迷宮の都市のアリス   作:RyujiOturu

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どうも、ニャラルトです。
ええーとですね。私事ではございますが少々更新のインターバルが長くなるかも知れないのです。いろいろと事情がありまして。いや悪いことでは無いんですけどね。

この頃誤字を勝手に直してくれる機能があることを私は知りました。今までの私の苦労(?)はなんだったの......

さて、これにて原作三巻が終わりになります。未だに拙いものですが楽しめていただけたらありがたいです。
では、本編をどうぞ!


ベルさんがトラウマと対峙する御話

 太陽が昇る前に起きた私はつい先日奮発して買った卵をホクホク顔で焼く、玉子焼き用のフライパンは無かったので目玉焼きを作る。

 ジュージューと音を立てて焼ける卵のいい臭いに吊られたのか、ベルさんとヘスティア様が起きる。

 

「おはようございます、ヘスティア様、ベルさん」

 

「「ふぁ~おはよう」」

 

 目元を擦りながら欠伸をあげ、テーブルにつく二人にとりあえずパンを出しておく。目玉焼きはとりあえず二人分だけ作り皿にのせてベルさん達の前に置く。

 熱々の目玉焼きを初めて見たのか戸惑っているベルさんとヘスティア様にとりあえず黄身を割って、そこにパンをつけて食べてもらう。

 醤油? 買ってませんが何か? 高いんですよ! 醤油は! だから白身は塩コショウでしか味付けをしていない。まあ、目玉焼きはそのままでも美味しいからね! ダイジョーブの精神で行こう。お金は正直『神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)』の借金返済で稼ぐお金は七割近く持っていかれる。

 左目を負傷した今では迷宮(ダンジョン)にソロで潜るのも何かあれば危険なので止めている。ランクアップを果たしているとは言え、下手すれば死ぬのが迷宮(ダンジョン)だ。

 さすがに死ぬのは嫌なのでおとなしくヘスティア様と屋台でバイトしたり、ロキ・ファミリアに行って経理を手伝ったり、ミアハ・ファミリアで製薬の手伝いしたり、ミアハ・ファミリアの敵対ファミリアのディアンヒケト・ファミリアに行って製薬したりといろいろなところでバイトをした。それはもう馬車馬のごとく。ええ、疲れました。

 まあ、迷宮(ダンジョン)に潜った時よりは少ないもののなかなかに稼げた。一週間かけて六万ぐらいだけど。まあそれでも無いよりはまし、と言った考えでバイトのお金も治療で一万。ベルさん達の冒険で使う備品。ポーションや保護手袋(サポーターグローブ)だったりを買うので一万近く。食費で一万で他にもさまざまなところでと借金返済に使えるのは一万前後。全くと言っていいほど返済に使えていない。合計二億ある借金は三十万程しか返済出来ていない。

 ベルさんとヘスティア様には食事意外では私が関わらずともお金を自由に使っていいと言っており。出来るだけ自由にしてもらっている。

 食費もジャガ丸君をバイト先-ヘスティア様と同じところだ-から大量にもらってきたり、食材を値切ったり。誇りだとぉ? そんなもの豚に食わせておけ! の精神でギリギリまで食費を削った。水準は今までとほとんど変えずに食費をギリギリまで削った私頑張った。

 

 

 朝からベルさんを見送り、ヘスティア様をバイト先に送った私が行くのはロキ・ファミリアの拠点(ホーム)だ。

 

「ベートさぁーん! 私を慰めてくださぁーい!」

 

「んなっ!? おいっ! てめぇっ! いきなり抱きついてくんじゃねぇ!」

 

「あら、彼女には『雑魚がっ!』とか言わないのね」

 

「うっせぇ! バガゾネス!」

 

「アリスちゃーん! ベートの代わりに私が慰めてあげるよー!」

 

「ん、私もいいよ」

 

「アイズさんの膝枕っ!? アリスさんめぇ! 羨ましい!!」

 

