さて、人工受精卵というのが中々の曲者みたいなんだ。
先日コンタクトを取ったペルシカが言うには天然の受精卵に比べて生育が早いらしい。
普通つわりでゲロっちゃうのも本当は一ヶ月ちょっとではなく……一ヶ月と半月は必要らしい。
計画では10ヶ月かかるのを6ヶ月までに縮めて人口の増加に役立てようという話だ。
生理などは無く性的な絶頂をキーに生成していくみたいだからなぁ……
最悪性的暴行で望まない子供を孕む可能性も否定できないらしい……
まだまだ実験段階なのでこれらの機能を落とす事は現状無理があるらしい。
いや、ペルシカ自身が手を出せば簡単に行くんだろうけど別件で手が離せないらしい。
「じゃあ妊娠二ヶ月から結構お腹が出てきちゃうのかな?」
「わからん……」
一応ながら各種健康に生育するのに必要な養分を凝縮したカプセルが送りつけられていた。
食事だけでOKかはまた別な人工子宮で試すにして私達はそのまま死産させてはいかん……とこんなのが支給されることに。
いわゆる暫定的な対処になるんだって。しかし私達に流れているのは疑似血液だしなぁ……
生育に際しての悪影響とかは無かったりするんだろうか?
骨髄から生まれる血液のメカニズムも解析されて人工的に作られるようになったんだっけか?
いや、死刑囚を半分奴隷みたいにして血液採取しまくってるんだっけか?
その辺は暗い話だから覚えてないなぁ……I.O.Pからの明言は避けられているし。
つまるところは話す気は無いってことでしょ。じゃあ私達が聞いても無理があるって事だな。
「しかしダーリンに出撃厳禁と言われちゃったね」
「それは仕方ない、何があって私達の身に危機が訪れるかわからん」
そう、私とヴィオラは半年ほどの出撃禁止令を食らったのですよ。
まだまだ臨床実験段階だった人形の子作りだったけど……これは近いうちにリリースされるでしょ。
しかしまぁ私とヴィオラの妊娠騒動というのは諜報部曰く……広く知れ渡っているらしい。
人間にまた一歩近づいた人形達……それをよく思う人もいれば悪く思う人間も居る。
人類人権団体だっけか?あれがまた大騒ぎを始めようと動いているらしい。
「しかしどうやって暇を潰すか……」
「おやすみならお外に遊びに行くとかも良いかもね」
「そうだな……お腹の子に色んな物を聞かせたいな」
育児に際して何が良いのか悪いのかは私もヴィオラも初心者も初心者。
何が起こるか……出産に際してどんな事を覚悟しなくちゃいけないとかもわからない。
どんな身体の変化が起こっていってどんな事が正常なのかもわからない。
それこそ育児本とか欲しいよね!絶対後にも妊婦続出するでしょ?
私達が妊娠騒ぎになって他の人形が黙ってるわけ無いじゃん。
「ベビー服……」
「いや、ベビーカーとかも必要じゃない?」
「子供用のベッドも必要になってくるな」
「そもそもだけど……基地で育てられるかな……?」
「うーむ……」
そう、基地で出産はまだ救護室があるからできない事もないだろうけど……
では産んだ後の事を考えると今から色々用意しておきたいよね。
各種消耗品は大量に要るだろうしベビー用品って結構するんだよね。
「今日買いに出かけるか?」
「あー……それも良いね、ダーリンを捕まえていろいろ見て回る?」
「主人と一緒か……良いな、うむ」
これにはヴィオラもにっこり。さて、ダーリンをとっ捕まえてからお出かけだ。
いつもこの時間だったら……ガレージに居るな。シャッターの開閉音はないから……
うん、鍵も掛かっているしとなると居る場所は……ガレージ横のベンチ!
「やっぱり居たー♪」
「うおっ!?」
「主人、いつもここなのだな……隣に失礼するぞ」
私が飛びついてからヴィオラが隣を押さえる。まだまだ妊娠一ヶ月だから元気いっぱいです。
何か電話してる感じだったけどもしかして邪魔した感じ?
「あ?あーいや、嫁だよ嫁。言ったじゃねーか……そうだよ、俺には勿体無いくらいの嫁だよ」
こっちに向かって指を立ててきたから静かにして欲しいんだろうな。
スピーカーから微妙に聞こえてくるのはどうにも女性っぽい声だけど……
結構年齢が行ってそうな感じの声だ。かなり親しい感じだけど親とかかな?
