――――――――――――D08基地司令室・朝
「さて、お前たちに集まってもらったのは言うまでもない…D09にカチコミかけるぞ」
朝から指揮官がえらく張り切っていた。私が話した経緯を聞くとえらく憤慨していた。
そしてその後の処置についてもFALからの説明を受けると完全に怒っていた。
まだ出会って一日程度のたかが人形に対してどうしてこうも熱くなれるのか。
それも憎くて仕方ない鉄血人形のハイエンドなのに…どうしてこうも私のためにと立ち上がれる?
所属人形もやる気満々といった様子で思わず私がいいから…と言いかける。
確かに私はあの指揮官には良い思い出はない。I.O.P本社で会った時から印象は最悪だった。
手汗はびっちゃびちゃだった上に頭の先から爪先までいやらしい目で見られた。
ここの指揮官もまた初手セクハラを働いてくれたがその後は普通に振る舞ってくれている。
仕事も真面目にしている上にクソ不味い配給を食べようかとしたら全力で止めて食堂に案内してくれた。
そこで出されていたのは文明的な人間の食事で温かく美味しい食事だった。
おまけに仕事のある日は毎日食べれる。朝昼晩の三食付きだ。
兵舎もかなり豪華で大型のお風呂も存在していてそこも自由に使っていいと言った。
今は私に与えられた寝床は大型の共有スペースのソファーベッドだが…
後々で増設して私の個室も作ってくれると言ってくれた…あまりの厚遇に戸惑いが隠せない。
「ヘリアン女史に確認した所前歴にも大分問題があるみたいだ」
「と言うと?」
「奴さんは元性犯罪者で金の亡者だったんだと」
「情報の出処は?」
「ヘリアン女史は明かしてくれなかったがかなり信頼できる筋からの物らしい。処分を下せとのお達しだよ」
「雇用した無能は?」
「無事懲罰中、余罪も有り得そうだからこってり"ご接待"を受けてるらしい」
ヘリアンが動いたとなると404小隊に探りを入れさせたか…
それともまた別な何かに探りを入れさせたか…どちらにしても確実なんだろうな。
元性犯罪者を招き入れるなんて何を考えて居たんだろうか。
人事担当のヤツが裏で手を引いていたみたいだ。G&Kの内部も中々腐ったのが居るらしい。
さらに余罪がある可能性もあるから私が受けた尋問より酷いのを受けてるんだろうな。
特に同情も何もしない。私を貶めようとしたんだろう?
「私は」
「ヴィオラも恨みを晴らしたいのか?」
「いや…指揮官、私には何か指示ないのか?」
「そうだな…徹底的に叩いてやれ、人形を物としか見ていない愚か者に鉄槌を下せ」
「了解、デストロイヤー・ヴィオラそのオーダーを遂行するわ」
情報規制もかけられD09地区は事実上の孤立状態になる。その間に可及的速やかに叩き潰してD09指揮官を確保せよ。
なお生死は問わない、大本であり元凶であるだろう人事官はすでに確保されている。
――――――――――――
「対象地区の戦術人形は私の他には製造されたばかりのHG人形ばかりだったわ」
一日として居なかった私の家、基地を案内される間もなく嵌められた。
そう、私は最初から二束三文であんなならず者達に売り払われる予定だったんだ。
もしかしたら着任した時にすれ違っていたあのHG人形達も売り払われているのかもしれない。
回収分解なんて言いながら実際はロストと記入して売っていたのかもしれない。
胸くそ悪い指揮官だ…どうせならD09を根城にしているだろうならず者達も排除したい。
あんなのを見ていると放浪中に出会ったアストラや88式の事を思い出させられる。
移動中のヘリの中で今回一緒に動くHK417、G36C、MicroUzi、HK416に伝える。
総じて基地の脅威度は少ないはずだがIFFを悪用した機材を持っている可能性がある。
そうなった場合は私がどうにかしないといけない。言わば私はジョーカーだ。
HK417もどういう訳だかIFFの制限を無視して攻撃ができるみたいだが…