 ベートさん達幹部が集まっていたところに突撃した私はベートさんの胸に飛び込む。

 不意のことでベートさんは避けきれず、私はベートさんの胸に収まり、頬をスリスリと擦り付ける。あまりにも唐突でそういう関係でも無いのにするようなことではないのだが、ベートさんに会えた嬉しさで思考回路がまともに働かない。ただただベートさんにじゃれつく。

 

「お、おいっ! いい加減離れろっ!」

 

「むうぅぅぅー! 嫌ですー!」

 

 私を剥がそうとするベートさんにより強く抱きついて抵抗するがそこは第三級冒険者(レベル2)第一級冒険者(レベル5)の力の差によって強引に剥がされる。

 

「いきなり来て何すんだこのやろうっ!」

 

「満更でもないくせに~」

 

「んなっ!? そんなんじゃねえっ!」

 

「ベートとアリスちゃんはお似合いだと思うけどなー」

 

 ベートさんをティオナさんとティオネさんが弄るのを見ていると後ろから抱き抱えられる。

 

「ぁ、アイズさん? どうしたんですか?」

 

「ううん、膝枕、する?」

 

 アイズさんに膝の上に座らさせれいる状態で上からそう声をかけられたら頷くしかないよネ!

 とまあ、そんな感じでベートさんを弄るティオネさん達をアイズさんの太ももの感触を頬で感じながら見ている。

 ううう~! とレフィーヤさんの唸るような声が聞こえて来るような気もしなくは無いが気のせいだろう。きっとそうだ。

 そんな感じで軽くなごんだ雰囲気が満ちるロビー。

 

「おい、いつまでそうしているつもりだ」

 

 いつでも和やかな雰囲気が続くわけでもなく、ロキ・ファミリアの重鎮(ママ)が現れる。

 

「アリス、いつまでそうしているつもりだ。ベート達もそうだ」

 

「アハハ......すいません、久しぶりだったもので」

 

「事務を手伝ってくれて助かってはいるが遊びすぎるのもどうかと思うぞ」

 

「......すいません」

 

「む、そこまでシュンとせずともいいのだが、なんだ、その言い過ぎたな」

 

 私がリヴェリアさん(ママ)に怒られてシュンとすると申し訳なさそうに謝ってくる。私も精神年齢はもう十七になるのに子供かっ!て突っ込みたくなる。でも仕方ない、逆らえない母性がリヴェリアさんからあふれでてるから。

 

「明日からは私達は拠点(ホーム)を開ける。それでなんだが、頼んでいたあれは出来ているか?」

 

 なんて思っていたら真面目な雰囲気で話してきたので、名残惜しいアイズさんの膝枕から頭を離し、あれ、まあひらぺったく言えば備品の明細書だ。他派閥の私に頼むのもどうかと思ったが、思った以上にこう言うことが出来る人が少ないらしい。

 ロキ・ファミリアではフィンさんとラウルさん、それとリヴェリアさん、レフィーヤさんが主にそう言うことをするらしいのだが、フィンさんは団長としての書類検査。ラウルさんはそれの補佐で、リヴェリアさんはその他の細かい書類等の検査でレフィーヤさんがそれの補佐。といった感じで遠征のことまで手が回らなかったらしい。

 そこに私が来て、おまけに書類まで見れてバイトが欲しいと行ってきた、私タイミング良すぎない!?

 

「はい、出来てます。詳しいことはわからないので書面上に表しただけですが、紙に書いているのでどうぞ」

 

「ああ、ありがとう。む、これは......その年で良くできているな」

 

「ありがとうございます、これでもそう言うのは得意なので」

 

 バイトとしてお金をもらっている以上、中途半端なのは私の主義に反するのでしっかりと明細書を作った。

 しっかりと目を通してもらい、追加でファミリアの資金や出費も見てくれと言われ、書類とにらめっこする事一時間。

 治療に行く時間の前に終わらせる事ができた私はリヴェリアさんへの説明もそこそこに足早に出ていく。そこまで急ぐ必要は本当はないのだが、待たせるのもどうかと思うと少し速めに行くぐらいでいいだろう。

私はロキ・ファミリアの拠点(ホーム)を後にした。

 

 

 

 

