んぁ?ここはどこだろうか?私は何をしていたんだっけ?
立ってる?あぁ私は立ってるんだ。地面に立ってる。
あぁそうだお買い物しなくちゃ…メモメモ…っとあったあった。
今日のお夕飯はリクエストでカレーだったっけか。ふんふんふーん♪
この人参、じゃがいも、玉ねぎに牛肉…そして忘れちゃいけないカレールー。
「これよろぴく」
「もうまたー?」
「オイラの好物なんだからしょうがないやん?ほれ買った買った」
「はいはーい…まったくもぉー」
あぁ双子の兄がぽいぽいとお菓子を投げ込んできた。お買い物についてきたのは良いけどいつもこうだ。
お買い物してる私のカゴに次々に自分の好きなものを取り敢えず入れてはどっかへ行く。
多分どっかで暇潰しするんだろうなぁ本屋で立ち読みとかしてるんじゃないかな?
後でローキックかましにいこう。あ、この玉ねぎ良いな。買いだ買い~♪
るんるん気分で買い物かご片手にスーパーを回る。
「よう、持つぞ…今日の晩は…カレーか」
「そうだよー、ディー君のリクエスト♪」
兄さんが買い物かごを持ってくれた。中身を見てからそう判断したか。
にっこり笑顔を浮かべてから首肯して横を歩く。ついでに持って品定めしていた人参を放り込む。
ディー君とは私の夫。今はお仕事で出ていて私達を養うためにお金を稼いでる。
「じゃがいもはやっぱりこれかなー…」
「お前いっつもそれだよな」
「まぁ昔の縁だからね~美味しいし」
この美味しさは運命の出会い…なんて謳い文句のじゃがいもを手にとって買い物かごへポイ。
私にとっては見たことのある銃なんかより鍬を担いでるのがお似合いな笑顔が生産者の所に写ってた。
そこら辺の農家の野菜より私はこの子の野菜が良い。安心感違うもん。
んでっと…カレールーはこの銘柄ので良いか…あ、そうだったお醤油が切れてたんだった。
調味料の棚はっと…あったあった。これで良いかなー…明日の朝はカレーを詰めればいいし…
お昼まで行けるかな?あとは夜だけど冷蔵庫の中身でなんとかなるでしょう。
鶏肉があったしディー君の好物のカリッカリなソテーを仕上げて出してあげよう。
「あ、このお肉セールなんだ…ラッキー♪」
ちょっと良いお肉がセールでいつも買ってるお肉と同じ値段になってた。
見た感じ品質は…段違いだね。これは美味しいのが出来るぞ~♪
「兄さん、ありがと。あとはあのバカを連れて車に戻ってて」
「あいよ」
お買い物カゴを奪ってからお会計に並ぶ。お財布を出してー…ふぅ。
うーん…まぁまだまだ家計に余裕はあるな。でもお給料日前近いから油断できないなぁ。
ポイントカードだしてお会計済ませて…よし、車に戻るぞー。
特徴的な4ドアの車に一直線に向かう。兄さん二人がお買い物袋を取ってくれた。
「お待たせー!」
「んじゃ帰るぞー」
えらくバカでかい音をたてて車が発進する。兄さんの好みだなぁ。
家はそう遠くない。流れていく景色の中に私と兄さんが通ったあの母校があった。
んー…カレーの調理はお茶の子さいさい。この分だと…お外はまだ明るい。
あの人が帰ってくる頃には美味しいカレーに仕上がってるかな?
私の背丈に合わせて作られたキッチンは低くてお料理しやすい…
こういう所にあの人の愛情を感じて今日もにっこにこでお料理しちゃうの。
煮込んで煮込んで…あとは予熱でじーっくりコトコト…美味しくなーれ♪
リビングでは兄さん達がそろってレースゲームに興じている。
接戦だけど兄さんの策略が一枚上手を行くんだよねー…ほーら計算された緑コウラが炸裂してる。
ぷっ…そのまま赤コウラを貰って2連撃…思わず苦笑いが浮かぶ双子の兄。
「おぉん見てろオイラの逆転劇」
「寝言は寝てから言え」
この家の夕食の準備中のいつもの流れだ。それを私がいつも微笑んで眺めているの。
偶に私があの中に混じってやってたりするけどディー君が機嫌悪くなっちゃうのよね。
外の景色はだんだんと赤み差して…地平の向こうに太陽が沈む。
耳馴染みな重低音が聞こえる。ディー君が帰ってきたんだ!