D09地区が見えてきた…砂塵が舞う荒野地帯だ。辺り一面はスラム。
ならず者達が跋扈するろくでもない地区だ。少し前まではそうじゃなかったらしい。
今の指揮官に変わってから加速的に増えたから関連が大きいと思われる。
死んでもいい人間ばかりだから遠慮なく潰してこいと指揮官は背中を押してくれた。
ただ殺すのが嫌なら引き金を引くことを躊躇っても良い、そのまま帰ってきても構わないとも…
あぁ、良い指揮官の元にようやくたどり着けたんだ…私はようやくこの人のために戦いたいと思えた。
HK417が惚れ込むのもFALが惚れ込むのも…というか私以外の今回同行するメンバーが慕っている。
納得が行くような気がする。彼は人形を人間と同等に扱っている。
この世界ではかなり稀有な部類に入る。かくいう私も液晶一枚隔てた向こうではそうしていたかもしれない。
ただの道具、されど道具。私達には擬似的にとはいえ感情というものが搭載されている。
本当にただの道具であるならばそんな不確定要素など必要ない。
態々搭載されている意味合いは何だろうかわからない。だが…
指揮官に本当に必要なのは人形を愛し人形に愛される才能なんじゃないかと思う。
その点私の指揮官はこの短期間の間に私を癒やす環境を与えてくれて優しい言葉を掛けてくれた。
今回のように忙しいのにも関わらずこんな作戦を立ててくれた…
「それは結構、じゃあ警備は手薄だね」
「もうそろそろランディングですわ」
「作戦行動よ、ぼさっとしてたら全部食っちゃうわよー」
「それは誰のため?」
「それは勿論指揮官の…って何でも無いわよ!!」
もうすぐ作戦行動開始だと言うのに人形達の空気は和やかだ。
各々銃器のチェックを再度してから戦闘準備万全としながらも緊張した様子は無い。
私もMASADAのチェックをしておこう。いざという時にセーフティがかかってたなんて話にならない。
「ランディング!」
ヘリパイロットの声がした後に軽いショックが来る。
オペレーション・アヴェンジの開始…徹底的に叩いてやるわ。
どうでもいいけど私を始めとして乗っていた全人形の一部の揺れが凄かった。
――――――――――――
「ダーリン、作戦地域に到着」
『よし、それではソコからまっすぐ北へ進め途中でスラムに入る、注意しろ』
「了解、417アウト」
417がしきりに双眼鏡を見ながら偵察しながら進む。視覚情報共有で私達にも映像が届く。
荒野にはいくつも岩場が隆起していて身を隠しながら行軍が可能だ。
少し離れれば密林などがある…そう、私が逃走劇を繰り広げた密林だ。
あそこで夜まで潜伏するというのも考えたが今日中に潰せとの命令。
スラムまでたどり着いたならもう後はどうとでもなる。私達の銃器にサプレッサーを装着している。
銃撃戦になる前に撃ち殺せれば潜入を悟られることはない。
「前方クリア、前進」
前進を繰り返す度に近づいていく静まり返ったスラム。D09地区の街には活気というものが無い。
担当地区の膝下ならばそれなりに活気があっても良い筈らしい。
安全を確保された生活圏というのはこの世界では貴重な物だ。食いつかないはずがない。
余計にD09地区のきな臭さが目立つ…情報共有で飛び込んでくる映像をいくら見ても人っ子一人見えない。
「ポイントB、スラムへ到達、Uzi前へ」
「了解…クリア、行くわよ」
ダミーとの連携で死角をカバーし合いながら高速クリアリングしながら進む。
事CQB戦では無類の強さを誇るSMGの出番だ。私はダミーリンクなんてものは存在しない。
I.O.Pが作ろうとしているらしいが…できるかどうかは不明。
417がロングを見張り416がそのカバー、私とG36CはUziのカバー。
ぞろぞろと歩きながらもスラム街を駆け上がっていく。
おかしいくらいに静まり返ったスラム街を駆け抜け…たどり着くのはD09地区基地…
門番の姿も居ない。まさか逃げられたか?