 エイル・ファミリア。団長は聖女(ハイルング)アルナ・フォリアス。第二級冒険者(レベル4)が二人、第二級冒険者(レベル3)が四人、第三級冒険者(レベル2)が十三人、初心者(レベル1)が二十四人の中堅ファミリア。登録上は探索系のファミリアだが、病院を経営しているファミリアとしても有名で、〈黒衣の病館〉と言う名前で一般人から他ファミリアの団員まで受け入れ、団長の聖女(ハイルング)は部位欠損すら治せる魔法を持っていることで有名だが、異様なまで魔力を消費するのと、絶対に成功するわけではないと言った理由から一部の検査などで成功すると予想された人物のみがアルナの治療を受けれる。......とギルドや他ファミリアには言っているのだが、本当は誰でも治療を受けることは出来る。

 エイル様が言うには、何でも治ると思って注意を怠る冒険者(こども)達が多くなるだろうからと、言っていた。私も治してもらえるとわかった時にはとても嬉しかったが、これに依存して注意しなくなればそれこそ命を落とす。体の一部を失いながらも生きて帰れればまた別の道があると私は思っている。命あればこその冒険だ、死ねば元も子もない。

 そんなことを思いながら碧色の眼帯にそっと触れる。日本だと危険なことすらなかったからそんなこと思わなかったけど、小竜に目をやられて、あんなに痛い思いをしたのは始めてかもしれない。

 

「あれ? アリスちゃん?」

 

「あ、ウルドさん。こんにちは」

 

 ウルドさんは私の懇意にさせてもらっている産業系ファミリアのヴェルダンディ・ファミリアの副団長で第二級冒険者(レベル3)でもある。

 

「うん、こんにちは。アリスちゃんはどうしてここに?」

 

「怪我をしてしまったので、治療に」

 

 短く刈り上げた茶髪に整った容姿、そこそこ筋肉のついた体。薄い灰色のコートを羽織った優しいお兄さん的なウルドさんは患者用の衣類や、袋等を持ってきたらしい。じゃあねぇ、と緩い感じで帰って行った。

 私はエイル様に呼ばれ館長室に入った。そこには白衣を着て準備を終えたアルナさんがいた。

 

「やあ、アリスちゃん」

 

「おはようございます。アルナさん」

 

 にっこりと笑うアルナさんの二つ名が聖女の意味が良くわかった気がした。

 

「さぁ、治療を始めるよー」

 

 そう言ってポンポンと太ももを叩き、そこに寝るように言うアルナさんの指示に従う。

 

「それにしても治るのが早いね、今まで見てきた人の中で一番早い。治りにくい場所なんだけどね」

 

 成長期だからかな? と言うアルナさんの声音はとても嬉しそうで、

 治療を始めて十分程で治療は終わり、外していた眼帯をつけ直した私はアルナさんに抱き締められていた。

 

「むふふ~、柔らかいし良い匂いもするし~」

 

「あらあら、神達(わたしたち)みたいになっているわねぇ~」

 

「あ、あのぉ? アルナさんはどうしたんですか?」

 

「柔らかいよぉ~、あぁ幸せぇ~」

 

「この頃はダンジョンに潜って怪我した男しか治療してなかったからじゃないかしら」

 

 そんな理由ですか、私も嫌だとは思いますけど。それでもこんな風に壊れますか? あ、壊れるんですかそうですか。

 

「明日には治るかもね」

 

「え? ってあれ? 大丈夫なんですか? アルナさん。さっきまでおかしくなっていたのに」

 

「うん、もう大丈夫。アリスちゃんのお陰で後二日は大丈夫」

 

「全然じゃないですかっ!?」

 

「ふふふ、楽しそうね」

 

 軽いコントを面白そうに笑うエイル様。

 

「って、こんなことをするんじゃなくて、アリスちゃんの目なんだけど」

 

「左目が治るんですか?」

 

「うん、多分明日明後日には」

 

「そうですか」

 

 

 やったね、これでダンジョンにも行けるよ。

 

 ええそうね、ようやく、でいいかな。

 

 うん、ありがとう。アリスにシャリス。

 

 

