黒1「黒1よりジオフォンCICへ、定時連絡、異常なし。」航空管制官「了解、そのままの飛行経路を維持せよ。」
黒1「ウィルコ。」
ソロモン諸島上空を、一機のS-3Bヴァイキングが飛行していた。垂直尾翼に描かれている国籍マークはアメリカ海軍の物ではなく、正十角形の中に七つの星が描かれている。
エルジア海軍第187海上制圧飛行隊『カナリーノ』は、日本に対する協力関係強化の為に対潜対艦哨戒を買って出ていたのである。
黒1機長「綺麗な海だ、とても戦争が行われて居るとは思えん。」
そうしみじみと黒1の機長は呟いた、この光景を見るのは子供の時に連れてって貰ったコモナ諸島以来だ。
戦争で死んだ上に、こうして異世界に連れ込まれた。もう二度とコモナ諸島には行けないだろうと思うと、とても寂しく感じたのだった。
副操縦士「平和な物ですね、機長。」
隣の副操縦士は機長の気持ちなんて知る訳もない、ただのんびりとありのままの感想を述べた。
故郷を思う気持ちが無いのか、それとも敢えて考えないようにしているのか。機長は色々考えてこれ以上は何も言わなかった。
レーダー手「機長、もうすぐニュージョージア島上空です。」
黒1機長「よし、全員気を張れよ。これより敵勢力圏に突入だ!!」
S-3Bヴァイキングは加速して行き、そして時速800kmを超えていった。WW2時のプロペラ機では追い付けないようなスピードである、まぁジェット機なので当然ではあるが。
ニュージョージア島には深海棲艦の前哨基地が設置されていた。
集積地棲姫(弱)が指揮官を務めるこの基地は、簡易的な補給設備の他には輸送艦ワ級と潜水艦カ級が数隻と、PT小鬼群が数群居るだけであった。
付近の人類側の艦船を襲撃する為に配備されているのだが、船舶の往来が少なくなって来た為に殆ど暇であった。
深海レーダー手「フアァァ~……………、暇だ。」
沿岸レーダーの操作員は、移り変わりのしないレーダースクリーンをつまらなそうに眺めていた。
敵が来ないよう警戒するべきではあるが、そう理解していても暇なのは暇なのである。
何か起こらない物かと考えて居たところ、スクリーンに一つの光点が浮かび上がった。
深海レーダー手「ン、何ダコレ?」
一瞬チラッと映った光点は、数秒後には何事もなく消えていた。なんだ、見間違いでもしたかとレーダー手は首を傾げる。
まさか何事かの兆候なのではないかと思ったが、何度見てもスクリーンは何も写さなかったので。幻覚だったのだろう。
レーダー手は滅相も無い事を考えるべき出はないなと考えた後、またボケっとしながらスクリーンを眺めるのであった。
もし彼女がちゃんとこの事を上司に伝えていたら、後で後悔する事も無かっただろう。
航海長「艦長、後少しで目標地点に到着します。」
レーダー手「レーダーから見て、目標に変化は有りません。」
船務長「無線も何も変化は有りません、呑気な物です。」
薄暗いCICで、士官達は淡々と結果を報告してくる。ミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦よりも遥かに大きいCICにて、艦隊司令長官、参謀長、艦長、参謀達は静かに佇んでいた。
参謀長「我が軍のジャミングは効果抜群ですな、長官。」
隣の司令長官へ自信ありげに呟いたのは、参謀長であるグレープ・アルマゾフ少将である。
彼女は参謀時代に崩壊しかけた一個地方艦隊を、優秀な手腕で瞬く間に再建させたことがある艦隊運用の天才である。
主席参謀「相手の技術力は1940年代ですよ、ジャミングできて当たり前かと。」
そう冷たく言ったのは主席参謀であるサミュエル・プラン大佐である。彼女の作戦は切れ味が鋭い事で国内外で有名であり、クールな印象が彼を引き立たせる。
司令長官「まぁ主席参謀、良いではないか。手間が省けると言うものだ。」
のほほんと優雅に発言するのは、エルジア海軍の上級中将にしてエイギル艦隊司令長官のシャルル・クレマンソーだ。エルジア海軍の顔であり、世界に名だたるエイギル艦隊の長は、大胆不敵に笑う。
シャルル「艦長、何時ものアレ。出来るかね?」
艦長「勿論ですとも長官。この姿になろうとも、皆腕は落ちてはおりません。」
ハイライトの無い半眼のせいで、陰湿そうな雰囲気をもつ人物は、この艦の砲雷長と船務長、艦娘へ静かに命令を下す。
船務長「左舷バラスト注水、現在傾斜角5度。」
砲術長「砲仰角45度、弾種SHS装填完了。トマホーク巡航ミサイル緒元入力完了。艦長、射撃準備完了しました。」
