けたたましい着信音が耳につく。緊急用の通信の着信音だ。
飛び起きる私達を他所にダーリンが受話器を取る。緊急時の物だからスピーカーからも音声が流れてくる。
発信元は…本部のヘリアントス代行官からの直通だ。
「はいはい、早朝になんですかヘリアントス上級代行官?」
『単刀直入に伝える、16Labの試作人形の救出を依頼する』
「ポイントは何処です?ウチから近いんですか?」
『ポイントはメッセージに添付する。そう遠くない廃墟街だ』
「へいへい…報酬を弾んでもらいますよ?」
『電脳妨害装置が使われている、耐性のある人形かアウトレンジから攻撃が可能な人形を連れて行くことだ』
「相手は?」
『人類人権団体だ、R06地区に潜伏していた一派とはまた別な連中だ』
「ったく…テロリストっつぅのは…嫁との時間を潰してくれる」
『キミ、私に対して喧嘩を売ってるのか?』
「いいえ?別にぃ?この前に合コンに付き合わされた事とか微塵も根に持っちゃいませんとも」
『よし、キミの減俸を考えておこう』
「あぁ?なんだとこの人生の負け犬が」
この短い応酬の中でちょっと聞き捨てならない言葉が飛び出したんだけど?
「ダーリンを合コンに連れて行った…?」
「ヘリアン代行官…ちょっとお話いいかしら?」
『待て、なぜ人形が朝から…まさかお前』
「腰が痛いっすねーあーほんとツレーわー」
『当てつけか!!』
「とにかくちょっとその合コンの話を聞かせてもらいますわよ…お返事は?」
通信機越しに溢れる殺気にヘリアンの息を呑む音が聞こえた気がする。
まぁ人の夫を合コンにつれていくなんてのは許し難い行動なわけでして。
「どうする、処す?」
「とりあえず人形引き渡しの時にボディブロー」
「ボディスラムでもいいんじゃないかしら?」
「アッパーカットからデンプシーでも良いのでは?」
「甘いわね、ジャーマンスープレックスがいいでしょ」
ダーリンはとりあえず処遇保留としてヘリアンに対する処置の協議に入っていた。
出てくる案件はどれも結局は暴力!暴力!暴力!って感じで非常にわかりやすい。
G&Kでもかなり高い位置に属しているから経済制裁なんてのは通用しないし…
そりゃもう一番手っ取り早いお仕置き方法に走るしか無いんですよ。
「で、ダーリンは何か言い訳ある?」
「合コンに付き合わされた時はまだ417に告ってなかったしそもそも居眠りこいてたからなぁ」
「よし、じゃあ今夜は抜かず二発の刑で♪」
「…それ俺のタマが死ぬから止めてくれ」
大丈夫大丈夫私に二発もらえたら別に私はOKだから。FALとかがねだった時は知らないけど。
腹上死は避けるようにペースは握ってあげるから幸せな辛さを暫く味わえ。
――――――――――――
今回はアルファ部隊とブラヴォー部隊の二隊を派遣することになった。
FAL、イサカ、スペクトラ、わーちゃん、G28が作戦行動に加わる。
ものの見事にアウトレンジで攻撃できるメンツが揃う。まぁ順当かな?
