エドワード「諸君、ショートランド泊地司令部にて、我々を迎え入れる歓迎会が開催される。」
空母ジオフォンに集まった各艦艇の幹部、そして艦娘達の前でエドワードは今後の予定を通告した。駆逐艦の艦娘の中には、南国の地を踏める事にわくわくする者も居る。巡洋艦の艦娘の中には、相手側の艦娘の力量が如何な物かと期待する者もいる。その様な三者三様の考えが広がっていた。
エドワード「各艦艇の艦長、そして艦娘達はそのまま司令部にて交流会に参加し、その他の乗員は半舷上陸を行う事を許可する。長い航海で疲れて居るだろう、存分に羽を伸ばして来るがいい。ただし羽目は外すなよ、解散!!」
海上戦力の歩となる駆逐艦から、機能美を追求した艦影からは不釣り合いな年端もない少女が現れ、ラッタルを降りて艦載艇へ乗り込んだ。
紺色をしたエルジア海軍の正装を纏い、深く被った制帽からはみ出るように金色の長い髪が覗く。
ネクタイをきっちりと締めた制服と、同じく紺色で統一されたプリーツスカート、細い足を覆う白いニーソ、編み上げブーツが可愛らしさを出している。
南国のキツい日射しを手で遮ると言う簡単な動作が、より一層彼女を可愛いく見せている。まるで映画の子役の様だ。
ジョルジュ「黙ってたら可愛らしいのになぁ……………。」
ハーン「それってどういう意味よ、まるで普段私は可愛く無いって言ってるみたいじゃない!!」
ジョルジュ「そうじゃん。」
ハーン「なにをぉぉぉぉ。」
直ぐに顔を真っ赤にして怒り、騒がしくなるから可愛く無くなるんだ、そうジョルジュは心の中で思った。これ以上言うのは面倒臭くなるだけだからだ、しかしハーンにはお見通しなのか、すぐに「アンタ、余計な事考えてないでしょうね?!」と追及される。つくづく女って何処か恐いなとジョルジュは思うのだった。
船務科「艦長見てください、民間船が集まっていますよ。」
ジョルジュ「この世界では現代艦は殆ど姿を消してるらしいからな、珍しいんだろ。」
ハーン「私の可愛さを見に来たんじゃなくって?」
ジョルジュ「それは無いな。」
ハーン「ハァッ?!」
ハーンの艦載艇だけが騒がしい中、彼女達は南国の大地を踏んだ、と言っても港の埠頭では有るのだが。港でも同じように民間人がごった返しており、それを憲兵達が必死で抑えている。ハリウッドの有名人か何かを見るような感じだろう、そして司令部へと続く門には大きく
『エイギル艦隊の皆さんようこそ!!』
と書かれたプレートが掛けられており、門の下には自分等と同年代の女の子達がいた。学校の制服の様な格好や、セーラー服、和服や軍隊の制服等装いは様々である。
??「初めまして、皆さん。遠路はるばるお越しいただきました。」
ジオフォン「あ、貴女は?」
瑞鳳「私の名前は瑞鳳、祥鳳型航空母艦の瑞鳳です。こんな小柄なボディだけど、正規空母並みの活躍をして見せるわ。」
ジオフォン「空母?!私も空母なのよ、よろしくね瑞鳳。あ、わたしの名前はジオフォンよ。」
瑞鳳「ふふ、よろしくねジオフォン。」
ジオフォンは同業者である瑞鳳と会えて色々嬉しい様子、同じ艦種なのでその方面の話とか弾むのだろう。まぁ1940年代の空母と2004年の空母と言う、64年の開きが有るので完全には話が合わない所も有るだろうが。
その他の艦娘も大体似たり寄ったりの光景であった、和気あいあいと話が進む。
鳥海「提督達が待っています、お話は司令部内でゆっくりと。」
鳥海の催促により、ハーン達は司令部の門をくぐった。
大きな桜の木や、昔ながらの赤レンガの建物、そして「慢心、ダメ、絶対」と書かれた奇妙なクレーンを見ながら司令部へと入っていった。
長い廊下を通って食堂へ来れば、そこには和洋中、主にフランス料理(ハーン達から見ればエルジア料理)をメインとしたバイキング形式の食事が用意されていた。
鳳翔「皆さんこんにちは。空母達の教育と、この泊地に所属する艦娘達の料理を担当する航空母艦の鳳翔です。提督達から貴女方の出身がフランスに近いと聞き、フランス料理をメインとして御用意いたしました。」
アロンソ「す、すげぇ。我が祖国でもこんな料理、中々お目に掛からないぞ………………。」
ドミトリー「高い完成度だな、作り手の腕が非常に高い証拠だ。」
鳳翔「おかわりも有りますから、楽しんでくださいね。」
そしてエドワードが音頭を取り、ドンチャン騒ぎの歓迎会が行われた。特にハーンの周りが賑やかであった、何しろ人類側と初めて接触した艦であり、異世界から来た艦でもあり、そして仲間の大井を救ったのだから注目が集まる筈である。駆逐艦の艦娘から質問攻めに合っていた。
