エイギル艦隊 彼の海にて、斯く戦えり   作:凡人作者

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交渉

ショートランド泊地の沖合いで、この南洋の土地に不釣り合いな大きな姿が有った。

全長300mを超え、多数のジェット機を運用する航空母艦、ジオフォンである。

エイギル艦隊の牙でもある彼女の艦内では、艦隊の今後を考える会議が始まっていた。

 

カチ、カチ、カチ、カチ。

 

会議室に設置されている大きな振り子時計が、静かで重苦しい室内に響く。

長方形のテーブルには各艦艇から参集した艦長達が座り、ただ無言でこの部屋の長の発言を待っている。エドワード・キング准将はただ目をつむり、そして意を決した様にして言葉を紡いだ。

 

 

エドワード「今日集まってくれた各艦長へ、先ず先に言っておきたい事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺も含めてだが、みんなの顔殆ど同じじゃないか?髪型とかは違うからギリギリ誰なのかは分かるんだが、皆二頭身じゃないか。」

 

ジョルジュ「はぁ、私はもう考えるのを止めて、慣れましたが。」

 

タム「わ、私もです。」

 

「「右に同じく。」」

 

エドワード「そ、そうか。じゃあ慣れてないのは俺だけか。」

 

 

意外と今の姿に慣れてしまった各艦長達に、若干の動揺と申し訳なさを感じつつ、軽く咳払いをしてエドワードは本来の話を切り出した。

 

 

エドワード「本日14時30分、本艦隊から私を含む数名が上陸し、現地海軍組織と本格的な交渉を進める運びとなった。」

 

 

その発表に、この会議に参加する誰かが固唾を飲む音が聞こえた。相手がどの様な対応をするのかわからない、上陸するなりその身柄を拘束される可能性だってあるのだ。

それ程までに、相手のホームグラウンドへと立ち入る事は危ないのだ。

 

 

エドワード「それでだ、旗艦アルヴァルディから十数名の陸戦隊を護衛に出そうと思っているのだが、これに関しても少し不安があるのだ。」

 

チアシ艦長「武装した護衛により、相手側を刺激しかねない、と言うわけですね?」

 

エドワード「そうだ。」

 

 

駆逐艦チアシ艦長ディルク・タルナート中佐の予想に対して、エドワードは頷いた。どちらにしろリスクを伴う行動だ、何を言われるかわかった物じゃない。

 

 

タイチ艦長「そんな物気にする必要あるんですかね?向こうだって自衛の為に砲を向けてきたんだ、今更護衛位で文句を言われる筋合いなんてないですよ。」

 

 

そう声を荒げたのは、駆逐艦タイチの艦長を務めるアロンソ・タルラゴ中佐である。少し過激的な所がある彼は、先程の人類側の態度に少し不満を持っていたのだ。

 

 

ジョルジュ「はぁ、ディルク。お前相変わらず激しい事を言うな、ん?」

 

アロンソ「なんだ、何か変な事言ったか?」

 

ジョルジュ「いいや、だがそう言うのは相手に言うんじゃないぞ?立場上やらなきゃいけない事だったのだからな。」

 

ディルク「私としては護衛を付けるのは賛成です。相手側も立場上、此方が護衛を付けざるをえないのは理解しているでしょう。」

 

エドワード「ま、そうなるかねぇ……………。」

 

 

結局、エドワードは護衛を付けて上陸する事となった。他に名案が有る訳でもないし、あった所で採用するか?と言う話でもある。淡々と各艦長と意思共通を図るだけの会合となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「まさか本当に現代艦が艦娘となって、召喚されるとはね………………。」

 

 

レンガ作りの鎮守府の窓から、女性は沖合いに停泊する空母や巡洋艦等を眺めていた。肩の階級章は少将を表しており、明らかに10代後半から20代前半にしか見えない若者にとっては高過ぎる立場である。

 

名前は長瀬恵(ナガセ ケイ)、元航空自衛隊のエリートで、日本海軍の再建に合わせて海軍へ籍替えした稀有な経歴を持つ。

高い技術力と、海上自衛隊の幹部クラスの大量喪失、並びに日本海軍艦艇の急速な増大から繰り上げで少将になったのである。

 

