まさか私の総武校生活はまちがっているのか!? 作:ばなナイン
「うす」「失礼する、すまん、少々遅れた」
「ヒッキー! ひよりん! おっそ〜い!!」
「あら、二人揃って重役出勤とは随分出世したものね。十条取締役さんに秘書ヶ谷君?」
「....るせー、一寸ばかり平塚先生に呼び出されていただけだ」
「お、おう! 私も一緒にだ! その....授業に遅刻したものでな! 私が悪いのだが....」
HR後、生徒指導室に呼び出された俺達はタバコの煙のまみえる密室で平塚先生から私怨に満ちた有難いお説教とまたも『撲滅のサードブリッド!!』を喰らわされ(オレ限定....)さらにこの歳に至るまで独身であり続けた『一身上の都合....』と過去何十敗という合コンの結果を涙乍らに愚痴られることとなる....一緒に聞かされていた十条さんまで我が身を顧みさせる程の演説になにも他校の生徒にまで....と同情を禁じ得ず解放後共に溜息を付きながらここへ来たのだ....
「....ひよりんとヒッキー....なかよく遅刻してたし....」
「は?」「おい....」
「! ちちちち違うし!! 仲いいことはいいことだしっ!!」
「実篤か....お前が誤解する様な事は何も無いから心配するな。十条さんはこの通り無事だ。むしろ何も無いだけ物足りないまである」
「....お! そ、そうだ! ただ二人で昼食を食べて卵焼きの感想を聞いて明日の弁当の参考にしようとしたまでだ! なんら疚しき事なんてない!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そ、そう....なの....その、よかったわね....比企谷君....」
「....あ、あ....明日はわたしのママの卵焼きの感想も聞くしっ!!」
....なにを張り合っているんだ由比ヶ浜....しかし十条さん....勢い余ってなんてコトを....雪ノ下まで皮肉を通り越して唖然としているぞ....
「....そういやあの衛藤って子は? まだじゃないか。重役の俺たちより遅れるとは大した大物なんじゃないのか? ん?」
「そ、そうだし! かなみんおそいねー! しんぱいだねー!!」
由比ヶ浜め....なんとかこの話題から話を逸らそうとして旨く乗ったな....
《コンコン!》
「どうぞ....」
「邪魔するぞ! 雪ノ下、由比ヶ浜、おう....翔んだエスケープカップルもだな....!」
「先生、あえて誤解を振りまこうとしてません??」
「まあいい! 三人とも入り給え!」
「こんにちは〜! 雪ノ下さん!」
「これは....城廻会長、どうしたんです?」
「入って入って! 二人とも!」
「失礼しまーす....こんにちはです!」
我が奉仕部顧問の平塚女史が生徒会長の城廻先輩と二名の女子を連れて部室に現れた。ん....? そのうちの一人、こいつは....こんな眼つきの俺にまでニコッとした笑顔を絶やさんとは....これもまた既に完成され尽くした『あざとさ』の典型顔だな。雪ノ下姉とはまたベクトルが違うが....こんな子が何故城廻先輩と一緒にこの奉仕部へ....?
「あ! いろはちゃんだ! ヤッハロー!!」
「ああ! 結衣先輩! やっはろーです!!」
「うん! こんちわー! みんな!!」
「可奈美! 遅いぞ! 何してた!」
「ごめーん! ちょっといろはちゃんの相談に乗ってたの!!」
....ん? この一年と由比ヶ浜、顔見知りか? ああ、葉山に会いに二年の俺のクラスにまで通っている一年とはこいつか。さらに衛藤まで....しかもこの一年と同じクラス....少々『お約束』が過ぎると思われるが....
「これで揃ったな、では本題に入る!」
「....つまり、この一色さんを当選させない、という事ですね? 城廻会長」
「そーなんですー! 私の知らないところで勝手に生徒会長に立候補させられちゃってー! そしたら立候補の取り下げも出来ないてゆーじゃないですかー? わたし困っちゃって〜! そしたら平塚先生がここ紹介してくれてここに来たら結衣先輩までいるじゃないですかー! わたし心づよいです〜!!」
一色いろは....この一年が今回の依頼人。生徒会長に立候補したはいいが途中で気が変わって当選させないで欲しいという虫のいい依頼かと思いきや....こんな事もあるんだな。この仕草、喋り方....異性には受けが良いだろうが女子共には....成る程。しかし由比ヶ浜に頼り甲斐を求めている点でもう既に重大な手違いを犯しているんだが....まあここでも『総選挙』でセンターが決るのは同じだな。知人が勝手にオーディションに応募し結果トップアイドルになった例は枚挙にいとまが無いらしいしそのままトップでも取っとけ....!
「そーなの! 生徒会の手違いで当人からじゃなく推薦人の誰かから立候補届を受け取っちゃったの! ちゃんと確認しなかった私達が悪いの!! 一色さん御免なさい!!」
「いったいなんで?? いろはちゃん出たくないって言ってんのにどうして断れないの??」
「これも規則というものか....私達の所属する管理局でもある程度の融通も効くというのにここは民間校だろ? 立候補を取り下げる事もできないのか?」
「前例が無いという事ですね。この様な事例の対処の方法は生徒会規律には載せてはいないとのことですから....」
「これは嫌がらせからだろ? つまりこの立候補届を出した奴はこのことを知った上で提出したんだ。しかし三十人分の推薦名簿とは....」
「わーすごいねー! いろはちゃん人気者だー!!」
「おい可奈美!....すまん! こいつ悪気はないのだが....」
「??」
「あはは....ハイです....」
一色というこの後輩、困った様な顔をしてるが....例の笑顔は持続しているな。皮肉だがこれもこの後輩がこんな目にあっている理由のひとつかも知らん。
「....おい! 可奈美! この名簿にはお前の名前まで載ってるぞ!」
「えー? なに? あーこの紙....そういやこのクラスに入って休み時間の時『仲良くしよ!』てここに名前かいて! て言われたっけ! あはは....」
「不審に思わなかったのか!」
「えーと....普通の高校じゃこれが当たり前だと思って....ゴメンねいろはちゃん....」
「えー? いいのいいの〜! 知らなかったんでしょー? じゃあチャラ!!」
「ほんとー? よかったー!!」
「「「イェーイッ!!!」」」パンパンパン!!!