「と言うわけで明日も来てもらえるかな?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 その後も話をして、目が治った後のことも注意された。なんでも治った直後の一日は十分に機能しないとのこと、それと瞳の色は真っ赤になると言われた。血液の色がそのまま瞳の色になるらしい。

 はい、オッドアイですね。まあ、と言っても元が少し濃いめの赤色だからほぼ変わらないんだけど。

 とまあ何個かの注意を受けて〈黒衣の病館〉を出た。その後は特にすることもなかったのでギルドでミィシャさんと駄弁ったり。ミアハ様とタケミカヅチ様と話したりとして時間を潰し、夕暮れ時に拠点(ホーム)に戻ると、

 

「あれ? アリスちゃん?」

 

 ベルさんが丁度帰ってきていた。

 

「あ、ベルさん。今お帰りですか?」

 

「うん、今日の夜からまた潜るよ」

 

 少し会話をしながら地下室への扉を開く。

 

「ただいま帰りましたー! 神様ー?」

 

「ただいま戻りました......? 出掛けてるんでしょうか?」

 

 私達が地下室に入ってもヘスティア様がベルさんに突撃してこない。地下室の隅々まで探したがヘスティア様はいなかったのでとりあえず私は夕飯を、ベルさんはダンジョンに潜る為の準備を始めた。

 今日の夕食はジャガ丸君とオムライス。卵を溶き、フライパンに流していれ、薄く伸ばしてからフライ返しで卵を返す。しっかりと火の通った卵を素早く先に作っておいたケチャップライスの上にのせる。

何故かケチャップや胡椒だったりの調味料があるのは謎に思っていたが、もう気にするのも億劫になっている。

 

「出来ましたよ、ベルさん」

 

「本当? ありがとう!」

 

 スプーンを皿にのせて渡すと、嬉しそうに笑いながら机に持っていって食べ始める。私はもうひとつヘスティア様の分を作ってベルさんの正面に座ってからジャガ丸君を手に取り食べる。

 

「......」

 

 ジャガ丸君を食べながらベルさんを見る。始めて出会ったときよりも凛々しくなったと思う。いまだに幼さはとれないし、まだ初心者の域を出っせていない雰囲気がしている。まあ冒険はまだまだするべきじゃないだろう。私程成長が速くないのだから。

 

「え、えぇと、どうしたの? そんなに見て」

 

「ふふふ、いいえ、ただ見ているだけです」

 

 テーブルに両肘をつき、両手で頭を支えるようにしてクスクスと笑う。笑う私に戸惑うベルさんはオムライスを食べ終わり、シンクを皿をおいて私にご馳走さま、と言って地下室から出ようとしたとき、

 

「ただいまー!」

 

「神様っ!?」

 

「あ、ヘスティア様、お帰りなさい」

 

 勢いよく地下室の扉を開け、そのままベルさんに飛び付いたヘスティア様に驚くベルさんは抱き付かれたままで狼狽えていた。

 

「ヘスティア様、それぐらいにしてご飯にしてください。ベルさんもステイタスを更新してもらっては?」

 

 ベルさんの胸に顔を埋めてスリスリするヘスティア様を軽くたしなめながらベルさんにステイタス更新を提案する。

 それにハッとしてヘスティア様にお願いするベルさんにいきなりで困惑するヘスティア様に苦笑しながら作っておいたオムライスを机に置き、ベルさんがステイタスを更新している間に私はさらさらっと家計簿、ファミリアの出費だったりを付けて借金返済に回せるお金を算出している訳なんですが......ハァ。

 

「どうしたんだい? ため息なんかついて」

 

「いえ、ヘスティア様のベルさんへの愛の結晶に回せるお金がほとんどないとわかったので」

 

「あ、アハハ......ごめん」

 

「謝らなくてもいいですよ。ヘスティア様がベルさんを想っていることは私も共感できる部分がありますし」

 

「......? ヘスティア様にアリスちゃんも、何を話してるの?」

 

「いえ、女の子同士の話ですよ。ねぇ? ヘスティア様?」

 

「あ、ああ。そうだね、ベル君はダンジョンに行くんだろ? ステイタスはもう更新したから行ってきていいんだよ?」

 

「そうですか? なら行ってきます!」

 