「司令室から物音が聞こえるわ、417見える?」
「どれどれ…うわ、これは…」
視覚情報がカットアウトされた一瞬映った映像では肌色と複数人の男が何かを囲っている様子。
恐らくは味見かそれとも…胸くそ悪い…
「建物内に侵入後司令室を目指すわ、私がチャージするから制圧するわよ」
「了解、お姉ちゃん先頭…私はMk-23でやり合うよ」
「……クリア、ふん…随分とお楽しみみたいね」
416が吐き捨てながら機能麻痺を起こしている基地の内部を進む。
基地のマップデータは予め私達の頭に入っている…問題なく進んでいく。
司令室はもう機能していなかった。かつては指揮官等と言った男も制服を脱ぎ散らかしていた。
発破された扉を間抜けた面で見ていた。その下には製造されたばかりと思われる人形が転がっていた。
あぁ、やっぱり味見されていたんだろう。その表情はもう死んでいる。
その他にも複数人の男が所狭しと居たが全員生かすつもりは無い。
「どうも、指揮官…お久しぶり…そしてさようなら」
G&K指揮下で最初に撃ち殺したのは最初に私を指揮した指揮官とは皮肉ね。
でももう私はD08の誇るべき指揮官の指揮下よ、もう売人であるあんたの人形じゃない。
「死体の処理は?」
「後で本部が責任を持って処理するわ」
「シッ…車両が入ってきた…ヴィオラ、あれ狙える?」
「勿論、派手にしていい?」
「デカイ火葬をしてあげなよ」
ぞろぞろと無警戒に入り込んでくるトラックと下品な笑みを浮かべた男達が下りてくる。
おそらくは買い手なんだろう…みすぼらしいヤツからそこそこ恰幅のいいヤツまで居る。
榴弾砲を稼働させてから窓をシールドで叩き割る。身体を捻りながら飛び出る。
物音に驚いた客と引き連れてきただろう売人が一斉にこっちを向く。
まずはトラックに榴弾を雨あられと叩き込む。
燃料がたんまりと詰まった鉄の箱は轟音をあげて爆発する。
慌てふためく連中を室内から417が冷徹に風穴を開けていく。
火だるまになった人間がいくつか転がり出てきたけど私は関与しない。
悶え苦しんで死んでしまえ。私はお前たちなんかのために苦しい思いをしたんだ。
「あぁ、でも一つだけお礼を言おう…D08ってこれ以上無い良い環境に巡り合わせて貰ったから」
こうして、D09地区浄化は呆気なく終わった。人形は本社の人間によって回収された。
人事官は無事全部情報を吐き出してから終了したらしい。
ちなみに私の買い手はその人事官だったらしい…逃げ切れなかったら顔も知らない下衆に抱かれてたのか。
怖いな…指揮官に頭を撫でてもらいたい…
――――――――――――D08基地指揮官私室・夜
「で、ヴィオラが押しかけてるのね」
「えらく信頼を寄せられて…」
「もっと頭なでてくれ、そうそう…♪」
基地に戻ってからお手伝いをあらかた片付けてからダーリンの部屋に行ったら先客がいた。
基地に帰るなりダーリンのところに駆け出してから抱きついてた。
ダーリンもまぁヴィオラの事を気にかけていたみたいで無事そうなのを喜んでいた。
D09の事が片付いたしG&K内部の見直しが始まったみたいで暫くはゴタゴタするかもしれないけど…
とりあえずヴィオラが馴染んでくれたのが嬉しい…けれど…
ヴィオラが抱きついて頬擦りし始めた辺りからダーリンがデレデレし始めた。
まぁ十中八九私のより大きいおっぱいの感触にデレデレしてたんだと思う。
私は正妻だし、その後の夜…つまり今なんだけど…夫婦の時間があるしーって余裕ぶっこいてた。
そしたらこれですよ。ヴィオラ一気に懐き過ぎじゃないかな。
私も結構あれだったかなーって今になって思うけどヴィオラが完全に犬になってる。
きっと尻尾があったらブンブン振りまくってる。
「まぁ良いんじゃない?でもヴィオラ…そろそろ出ていかないとー…おっぱい揉まれるよ?」
「ふむ…信頼は置いたがまだそこは…いや、私はそれも厭わない」
「ちょっとチョロすぎません?」
「私を地獄から天国に置いてくれている指揮官に抱かれるなら私は本望だ」
「とか言ってるけど…?」
「いや、417と寝るから…ヴィオラは今日はとりあえずお部屋に戻って?」
「そうか…」
とぼとぼと帰っていくヴィオラ…うーん、今までにないタイプかも。
「どうする、ダーリン…ヴィオラとも結婚しちゃう?」
「いや、あれは今までの環境が悪いだけで今の環境が普通なんだし…一時の感情だろ」
「そう思う?私はあの目はガチだと思うけどねー」
生まれ落ちてから物同然に扱われ続けてココに来て人間と同じ様に大事にされたらねぇ…
私もそんな甘いようで優しいダーリンに惹かれたんだから。
「まぁダーリンの心が変わったら受け入れてあげなよ?」
「おう…その前に…」
「ふふ、今日もいっぱい愛してね…ダーリン♪」
不遇系ヒロインのヴィオラはチョロイン属性も持っていた…?
いや、あれだから目覚めてからずっと不幸だったのをすくい上げられたら堕ちるでしょ。