雁夜おじさんのバオー来訪者ネタ Staynight編   作:蜜柑ブタ

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凜とアーチャーの、敗走。

ライダーの魔眼が、ここまで厄介な代物かは分かりませんが…、そういうことにしました。


SS11 敗走

 

「…アーチャー?」

「すまん、凜…。君だけは生き残れ。」

 

 雁夜達が駆けつけたときに見たのは、キャスターによってルールブレイカーに貫かれるアーチャーの姿だった。

 

「あら? 遅かったわね。」

 キャスターが、フードを深く被っていて半分隠れた顔の口元を歪めて笑った。

 キャスターの近くには、天馬に跨がっているライダーがいた。

「ライダー!」

「……。」

 ツツジがライダーの名を呼ぶが、ライダーは反応しない。

 よく見たら、ライダーがいつも付けている目の封じのベルトのようなものが外されていて、その目はアーチャーに向けられていた。

「ライダー。その呪われた目で、彼らを見なさい。」

「っ……。」

「マズい! 見るな!」

 わずかに抵抗するような素振りを見せながら、ライダーがその両目をこちらに向けてきた。

 メドゥーサたるライダーの強力無比な魔眼の力が、重圧となり、体を襲う。

「いい子ね。そのまま彼らを封じてなさい。」

 キャスターが、口元を釣り上げたまま、ルールブレイカーブレイカーと杖を手にして近寄ろうとする。

「うっ…。」

「ツツジ!」

 魔力が無いため、魔術回路を利用して魔眼の魔力を防ぐやり方ができないツツジの手と足が石化し始めていた。

 士郎も桜も、魔術回路を使って魔眼の力を防ぐのがやっとだった。しかし、長くコレを続けていたらやがては、魔術回路が焼き切れてしまう。

「ライダークラスは使えないって思ってたけど、まさかこんな能力を持った者が正体だったから、セイバーを手に入れるには、ちょうどよかったわ。彼女を寄越してくれて、ありがとう。」

「そんなお礼はいらない! ライダーを返してよ!」

 ツツジが石化しつつある手を無視して、キャスターを指さし、ガーッと怒る。

「それはダメよ。もとより聖杯を手にれるため、最終的には自害させる予定だもの。」

「それって…、セイバーもアーチャーも?」

「ええ、そうよ。聖杯を手にするためだもの。令呪をもって命ずる…、アーチャー。」

「くっ…。」

 アーチャーが、弓矢を出現させ、その矢の先を、ツツジに向けた。

「他の者は、魔術師でも、彼女は違うわね? 一度石化し、壊されたら二度と元には戻らないわよ?」

「させん!」

 セイバーがツツジを庇うように立ち、剣を構えた。

「あら? ライダーの魔眼の重圧を受けても、アーチャーの攻撃を全て防ぎきれるかしら?」

「…っ。」

 セイバーは、自身の体を蝕むライダーの魔眼の重圧を感じていた。

「ごめんね…、ライダー…。私のせいだ…。」

「うぅ…、ツツ、ジ…。」

「ライダー。そのまま彼らを見てなさい。」

「そう上手くいくと…。」

「動かないでくれるかしら? あなたがその力を発揮する前に、アーチャーの矢が、その娘を撃つわよ?」

「それは、どうかな?」

「? アーチャー!」

「っ!」

 一瞬訝しんだキャスターだったが、次の瞬間、アーチャーに命じ、アーチャーの矢が放たれた。

 セイバーがそれを弾くが、次々に射られる矢の数に、魔眼の重圧を受けた体がついていけなくなっていく。

 やがて、一本の矢がツツジに迫った。

 それを瞬時に手で防いだ雁夜。

「なっ!」

 アーチャーの矢よりも早く動いた雁夜に、キャスターが驚く。

 そして握った矢を、雁夜はライダーに向けて投げた。

 ライダーと天馬を守る膨大な魔力による壁が弾くが、その時、投げた矢に込められた魔力により、電撃のようなモノが発生した。その瞬間、飛び火でキャスターが弾かれて前に押し出され、ライダーが一瞬目をつむった。

