「何だが一週間、あっという間でしたわ……」
お嬢様から感慨に耽った声が漏れる。
そんな懐かしむ程古くもねぇんだが、お嬢様には激動の一週間だったらしい。
せっかくのご旅行だ、思い出が出来て良かったじゃねぇか。
そう言うとお嬢様が怒り出すんで言いはしねぇがなぁ
さて、そんなお嬢様が現在、何処にいるのかと聞けば……空港だよ。
今日はお嬢様がイギリスに帰る日だ。旅行の最終日ってことで、オレとクソオヤジとクロードの三人で見送りに来たってわけだ。
それまでが実に大変だったぜぇ。何せウチのムサい野郎共はお嬢様が帰るつったら、号泣して引き留めようとしてくるんだからよぉ。
お嬢様はこの一週間であっという間にウチのアイドルの座を射止めたと言うわけさ。
御蔭で未だにオレをクビにしてお嬢様を入れようなんて騒いでやがる奴もいる。
諦めが悪いのも考えようだ。
そんなめそめそしい奴等に笑顔を絶やさずに接するお嬢様は本当にすげぇよなぁ。
オレだったら一発でキレて、眉間でタバコが吸えるようにそいつらの頭に3つめの口を開けてやりたくなっちまう。
そんな訳で、数多くの奴等から見送られながらオレ達はお嬢様を連れて空港に来たってわけだ。勿論、カインの馬鹿と違って尾けられるなんてヘマはしてねぇよ。
そのまま安全運転で空港までお嬢様とドライブとしゃれ込んだ。
唯一の文句があるとしたら、クソオヤジのせいで大型車だってのに狭苦しいことだったことかねぇ。
クロードには何度も言ったんだぜ。この重いモンとっとと捨ててペイロードを広げようってなぁ。それを聞き入れてくれる程、クロードは甘くねぇがなぁ。
何より、道中でお嬢様から喧嘩はいけねぇって止められちまった。そこまで言われたんじゃ引き下がるしかねぇ。
お嬢様に免じてここは引き下がってやる。後で改めて地獄に送ってやるから待ってやがれ。
そうして楽しいドライブも終わり、お嬢様を空港までエスコートした。
行きと違い、すんなりと手続きも済んで後は飛行機の時間待ちだ。
「この一週間はどうだったよ、お嬢様」
オレの問いかけにお嬢様はこの一週間を振り返り、そして笑った。
「ハチャメチャな一週間でしたわ。来た最初から乱闘騒ぎで大変で」
「あのクソオヤジが悪いんであってオレのせいじゃねぇ。文句はあのオヤジに言いな」
オレの言い分にお嬢様はそれでもそれに乗るレオスさんも悪いんですよ、とプリプリ怒る。
その様子に少しばかり笑っちまう。オレをこんな風に叱るのはお嬢様だけだからなぁ。
「夜には行ったことのないお店に行ってみんなではしゃいだり、それでレオスさんが倒れるまでお酒を飲んだりして」
「あのクソオヤジに負けるのだけは死ぬことよりも勘弁なんでな。アイツに負けるくらいなら手前ぇで眉間に銃叩き付けて引き金を引いたほうがウン倍もマシさ」
「だとしても飲み過ぎですわ! それでどれだけわたくしが苦労したことか…」
「迷惑かけて悪かったな」
「い、いえ……」
それでも心配したんですからね、と当時を思いだして何故か顔を赤くするお嬢様。何かあったのかもしれねぇが、絶賛酔っ払ってたオレにはわからねぇなぁ。
「改めて自分の射撃能力を高めることも出来ました。如何に自分が甘いのかが嫌と言うほどよくわかりましたわ」
「クロードのしごきはきつかったかい? あれでもかなり優しい方なんだぜ。オレはあれ以上に酷いのを毎回やらされてる」
「まぁ! うふふふふふ。それだけ期待されているということですわ」
「おいおい、冗談は止してくれよ。ありゃ単に扱くのが大好きなSってだけだ」
お嬢様は笑うが、冗談じゃねぇんだよなぁ、マジで。
御蔭で今じゃかなり鍛えられてる始末さ。あのドS上司はオレを何にする気なのやら。
「昨日の……その…デートはとても嬉しかったですし……。今までで一番濃い時間を過ごしたと思います」
「そうかい、そいつは良かった。お嬢様に満足していただいて良かったよ」
冗談交じりにそう言うと、お嬢様はクスクスと笑った。
あまりお嬢様のことは深く知らねぇが、ここ最近は年相応に笑うようになった感じだ。良いんじゃねぇか、笑う女ってのは魅力的だからよ。