ぱたぱたと足音を立てて玄関に向かう。するとタイミング良く玄関が開いて…
「ただいまー…出迎えありがとな」
「えへへ♪」
G&Kの制服を着たディー君がそこには立っていた。
いつも疲れた表情を浮かべているけど私にカバンを預けると嬉しそうに笑うの。
上着も預かって夫婦のお部屋に置いて…上着はハンガーに掛けて。
「お風呂にしますか?それともご飯?」
「んぁー…飯、もう出来てるんでしょ」
「もちろん、リクエスト通りですよー♪」
炊飯器から炊きたてのお米をよそってはお皿に…そして煮込まれたカレーを注いで…
4人分配膳してからまだゲームしてるバカ二人を足蹴してから…
私はディー君のおとなりにすっぽり入り込むの。ちっちゃい身体はこういう時に便利。
「はい、あーん♪」
「あー」
そしてあーんで食べさせ合う…これが私達夫婦の食べ方♪
たま~に口移しだけどもっぱらそんなのは二人っきりのときばっかりで…
――――――――――――D08基地兵舎HK417私室・朝
「んがっ」
うごぉぉぉ…痛い、おでこが痛む…痛いぞぉ…!!ベッドのふかふかな寝心地じゃない。
めっちゃ硬い床だ。心配しただーちゃんがのた打ち回る私の傍で覗き込んでくる。
はて…?あの甘々な空間は何だったんだろうか…そもそも双子の兄?居ないじゃん。
あんなスーパーはもうめったに見ないし何だったんだ…?色々ツッコミどころがある。
それにディー君って…あれお兄ちゃんじゃん。ディーノがたしか名前だったけどさぁ…
それに夫婦…?いやいや飛躍しすぎじゃないかな?憧れはあるけどさぁ。
「あれはまさか未来を見るとかいう正夢…?」
あの夢が本当になるなら私は万々歳だけどね。あの双子の兄とやらは…絶対ないけど。
だってあの顔と振る舞い方絶対過去の私だもん!!忘れもしない…!
あれはジョシュア・ガンツ…私がもう切り捨てた男としての一面。
あぁくそう、変な夢を見るようになってしまったな…悪夢じゃなくていいけどさ。
「でもあの夢…続き気になるなぁ…」
私の電脳が演算して弾き出した夢なんだろうけどすごーく続きが気になる。
いや、お兄ちゃんとの夫婦性活とか気にならないわけないよぉ…
あれだよね…夫婦としてアソコまでなってたんだったら…エッチだって…
もしかしたらあの夢の中だったら子供とかも出来てるかもしれないじゃん…
「うぁぁぁぁぁ…」
休みの朝で良かったー…こんなのが出撃とか基地待機の朝だったらもうどうなってたか。
お部屋のベッドの上に戻ってから枕に顔を埋めて唸る私。
気になる気になる気になるぅぅ!妄想が膨らんでいくぅ…現実的じゃないのも夢の中だったら味わえるじゃん。
そもそも待てよ…I.O.Pの技術なら人工的な子宮とかも作れたりしたり…?
案外そういうのも夢じゃなかったりして…?最悪お兄ちゃんの自家発電の残滓から…?
いや、ドン引きだ。私、何を考えてる…そんな事してまで孕みたいか…
「起きよう、顔洗ってお化粧しよ…」
バカな夢の話をいつまでも引きずるのは良くない。気分を入れ替えよう。
いつものライフサイクルに乗ってっと…
――――――――――――D08基地兵舎共有スペース・朝
「おはよ、兄さん」
「おぉ…」
「何読んでるの?」
「カーカタログ、G&Kの給料いいから買おうかと思ってよ」
「ふぅん…?」
エプロン装着して朝の準備をキッチンでしていたら兄さんが入ってきた。
お掃除のお仕事もお休みだからボッサボサな頭を寝かしもしないで…だらしないなぁ。
雑誌っぽいのを片手に持ってたから聞くと車のカタログかぁ。
人間の生活圏が狭くなっても亡命してきた色んな技術者が集まって根強く作ってるんだよね。
まぁ労働力は大体が自律人形に取って代わられてるんだけどね。
最近兄さんは整備の勉強をしてたりする。メカマン登用を狙ってるらしい。
理由は単純、お金。あとはまぁここの清掃が楽になりすぎて仕事が無いからってのもあるらしい。
銃の分解整備が出来れば登用を狙えるから必死に勉強してる。
HK416とHK417のフィールドストリップなら教えれるんだけどねー…
「これとか良いと思うんだよな」
「どれどれ…」
「4ドアのセダンなんだけどよ機動性が抜群で」
「……欲しいなら買っちゃえよ」
私は特に何も言わないよ?夢の中で見た車に似てたようにも思うけど。
兄さんが求めるのは速さだろう?ならもっと上のをと思うんだけど…
どっかで利便性も求めてるんだろうなぁ…いやいや、あの夢はもう忘れよう。
「そうそう、買ったらよぉ…ピクニックに出ようぜ」
「良いね♪…あれ、どういう風の吹き回し?」
「良いじゃねぇかよ」
この出不精の兄がピクニックに出ようなんて誘う…?首を傾げざる得ない…
そもそも私だけ…?それとも他に誰かを誘ってのなのか…
まぁ良いかな…バスケットとかあったかな…ピクニックだしお昼はサンドイッチを沢山用意しよう。
誰が一緒に来てもいいし…それなら着ていく服だってねー…
「取り敢えず朝飯よろしくな」
「はいはい、今作ってますよー」
今日の朝はパンケーキにしよう。ふわふわなパンケーキは美味しいよ?
「そのうち…指揮官と結婚とかしたら毎朝指揮官に作るんだろうなぁ…義兄さんってのもつれぇなぁ」
兄のつぶやきはフライパンの上で焼ける音にかき消され誰に聞かれるでもなく掻き消えていった。
夢の中って勝手に動いていくし勝手に自分が理解していく。
その結果色々と変な事を見ていく…ツッコミどころ満載のままね。