 その瞬間、距離を詰めたセイバーがキャスターに向けて剣を振り上げた。

「あっ!」

 間一髪のところでキャスターは、杖を盾にして剣の一撃を防いだ。杖は真っ二つになり、ローブの表面が切れた。

「ら、ライダー! セイバーを見なさい!」

「うっ…ぐっ…、逃げ…。」

 バチバチと令呪による強制力を受け、それに抵抗するライダーが片目を必死に手で覆いながら、もう片目でセイバーを見た。

 セイバーの体に魔眼の重圧が来るが、片目だけだったのでそこまで強くはなかった。

 素早く振られるセイバーの剣を、キャスターは、必死に避ける。

「おのれ…!」

 足元に瞬時に魔方陣を出現させて、爆発を起こし、粉塵をまき散らし、辺り一面に煙が舞った。

 煙が晴れると、そこには、キャスターは、いなかった。そしてライダーも、アーチャーも姿を消していた。

 ライダーがいなくなったことで、ツツジの体の石化がなくなった。

「危なかった…。下半身までいってたよ。」

「ツツジさん!」

「…次は、ツツジは行かない方がいいかもな。」

「そういうわけには…。」

「おまえがライダーを奪われたことに責任を感じてるのは分かるが、さっきみたいに狙われたらどうすんだ?」

「……分かった。」

 雁夜の言葉に、ツツジは渋々頷いた。

「遠坂。だいじょうぶか?」

「…ええ。」

 倒れていた凜を、士郎が助け起こした。

 凜は、枯れ葉が敷き詰められた地面から立ち上がると、パンパンと枯れ葉を払った。

「……桜…。笑いたければ笑いなさい…。大口叩いといて、この様よ…。」

「…笑いません。」

 自虐的に言う凜に、桜はそう言った。桜の声には険は無く、どこか哀れむような色がある。

 桜のその声色に混ざる哀れみと、周りの視線に気づいた凜は、悔しそうに拳を握りしめ、俯いた。

「アーチャー取られたから…、戦いにくくなったね…。」

「ライダーの魔眼で止められた隙に、アーチャーに射られたら防ぐのは難しいです。」

「変なコンボができちゃった?」

「セイバー。俺達を守る必要はない。お前はお前で全力で戦えばいいだろ?」

「キャスターさえ押さえられれば、こっちの勝ちだわ。」

「じゃあ、残るライダーとアーチャーの相手は?」

「俺がする。」

 雁夜が挙手した。

「ですが、いくらあなたでもサーヴァントを二体も相手には…!」

「いや、問題ない。」

「雁夜さん、無茶はだめ!」

「ムチャじゃないさ。」

「キャスターだけじゃないわ。」

 黙っていた凜が喋った。

「葛木がいる。」

「葛木って、遠坂のクラスの担任の…。」

「そう、葛木宗一郎。あいつがキャスターのマスターよ。」

「なんだって!」

 士郎は驚いた。

「けど、彼は魔術師ではないはず。けど、ただの人間じゃない。」

「どういうことだ?」

「彼は、自分のことを枯れ果てた殺人鬼だと言った。そして、私の魔術を素手で弾くほどの格闘技の使い手よ。」

「魔術を素手で!」

「ハッキリ言って、まるで太刀打ちできなかったわ。それほどの強敵よ。」

「じゃあ、私の影で止めるわ。人を殺すまでは出来ないけど、サーヴァントでもないと私の影はそう簡単には破れないはず。」

「なら、俺も戦う。」

「半人前のあんたに何ができるってのよ。」

「これでも毎日セイバーに鍛えて貰ってんだぜ? 俺が木刀を強化の魔術で固めて、葛木の隙を作る。間桐は、その隙をついて影で葛木を捕まえるんだ。」

「その方が確実ですね。私の影もそこまで早くないから…。」

 使いこなせるようなってきたとはいえ、隙が大きい桜の影の魔術である。しかし、一度捕えれば、バーサーカーほどの強力なサーヴァントでもない限りは解くのは困難だ。

「そうね…。キャスターは、葛木に執着している。葛木を捕えられれば、キャスターを…。」

「凜ちゃんはどうする?」

「私は、セイバーを援護する。士郎の魔力が不十分だから、いくら最優のサーヴァントであるセイバーでもキャスターに負ける可能性があるわ。それに、セイバーを取られたらお終いだもの。セイバー、ルールブレイカーにだけは最優先で気をつけるのよ。」

「分かっています。」

「……みんな、いったん帰らない? ここにいても、キャスターが逃げちゃったから、今から追いかけることもできないよ。」

 ツツジがそう言った。

 雁夜と桜は顔を見合わせ、それに同意した。

「お腹すいたし。みんなでご飯にしない?」

「そうですね。大人数分作れば美味しくなるわ。」

「じゃあ、俺も手伝うよ。」

「ありがとうございます、先輩。」

「……あんたら、緊張感無いわね。」

「緊張感を解いて休息を取るのも、戦略のうちではありませんか?」

「……セイバー、よだれ…。」

「おっと。」

 士郎のご飯にすっかり虜になっているセイバーが、ジュルッと垂れた唾液を慌てて腕で拭った。

 呆れている凜以外のみんなが、少し笑い合い、柳洞寺から間桐邸に帰還したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 白いご飯。パリッと焼いたウィンナー。半熟の目玉焼き。ワカメと豆腐の味噌汁。漬物(自家製)。