 

鳥海「提督、エイギル艦隊から責任者が参られました。」

 

長瀬「わかったわ、直ぐに入室させなさい。」

 

エドワード「失礼する。」

 

 

入室してきたエドワード達を見て、長瀬は目を丸くした。責任者は艦娘だと思っていたのだが、入ってきたのは妖精だったのである。

 

 

エドワード「な、何か有ったのかね?私の顔に何か付いてるのか?」

 

長瀬「い、いいえ。ただちょっと意外で………。」

 

エドワード「悪いがそこには触れないで頂きたいのだが。私も好きでこんなちっこい体してる訳じゃないんだ。」

 

長瀬「はぁ………、そうですか……………。」

 

 

彼女?に言われるまでもなく、一々突っ込んでいたら本当にしんどくなりそうだったので、さっさと長瀬は本題に話を移そうと考えた。この正体不明の組織が一体何処から来たのか、それを探る必要がある。

 

 

長瀬「私はショートランド泊地司令、長瀬恵。階級は少将よ。」

 

エドワード「?!これは失礼しました。自分はエドワード・キング、第7駆逐隊司令並びにエイギル艦隊の臨時指揮官を務めております。階級は准将です。」

 

長瀬「そう畏まらないで下さい、貴女方は客人の様な物です。それに我が海軍は准将に値する階級は有りませんしね。」

 

エドワード「そう言って頂けてありがたいです。」

 

 

直立不動で敬礼したエドワードに席に座るのを進めつつ、長瀬は話を伺った。

 

 

長瀬「では単刀直入に伺います、貴女方は何者なのでしょうか?所属と出身をお願いします。」

 

エドワード「自分はエルジア共和国海軍、エイギル艦隊に所属しておりました。」

 

長瀬「……………先程貴女方の艦艇であるハーンでしたっけ?我が艦隊の大井から話を軽く聞きましたが、エルジア共和国とは一体何処にある国家なのでしょうか?」

 

エドワード「な、何ですと?!エルジア共和国を知らないと。隕石が落ちてきたり、しかも今は独立国家連合とユージア大陸を巡って戦闘中なのですぞ!!」

 

 

長瀬は困惑した顔をして一度鳥海と顔を合わせた。まるで話が噛み合わない、これはどう対応すれば良いんだと言いたくなった。鳥海も困った様な顔であり、もうどうにでもなれと割り切った思いでエドワードに真実を告げた。

 

 

長瀬「私の世界ではその様な国家や組織は存在しません。ユージア大陸と言う土地も有りません。」

 

エドワード「じゃあ何ですか、私達は異世界にでも来たと言いたいのですか?」

 

長瀬「そう言う事になりますね……………。」

 

エドワード「信じられませんな。」

 

長瀬「それは私もです。」

 

 

エドワードは嘆きたくなった、もう祖国は無い、帰る所は無いとは死刑宣告同然じゃないかと。我々はこれからどう生きて行けば良いのか全くわからない、とネガティブな考えが頭の中を覆った。

 

 

長瀬「あの、そろそろ此方側の状況も話したいのですが、大丈夫ですか?」

 

エドワード「ああ、すみません。少し考え事をしてしまいましてな。問題は有りません。」

 

 

長瀬は、大井の砲術長がジョルジュに説明したのと同じ様に、エドワードに対して日本の歴史や今置かれている状況を説明した。エドワードもジョルジュからある程度は聞いていたので、話の内容を直ぐに飲み込む事が出来た。

 

 

長瀬「私としては、貴女方を深海棲艦を撃沈した時に稀に出るドロップ艦として、我がショートランド泊地に仮ではありますが所属して貰おうと思っているのですが、如何でしょうか?補給や整備等は我々が負担する用意が有ります。」

 

エドワード「その件に関しては、また新たに各艦長と話し合って決める事にしようと思っています。私としては今すぐにでも飛び付きたい話ですがね。」

 

長瀬「では、概ね交渉成立と判断してよろしいですね?」

 

エドワード「そんな所ですな。」

 

長瀬「では最後に、ありがとうございました。貴女達のお陰で我が艦隊の大井は帰ってこれました、手伝える事があれば出来る範囲で優通させて貰います。」

 

