえぇえぇえええぇええっぇえええっぇえええ!!」

「絶対に逃がすんじゃねぇぞ!!」

「3000000ドルッッッッッッッ!!」

 

盛大な歓声に感動で涙が溢れちまいそうだ。

皆さん実に欲望に忠実なこって。人間、それぐらいが丁度良いんだろうさ。

お嬢様はその歓声を聞いて少し身を強ばらせたが、直ぐに怒り出した。

 

「何て人達ですの! 人の命を何とも思わずにお金のことばかり!」

「そう怒んなよ、お嬢様。連中はとても仕事熱心なだけなんだからよ。見てみろよ、あんなに必死な面で追っかけ回してきて。実に真面目じゃねぇか」

 

オレも見習いてぇくれぇの真面目さだ。

やっぱり仕事をするんなら、あれくらいの熱意がねぇとなぁ。

 

「どこが真面目なんですの! あんなの、お金欲しさに倫理を無くした最低な人間達ではありませんか!」

「勘違いしちゃいけねぇ、お嬢様。真面目ってのは『生真面目』ってことじゃねぇんだよ。ここでの真面目ってのは、仕事をするに当たって忠実に職務を真っ当しようって心意気だ。その点で考えりゃあ、連中はとっても真面目だ。オレも見習わねぇとなぁ」

「レオスさんはあんな風にならないで下さいな!」

 

少し半泣きで突っ込まれちまったよ。

いやぁ、お嬢様の突っ込みが冴え渡っているようで何よりだ。

と、そんな会話してる間にも連中は更に数を増やしてこっちに銃をぶっ放してきた。もう二十人以上になってるんじゃねぇか?

最初はM92とかのハンドガンだったんだが、今じゃもうUZIやらH&K HK53やらを持った奴等が血眼で追っかけて来やがった。

実に大人気でオレは嬉しいよ。そんなもんで追っかけ回されるなんてなぁ。

このまま放っといたらその内対物ライフルでも持ち出してくるんじゃねぇか?

更に激しくなっていく銃撃の嵐に、オレ達が走っている屋根がズタズタになっていく。

おいおい、こんなんじゃミートパテどころか血煙になるんじゃねぇか。

流石にそんな目には遭いたくねぇし、お嬢様に遭わせるわけにもいかねぇ。

 

「お嬢様、もっと速く行くぜ。ギュッとオレの腕を掴んでな」

「へっ……それはどういう……キャァーーーーーーーーーーーーー!!」

 

スカイウォーカーの一次展開はISとしての機能を発現させない。

だが、それでも生身の人間相手にはかなりのアドバンテージがあるんだよ。

オレは足に装着されているモーターを稼働させ、屋根を砕きながらローラーダッシュを行い更に加速。飛び移る際は両足を曲げてから力を込めて一気に跳躍していく。

その動きはIS並みの速度なんで、中々に連中は追っかけられねぇ。

最初こそ叫んでいたお嬢様だったが、すぐに気を取り直してオレにしがみつきながら疑問に感じたことを聞いてきた。

 

「そう言えばレオスさん、コレはイケナイ状況だと思うのですけど……」

「何がだい? 銃片手に持ったクソ共との追いかけっこしてる状況がか? 別にこんなもん、お遊びみたいなもんだろ」

「そういうことではありませんわ! 確かにそれはそれで凄く不味い状況ですけど。レオスさん、アラスカ条約で許可もなしにISを展開するのは禁止されているのは御存知ないのですの?」

 

あぁ、そのことか。

お嬢様が言ってるのはIS運用協定の条約にあるISの無断使用禁止の条例だ。

まぁ、単純に許可も無しに兵器を使うなっていうお子様でも分かる簡単な話だ。

 

「そいつは知ってるが、だったらホウキやファン、デュノアやボーデヴィッヒはどうなんだ? アイツ等、学園内だが許可無しに思いっきり使ってるぜ。そこんところはどうなんだい、お嬢様? まぁ、イチカの野郎限定でだけどなぁ」

「あれはっ……その……すみません、わたくしからは何も申せませんわ。わたくしですら織斑さんの鈍感は見ていて苛立たしい時がありますから、それを考えれば彼女達が手短に暴力を振るいたくなるのも無理は無く……」

 

お嬢様は何とも気まずそうにそう答えてくれたよ。

まぁ、誰だって非力な奴なら自分の手よりも威力のあるモンで攻撃したくなるもんさ。だからって違反が許されるわけもねぇからこそ、奴さん達は毎回チフユに捕まって説教されてるわけだがなぁ。

お嬢様が気にしてるのは、オレが無断でISを使用してるのは不味くないのかってことだろうよ。

確かにバレれば国家に捕まってISは没収。普通ならその後に投獄って所だろうが、オレの場合は即処刑になりそうだ。

だが、そうはならねぇ。そのための『一次展開』なんだからよ。

オレはお嬢様にニヤリとした笑みを向けると、からかうような声で話しかけた。

 