 簡単だけれど、美味しい朝ごはん。

「は~~~…。」

 味噌汁を一口飲んだ凜が、力が抜けたように息を吐いた。

「凜ちゃん、何も食べてなかったんだろ?」

「朝ごはん食べるなんて悠長なことしてる場合じゃなかったんだもの。アーチャーは、一口でも食べとけってうるさかったけど。アイツは主夫かっての。」

「シロウ。お代わりを。」

「はいはい。今日もよく食べるな、セイバー。」

「雁夜さん、お代わりは?」

「ああ、貰うよ。」

 セイバーに続き、雁夜もお代わり。

 怒濤のお代わり合戦は、しばらく続いた。

 そして、客室で食後のお茶をまったりと飲んでいたときだった。

 

「よう。」

 

 そこへ、この場にいないはずの者の声が聞こえた。

 

 開けていたふすまの外から見える庭の木の上から飛び降りてきたのは、ランサーだった。

 

「まったりしてるところ悪いが、悪い知らせだぜ。」

「どういうつもり?」

 凜が警戒した。

「まあまあ、俺は別にお前らと戦いに来たわけじゃねぇんだ。ただマスターからの使いっ走りよ。」

「何の知らせ?」

「言峰教会が、キャスターに襲撃された。監督役の言峰綺礼は行方不明だ。」

「なんですって!」

「ところで、良い匂いがするなぁ。俺も厄介になっていいか?」

「ご飯と、お味噌汁ぐらいなら残ってますけど。」

「ああ、それでいいぜ。凝ったもん作んなくていいぜ。」

「なにたかってんのよ…。」

 凜は、ご飯をたかるランサーに呆れ、そしてごちそうするツツジ達にも呆れた。

 そしてランサーは、ウマウマとご飯と味噌汁と漬物を食べたのだった。

「あ、漬物うめーな。手作りか?」

「私が漬けたの。」

「ほ~。顔に似合わず家庭的なんだな。」

「男っぽい顔で悪い?」

「いやいや、これだけ良い味出せんだから、いい嫁さんになるんじゃねぇの? あ、味噌汁もうめぇ。もしかし、そっちの嬢ちゃんが作ったのか?」

「いや…俺だけど?」

「なんだ、坊主か。」

「悪かったな。間桐じゃなくて。」

「いやいや、悪いとは言ってねぇだろ? 坊主もいい嫁さんになるんじゃねぇの?」

「俺は男だぞ?」

「私なら貰いますけど。」

「セイバー? 何言ってんだ?」

 セイバーの言葉を冗談だと思った士郎だった。

「って…いうか…、あの漬物、あんたが漬けたの!?」

「そうだけど?」

「あのキショイ寄生虫ついていたらどうすんのよ!?」

「あんなでっかいの、すぐ分かるわ。」

「桜! あんた知ってて…。」

「だいじょうぶだよ。物理的に移植しない限りは、移ったりしないから。まあ…、昔のバオーは、ともかく…。」

「なにその言葉! 不安になるようなこと言わないでよ!」

「昔のバオーは、宿主に卵を植え付けて、かえったら世界中に伝染するって生態だったんだけど、私のマザー・バオーに進化してから、その生態系が失われたんだよね。だから、雁夜に卵を植え付けるなんてことはないよ。」

「なにげに、怖っ!! そんな危険なモンだったのかよ、バオーって!! 初耳だぞ!?」

「バオー作った人が、核弾頭レベルの危険物って言ったぐらい危険だったみたいだよ。」

「現在進行形で、危険じゃないの、あんた達は!」

「遠坂さん、聞いてなかったの? もうバオーは、変わったんだよ?」

「いいえ! 安心できないわ! やっぱり、あんた達は…ころ…、っ!?」

「あら? 遠坂さん、まだそんな世迷い言を…。」

「間桐ーーー!!」

 また桜を怒らせ、影に巻き付かれて窒息死寸前までいってしまった凜だった……。




緊張感ある戦闘から一転、緊張感無しのまったり食事風景というのを書きたかった。

でも結局、ツツジが漬物作ってたことが判明し、ツツジを警戒してる凜が過剰反応、バオーが核弾頭レベルの危険物だったということが分かり、やっぱ殺す!ってなって桜を怒らせてしまった……って流れになっちゃった…。あれ?
なお、ツツジの中のマザー・バオーという捏造設定により、寄生虫バオーは、通常種でもマザー・バオーから生まれる種は宿主に卵を植え付けるという生態系を失っています。じゃないととっくの昔に雁夜と世界が大変なことになってる。

そして、飯をたかるランサー。漫画版でも、勝手に食ってるし、食べさせてみた。

セイバーは、魔力不足の反動で腹ぺこ王。すっかり士郎のご飯のとりこです。

次回は、キャスターとの決戦かな?

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