だからこのメンツだとフロントアタッカーがG36CとUzi、イサカ、スペクトラとなる。
ミドルレンジではお姉ちゃん、ヴィオラ、FALが火力支援を行う。
そして後方から私とわーちゃんとG28で狙撃を行っていくってヤツだね。
相手が所持しているっていう電脳妨害装置って言うのの効力、レンジ等は不明。
従ってこんな編成になったんだろうね。最悪私達がレンジ外に居たら安全を確保できる。
「では任務内容を通達する。今回の任務は救出任務だ…救出対象は16Lab所属の試作人形のM61A2だ」
「結婚式に来ていた花火パフォーマーと言ったら通じるかな?」
「どっから聞きつけたかは知らんがな…まぁそんな俺達にも縁があった人形が現在行方不明となっている…いや、戦場でロストしたという話だ」
「で、その最終発見地点がその件のポイントって訳ね?」
「そうだ。電脳妨害装置とやらの効果なのか最後は気絶するようにヘリから落下したとヘリアンは話していた」
「文字通りに電脳に対するジャマー…いや、EMPなのかもしれないわね」
「まぁ考えてもしょうがない。現状それが使われる可能性がかなり高い…勘付かれたら面倒だ」
「でもやることは変わらないのでしょう?」
「今回は救出が任務だが驚異はできるだけ排除しろ。容赦はするな」
地図上で確認された情報を並べていく…ターゲットが落下したのは廃墟街。
その他に偵察ドローンによる情報で確認されたテロリスト達の情報…
どうやらかなりターゲットが大暴れしたみたいで是が非でも殺したいらしい。
落下したらしい廃墟を覆い囲むように展開している…こうなると戦闘は避けられないだろうね。
主に展開している人員の武装は一般的な対人戦闘用のARと破砕用のグレネードとみられる。
この前のR06地区で殺りあった連中ほど練度は無いらしい。装置にあぐらをかいてるんだろうな。
「まぁ任せておけ…私がなんとかする」
この中で唯一の鉄血製のヴィオラは自信アリと言った様子で不敵に笑っている。
行動ログの中でも確か阻害装置をスルーした事があるみたいだ。
鉄血のハイエンドモデルは閃光手榴弾は効かないしその手のハッキングも効かない。
というかハッキングに対するプロテクトは雑多に生産されているダイナゲートですらかけられている。
だからジャックしようと思ったらアクセス権利のある上位モデルか物理的にアクセスするしかない。
戦術ネットワークにアクセスしようとするなら無線基盤をちょろまかせばいいけどね。
逆探知されて締め出されるまでの苦し紛れの戦術でしかないけど…
まぁそれはそれとして。今回はヴィオラがかなり頼りになるかな?
「ただし自分の攻撃でスプラッタにしてゲロゲロしちゃうからなぁ…」
「言うな…私だって慣れようとしているんだ…うぷ…」
「思い出しただけで吐きそうになってる位だから無理はしないでよ?」
――――――――――――
「行動開始ね、それじゃあこの私に付いてきなさい」
イサカが先陣を切っていく視覚情報共有から見れる情報では足跡が幾つも刻まれている。
推定人数は10人と言ったところか。1小隊がかなり大人数だな…
そんなにバルカンが憎いのか…とにかく潰したい魂胆が見えてくるな。
「ここで合流したみたいね…何この数…」
「蚤か何か?テロリストってなんでこんなに数が集まるのよ…」
3方向から伸びてきた足跡が一箇所に集まってから廃墟街へと伸びていく。
単純計算では30人になるが…そんなに集まられたら流石に面倒だ。
ランディングゾーンからずっと続いていた土の大地は終わりを告げてアスファルトの路面が見えてくる。
廃墟街に侵入した。さてここからは気を引き締めて行かなければ…
「指揮官、ダーリンにしっかり私の勇姿を見せてよぉ?」
『無駄口はいいから進め、敵影がこちらから確認できれば伝える』
『この…ウチの嫁がすいません、指揮官…』
上空に向かってイサカがブンブン手を振っている。その先に浮かんでいるのは反重力装置で浮かぶ偵察用のドローンだ。
私達には視認出来る…というか存在は認知出来るが光学迷彩を纏っている。
撃ち落とされるような事は無いだろう。まぁ流れ弾もあんな上空に行くことも無い。
イサカが出る時はいつも要望で主任をドローンコンソールの前に呼びつけている。
まぁ旦那の前で良いところを見せたいんだろうね。いつもイキイキしている。
通信の向こうではダーリンの隣に主任が座ってるんだろうな…すまなそうな声が聞こえてくる。
廃墟街と言うこともあって瓦礫が散乱しているしこっちからしたら死角になる影が多い。
それを上空からカバーしてくれるダーリンの存在はかなり大きい。