「ああ、気をつけるんだよ? 怪我なんてあんまりしてほしくないからね」

 

 微笑むヘスティア様は本当に女神なんだと再確認させられるぐらいには神々しくて、こっちに来る前は神様なんて信じないタイプだったんだけども、ヘスティア様だったら信じれたのかな? まあ、今は良いや。

 

「ベルさん、行きましたね」

 

「そうだね、まあ、リリルカ君もいるわけだし大丈夫だろう」

 

 二人の幼女が楽しそうに会話をする......一部の特殊性癖の(男神)が喜びそうな絵だなー。

 

「あ、そう言えばヘスティア様」

 

「なんだい?」

 

「今のベルさんのステイタスってどれぐらいですか? ベルさんは見ていかなかったから気になって」

 

「あー、それは......見るかい?」

 

「え、ええ。見ていいのなら」

 

 なぜだか渋るヘスティア様は共通語(コイネー)に直されたベルさんのステイタスを書いた紙を私に見せる。そこに書かれていたベルさんのステイタスは......

 

「オールアビリティA!? いや、これはほぼオールアビリティSじゃないですか! それに、何ですかSSって」

 

 魔力を除く四つのアビリティはSで魔力も後少しでSに届く。そしてその中で私の、いや、これを見たら誰もが違和感を覚えるだろう敏捷のアビリティ。

 

「ヘスティア様、ベルさんはまだ冒険者になって半年ですよね」

 

「......ああ、ベル君は君より長いがまだ半年しかたっていない」

 

「私には二つの成長補正スキルがあります。だから1ヶ月なんて言う異常な速度でステイタスが成長し、ランクアップまでこぎつけました。

 しかしベルさんは違う......はずです。少なくともベルさんからそんなスキルの存在を聞いたことはありません」

 

 ヘスティア様に問いかける私、それに口を閉ざしたままのヘスティア様。

 

「私に言いたくないのであれば構いません。それはヘスティア様の自由ですから......だけど私は貴方の家族じゃないんですか? だから......いいえ、何でもありません」

 

 咄嗟に紡ごうとした言葉を私は呑み込む。私がそんなことを言う資格はないと、心の中で理解しているから。

 

「アリスちゃん......」

 

「いえ、いいんです。ヘスティア様が言いたくないのでしたら。その時まで待ちます」

 

 ヘスティア様が少し迷う素振りを見せるが、私は顔を背けたまま言葉を吐き出す。本当は泣き出したくてたまらない。沈んだ気分を紛らせるために地下室から出る。

 ヘスティア様に止められたようにも聞こえたが私は止まらなかった、感情がコントロールできずに両方の頬に涙が伝う。

 見た目は十に届くか届かないかの可愛らしい幼女だが、精神年齢は二十に近い。そんな肉体と精神の(ギャップ)からか、想定していたよりも精神が磨り減っていたらしい。その上ヘスティアの隠し事が心の傷(トラウマ)を刺激することになり、感情が爆発したらしい。

 半場飛び出るような形で地下室から出てきた私は涙を流しながらとぼとぼと歩く。涙は全く止まらず頬を濡らしていた。

 

「ぅぅ、わだしだっで、だよっでほじがったっ......」

 

 何らかしらベルさんの成長で悩むところがヘスティア様にはあったはず。それなのに一人で考え込んでいることが悲しかった。私だっていると言うのに。

 どこに行くとも決めずに歩いていた私は無意識の内に摩天楼施設(バベル)に、いや、ダンジョンに向かって歩いていたらしい。もう太陽は沈みきり、冒険者ですら出入りをすることの無い時間だと言うのにダンジョンの入り口にはよく知るファミリアのエンブレムが見えた。

 

「あれ? アリスちゃん......っ!? どうしたのっ!?」

 

 私が歩いて来たことに気がついたのか、ティオナさんがこちらに手を振ってくるが、私の頬を伝って溢れ落ちる大粒の涙を見て走って来る。

 

「あ、いいえ、なんでもないでず......」

 

 心配かけまいと笑おうとするが、涙は頬を伝い、声は少し上ずる。

 