「しきかーん!抱っこー♪」
「げぇっSOP!?どわぁっ!!」
「あーあ……携帯落としちゃってるよ……」
「ん?スピーカー?」
「ディーノ?さっきから姦しいじゃない、そろそろママにお嫁さん達を紹介してくれてもいいじゃない?」
「「「ママ?」」」
「……フゥー……ベアトリーチェ・タカマチ、旧姓ベアトリーチェ・パヴァン……俺のおふくろだよ」
「「お義母様!?」」
「むふー♪」
なお、その後お母様との交流はひとまず置いておいて……連絡先だけ交換した。
その間ずーっとSOPはダーリンの膝の上でご満悦だった。
――――――――――――
ご両親には結婚の事を伝えていたらしいけど……その後あんまり喋ってなかったらしい。
口を開けばとにかく嫁に会わせて頂戴!ってせがんでくるし孫は期待していいの?とか……
人形との結婚となればどんな事になるか……と分かったものではなく黙っていたんだって。
でもまぁ今回のちょっと話した感じでは拒絶されている感じではなく……むしろ歓迎されていた。
じゃあ孫は無理かと諦め半分で言った所で実は……と私とヴィオラの妊娠報告。
お母様はひっくり返ってその物音にびっくりしたんだろうお父様まで来ててんやわんや。
とりあえず明日にテレビ通話で顔合わせして来週には安全圏からD08地区に移ってくるとか……
いや、フットワーク軽いな……聞けばご両親そろってトレーラーハウスに住んでいて早期退職組なんだって。
趣味で始めていたカフェがヒットしていて生活には困ってないそうだ。
むしろベビー用品を送りつけるつもりらしい……いやいやいや……
「で、急遽ベビー用品を見に来たんだね」
「そもそもお前たちが誘ったんだろ……」
「そうでもあるが……」
人で賑わうショッピングモールにやって来てそれこそベビー用品店に入る。
色んな物が並んでいるけれどどれがどれだか……兄さんに聞いてみたら少しはわかったものなのだろうか?
「いらっしゃいませ……何かお探しですか?」
「ん、あぁ……いや、嫁につわりが来てベビー用品を見に来たんですよ」
「まぁ、おめでとうございます……第二子でしょうか?」
ムカッ……私ちっこいけど普通にこのダイナマイトボディが目に入らんのか!
あからさまに私の方を見て大きなお子様ですねと言いやがって……
こんのペチャパイ店員……
「これでも成人済みですし私も妊娠一ヶ月の妊婦ですけどぉ?」
「え……?」
「なんなら今ココで母乳搾って見せてやろうか」
「シーナストップ!」
「ダーリン止めないで!私は立派に大人なんだってこのペチャパイに見せなくちゃいけないんだ!!」
「……とにかく商品を案内してもらうぞ、良いな?」
「んがぁぁぁぁ!!!」
普通にダーリンにストップをかけられて羽交い締めにされる。
怪我はさせたくないしセーブして暴れるけど振りほどけ無い。
その間ぶるんぶるんと揺れて道行く野郎の視線を集めたのは言うまでもない。
なおペチャパイと言ったことに私は謝るつもりは一切ない。
――――――――――――
「とりあえずだが自前で作れそうなものは作っておこうじゃないか」
「時間はたっぷりあるしねー」
一悶着はあったけど普通にあの後見て回るだけ見て回った。
主にベビー用の衣服と靴を見て回っていた。生後何ヶ月に着せろとか書いてあったけど……
すぐに大きくなっていくからそこは様子を見てかな?とりあえず私は育児本を購入した。
そしてヴィオラは裁縫入門である。お料理入門したばかりだけどね。
早速だけど試作でよだれかけを縫うことに。簡単な小物から作っていこう。
ベビーベッドは流石に私達妊婦が作るのは問題があるとしてストップがかかる。
他にそういうDIY的な工作が出来る人形は……この基地には居ない。
整備班の連中にさせればいい?アイツ等だって暇を持て余しているわけではないのだ。
「ついでにダーリンの夏用の半袖とか作る?」
「良いな、そうだ……良いものがあるぞ」
「ほうほう?」
「着流しだ」
イメージデータが送りつけられた。なんだこの……ヤーパンの伝統衣装か。
紺色のカラーが涼し気だし良いね良いね。コレを縫い上げろか……
「これ生地は何?」
「麻だな」
聞き慣れない素材名だしこの付近では手に入らないかもしれないなぁ。
聞くと肌触りが固く独特だけれど涼しくて暑くなっていくこれからの季節に良いとのこと。
最悪それに近い合成繊維を使うしか無いかな?要するに風通しが良ければいいんでしょ?
「しかし今から私達は妊婦なんだが……」
「そうだね」
「主人との水遊びが望めんな……」
「はっ!?」
ずがんっ……と後頭部をぶん殴られるくらいのショックが走る。
あのワイワイギャーギャー言いながら買った水着で囲っている中に私達が……居ない?
そ、それは許されざる事だぁー!なんたることか……これは盲点だったぞ……
「よし、露天風呂の中身を水風呂にして……」
「赤子に良くないかもしれんからやめような?」
案外続けてるかもしれないけどね。
しかしまぁ言っちゃえば417もヴィオラも完全にこれ貴重なデータサンプルよね。
色んな所から狙われそ……