「お嬢様、センサーだけ起動して調べてみな。それぐらいだったら引っかからねぇだろ」

「そ、そんな……それでもイケナイと……」

「別に武力を振るう訳じゃねぇんだ。そこまできつくはねぇだろうよ」

「な、なら………」

 

必死に悩んだ末にお嬢様は自分のISのセンサーのみを起動させてオレを見るが、その瞬間にお嬢様の顔が驚愕に染まった。

驚いてる顔ってのも中々に乙なもんだ。

 

「なっ……何で反応がありませんの!?」

 

そう、お嬢様が驚いてる通り……この一次展開の姿だとISコアの反応はでねぇんだよ。

ISに近いパワーを発揮するパワードスーツ形態。その真価が発揮されるのは、ISですら入り辛い場所だ。

確かにISは凄ぇが、それでも些か無駄にデケェ。民家や裏路地、つった細く狭いところじゃ流石にその力を十全には発揮できねぇ。

そこでこの形態を考え付いた馬鹿がいたのさ。

飛行出来なくなる代わりに地上での走破性とよりパワー出力の向上をコンセプトに於いたパワードスーツのような形態。それがあれば現在走っているような狭い路地でもかなりの性能を発揮出来るってな。

そのためにはISの要素が多分に邪魔だっつうんで、コアの信号もでねぇようにしてあるってわけだ。これは逆に言えば、対IS戦における隠密行動での仕様も考えてるってことだ。

まぁ、細かいことはオレにはわからねぇ。使えるから使うってだけだ。

 

「そう、こいつを使うとコアの反応はでねぇんだよ。だから使ってもばれねぇ。見られたところでISには見えねぇからなぁ」

「そんな機能が……だから使っても堂々としてらしたのですね」

「別にISを使っても怖くはねぇがね。出番がねぇってのも寂しいもんさ」

 

そう答えるなり更に力を込めて裏路地や路上、ビルの壁などを高速で跳び、駈けていく。

連中は破れかぶれにぶっ放してくるが、そんな狙いもつかねぇ弾が当たるわけもねぇ。そのまま笑いながらオレはお嬢様を連れてバイクを止めていた所まで駈けていった。

 

 

 

 到着したところでスカイウォーカーを解除。

ハーレーダビッドソンの前でお嬢様を下ろすと、お嬢様はペタンと地面に座り込んだ。

 

「どうした、お嬢様? 激しすぎて腰が抜けちまったか?」

「そ、そんな言い方しないで下さいな!(そんな事を言われてしまうと、先までいたホテルのことを思い出してしまいますわ……わ、わたくしったら、はしたないことを……)」

 

どうもお嬢様は何か思いだしたのか、顔を一気に赤くしていた。

何考えてるのやら。まぁ、見てて飽きないからいいがね。

そして少しの間、真っ赤な顔を横に振ったりしたお嬢様は少し潤んだ瞳でオレを見つめてきた。

 

「そ、その……IS以外であんなに速く激しいのは初めてだったので、驚いてしまっただけですわ。それに銃で一杯撃たれながら追いかけられたこともなかったですし……」

「そうかい。新しい経験が出来てよかったじゃねぇか」

「こんな経験、二度と御免ですわ……」

 

お嬢様は鬼ごっこがお気に召さなかったらしい。

どうやらお嬢様は鬼ごっこの醍醐味ってモンがわかってねぇようだ。ここは一つ、教えてやろうかねぇ。

バイクに今度はお嬢様を前に乗せ、背中から抱きしめるようにオレも座る。

 

「ひゃっ!? れ、レオスさん!」

 

お嬢様がそんな声を上げたが、これで驚いてたらこの先はまた腰を抜かしちまうぜぇ。

 

オレはエンジンに火を入れ、盛大に噴かしながら少し待つ。

するとこっちに向かって走ってくる車が五台。

勿論オレに向かってくるんだから、乗ってるのはさっきまでオレに熱い視線とラブコールを浴びせまくっていたファン達だ。そんなファンに追われるオレは喜ぶべきなんだろうねぇ。

そんなファンに向かってオレは大声で挑発する。

 

「やっと来たのか、こののろま共が! そんなに遅くて何やってたんだ? あぁ、そうか! お仲間と一緒に乱交パーティーでも開いてたってところか! 流石はホモだらけな奴等だな。オレはさっきからケツに怖気が立って仕方ねぇよ! つ~わけでオレは逃げる! 掘られるのは御免なんでなぁ。お前等は仲良く掘り合ってなっ!!」

 

お嬢様が聞いた途端に顔を真っ赤にして『下品です、不潔ですわ』って呟いていたが、それぐらいが挑発には丁度良いんだよ。お嬢様に口汚く罵られりゃあ、きっと大体の男は悦ぶだろうけどよ。