雪風「エルジアってどんな国なんですか?!」
ハーン「どんなって、ちょっと表現しずらいけど発展している所よ。王国時代の大きな宮殿だってあるわ。」
磯風「フランスと同じミサイルを使っていると聞いたが、本当か?」
ハーン「フランスって何よ?」
潮「初めて見て思った事なんですが、貴女ってひょっとして軽巡洋艦だったりしますか?」
ハーン「あー…………、私の時代にはもう軽巡って言う艦種は無いのよ。巡洋艦で括られてるわね、私は駆逐艦だけど。」
この様な感じでハーンは質問を捌いていた、聖徳太子並みである。その光景をジョルジュやタムは微笑ましく眺めるのであった。
ジョルジュ「いやぁ、彼女等が戦争してるって思えねぇよなぁ。」
タム「全くだ、まだ年端も行かないガキだぜ。うちの国でもそんな事無いって言うのによ。」
ジョルジュ「この世界の常識と言うか、摂理と言うか。なんか可笑しいんだよなぁ。」
そう会話を交わしながら、二人はシャンパンに舌鼓を打っていた。そしてまた来るであろう深海側との戦いについて考えを巡らせていった。各艦艇艦長達はハーンの戦闘データを閲覧し、幾つか不安要素が出てきたのに頭を痛めた。
ハープーンと市場を競いあった自慢のエグゾゼが、敵艦にさほど効果を表していない。
ハーンが受けた20cm砲の威力。
早急に対艦ミサイルの威力を上げるか、空母航空団に戦場を任せるしかこの世界では生き残る術は無いのではと思ってきたのである。
ジョルジュ「辛い戦いになるぜこれ。」
タム「あぁ、全くだな。」
艦長達の不安を他所に、歓迎会はさらに続くのであった。
その頃東京の連合艦隊司令部は大混乱に陥っていた。
突如現れたエルジア海軍を名乗る現代艦艇、主にキティホーク級(ジオフォンを勘違い)とカサール級(ハーン達を勘違い)、そして艦娘が現れる前に戦没したはたかぜ型護衛艦(ベルガ達巡洋艦)の存在が異色すぎて混乱したのだ。
ショートランド泊地の司令官が錯乱したのでは?との話も出たが、彼女が送り付けた写真には合成の跡は無く真実だと受け止めざるをえなかった。まぁそれが混乱に拍車を掛けるのであるのだが。
何故お前らがそこにいる?と写真に話し掛ける者まで続出し、連合艦隊司令長官は軍令部や海軍大臣も呼んで緊急の会議を開く事になった。
??「全く、世の中奇妙な事ばかり起こるものですな。」
??「私もそう思う、未だに写真が本物なのか理解できんよ。」
そう連合艦隊参謀長の梅津少将は、軍令部次官の冬月少将に愚痴を漏らした。人生50年以上も生きて、こんな事が起こるものかと。その二人の会話の途中で、それぞれの上司が会議室に入室してきた。
連合艦隊司令長官沖田大将、軍令部総長土方大将、海軍大臣赤垣大将と言う豪華な面構えである。日本海軍の大将には他に海軍護衛艦隊、支那方面艦隊等が居るが割愛する。
赤垣「早速だが、南東方面の国籍不明艦隊についての会議を始める。」
赤垣の入室しての第一声がこれであった。それ程までにこのエイギル艦隊はイレギュラーとして映っていたのである。
沖田「私としては、早く駒として受け入れたいのだがね。どうだね?ショートランド泊地に籍を入れると言っとるんだぞ。」
土方「そうは言うがな沖田、些か話が上手すぎではないか?彼等は既存艦艇を大きく上回る戦力を保持しとるんだぞ?普通はもっと引っ張ってくる物だと思うがな。」
梅津「それは大分穿ち過ぎではありますまいか?まぁ、ショートランドを預かる長瀬少将の性格上疑わしいとは思いますが。」
冬月「仮に受け入れたとして、外国は何と言って来ます事やら。アメリカ、中国から派遣を要請される可能性もありますし、カサール級が居るからとフランスやEUからも何らかの要請が来る可能性もありますな。」
赤垣「そこは外交屋の能力次第だろうよ。まぁ今危機的状況に陥っているアメリカやフランスが何か言って来るのもわからなくも無いがな。肯定はしたくはないが。」
土方「軍令部としては、彼等が消費する物資の量を把握しておきたい所ですな。先ずそこから一歩を踏み出さねば。」
沖田「連合艦隊としては国籍不明艦隊に演習を頼むのがよろしいかと思われます。いざと言うときに対処出来る戦術等も組めるでしょう。」
そのいざと言う時とは、エイギル艦隊が反乱を起こす可能性と、今後新たな深海棲艦が出現した時の対処も含まれている。言外で沖田はこの場に居る物達へ忠告するのだった。
そして結果は、先ず演習を行え話はそれからだとショートランドに通告するのであった。