 

唐突に頭を下げた事によって、エドワードは動揺した。大井とやらを助けたのはジョルジュ達であって、自分ではないし、それに少将たる者が頭を下げた事も驚きの一つであったからだ。

 

 

エドワード「頭を上げてください、階級が高い者が下の者へ頭を下げる事もないでしょうし。」

 

長瀬「しかし、この案件は私が頭を下げても下げ切れない程の物です。」

 

エドワード「さっき申した通り物資を優通してくれるだけでもありがたいですし。それに頭を下げる相手は私ではなくて、実際に戦ったハーンやジョルジュ達へだと思いますよ。」

 

長瀬「あ、そうでしたね。これは申し訳ございません。」

 

エドワード「ハッハッハ、気にしてませんよ。気にしていると言えば、この体ですが………。」

 

 

そう言ってエドワードは自分の身体を改めて見た。二頭身で有るのか無いのかわからないような手。目覚めた時に見たデフォルトされたような顔、おまけに自分も含めてだが皆同じ顔。ノイノーゼになりそうであった。

 

 

長瀬「?、じゃあ妖精化を解除すれば良いじゃないですか。」

 

エドワード「なに?そんな事が出来るのか?」

 

長瀬「出来ますよ、知らなかったのですか?」

 

エドワード「異世界から来たって言ったよな………?で、どうすれば出来るのかね?」

 

長瀬「念じれば普通に……………。」

 

 

長瀬に言われるがまま、エドワードは深く念じた。すると身体の芯が熱くなったような感覚が起こり、そして身長がぐんぐんと高くなるような感覚がした。

そして変化が終わった後、自分の身体を改めて部屋の鏡で見て、絶句した。

 

 

エドワード「…………………おい、どう言う事だこれは?」

 

長瀬「はぁ、貴女って元の姿はそうなっているのですね。」

 

エドワード「違う、断じて違う!!」

 

 

自分は女性ではないと勢いよく断言したエドワードであった。結局、長瀬に自分の元の姿を強く念じれば元に戻ると助言されたので、疑心暗鬼になりながら元の姿を想像したら、ちゃんと生前の姿になったのでよしとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、エイギル艦隊とショートランド泊地との交渉は平和裏に終わった。アルヴァルディへと帰って行くエドワードを窓から眺めつつ、そして長瀬は軽く呟いた。

 

 

長瀬「さてと、どう上層部と折り合いを付けましょうか………。」

 

鳥海「提督、良かったのですか?あれ程までに譲歩したりして。」

 

長瀬「彼等にとっては、根無し草でこんな危険な所彷徨きたくも無いでしょう。それに仮として"ショートランドに籍を置いて貰ってる"もの、物資分の働きはしてもらうわ。」

 

鳥海「はぁ、怒られても知りませんよ。」

 

長瀬「フフッ、怒らせないわよ。」

 

 

そう不敵に長瀬は笑い、そんな大胆な行動に鳥海は軽く溜め息を付くのだった。

 

 

曙「ふーん、あれが国籍不明の駆逐艦か。」

 

朧「夕張さん位の大きさだよね、多分。」

 

漣「キタコレ!!」

 

朧「全然関係無い言葉が出てきて草w」

 

漣「草にwを生やすな!!」

 

潮「それだけは使い方がわかるのね……………。」

 

 

 

埠頭からハーン達を眺めつつ、茶番劇に興じる四人組。この泊地に所属する第7駆逐隊の朧、曙、漣、潮である。

正体不明の艦隊がこの泊地に入港したと聞き付けて、非番の時にその姿を見に来たのである。港に居るのは巡洋艦と駆逐艦と大井から聞いていたのだが、彼女等の目には全て軽巡洋艦にしか見えなかった。

一体どう言う基準で艦種を区別して居るのだろうと、疑問に思っていた。そして曙は、ハーン達から乗員や艦娘が気付いたのか、手を振って居るのを確認した。

 

 

曙「あ、手降ってる。」

 

漣「え?ホントホント?!」

 

潮「漣、少し落ち着いて。」

 

朧「へぇ、私達と同じ年かな?」

 

 

彼女達の交流は、近々行われる事となる。それがどの様な結果をもたらすのだろうか。


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