ちょっと今日は気分転換に出かけようって事で私は街を散歩する計画を立てた。
まぁアレだ。最近基地に篭りっぱなしだったからお散歩して街の様子とか見たいんだ。
私は随分変わっちゃったけど街はあんまり変わってない様子だったし…
ちょっと懐かしい気分に浸ってみたいなって言うのもあったりする。
ほら、幼少の頃の思い出を胸に懐きながら街を散策したら色々あると思うじゃん?
いつものように髪を結ってからお化粧。ゴスロリに着飾ってからパーフェクト!
フリル付きのニーソックスがいい味出してると思うなー♪
姿見の前でくるりターンするとスカートがふわりと浮いてキュート。
…本当に女の子女の子しちゃってるよなぁ。自然と浮かべる笑顔だってそう。
もう男だった頃の仕草なんて忘れちゃってる。身体から消えてるの。
ズボン穿いてもそう。歩くモーションだってさ…はしたなくないんだよ?
ただそうだね…やっぱりまだ視線に無防備だったりするってのはあるかもだけど…
誰も…私だって気付かないんだろうな。昔足繁く通ったお菓子店とかさ。
昔の顔馴染みのお友達とか…数人覚えてるけどそれでも私だなんて絶対気づかない。
まだ男の仕草がある時に兄さんに出会えていたのは良かったかな?
いや、私の所作にはまだ残ってるらしいけど…幼馴染って言う人は居ないしなぁ。
学校で会っていた程度のお友達じゃ…気付かないよね。ちょっと悲しい。
もう男特有の馬鹿騒ぎは出来ないんだよね。私は私、女の子417…
ベースボールにサッカーなんてやってたあの頃はもう遠い昔。
どう頑張っても二度とは戻ってこない。私には無縁になっちゃった事。
「417~」
「ノックぐらいはしてよ、G28?」
「おぉ着飾ってる!これは私に脱がせて欲しいって…」
「脱がせてほしいのはお兄ちゃんしか居ないから、寝言は寝てから言おうね?」
転がり込んできた我が妹G28は相も変わらずクソレズだ。
襲ってきそうだったから牽制するけど…最悪だーちゃんけしかけてスタンさせようか。
スタンガンの用意は秒で終わるしね。だーちゃんのスタンガンは強力やで?
とりあえずだーちゃんにハンドサインでスタンバイさせたらG28も黙った。
流石に二度は食らいたくはあるまい…夜中に襲われて危うく貞操を失いかけたんだよね…
いくらかマイルドになっても暴走すると私かお姉ちゃんを襲うんだよね。
私もお姉ちゃんもお兄ちゃんスキーだからあげるつもりはない。
「じゃ、私は出るから…また夜にね?」
「その時は脱がしても?」
「だめー」
「ちぇー」
さぁバギーを転がそうか。工廠では多分今頃ヘリの整備が始まってる筈。
――――――――――――
「あーホント、このあたりの雰囲気は全く変わらないなぁ…」
かつての実家であったアパート付近の駐車場にバギーを止めて散策開始。
行き交う人々、賑わい…遊ぶ子どもたち…何も変わらない。人間だった頃と変わらない。
えっと、小学校はこっちだったっけか。小学校はずっと徒歩だったんだよねー
まぁパパ、ママ両方居なかったから送り迎えなんてのもなかったし参観日?無縁だったなぁ。
他のクラスメートもそんな子が多かったっけか…第三次大戦は暗い影を落としてくれたよ。
そんな中でもたくましく育っていったのが私達だった。遊びだって何だかんだ見つけ出していったんだよねー
ゲームはそんな私達の中でも貴重な両親持ちの子が紹介したんだっけか?