....由比ヶ浜まで....雪ノ下も十条さんも呆れてるぞ。
「城廻会長、これには他にも事情を知らない人が名前を書き込んでいる可能性がありますね。無効という事にはなりませんか?」
「どちらにしても立候補者は一色さん一人だけなの〜! 生徒会の顧問の*♯先生も他に立候補者がいないなら一色さんで通すつもりみたいだし〜! 平塚先生どうしよ〜!!」
「私は生徒指導だからな。これ以上の事はしてやれん」
「....誰かに対立候補として会長に立候補をしてくれる人を探すしかありませんね。誰か心当たりは....」
俺もだが....一斉に発言者の雪ノ下の方に視線が向いた....ここに来て間もない十条さんや衛藤も....
「....私は....ここの部長ですもの....ここを離れるわけには....」
雪ノ下....何と無くもどかしさを感じるな。本心までは分からないが少なくとも俺とこの城廻先輩と平塚先生なら雪ノ下の実力を知っているから会長候補として立候補をしても何ら不自然では無い。だが雪ノ下が会長になってしまったらこの奉仕部は....
「ゆきのんが会長になったらこの奉仕部はどうなるの!?」
「そんなことは....でも、もしかしたら....なのだけれども....両立も可能では....ないかしら....?」
「雪ノ下、言っては何だが生徒会はそんな甘いものじゃ無い。お前が会長になったらこの部は比企谷か由比ヶ浜に部長を譲ることになるな....」
「そんな....! ゆきのんと離れるなんてヤだし!!」
「私は! まだ....立候補なんて....」
「・・・・どうだろう! この私が会長に立候補するのは....!!」
「・・・・はっ!? おい十条! ....さん!?」
なんだいきなり!? まさかの十条さんの生徒会会長の立候補宣言....!! それに貴女は....!
「えーと・・・・どちらさんですかー? さっきからウチのともかなみちゃんとも制服が違うなーて思ってたんですけどー?」
そう、短期転入生の十条さんと衛藤はそれぞれの学校、平城学館と美濃関学院の制服を着てさらに腰には御刀を装備して総武に通っている。一色からすれば初対面で制服も違う十条さんから突然生徒会長への立候補を表明されても寝耳に水だろう。俺たちもだが。
「そのことは置いといて・・・・十条さん....貴女は短期転入生なのよ? もう一月もここに居られないのよ? なのに立候補だなんて....!」
「簡単だ! ここに正式に転入すればいい!!」
「へ!? 姫和ちゃん!?」
「平塚先生! ここへの転入試験! 受付はどこです!!」
「....まて十条!....今すぐという訳にはいかん! 少なくともお前の学校にも話を通してだな!
....選挙の日までには間に合わん....」
「そうか....しかしこの学校での比企....谷君の扱いといいこの一色....さんへの仕打ちといい....
一体どうなっているんだ!! これが普通の高校の在り方とでもいうのか!?」
....またも義憤を発してしまった....この十条さん....真っ正直だな....
「でも姫和ちゃん転入しないんでしょ? も〜姫和ちゃん! またまた〜!!」
「いや! 転入する! 会長は無理でもここ奉仕部でのサポートをするつもりだ!!」
「ひよりちゃん!?!」
十条さんの生徒会への立候補は現実的ではないので即却下となるのは致し方ないが、この十条さんの発言が雪ノ下にどう届いたか....この日の奉仕部での会合では結論が出ず、明日へと持ち越しとなり、今後の対応のため雪ノ下と由比ヶ浜は城廻先輩、一色、平塚先生と共に生徒会室に向かって行った。部室に残されたのは俺と衛藤、十条さん。しかし....
「....ほんとにここへ転入するつもりか?」
「ああ....実はここにくる前から考えていた。高二ぐらいには伍箇伝校から離れて普通の高校に通おうかなと....平城学館に入ったのも自分勝手な理由だったし本来の目的も達成した。私の刀使の能力もおそらく持ってあと一年だろう....普通に憧れていたんだろうな。尤も私が平城に転入したのも中二の時だがな」
「姫和ちゃん....刀使も辞めちゃうの?」
「わからん。平城を辞めて御刀を返上しろと言われたらこの小烏丸も管理局に返納だ。短い付き合いだったな....」
十条さんが刀を取って慈しむ様に眺めている。刀使の女子にとって御刀とは十代の半分をも共に過す伴侶みたいなものなのかも知れん。そして十条さんは自らその伴侶を手放そうとしているのか....まさか先の指導室での『感涙の大弁舌!』からの影響じゃないだろうな?
「姫和ちゃんがここに来るなら....わたしもここに来る! いいでしょ!?姫和ちゃん!!」
「何を言う!! お前はまだ現役でしかも祭祀機動隊の要だ! 引退間近の私とは違う! 甘えた事を言うな!!」
「....でも、ヤダっ!! わたしも一緒にここにいた〜い〜!!」
衛藤が涙目で十条さんにしがみ付く....ああ、由比ヶ浜と雪ノ下の幻覚が....
「....たく!....お前がこの総武高の転入試験に通ればの話ならな。お前が高校に進学出来たのも美濃関が中高一貫校だったからじゃないのか?」
「ひどーい!! 姫和ちゃんだって同じなのにー!!」