さて、会長が息巻いてご自慢の胸を突き出しながら自信満々な様子でそのプランを話し始める。
「こう言っては悪いけど、亡国機業は間違いなくIS学園の学園祭に侵入してくるわ。こんな絶好の機会を逃す程連中の甘くないもの。侵入に関し、学園側では正直防げない。多分正規の入場法を使って入って来るから。でも、狙いは分かっているんだからやりようはいくらでもあるわ。だからこそ狙いである織斑君を学園祭が始まるまでに徹底的に鍛え、最低限の自衛が出来るくらいになってもらうのよ。きっと今後も彼は狙われ続けるだろうから」
まぁ、大体の概要はこんな感じだろう。
簡単に言やぁ、学園祭ってカーニバルに浮かれ上がった連中がそれに託けて一夏の野郎の童貞を狙いに来てるってこった。アイツだって流石に望まない奴に奪われるのは不本意だろ。最悪病気が感染されちまうことだってあるからなぁ。そうなる前に会長さんがマンツーマンで優しく教えてやるんだとさ。その断り方ってやつを。
それを聞いて爺さんは変わらねぇ笑顔を浮かべつつオレが渡したグラスを傾ける。
まぁ、爺さんはこうなることも分かっていたって感じだろ。そこあで気にすることもねぇ。
対して、疑問を感じたのかお嬢様が綺麗な姿勢で丁寧に手を上げた。
「あの、思ったのですがよろしいでしょうか?」
「えぇ、いいわよ」
お嬢様の声に対し、会長は朗らかに笑う。
如何にも待ってましたって感じな面だ。
「織斑さんに力を付けてもらうのは理解出来ますが、でしたら織斑さんを学園祭の日に見張って警護なされた方が良いのでは無いでしょうか? その方が織斑さんも安全なはずでは?」
まぁ、お嬢様が言うのももっともな話だ。
護衛対象って奴を危険に晒されせるアホは普通いねぇ。そんな事をする奴は二流以下って相場が決まっているもんだ。
オレは護衛なんてモンをやったことがねぇんでわからねぇけどなぁ。逆に護衛されてる奴に仕掛けに行くのは飽きる程やったけどよ。
イチカの野郎の安全を考えるのなら、秘密裏に護衛を付けて守ってればいい話ってわけだ。
だが、会長の考えはちげぇ。
「確かにオルコットさん……いいえ、セシリアちゃんの言う通り、その方が織斑君は無事よ。でも、それを向こうに感取られてはいけないのよ。連中もそういったことには敏感だから。それに……」
会長が言いかけたところで今度はオレがお嬢様に補足を入れてやる。
「お嬢様、あまりほじくらないでやってくれ。会長はこう言いたいのさ。『それほど高度な護衛を出来る人材がこの学園にいない』ってなぁ。流石にただ少し囓ったひよっこにそんなプロを欺くことは出来ねぇからなぁ。それに……そこの会長さんはイチカの貞操を守りたいんじゃねぇ。その貞操を狙ってくるストーカーを捕まえたいのさ。守るのは二の次ってこった」
それを聞いてお嬢様は会長に目を向けたその面はどうにも複雑って感じだ。
会長は言いたいことを先に言われたってんでどうにも気にくわないらしくオレを睨んできたよ。一々遠回しに言うからそうなるんだぜ。
「まぁ、彼の言う通りよ。確かに織斑君の安全を確保したいところだけど、そうすると連中は雲隠れしてしまう可能性が出て来る。だから織斑君には奴等をおびき出す役目をしてもらわなければならないのよ。申し訳無いけど、それも今後の彼と学園のためなの。分かってくれるかしら」
「えぇ、確かにあまりよろしい事ではありませんが、仕方ないですわね。確かにその方法が一番その人達を捕らえられる手段ですもの」
お嬢様の成長には本当に感心させられる。
前までのお嬢様ならきっとイチカの野郎を危険に晒すのを良しとはしなかっただろうよ。だが、この夏休みを経て『効率の良い考え方』を出来る様になったらしい。感情論も大切だが、目的もちゃんと果たさねぇとなぁ。
それに、これでもまだ譲歩してるんだぜぇ、会長は。
その囮役をするイチカを鍛えようってんだから、お優しいもんさ。
会長はお嬢様を納得させたことで満足すると、今度はオレの方に目を向けてきた。
「そう言うわけ何であなたの出番は無いという訳なのだけど、何か質問はあるかしら?」
「いいや、オレからは特にねぇよ。いいんじゃねぇか、そのプランで。この学園でならそいつが最適解だろうよ」