そしてオレのエールを受けた奴さん達は……おぉ、物の見事にやる気満点だ。窓から銃だしてこっちに聞き飽きた常套句を並び立ててやがる。

あまりお嬢様の情操教育に悪いんでなぁ、行かせてもらおうか。

そのまま思い切りアクセルを捻って一気に加速して走り出し、再び始まる鬼ごっこ。お嬢様はさっきと違い今度はそこまで喚かねぇ。もう慣れたのかねぇ。

そんなお嬢様に一つ良いことを教えてやろう。

オレは走りながらお嬢様に話しかける。

 

「お嬢様、鬼ごっこの楽しみ方って知ってるかい?」

「なんですの、それ?」

「オニに捕まらねぇようにするだけが鬼ごっこじゃねぇってこった。いいかい、鬼ごっこの一番の楽しみ方ってのは、如何に鬼を煽ってからかって馬鹿にするかってことだよ。されればそれだけエキサイティングな鬼ごっこが楽しめる」

「そんな鬼ごっこは嫌ですわね……」

「そうかい? こいつが中々に面白いんだなぁ。連中、もうカンカンで頭回ってねぇだろ。全員トマトみてぇに真っ赤になってよぉ。そうそう、これも一つのテクだから覚えといて損はねぇ」

「テク……ですの?」

「そう、相手を怒らせて冷静さを無くさせる。戦術でもよく使われる手って奴だ。ISに限らず色々と使えるからお嬢様も覚えるとお得だよ。特にファンとかは良く聞きそうだからなぁ。ああいう単細胞は」

「そ、それは……ふふ、言い過ぎですわよ」

 

お嬢様は可笑しいのか、少し笑った。

さっきからあんまし笑ってなかったからなぁ。こういうジョークの一つくらい入れねぇと疲れちまう。

さて、小休止も挟んだ所でそろそろ鬼退治へと移行しねぇとなぁ。

奴さん達、こっちに向かってぶっ放しまくってるが、当たる気配が全くねぇ。

へたくその弾が当たるのを待つのは飽きたんでなぁ。こっちが打って出ようか。

だが、流石にお嬢様の前で過激なシーンはNGだ。

なら、『穏やかに処理』させて貰うしかねぇなぁ。

 

「お嬢様、そこに小型の収納スペースがあるはずだ。そこを開けてくれ」

「こ、これですの」

 

お嬢様にそう声をかけると、お嬢様はたどたどしい手で収納スペースを見つけ開けた。

そこにあるのは色々な『便利道具』だ。

さっすがウチ一番の紳士のバイクだ。オレ等ならまず詰まねぇもんもちゃんと詰んである。

 

「その中の……そう、その筒みてぇなもんを五本ほど寄越してくれ」

「は、はい…」

「よぉし、良い子だ。後でご褒美をやるよ。楽しみにしておきな」

「は、はぃ……(な、何のご褒美なんでしょう……ま、まさかっ!? さっきの続き……とか……キャァーーーーーーーー!!)」

 

お嬢様から受け取った代物を後ろから迫ってくる車の前に狙って放り捨てる。

 

「お嬢様、目を瞑って耳を塞いでな! 今すぐだ!」

「はい!」

 

いきなりのオレの大声に驚くお嬢様。

だが、しっかりと言ったことはちゃんと直ぐに行動に移している。良い子だ。

そしてお嬢様が備えると共に、車に向かった筒が破裂。とんでもなく甲高い不快な音と目を焼き付くさんばかりの光が五台の車を包み込んだ。

 そう、オレが連中にプレゼントしたのは、暴徒鎮圧用のスタングレネードだ。

いくら車に乗っていようが窓が開いてりゃ音は防げねぇし、スモークグラスでも無ければ光を防ぐこともできねぇよ。

御蔭で連中の車は操作不能になってふらついた挙げ句の果てに転倒。場合によっては衝突して炎上、爆発した。

その光景は実に滑稽で笑いを堪えるのに苦労するよ。

普通何も備えてねぇで挑発なんかするわけねぇだろ。こいつ等もつくづくお馬鹿だよねぇ。

そのままお嬢様の目に映らねぇところまで走った所でお嬢様の肩を軽く叩いてやる。叩かれたお嬢様は不思議そうにオレを見てきた。

 

「あの……追ってきた人達は……」

「あぁ、連中はみんな帰る時間なんでママの待つ家に帰ったよ。今頃仲良く夕食でも食ってるんだろ」

「もう、わたくしをからかわないで下さい! 本当は?」

「普通に無力化したよ。たぶん平気だろ、ああいう人種は図太いからなぁ」

「そうですの……レオスさんがそう言うのなら……」

 

そしてお嬢様はそのままオレに背を預けると、目を瞑る。

おいおい、いくら疲れたからって走ってる最中に寝ないでくれよ。

オレはお嬢様が落ちねぇように片腕で支えながらバイクを走らせる。

 しばらくお嬢様の可愛らしい寝顔を眺めたまま、オレは本部へと帰っていく。

 

「今日はお疲れ様だ。中々に楽しいデートだったよ、お嬢様」

 

そう寝てるお嬢様に言って頬にキスする。

何やらムズ痒そうにしてるお嬢様に笑いながらオレ等は帰り、デートは終わった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。