「よっ」
「ん。お茶いる?丁度入ったところよ」
「おぉ、頂くとしようか」
春も手を伸ばせばすぐそこ。
道行く者十人に問えば、普段は十人がのどかだと応えるような季節だ。
ただ、この神社には道行く者などいない。
呆れるほどの妖怪と、ごく少数の変わり者だけが。
「みかんもらうぜ」
「あ、ちょっと、勝手にとらないの」
弥生の末時期だ。冬のお裾分けでもらったみかんもそろそろきれる時期だろう。
こたつの上のザルが、空になる。
「……ったく、これは異変でしょ……」
それもそのはず。
まだ雪が積もっているのだ。
しんしんという擬音が憎たらしいほど似合う寒さ。
「……なあ、なんか聞こえないか?」
「5秒くらい前からね」
「じゃあ空耳じゃなさそうだな。どこだ、またあの天狗か?それにしちゃ声が低いか」
「やっぱり声ね。しかも、聞き覚えがない」
そう言って、博麗の巫女…霊夢は縁側の板べりを蹴り、雪の上を浮き回る。
「……上よ」
「じゃあ大方『スキマ』妖怪の仕業だろ」
「…でも人が降るなんてある?」
「そう言われると…確かに」
言う間にも声はどんどん近くなる。よほど上から落ちてきたのだろう。
「助けに行かないのか?どうせ真上だろ、神社に尸撒き散らされたってお前も嬉しかないだろ」
「真上じゃないわ、石畳寄り。それに紫が落としたのなら着弾対策も施されてるわ」
「着弾てお前なぁ「ズドム!!!」おっと…来たな」
「さーて、そこの妖怪、どういうことか説明してくれるかしら?」
「グェ」
「変な声出さないの。レディなんでしょ?」
「妖怪よ」
いつの間にか魔法使い…魔理沙の帽子に、小さな境界が創られていた。躊躇いなく指を突っ込み、覗いていた目が引っ込む。
代わりに部屋の隅の空間が歪み、大仰な仕草と共に妖怪の白い肌が現れる。レディと言っても遜色のない大人びた輪郭がそれに続く。
「で、どういうこと」
「彼に聞きなさいよ。私も知らないわ」
「管理者が侵入者をつかんでないわけ?」
「私は境界の管理者。今回の担当は幻想郷の管理者よ」
「…博麗神社だから霊夢じゃないのか?」
「もっと上よ。本質的な管理者」
「じゃあ…龍神だっていうの?」
「そうよ。だから私も知らない。それじゃ」
「あ、おい、ちょっと!」
魔理沙の食べかけのみかんを掠めとり、空間の歪みの先に薄紫のドレスが消える。
「……じゃ、聞くしかないわね。あの人に」
霊夢は呆れた様子。大体管理外だというのならなぜ紫が手を出す。そうでなくとも顔を出すんだろうか…?
まさか、紫の「予想外」が起こったのかしら?
その予感は、巻き起こっていた雪煙の中から覗いた人影に掻き消される。立って、歩いている?あの高度で?
まず人間ではない。人間だとしても「こっち」の人間だろう。妖怪etcだった場合まずシバキ倒してそれからここの神様にちょーっとお灸を据えなきゃね。
そのアテは外れ、人間の形だ。角も羽根も妙なものもつけていない。いや、ついていない、か。
1つ特異を挙げるとするならば。
「っあ゛ーーー……もうやだ……」
そいつは、刀を背負っていた。
真剣…。
「うーんと、初めまして、かな?」
気さくに言う。
「俺もよくわからんうちに戻されたが、久しいな、こんな風景は」
「…色々聞きたいことはあるけれど、まず聞きましょ。
あんた、誰?」
「まあそう構えるなって。俺は言葉 結斗。カンナは確か…ヨロズノコトノハノミコト?そうだ、万代言葉命。ここ、博麗神社の現人神だ。気軽にゆいととでも呼んでくれ。」
「……は?」
畳の上で、巫女と魔法使いは、口を開けるしかなかった。
「はぁあああああぁあああああ!?」
第一章:冥界の楊貴妃
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えっち(大嘘)(まんざらでもない)