「なら良いのだけど。ちなみにあなたの場合ならこの場合どうする?」
会長はニンマリと笑いながらそう聞いてきた。この感じからしてオレがどう考えるのか知っておきたいって感じだろ。
「オレなら無難にイチカの近くを彷徨かせてもらうよ。会長やお嬢様にゃあ分からねぇだろうが、この手合いは臭ぇ臭いがぷんぷんと臭うもんだからよぉ。近づけば大体分かるモンさ」
「そういうものなの? 少し私には分からないけど」
「まぁ、これも偏に経験って奴だ。場数を踏めば嫌でもわかるもんだ」
裏の人間ってのは独特の臭さってもんをどうしても持っちまう。
それはもう絶対に取れねぇもんだ。人を殺した事があるのなら、尚更なぁ。どんなに香水やらコロンやらで隠そうとしても、絶対に隠しきれない。
糞をバラのアロマの香りで華やかなものにしようとも、糞が糞であることに変わりはねぇってことだ。
糞な人間ってのは、如何に隠そうとも必ず同種の人間にはバレるってことだよ。
その事を伝えても、きっと会長やお嬢様にはわからねぇだろうからなぁ。
そこでニコニコ笑いながら話を聞いている爺さんは別だがね。
オレは爺さんの方に顔を向けると、軽く笑いかける。
「で、どうだい、爺さん? 会長さんのプレゼンはよぉ」
「えぇ、良いと思いますよ。学園祭を恙無く行うためには、秘密裏に事を進めなければなりませんから」
「だそうだ。爺さんは会長に一任するってよ」
爺さんから会長に任せると聞いて、会長は笑みを深めた。
「見てなさい! 一学期は色々と忙しかったから手が回らなかったけど、二学期からはそう簡単にはやらせないんだから」
意気込みも顕わにやる気満々って感じだ。
その様子を不思議に見ていたお嬢様に軽くチャチャを入れながら説明すると、お嬢様は納得した感じで頷いた。
そしてジト目で会長の方に目を向ける。
「あんなに忙しかったというのに、殆どわたくし達に丸投げしていたということですのね」
「いや、そう言われちゃうとお姉さん、困っちゃうなぁ~…」
「まったくもってその通りなんだから困るもクソもねぇだろ、会長。大人しく前学期丸投げした分を今回は頑張ってくれよ」
「きぃ~~~~~、やっぱり分かってたけどそう言われると悔しい~!」
会長はオレにからかわれて顔を真っ赤にして唸る。
そんな会長にオレとお嬢様は笑っていた。
そしてそんなオレ達を酒の肴にして飲んでいた爺さんは、少しして話を纏め始めた。
「では、学園祭におけるプランは更識さんのプランで行きましょう。更識さんは学園祭までに織斑君を鍛えて下さい。亡国機業に襲撃されても生き残れるように」
「はい」
「それとオルコットさんとレオス君は彼女のサポートをお願いします。織斑君には彼の組織が仕掛けてくるなどの情報は教えないようにして下さい。混乱を招いてしまいますからね」
「わかりましたわ」
お嬢様は真剣な様子で爺さんに返事を返した。
きっとお嬢様からしたら重大な案件を任されたみたいな感じなんだろ。
つくづく真面目だねぇ。まぁ、そこがお嬢様の良いところでもあるんだが。
対してオレはと言えば、爺さんに軽い感で話しかける。
「なぁ、爺さん。勿論報酬は出るのかい?」
「なっ、レオスさん!」
真面目な優等生であるお嬢様はオレの質問を咎めるように声を荒立てる。
別に何てこと無い『いつもの会話』だってのによぉ。
その質問に対し、爺さんは変わらない笑顔で答えた。
「今回は依頼ではありませんし、あくまでも更識さんの手伝いですからね。ボランティアです」
「ち、そういうことかい。食えない爺さまだよアンタは」
「ありがとうございます」
「褒めちゃいねぇんだがね。まぁ、爺さんからしたら褒め言葉にしかならねぇか」
爺さんは今回金は払わねぇとさ。まぁ、依頼じゃねぇんなら仕方ねぇか。
流石にお嬢様に不謹慎だって怒られちまったけどよ。
そんなわけで、無償で会長のお手伝いをすることになった。
まさかオレが無償奉仕をするとは思わなかったぜ。まぁ、お嬢様も頑張る気が漲っているようだし、たまにはこういうのもいいだろ。
会長が大体やってくれるんだから、学生の祭りってもんをお嬢様と満喫するのも悪くねぇ。
そう思いながら、この話し合いは終わり、オレとお嬢様は理事長室を後にした。