「ねえ! ちょっと来て!」

 

 ティオナさんが私を見て大丈夫じゃないと判断したのだろうアイズさん達を呼び、私をつれていく。

 

「どうしたの? 余り迷惑をかけないで......って、アリスちゃんっ!? ど、どうしたの!?」

 

「なんで泣いてるの? 大丈夫?」

 

「ふむ、これは見逃せないね。大丈夫かい? 話を聞こう」

 

 フィンさん達に心配されてしまい、少し申し訳なく思いながらあったことを話す。

 見た目的には十代にも満たない幼女な訳だけど、精神年齢は16。あまりにも幼稚なことで顔が真っ赤になるのがわかる。

 

「アリスちゃんらしい悩みだね。ふふふ、神様思いで君の神様も鼻が高いだろうね」

 

「そうだといいのですが、うう、恥ずかしいっ!」

 

「あははっ! ロキもいい神様なんだけどねー!」

 

「アリスちゃんも子供らしいところがあるのね」

 

 暖かい目で私を見てくるフィンさん達に思わず顔を手で覆ってしまう。それを見たアイズさんの可愛い。と言う言葉にさらに顔を赤くする。

 あまりの恥ずかしさにそれこそアイズさん達の前から逃げ出したい程に、だけども私が逃げようと向いた方向にベートさんが現れたことによってそれは出来なくなった。体は動こうとするのだが、思考が働かない。ベートさんに釘付けになる。訳がわからなくなり、半場本能的にベートさんに抱きつく。本当に意味がわからない。惚れたのは事実だがこの状況で抱きつくなんて、奇行にも程があるだろう!?

 

「なんだ? 目元があけぇじゃねぇか。どうしたんだ?」

 

 いつもなら、離れろっ! なんて言って強引に引き剥がして来るのに今日は頭に男性特有のゴツゴツした手をおいて優しく問いかけて来る。

 えっ? と困惑しながらベートさんの顔を見上げてみれば少し恥ずかしそうに頬を赤らめていて、

 

「ベートさんっ!」

 

「なんだ......「チュッ」っ!?」

 

 ピョンとジャンプをしてベートさんの頬にキスをする私。何故だか達成感で満たされていく薄い胸の下で心臓をバクバクと高鳴らせながらベートさんの元を離れる。

 ベートさんは硬直したままで動かない。それを見てティオナさんとティオネさんは大爆笑している。フィンさんは苦笑し、アイズさんの目が据わる。私はその人たちの間をくぐり抜けて〈摩天楼施設(バベル)〉の前で止まって、アイズさん達に向かって手を振る。

 

「皆さん! ちゃんと帰ってきてくださいね!」

 

 言うだけ言って〈摩天楼施設(バベル)〉の中に入っていく。ダンジョンの入り口でギルドの職員に冒険者の証--ペンダント型にしてもらった--を見せて、入っていく。

 入ってすぐのところでロザリオ型--形は一週間でローテーションしている--のペンダントを握り、紐を取る。すると私の身の丈を越える杖に代わる。それをしっかりと握り走りだす。いまだに心の中で燻る火種を消し飛ばす為にも私は怪物(モンスター)を倒す!

 そう意気込んで怪物(モンスター)を片っ端から駆逐して早二時間。八層から九層に降りる階段の前でふと足を止めた。やけに人が多いのだ怪我をしたわけでは無いのに。

 

「どうしたんですか?」

 

「あ、君、この先には行かない方が良い。ミノタウロスが九層にいるからね」

 

 疲れきった冒険者の一人が放った言葉はにわかに信じ難いものだったが他の冒険者に聞いても同じことを言うので本当なのだろう。

 私は複数買っていたポーションを冒険者に渡し、階段を急いで降りる。濃い血の臭いを鼻が敏感に察知し、その方向に向かって走る。その道中でベートさん達に出会い、お互いに得た情報を交換した。すると冒険者から聞いたらしいのだが、白髪の少年(・・・・・)がミノタウロスと戦っていたらしいのだ。

 私はそれを聞いて今一度加速する。その白髪の少年がベルさんならば危ないからだ。ステイタス的には大丈夫でも、心がなっていなければ負ける。ベートさん達も私と共に走るが、