私は兄さん経由だったけど…遺産からちまちま出しては買ってたらしい。
遺産とか遺してくれてたのは助かったなぁ…お陰で私達は困らなかった。
中にはそんなのも無かったり親戚に集られてなくなったって子も居たっけか。
かつての通学路を歩けば小さな公園に目が行く…古びた遊具がいっぱい並ぶ…
中では小さな子どもが元気いっぱいに遊んでいる…複数人でおいかけっこしたり…
それぞれ持ち寄った玩具で遊んでたり…小さい頃を思い出させる。
それとなく入ってみるとちょっと見ない内にペンキが塗り替えられてたり皆近寄らなかった小屋が壊されてたり…
結構変わってたりするけど全体的な印象は私の小さい頃の思い出のままだ…
「うわ、ぴったりだし…私もちっちゃいなぁ…」
ブランコに座ってみればこれがぴったり。改めて自分の身体の小ささを思い知る。
ぎぃこ…ぎぃこ…と漕いでみれば童心に帰ったみたいだ…
昔はこんな遊びしか無かったけど毎日が楽しかったんだよね…毎日が新しい発見で満ち溢れていた。
ちょっと向こうで遊んでいる子どもたちもそうなんだろう…今この瞬間が新しいことだらけ。
明日への活力に溢れている…そんな子供に大人たちは元気をもらうんだろうな。
「さてと…散策に戻るかな…」
ぴょん、とブランコから下りて公園の中をぶらぶらと歩く。
脳裏に浮かんでは消えていくのは幼少期の遊んだ記憶ばかり…
あの木に隠れてかくれんぼしたとか…木登りして秘密基地ーとか。
今なら簡単に木登りなんて出来るんだろうけど…あの頃は怖くてなぁ…
あぁそうそう、登る最中に落っこちてからだっけか…高所恐怖症拗らせたの。
幼少のトラウマって払拭できないんだよねぇ…一度こびり着いたらどうにも…
「そーれ!」
「…ふぇ?」
「うわ、黒いパンツ…」
ふわぁ…となんか浮かんだような…?後ろ髪が若干浮いたしスカートがえらく動いたような?
後ろを振り向けば活発そうな男の子が居て…ふわり浮いたスカートが重力に従って降りる様が見える。
…このガキ、スカートめくりなんてイタズラをやったな。
「…アホくさいイタズラ」
「アホって言うやつがアホなんだぞ!!」
「じゃあエッチ小僧だね」
「お前こそ黒いパンツなんて穿いてエッチなんだー!!」
こんな元気は無かったかなぁ。私バカはするけど嫌がることはしないが売りだったし。
まぁこの手合は無視するに限るので無視無視…どうせ今日限りだし。
えっと、小学校は後少しだな。いやー歩幅が狭いと時間がかかる…
――――――――――――
「区立小学校…うわ、懐かしい…」
私が見たときより塗装は色あせていたが思い出にある形のままの小学校が私を迎えた。
なにかもが変わってない…中で動いている教員は…あぁあの先生まだ居たんだ。
何人か職員室を外から覗けば見た顔がある。バカをやらかして怒られたりしたっけ?
あのデコっぱげ先生前線後退してるじゃん…そのうちあだ名がバーコード先生になるな。
ん?あっちはなんだろう…今日は休みのはずだけど…生徒らしいのが居る。
へぇ、孤児同士の遊び場が学校に設けられてるんだ…コレ良いね。
そう言えば私今勝手に敷地に入ってるけど警備員とか飛んでこないのかなー?
まぁその様子はないな。でもいつ飛んでくるかわかんないし受付だけでも済ませておこう。
「こんにちはー」
「はい…あら、見学?」
「あ、こう見えて成人済みです。ちょっと見て回るだけです」
「じゃあこちらに名前を」
さてと…うわ、この名前懐かしいな…へぇアイツも今日ここに居るんだ?
クラスメートで腐れ縁とも言える遊び仲間だったヤツの名前が訪問者の記入欄にあった。
まぁもう私の名前じゃないけど…っと…Joshua Ganzっと…
で、来客カードを首から下げてっと…校内をぶらぶら散策しますか。
およ?入れ違いですか…随分背が高い野郎だな…ただ身なりがボロボロだなぁ。
「ありがとうございました…」
「就活頑張ってね…―――君」
「…ジョシュア?アイツも来てるのか」
「はい?ジョシュア君?え…?」
用務員が口走った言葉に思わず真顔になる。あぁ、コイツが成れの果てか。
かつての私と同じで就活難に遭遇してるのか。目に生気がないし…見るからにヤバい。
数日は風呂に入ってないだろう強烈な臭いがするし髪もボッサボサ…
在りし日の快活だった悪友の面影は…微塵もない。私の記入した名前に想う所があるのか?
