まさか私の総武校生活はまちがっているのか!?   作:ばなナイン

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2年F組....俺がこの教室に滑り込む時間は変わらない。十条さんが合わせてくれたのかどうかは知らん。

 

「うす」

「おう」

 

....これが十条さんと三浦あーしさんとの朝の挨拶。席が隣である以上完全な無視状態とはならず平和裏に共存している。もともとあーしさんもハッキリとものを言うタイプには敵意はあっても悪意までは持たないので十条さんをむしろ対等な相手と見なしてるようだ。それにこのクラスには川....何某(なにがし)さん、という先輩もおられる事だしな。そして俺には....

 

「おはよー! はちまん!!」

「お・・・・うす・・・・」

 

・・・・我が早朝の一服の清涼剤、戸塚様の笑顔と挨拶が待ってくれている....

 

 

「十条さーん! これお願いできるー?」

「おう!」

「ねー放課後なんか食べにいこー!」

「すまない! 部長を任されてしまったんだ。暇な時にな」

「じゃ今度一緒にチョコミントアイスねー!」

「心得た!!」

 

クラスにおける十条さんの立ち位置は『無骨だけど素直で義理堅い』となっている。ここに編入して一ヶ月、正式に転入して一週間ぐらいには十条さんのクラス内の人脈は広まっていた。編入初日、あの三浦あーしさんと堂々と張り合う姿に、このクラスの女子達の印象はむしろ好意的、且つ憧れまで持たれていたようだ。衛藤曰く、『無愛想なのに不思議と放おっておかれず、いつのまにかに仲間が出来てしまう』人格でもあるそうだ。俺といえば相変わらず....勝手にボッチの同志だと思っていたのに情けない....

 

 

「・・・・その、行こうか」

「おう」

 

昼食時、俺と十条さんは奉仕部部室へと移る。部長の権限で昼食場所を駐輪場側から強制的に移動させられたのだ。教室から出るとき若干由比ヶ浜の目がシラっ....としているが。じゃ衛藤も入れて三人でか? というと....

 

「今日は来ないようだな....」

「ンだな....」

 

・・・・二人で食べる日の方が多いな....しかも弁当は二人分! 十条さんが早起きして(衛藤のを含めて....)三人分用意してくれているのだ! コンな日常がこの俺の人生に訪れるとは....! 夢で無いのは小町に何度も頬を抓られ続けられて実証済みだがな....

 

「なかなかコーヒーと練乳と卵の配分が巧くいかないんだ」

「コーヒーの粉も一寸の量で焦げ臭くなるんだな....」

「インスタントとはいえ元は焙煎した物だ。焦げているという事実には逆らえん」

「なるほど....『千葉における練乳コーヒー卵焼きソウルフード計画』までにはまだまだハードルが高いんだな....」

「まかせておけ! ハードルが高いほど乗り越え甲斐があるものだ!」

 

食事中にはこのように調理実証研究会も兼ねて日々意見交換を交わしている。目指すはこれまた

千葉のソウルドリンク『M△Xコーヒー』を卵焼きで再現することにある! その為には十条さんに

是非ともアノ味を体感して貰わねば! と以前□AXコーヒーを勧めてみたのだが....

 

『ウ・・・・・・・・おう・・・・可奈美、飲んでみるか....』

『んー? うん、・・・・・・・・・・・・ウゲ・・・・どうしようコレ・・・・』

『・・・・俺、残り飲むわ』

 

・・・・受け取って缶の飲み口に若干の躊躇を覚えたが....捨ててしまうのは俺の良心が許さ無い! 思い切って一気に飲み干した!のだが....その時の二人の反応は・・・・

 

『ウゲ・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・』

 

・・・・さて、どう解釈したらいいのか?? 二つの説明が可能だがどちらか一方か或いは両方か....いずれにせよこの二人がこの缶コーヒーを味わう事は二度とはあるまい・・・・人生半分以上損してるぞ!!

 

 

「そういえば比企....谷君、君は高校卒業後の進路というものを明確に想像しているものなのか?」

 

ふと十条さんが俺に俺の進路について問い尋ねた。高校卒業後? まあそうだな....もう高二の冬だし、進路希望の紙切れを渡されるのはまだ先だとしても、そろそろ進学先について考慮をせにゃならん時期に来ているのかも知れん。

 

「....高校を卒業してからか?....まあ普通に大学へ進学するぐらいしかイメージできんわな」

 

「大学か....大学での専攻は? 理系か? 文系か?」

「俺か? まあ俺は『数字関係科目』は壊滅的だからな....受験以前にここを卒業できるのか

どうかも悩ましいまである」

「そうか....では必然的に文系に進むのだな。そうだな....君の事だから教育関係にでも....」

「....へ? オレが教育関係?? ナンで??」

「ん? 違うのか?」

「いや....そんな事言われたの初めてだわ....」

「そうなのか? 比企....谷君にはぴったりだと思ったのだがな」

 

そうなのか?? 俺が教育に? ....まあ教育関係の仕事だとしても必ずしも教壇に立つ仕事ばかりではない。俺の家の本棚には親父の趣味なのか社会学関係の書物が並べ立てられているし、十条さんはあの本棚を見てそう思ったのか?....まあ確かに俺も少し計りそれらの本を齧ってはいる。しかし社会学と教育学とでは傾向も違うものだろうし....