 

「おい、待て」

 

「ぇ?」

 

 ベートさんの鋭い制止の声に止まると、鋭くルームの奥を睨み付けるベートさんが私の一歩前に出る。するとルームの影からのっそりと猪人(ボアズ)が出る。

 

「あ、オッタルさん!?」

 

「なんだぁ? アリスはオッタルと会ったことがあるのか?」

 

「はい、つい先日ですが......何もされてませんよ?」

 

「何もされてないなら良い、お前は先に行け」

 

 ベートさんは私に聞こえるぐらいの声でそう言うと、いつの間にかオッタルさんに近付き、蹴りを入れた。しかしそれはオッタルさんの上げた左腕によって防がれている。オッタルさんは余っている右腕を振るいベートさんを殴ろうとするがその間にフィンさんが入り込む。

 

「この先に彼はいそうだ! 僕の親指が疼く! アイズと一緒に行ってくれ!」

 

 フィンさんの言葉と共に金色の風が私を包み、抱え込まれる。

 

「アイズさんっ!?」

 

 私を抱き抱えたアイズさんは私では目に追えない速度で走る。風となったアイズさんは恐ろしい速度でダンジョンの奥へと進む。

 そして、ついにベルさんのいるルームにたどり着く。そこには銀色の大剣を片手剣のように振り回す片方の角が折れた(・・・・・・・・)ミノタウロスと身体のあちこちを傷付けたベルさんがいて。、身に付けていた鈍色の胸当て(ブレストプレート)翡翠(エメラルド)色のサポーターは砕けて破片が落ちている。

 アイズさんの腕から離れた私はブレスレットに変えていた杖を具現化させようとして、ベルさんとミノタウロスの間から放たれた強力なプレッシャーに動きを止めて目を向ける。

 

「たてる?」

 

 プレッシャーを放っている張本人のアイズさんは何時もと変わらない声音でベルさんに向けて、手を伸ばす。

 ベルさんは差し出されたその手を見て歯を食い縛り、伸ばされた手を払う。

 

「もう、アイズ・バレシュタインに助けられる訳にはいかんないんだ!」

 

 アイズさんの手を払ったベルさんは立ち上がり、〈神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)〉を左手に持ち、ミノタウロスと対峙する。

 

「ははは、獲物の横取りはご法度だろ?」

 

「でも、大丈夫なの!? 彼ってLv.1なんでしょ!?」

 

「彼が選んだんでしょ、さすがに危なくなったら助けないとだけ、ど......」

 

 ティオナさんの言葉が徐々に小さくなっていく、そしてそこに来たリリさんを担いだリヴェリアさんとフィンさんがベルさんとミノタウロスの戦いを見てベートさんに向かって言葉を投げ掛ける。

 

「ベート、前に彼を見たとき、彼はよくみる三下ではなかったのかい?」

 

 ミノタウロスと戦うベルさんは〈Lv.1〉だ、ミノタウロスは〈Lv.2〉であってもパーティーを組まなければ楽には勝てない強敵だ。

 そのミノタウロスとベルさんは、押されぎみながらも一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)ではなく対等な、等しく命をかけた攻防を繰り広げていた。

 

「おい、アリス、なんであいつはミノタウロスと戦えてやがる」

 

「......ベートさんに蔑まれ、多くの人に笑われながらも、恋い焦がれる人と対等になるために走り続けたんです」

 

 ベートさんは私の言葉に目を見開き、ベルさんの戦いを見る。

 ベルさんの持っていた両刃短剣(バゼラート)の刃が宙を舞い逆手に持っていた両刃短剣(バゼラート)の柄を投げ捨て、左手に握り込んだナイフを腰に溜め、ミノタウロスに突撃する。

 それを見たミノタウロスは目を見開き大剣を強引に横にして、ベルさんの一撃を防ごうとするが、握り込んでいたものが先に折れていた短刀の刃だと気付き、避けようとするがもう遅い、右手で逆手に持った紫紺色の輝きは大剣を握った手首を貫き、筋肉や血管、神経を引き裂き、大剣を握った手ごと切り飛ばす。