これが出来るのが比較的近場のポイントでの作戦行動だ。
『そこのブロックから向かって3時、敵影…なんだこの数は…ダミーで少し様子を見ろ』
「了解よぉ!」
号令と一緒に動き出すイサカ率いるフロントアタッカーのダミー達。
念の為と一体ずつ動かして様子を見る。件の電脳妨害装置とやらが働いていたら近くに寄った時点で行動不能になって倒れるはずだ。
言ってしまえばアレな事だが…捨て石のようなものだ。ダミーが平気かどうかで確かめていくしか無い。
「大丈夫そうよ?」
「まだ装置の電源を落としているだけかもしれん…十分に注意したほうが良い」
「バッテリー駆動なのを確認してるんだっけ」
「あぁ…私が捕まりそうになった時にその手の装置を見ていたがバッテリー切れを起こしてな…」
有事の際にしか使わないってなると面倒かもしれないな…うーむ…
「ダミーによる発砲許可は?」
『やれ、ちょっとちょっかいをかけてやれ』
「了解、派手にやっちゃうわよ、Uzi!」
「はいはい、ま、まぁ私が活躍する所を見てると良いわ!」
フロントアタッカー勢がそこまで言ってからメインフレームが押し黙る。
恐らく意識をダミーの方に移したんだろう。何かあれば戻ってくるし大丈夫だろう。
ダミーが私達が潜伏する廃墟の角から飛び出していく。
この手のEMP障害が発生しやすい状況下でダミーに意識を持っていきそれで遠隔操作するっていうのはよくやられる方法だ。
視覚共有情報から送られてくる戦闘状況はと言うとダミー達が全速力で突っ込んでいってる。
イサカは防弾仕様になってるガンケースをシールドにしながら突っ込んでいっている。
Uziはひたすらに弾幕を張りながらダッキングとサイドステップで避けていっている。
多少の被弾では止まらない。それどころか加速していっている始末だ。
しかし相手はかなりの人数で弾幕を張ってくるな…30以上は絶対にいる。
「人形だ!撃て!!撃ち続けろ!!」
「人間の明るい未来の為に死んで詫びろ!!」
「バイツァダスト!!」
口々に飛び出るのは罵声の数々だが狙いが甘っちょろいから致命打なんて与えられていない。
黙々としかし勇猛に突き進むイサカと瞬時の弾道演算で回避していくUziと…
「どうしました、それでは私に一発も浴びせられませんわよ?」
ピンポイントでフォースシールドを展開しては消費を抑えつつまっすぐに突っ込んでくるG36Cだ。
Uziもだがひたすら人間や人間に近い物を殺す事に特化した結果あの弾倉に入っているのは…
ホローポイント弾だ。軍事用ではまず使われることのない弾頭だよ。
それも装甲をじゃっかんでも抉れるようにって事で採用しているのはセミジャケッテッドホローポイント。
殺意の塊が飛んでいく。人の波はバッタバッタと倒れていくが…
「ッ!ダミー通信途絶!」
「同じく…」
「ふぅん…本当にそんなのを持ってたのねぇ」
途中で視覚情報が途絶して何事かと思えばメインフレームが叫ぶ。
少し顔を覗かせてから双眼鏡で覗くと…その先では倒れ込んだダミーと数人生き残った人間が取り囲んでいる。
視覚情報を共有しつつ見ていると手に何か持っている…いや、一人だけ何か背負っているな。
流石に音声は拾えないが口の動きから推測は出来るな…
流石は電脳妨害装置、抜群だな。
所でこの忌々しい人形はどうする?
少し味見してから売り飛ばして金にするとしよう。
ふーむ…これはこれは…まぁ見過ごすなんてのはしないからっと…
『417、WA、G28』
「「「了解」」」
双眼鏡から愛銃に持ち替えてスコープを覗く。
残りは少ないからそれぞれがヘッドを狙えばそれで片付く。
変に通信なんてされたら面倒だし…じゃ、サヨウナラ。
「こちら417、敵の排除を確認」
『よし、そのまま廃墟を探索しろ…ターゲットの反応は近い。奴らより先に回収しろ』
「了解」
M61A2救出作戦は始まったばかりだ。
――――――――――――
その後何度か敵と遭遇しながらもターゲットの回収には成功した。
落下の衝撃からか躯体にはダメージがありイサカがそのまま抱えることに。
ご自慢のバルカンも損傷が目立っていたが…まぁ修理可能だろう。
「任務完了、ホットゾーンを離脱するわ」
電脳妨害装置については数機回収したためI.O.Pへと送りつけることに。
これで対策装置が作れれば良いね。
という訳で要望されたので書きました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=213660&uid=255188
こんな要望があったんだもん。
という訳で今回はこんなコラボですよ。