 

「十条さんはどうなんだ? わざわざこの高校に編入したとはいえ元は剣術家の家系なんだろう? やはりここを卒業した後は鎌倉に戻って刀使の後進に当たるとか....」

 

「それは可奈美の仕事だな....ああ見えてもあいつの方が明確な進路を描いている。それに根っからの剣術馬鹿でもあるし」

 

おう....以外だな。あの衛藤がもう自分の将来をしっかりと見据えているとは。まあその道にしか歩めない愚直さ、というものを持ち合わせているものなのかも知れん。でも十条さんも愚直さと真剣さでは衛藤以上な感じがあるのだが....

 

「私が剣術を学んだのは明確な目的があったからだ。そしてそれは二年前に果たされた。鎌倉の事は後輩達に任せて私は普通の進路を歩もうとしてこの総武高に編入して来たんだ。でも....ここに来ても、普通という事が今一つよく分からないんだ....」

 

二年前....そういえば鎌倉、東京での『あの出来事』も二年が経とうとしている。十条さんの

個人的な目的と『あの事件』の発生と収束の時期が一致する....というのは何かの偶然なのか?

あるいは....いや、今更俺がそんなことを問うても何もなるまい....衛藤、十条さんにとってこの 

高校は、これまでの激務に休息を与える場所でもあり、また十条さんにとっては今後の進路に

ついて塾考するべき機会を与えられている所でもあるはずだ。そして、この『奉仕部』という

場所も....平塚先生がこの奉仕部の部長に十条さんを据えた理由、何となく俺にも理解が(およ)んで

くるような気もする....

そうか、『普通』か....十条さんがこの奉仕部へ来た頃にもそんな事言っていたな。 

『今一つよく分からない』と....

 

 

 

 

 

 

「おはよーですぅー!」

 

毎度こんなのも顔を出してくる....まあ真面目な話からは一息ついて、この連絡係様のお相手でもいたしますかね?

 

「一色さんか....昼は生徒会室でミーティングじゃ無いのか?」

「部長〜! そうそう毎日じゃないですよー! わたしにも自由に昼食を食べる権利があるんです〜!」

「一色、部員で無いお前にここで食べる権利はない」

「いーじゃないですかー! 仮にもわたしはここと生徒会の連絡係ですよぉ〜! 渡り歩く権利はあるはずです〜!」

 

昼食渡り鳥....居場所がないのかこの後輩? なるほど....少しは憐れみを掛けてやるのも奉仕部としての務めか。

 

「はあ、わかった一色さん。比企....谷君、お茶を....」

「おお....」

「ハイ! 話の早いせんぱい方でヨロシイです! テヘ☆!」

 

・・・・コイツも十条さんに懐いてるクチだな。弁当食いながらもペラペラと口が止まらない....そういや衛藤は? 生徒会でのミーティングが無いときは一緒じゃ無いのか?

 

「可奈美ちゃんクラス以外の女子たちからも引っ張りだこなんですよ〜! なんかグループ同士でローテーションが組まれてるそうなんです〜!!」

 

「・・・・はあ....あいつは鎌倉でも他校の生徒から慕われていたからな....」

 

・・・・俺の周囲の狭い世間では思いもよらない人脈作りの才能だな....もっともこの二人は意識してそのように振舞っているんじゃないだろうが....もはや葉山レベルにも匹敵しているぞ。

 

 

 

 

 

《コンコン!》

 

「どうぞ!」

 

「・・・・ちょっといいかな?」

 

「・・・・おい」

「葉....山君か」

「あーやっはろ〜!!」

 

放課後の奉仕部活動も終り頃、葉山が部室に訪れた。衛藤....お前のソレは奉仕部員二代目アホの()襲名時に先代から踏襲した挨拶とでもいうのか?

 

「....葉山....君、めずらしいな。依頼か?」

「無いなら帰れ」

「えー? お茶ぐらい淹れようよー!」

「はは! ....ちょっとした近況観察さ」

「なんだそれ....」

 

ただの暇潰しか? まあこちらも暇だから邪険にする事もない。さて雪ノ下直伝の紅茶の腕前を披露しますかね....

 

「・・・・ん。美味しいな。雪ノ下さんが淹れたみたいだ」

「・・・・お前....雪ノ下の紅茶飲んだ事あったか?」

「ん! ....いや....前に相談事を持ち掛けに来た時にさ! はは!」

「じゃ! センパイおかわりー!」

「可奈美! そのぐらい自分で....!」

「おう! 俺の数少ない仕事だ。得と飲みやがれ!」

「やったー!」

「ははは!」

 

葉山の奴この様子に軽快に笑いやがった。まあ確かに微笑ましい日常の一幕に見えない事もないな....? それに....俺の記憶では少なくとも俺の目の前では雪ノ下は葉山に紅茶を差し出している姿は見当たらない。まあどおでもいいことだけどな。

 

「その、雪ノ下さんの事もな。生徒会での様子も気になってたんでね」

「直接生徒会には顔を出さないのか?」

「用も無いのに生徒会にはね。結衣と他の役員とも上手くやっているのかな、と思ったのさ」

「副会長は会長と今日も駅前の施設で打合せだそうだ。他校との合同で何か催しを企画するらしい」

 

葉山と十条さんの受け答えで他校、海浜総合高校との合同イベントの事が話題に上がった。別に隠す程の事でも無いが。

 

「へえ! そんな事まで! ....彼女行動範囲が広まったな....」

 

「ん?」

 

「....いや! 何でも無い。じゃ! おいとまするよ。お茶、美味かったな」

 

「左様で」

「行っちゃうのー? じゃーねー!」

「お、おう。さよなら....で、葉山....君は何しに来たんだ?」

「俺も知らん」

 

 

夕日に照らされていたこの教室にも翳りが訪れてきた....そろそろ帰宅して夕食の用意だな....

 

 

 

 

 

 

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