 ミノタウロスの苦悶の声がルームに響き渡る。宙を舞う大剣のグリップをベルさんは握りしめ、大剣に振り回されるような形だが、ミノタウロスに傷を増やしていく。

 ミノタウロスが徐々に押され始め、大きく距離が開く。

 ミノタウロスは手首から先のなくなった前足を地面に踏み締め、臀部を上げ頭を下げる。それは高い潜在能力(ポテンシャル)から繰り出される突進の事前動作。

 それを見たベルさんは大剣のグリップを握りしめ、真っ正面から向き合う。ミノタウロスが踏み締めた四肢を稼働させ、ベルさんに向かって突進する。

 そしてベルさんは大剣を腰に溜め、ミノタウロスに真っ向から激突する。

 周りからはその選択に否を出すが、すぐさま両者は衝突する。

 ミノタウロスは下からの突き上げ、ベルさんは上段からの振り下ろし。両者の一撃が激突し、銀色の破片が飛び散る。ミノタウロスに雑に扱われ、耐久力を減らしていた銀色の大剣はついに砕け、ミノタウロスは勝利を確信した笑みを浮かべる。

 しかしベルさんは、砕けた大剣を投げ捨て、鞘に戻していた紫紺のナイフを握り、着地と同時に強引に反転しミノタウロスの背にナイフを突き刺す。そしてナイフの柄に右手を置き叫ぶ。

 

「ファイヤボルトォ!!」

 

 右手から魔法を打つときに漏れ出る特有の輝きが出たと思うとミノタウロスの胸がボンッ! と膨らみ、口から黒煙が吹き出る。

 ミノタウロスは背中に張り付くベルさんを叩き潰そうと腕を振り上げ、

 

「ファイヤボルトォォォォ!!!!」

 

 それよりも速く、ベルさんの放った魔法がミノタウロスを内側から焼き付くし、内に溜まった炎がミノタウロスの上半身を破裂させることで外にあふれでた。

 ベルさんはミノタウロスだった灰と大きな魔石。そして芯まで赤くなった角の前で立っていた。が魔力がなくなり気絶していた。

 

「魔力切れですか......はぁ、ベルさんったら」

 

 私は少し笑いながらもため息をつく。ヘスティア様が聞けば発狂するだろうが、ベルさんは冒険をした。確かに今日、冒険をしたんだ。とその勇姿がいまだに離れずなんだか冒険談の実物を見ているようでハイテンションのままいた。

 ベートさん達が何かを言っているが全く聞こえ無いぐらいに心が高揚していた。

 

 

 ベルさんとミノタウロスとの戦いから一日が明け、ベルさんとリリさんの体力も回復し、私も含めた三人でヘスティア様にお説教を貰った後、私とベルさんのステイタス更新を行ったのだが、

 

「ふふふ、おめでとうベル君。ランクアップだよ」

 

「え? 本当ですかっ!?」

 

 ベルさんのランクアップを告げるヘスティア様の嬉しそうな声を聞きながら私は地下室を出る。

 首にぶら下がったペンダントは左右に揺れ、私の表情は晴れやかに輝いている。

 ヘスティア様にベルさんのステイタスの秘密も伝えられなんだかんだあって必要とされていると理解できたからか、曇っていた心の天気が快晴に変わったような感じだ。

 

「ふふふ、これから何をしよう」

 

 ああ、楽しみだ。これからベルさん達と共に冒険をするのが、ベートさん達に冒険の話をしてもらうのが、楽しみなことが多くて困っちゃう。

 

 

 ええ、そうね。私も楽しみだわ。アリスは?

 

 私も! 冒険もお話も楽しいことばかり!

 

 

 これからどんな冒険が出来るのか、どんな話が聞けるのか、とっても楽しみ!

 




いかがでしたか?
今回も更新が遅くなり申し訳ありません。こんな作品でも読んでいただけて本当にありがたいです。

今回で原作の三巻まで進んだことになります。ここまで長続きするとは......

感想、評価、誤字脱字報告等いただけたらありがたいです。

それではこのぐらいで、また次回に。
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