用務員も私の事を覚えていたのか何か確認するように私を見てくる。
まぁ記入したのは私だしな。信じられない目で見てるよ。
「ジョシュア君って言ったら君とよく黒板消し落としや先生に取っ組み合いをしかけてたやんちゃ君よね?」
「えぇ…就活生になって以来連絡が途絶えましたけどね…そうか…アイツもか…」
「……そちらのお嬢さんのお名前は…?」
「生徒じゃ…無いのか…え?あ…?」
ま、驚くか。面影が全然無い少女が旧友の名前を記入していたらね。
「ジョシュア・ガンツ22歳、4月13日生まれ…なんて言ったら信じる?」
「お嬢ちゃん…ジョークはキツイぜ?」
「ジョークです、シーナって呼んでね♪ジョシュアさんはお知り合いでーす。代わりに視察に来ただけです」
1つ嘘をついた。私自身がジョシュアでありそうでもない。
「きちんと本名を入れてください」
「はいはーい、次はしませーん」
用務員は納得したように溜息をついて業務に戻っていった。
変わり果てた悪友も質の悪いイタズラと思ったか興味を失ってさっさと出ていった。
あばよ、ダチ公…もう二度と私とは交わることは無いよ…
――――――――――――
中を見て校庭とかを見て歩いて…かつて遊んだ遊具でちょっと遊んで…
在りし日の自分と重ねてなんかセンチな気分に浸った。
捨てたなんて言ったけど捨てきれてないんだよなぁ…こういう所さ。
かつて一日の大半を過ごした学び舎を後にして振り返る。
あの日常と同じ様に傾いた夕日に照らされた校舎が見送ってくれる。
あの日と変わらない…先生たちも変わらない…私達ばかりが変わっていってる。
悲しくもあるけど当然といえば当然の事か…ずっと同じなんてものはない。
この校舎だっていつかは取り壊される。変わっていくんだ…
まだ変わらないだけで…あの日の思い出を抱えてくれていただけだ…
この町並みだって何の拍子に変わってしまうか分からないんだ。
それこそテロなんてあれば風景1つぶっ壊されるだろうさ。
「あ、このお菓子屋さんまだあったんだ…」
帰り道によく寄り道してお菓子を買っては食っていた店を見つける。
懐かしさに顔をほころばせて近寄るが…扉が開かない。閉まってるようだ。
幾ばくかの悲しさを胸に抱えたが…扉に張り紙があるのが見える。
「あぁ…店主が死んじゃったのか…」
店主が事件に巻き込まれ死亡した為に店を畳んだらしい。
沢山のご愛顧ありがとうございましたってさ…
「私の方こそ…ありがとうね、お菓子屋さん…もう姿形違うけどさ」
そんな変わっていた店に別れを告げてから私は家路につく。
さぁ帰ろう、今日の散策はもう終わり。今のお家である基地に戻ろう。
お姉ちゃん、お兄ちゃんに妹、大事な仲間が…家族が待ってるお家に。
「おんやー?あらまウィルバーちゃん所に入り浸ってた娘じゃない?」
「うぇ?」
「ウィルバーちゃんは最近居ないわよー?ねぇねぇ、貴女あれでしょ、ウィルバーちゃんの彼女?」
「いや、遠縁の妹ですけど…」
「あらまー!?」
あぁご近所さん…貴方達も変わらないねー…おしゃべり好きで私もよく飴玉貰ったっけ。
きっとそのエプロンの中には飴玉抱えてるんだろうなぁ…
「もう帰るので失礼します」
「気をつけて帰るのよぉ?あ、これアメちゃん!あげるわ!!」
「あ、あはは…ありがとございます」
やっぱりだよ、このおばちゃんは変わらないんだろうなぁ…パワフルぅ…
車に乗ったらちょっと驚かれた。まぁ見た目ロリだしな。
大人になった後幼少の軌跡を辿っては黄昏れる。
そして汚い大人になった事と大人が言っていたことを理解して若い頃の自分に苦笑いするのさ。