そんなオレ達を見てからクロード達が前に出た。
「あまりお構いできずに申し訳ありませんでした。せめてもう少し仕事が少なければ……」
「悪かったな、嬢ちゃん。せっかく旅行に来たってのにそこの馬鹿に付き合わせてばかりで観光に行けなくてよぉ」
「いえ、そんなことはありませんわ。お二人にもとても良くしていただいて。ありがとうございました」
軽く謝る二人にお嬢様は感謝の言葉を贈る。
それを聞いた二人、クロードはありがとうございますと幾人もの女を魅了する笑みで答え、クソオヤジは気恥ずかしそうに頬を掻く。
クロードはともかく、クソオヤジは似合わねぇことをするんじゃねぇよ。見てて気持ち悪さに笑いがこみ上げて来ちまうだろう。
そして二人とお嬢様は2~3言話すと、オレの後ろに回りこんだ。
「せっかくの見送りなのですから、最後は王子様が締めませんとね」
「誰が王子様だ、誰が! クロード、ファンシーな趣味は気持ち悪いって言われるぜ」
「これはロマンというんですよ。多少装飾的な言葉でも、相手を感動させるには向いていますからね」
クロードはそう言いながらオレの背を軽く押す。
まったく、誰が王子様だっての。夜盗の方がまだしっくりきそうなもんだ。
「頑張れよ、『王子様』」
「うっせ~よ、オレが王子ならテメェは大王だろ。それもあからさまに悪い奴のな」
「何だと、このクソ餓鬼!………まぁ、悪い部分は否定しねぇけどなぁ」
あのクソオヤジでさえ悪ノリせずにオレの背を叩いてきた。
二人してからかいやがって。
そう思いながらも再びお嬢様の前へと出た。
「お嬢様………まぁ、何だ。どうせまたIS学園には戻るんだし、それまで元気でいな。オレはあまりこういうのが慣れてねぇんだ。そんなつまんねぇことしか言えなくて悪いけどよ」
「確かにレオスさんは人にそう言うことを言うのは苦手ですものね。別に怒っていませんわ。レオスさんも、どうかご無事に学園に戻ってきて下さい」
お嬢様はオレを案じながらそう言って笑う。
別にオレはそう簡単にくたばる気はねぇんだけどよ。有り難く受け取っておこう。
そしてそろそろ時間になったあたりで同時に口を開けた。
「じゃあな、お嬢様。二学期にまた」
「ええ、レオスさん。また」
そして飛行機の発航間近のアナウンスが流れ、オレはお嬢様が歩き始めるのを見送る。だが、お嬢様は何かを思い出したように振り向きかけた身体を此方へと戻した。
「どうしたんだ、お嬢様。せっかくの別れのシーンが台無しになっちまうだろ」
「すみません、レオスさん。実は………忘れ物をしてしまったのですわ」
「忘れ物? どこにだ? まさか本部とか言うんじゃねぇだろうな。だとしたら今日はもう飛行機は無理…」
「いえ、ここです。それに直ぐ済みますので……」
お嬢様はそう言うと共に駆け出し、オレに飛び込んできた。
そして、オレの目の前にお嬢様の顔が近づいて行き………。
唇に柔らかい感触が伝わって来た。
それが何なのか? なんてのは言わなくても分かる話さ。
そいつについてはあの鈍感なイチカでさえ理解するレベルだ。
お嬢様はそのまま急いで身を離した。
「随分と派手なことをしやがる」
「そ、その……せっかくですから、冒険してみたかったのですわ! あ、もう飛行機の時間ですので」
お嬢様は顔を真っ赤にしたまま凄い勢いで飛行機乗り場へと走って行ったよ。
まさかあのお嬢様がこんな派手なことをするとはねぇ。
まぁ……悪い気はしねぇよ、こういうのはなぁ。
ただし……後ろでニヤニヤと笑う上司二人がいなきゃだけどな。
この後、当然本部内でからかわれまくったことは言うまでもねぇことだ。
せっかくのお嬢様の冒険を無下にするわけにもいかねぇんで、それを否定することは無かったけどよ。
旅行を満喫してくれたようで満足だよ、オレは。
尚、この後飛行機の客席で顔を真っ赤にしたセシリアが悶えまくっていたことを知る者はいない。
次回は甘さはかなり少なめ、ブラックに近いお話予定!
だってセシリアがいませんから(笑)