報告を受け取った艦長は満足げに頷き、アイコンタクトでシャルルに許可を求める。勿論彼女も頷いて、許可を下した。
艦長はポケットからロザリオを取り出した、恐らく相当な信者なんだろう。
艦長「では諸君、憐れなる迷子達へ慈悲深き救済を与えてあげようではないか。」
艦長は仰々しくロザリオで十字切り、この艦の乗組員へ教会の神父の様に語りかけた。その言葉を聞いて彼女達は、獰猛な狼の様に笑みを浮かべる。
今まさに羊達に食らい付く狼は、天地を揺るがす咆哮を上げ、406mmの牙で集積地棲姫をズタズタに引き裂くのだった。
深海レーダー手「ハアァ、後数分デ交代カ。ヤットダナ。」
相変わらずレーダー手は、交代の事以外は何も考えて居なかった。これから行われるであろう惨劇なんて、予知できる筈もないだろう。
深海見張り員「ジャ、私ハ先ニ上ガルカラ。」
深海レーダー手「オツカレー。」
同僚が先に退出するのを、彼女はスクリーンを中止しながら挨拶を返した。さて後数分、本気出して頑張りますかと考えたとき、特急列車の様な飛翔音が室内に響き渡った。
深海レーダー手「ナンダ、ナニガ起コッテ居ルンダ?!」
レーダー手は何もできずに驚くことしか出来ない、そして大きな衝撃が室内を襲い、レーダー手の意識は暗くなって行った。
基地要員1「ホ、砲撃ダ!!艦娘ノ攻撃ダ!!」
基地要員2「速ク輸送艦ヲ出セ、ヤラレルゾ!!」
レーダー手が気絶している時、集積地は蜂の巣をつついた様な大混乱に陥っていた。完全なる奇襲である、対応が後手後手となり、至るところで爆発と火災の嵐が巻き起こった。
集積地棲姫「レーダーハドウシタ!!何ヲヤッテイタ?!」
基地要員3「レーダー所カラ応答ガ有リマセン、完全ニヤラレマシタ!!」
集積地棲姫「クソオォォォ!!」
指揮所にて集積地棲姫は猛り狂った、今は無き我が軍のレーダーに恨みをぶつける。こうしている間に、状況はさらに悪化していく事となる。
基地要員2「ナンダ?!ナニカ突ッ込ンデ来ルゾ!!」
基地要員3「アァ!!彼処ニハ燃料庫ガ!!」
トマホーク巡航ミサイルが燃料庫に着弾。GPSや確実な情報が無いために多数のミサイルを撃ち込む羽目になったが、そのお陰で燃料庫周囲にあった施設も巻き添えをくらう。
集積地棲姫「オイ、消防車ハドウシタ?!」
基地要員3「今頃ブッ飛ンデアノ世行キデスヨ!!」
集積地棲姫「クソ、クソ、クソガアァァ?!」
集積地棲姫が質問は、粗方悪いように帰ってくる。手詰まりでどうしようもない結果に、集積地棲姫は発狂するしかない。
その狂乱に追い討ちを掛ける様に、この騒動の犯人が近付いて来た。港湾から望遠鏡で覗いても見える距離だ。
基地要員4「オイ?!アレッテ戦艦棲姫ジャナイカ?!」
基地要員5「ソンナ訳ナイダロ!!艦娘側ノIowa級ニ決マッテ居ルダロウガ!!」
基地要員6「モウダメダ…………、オシマイダ………………。」
相手が戦艦だった事を知り、基地要員達は絶望に陥れられる。勝てる訳がない、戦う手段なんて何処にもないのだ。そして必然的に。
基地要員3「タ、助ケテクレ!死ニタクネェ!!」
基地要員5「コ、ココカラ逃ゲルンダ、急ゲェ!!」
あちこちで持ち場を離れる者が続出し、ここから逃亡を図ろうとする者が出てきた。集積地棲姫ですら彼女らを止めることは出来ないだろう。
しかしこの島はとても小さく、逃げ込める場所など無いのである。
狩人は406mm三連装主砲を敵前逃亡者達へ向け、そして無慈悲に薙ぎ払ったのであった。
もうここには港としての面影は無く、辺り一面灼熱の地獄へと化す事となったのだ。
黒1「何だ、前方から巨大な煙が立ってるぞ?!」
黒1は目標を目の前にして、大きな爆煙が立った事に驚いた。まるで火薬庫が爆発したかのような、何と表現すれば良いのか解らない光景だ。
レーダー手「機長、レーダーがホワイトアウト!ジャミングを受けています!!」
黒1「な、何だって?!」
黒1はレーダー手からの報告に驚愕した。何故レーダーがホワイトアウトしたのか?我が軍のレーダーはWW2程度の技術力ではECM戦なんて困難な筈なのに!!
航法手「き、機長!!あれを見てください!!」
副操縦士「な、何だと?!何であの戦艦が此処に居やがる?!」
航法手が海面を見るよう指示し、副操縦士がその場に居た戦艦に驚愕した。黒1は慌てて海面を見ると、そこにはこの騒動の犯人が浮かんで居るのが確認された。
黒1「お、オイオイ……………、まさか再び見ることになるとはな………………。
我らが旗艦、戦艦タナガーじゃねえか!!